ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしたちの決断

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   ★


 追いかけてもムダだった。

 綾の銀色のチョウの羽は、すでに五メートルは上空に飛びあがってしまっていた。


 オレはひとり、墓の真ん中にとりのこされる。


「……あいつ、なんてことするんだよ。こんな墓地に置き去りとか……。いじめか?」


 ビビりな自分をあわれんでみても、答えてくれる相手はいない。

 ため息をついて、目の前の巨木を見あげた。


 外人墓地にそびえるナラ――オーク――の木。


 葉のない枝に、ヤドリギの葉が、鳥の巣のように丸く、からみついている。

 その根元に懐中電灯の光をあてると、スコップが立てかけられていた。横には、水筒と小さな紙袋も置いてある。

 紙袋を拾いあげて、中を確認する。コッペパンがひとつに、リンゴがひとつ入っている。

 オレは、リンゴの横で二つ折りになった紙を引っぱり出した。


「葉児君 がんばれ!」


 メモに鵤さんの字が書かれている。

 胸がじんと熱くなった。

 スコップはきっと、最後に鏡を割って、土にうめるときに必要だと、用意しておいてくれたものだろう。


「……ありがとうございます」


 今は閉園している植物園のほうへ、一礼。


 綾のことは気になる。けど今は、自分の責任をはたさなければ。


 オレは、鏡入りのかばんを、木の根元におろした。

 まずは、下準備。祭壇づくりから。

 よみがえりの儀式には、妖精の霊気を充満させている浅山全体の力を借りた。「巻きもどしの法」でも、それを借りる。

 そのために、浅山の主である「ネミの王」を祀り、呼び出さなければならない。

 とか言っても、やることは、ガキのままごとみたいに現実感のないことで。


 オレは、星空の下をうろうろして、地面から、真ん中がくぼんだまんじゅうみたいな石をひとつと、つららのようにとがった石をひとつ、見つけだしてきた。

 さらに、大き目の平たい石を運んできて、とうさんの墓の前にすえる。

 石台の上に、さっき見つけたくぼんだ石と、とがった石を左右にならべた。

 さらに、パンとリンゴを置き、水筒の水を水筒のコップにそそいで、コップをパンの左横に置く。


「……完成」


 ちゃちだけど、これが祭壇。それでも、しっかりと役割をはたせることは、とうさんをよみがえらせたときに証明している。



「はじめるか」


 懐中電灯を地面に置いて、手のひらで、自分のほおにペチッと気合を入れた。

 これから「巻きもどしの法」をつかって、さかさまな順序で、よみがえりの儀式をしていく。



「この森をつかさどりし、ネミの王よ。我にその力を貸したまえ」


 墓石の北側に立ち、ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダーを撒きながら、西へ。それから南へ。東へ。もどって北へ。正式な方法とは逆。反時計回りに。


「一、二、三、四……」


 歩数は正確でなければならない。墓を回り切って、また北に立つまで、ぜんぶで二十一歩。半歩多くても、少なくても、魔力はかからない。


 緊張で足がかたくなる。

 虹色の光が、砂ぼこりのように闇に舞う。


「二十一!」
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