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7 出口のないトンネル
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しおりを挟む六年生の教室は、今朝も騒がしい。
「おはよう~」って声。
「土日、なにしてた~?」って声。
「家でゲーム」とか「サッカー」とか、そんな声が答える。
あたしは、教室の中に入らないで、ドアの前で立ちどまっていた。
あたしのおでこには、絆創膏がはられてる。
スカートから出ている左ひざにも、絆創膏がはられてる。
アホ毛はあいかわらず、頭のてっぺんでつっ立っていて。これじゃ、いつも以上に、ドジなアホっ子キャラ、丸出し。
「和泉ぃ。おはよ~」
あたしに気づくと、黒板の真ん前の席で、誠が笑った。
「綾ちゃん、おはよ! きょうも寒いね」
「てか、そんな、ドアの前につっ立ってたら、通行のジャマだから。さっさと中入んなよ」
廊下側の真央ちゃんの席で、有香ちゃんと真央ちゃんが、あたしに手招きしてる。
「……うん」
ランドセルの取っ手をにぎりしめ、あたしは教室に一歩足を踏み入れた。
トンッと肩に、後ろから何かがあたった。
ふり返ったら、だれかのグレーのランドセル。
ランドセルを肩にかついだその人は、あたしにふり向かないで、長い足でどんどん歩いていっちゃう。
あたしは、息を殺して、遠ざかっていく琥珀色の後ろ髪を見つめた。
真央ちゃんが「あれ?」って顔で、一番後ろの席についたヨウちゃんを見る。その目が、あたしにたずねるみたいに、まばたき。
だけどあたしは、それに答えないで、マフラーにあごをうずめて、笑った。
「おはよ。ふたりとも。きょうは一段と寒いね~」
真央ちゃんの席まで歩いて行ったら、有香ちゃんが眉毛をひそめた。
「綾ちゃん? おでこの絆創膏、どうしちゃったの? って、ひざにも?」
「あ……えっとね。えっと……浅山にハイキングに行って、転んじゃった」
「まったく、さすがは綾だな。近所の山に遊びに行って、しっかりケガして帰ってくるとか。いいかげん、そのドジっぷりをどうにかしなきゃ、しまいには、ダンナにまで愛想つかされるぞ」
「ね、だけど綾ちゃん……その……綾ちゃんのダンナさんのほうも、ケガしてない……?」
有香ちゃんにつられて、あたしはまた、教室の一番後ろの席を見た。
あ……たしかに。ヨウちゃんの左のほっぺたにも、絆創膏がはられてる。
土曜の夜、ヨウちゃんはあたしのケガばっかり心配してくれたけど。自分だって、いっぱいケガしてたんだよね。
力なくこっちを見てる琥珀色の瞳。目のふちが赤くって、下に紫色のクマができちゃってる。
あたしと目が合うと、ヨウちゃんは目をそらした。ランドセルから教科書を出しはじめる。
ズキンと胸に矢がささった。
言わなきゃだよね。
あたしの恋を応援してくれた、ふたりには。
「……真央ちゃん、有香ちゃん……あのね……」
つぶやくくちびる、震えてきちゃう。
「……ヨウちゃんはもう……あたしのカレシじゃないの……」
あたしは、冷たい自分の左こぶしを、自分の冷たい右手のひらで、ぎゅっとにぎった。
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