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1 花田中学一年生
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しおりを挟む……ウソ……。
胃がきゅ~としめつけられた。
ヤダ……。あたし、帰りたい……。
「和泉ぃ? もしかして自分の席、わかんない?」
誠があたしのかわりに、黒板の数字を確認してくれる。
その目が、あたしの席の横に座った後ろ姿を見て、それからあたしの顔にもどった。
「……しょうがないよ。くじ引きだもん」
誠の声にうなずくこともできなくて、あたしはとなりから間を開けて、自分のつくえをおろした。
ヨウちゃんの肩が、一瞬硬くなった気がする。
わかんない。だって、ちゃんと横を確認できない。
怖い。見たらダメ。直視したら、アウト。
ドッドッドッドって心臓の音が押し寄せてきて、自分の席に座っただけなのに、あたし、息もうまくつけない。
「はい、みんな座った? 一学期間は、この席ね~」
「せんせ~い」
ななめ後ろの席で、誠が手をあげた。
「オレ、葉児がジャマで、黒板見えない!」
……え?
瞬間的に顔をあげて、となりを見てた。
琥珀色の前髪をあげて、ヨウちゃんが後ろの席の誠をふり返っていた。
紺色のブレザーに紺色のズボン。
わ……やっぱり、おとなっぽい。
ヨウちゃんは、小学生のころから身長が百七十はあった。
たぶん今は、百七十五を越えている思う。細身ですらっとしていて、色白のあごはしゅっととがってて、鼻筋も通ってて。目は髪の毛と同じ琥珀色。
亡くなったお父さんがイギリス人だったから、ヨウちゃんはハーフ。
小学校のころから、「カッコイイ」「カッコイイ」って女子たちにもてまくってた。
胸がきゅ~っと痛くなって、泣きたくなってきて、あたし、石膏みたいにキレイなほっぺたを見つめた。
琥珀色の瞳が、こっちにスライドする。
あ……目が合う……。
ヨウちゃんは、サッと視線を横にそらした。
「オレ、誠の後ろに行きます」
イスを引いて、ヨウちゃんが立ちあがる。
……え?
「誠、席かわれ」
「りょうか~い。先生、いいですよね~?」
「中条君がいいなら、いいわ。ほかに、黒板が見えにくい人はいますか?」
「あ、あたしもっ!」
とっさに立ちあがっちゃって、しっぱいした。
「和泉さんも見えにくい? じゃあ、もっと前に来る?」って、先生。
「綾、うちの頭、ジャマ? うちと席、交換しようか?」って、真央ちゃん。
「あ。ち、ちがう! ちがうの! まちがえたっ!! 」
「『まちがえた』ってなんだよ~っ!! 」
クラス中がゲラゲラ笑いだした。
あたし、アホっ子だから、これ、わりといつものこと。みんなから、こうやって笑われたり、話のネタにされるのも慣れちゃった。
「わかった! アレじゃねぇ?『元カレが後ろ行ったから、わたしも行くわ~』って」
大きな体をゆらして大岩が言った瞬間、クラスの笑いがかき消えた。
あたしの心臓もこおりつく。
……笑えない……。
だれも。
となりの席からリンちゃんが、ポカっと大岩の頭をなぐった。
「って~な~。倉橋くらはしっ! なにすんだよっ!! 」
「先生、早く授業はじめましょう」
うわ……。リンちゃんにまで、気をつかわせちゃった……。
リンちゃんはオシャレでツインテールがかわいくて、頭もよくて。あたしがヨウちゃんを好きになる前から、ヨウちゃんのことが好きだった。
だからリンちゃんは、あたしとヨウちゃんがつきあうのをすごくイヤがってた。
なのに、別れたことがクラス中にバレたあと、リンちゃんは、あたしたちに口出ししてこなかった。
リンちゃんだけじゃない。ほかの子たちもみんな、見て見ないふりをしてくれる。
それはたぶん、相手がクラスのボス的存在のヨウちゃんだから。
あたしたちの話題は、このクラスではNG。
まるで、教室にぽっかり空いたブラックホールみたいに。
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