ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしたちの決断

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「そんなに大切なのかっ!?  妖精でいることがっ!! 」


 ヨウちゃんの涙声。胃をキリキリ痛くする。


「ヨウちゃんには……わかんないよ。取り柄がいっぱいある人には……」


 言い訳みたいなあたしの声が、冷たい空気をゆらしてる。


「あたしには、羽しかないって、前にも話したでしょ? つかわなくても、羽があることを自分が知ってるだけで、自信を持てるって。だから、羽だけは、ぜったいに失くしたくないの……」



 そんなことじゃない。



 羽を失くしたくない、本当の理由は。




 だって……ヨウちゃん、覚悟しちゃってる。

 今晩がんばって、ハグをお父さんの体から切りはなしたところで、いずれまた、ハグが出てきて、ヨウちゃんを襲うって。


 でも……そしたら、ヨウちゃんは、どうするの?

 飛ぶこともできないふつうの人間の体で、ハグに立ち向かっていくつもりなの?

 それで、何かあったら……。そのとき、フェアリー・ドクターの薬を持っていなかったら。持っていても、薬が効かなかったら……。


 治せるのは、あたしのりんぷんの力だけなのに……。



「は、羽なんかなくたって、オレがおまえのそばにいてやるって。オレが綾に、ちゃんと自信持たせてやるから……」


「だから。ヨウちゃんのそばにいたら、羽があっても、なくても、ハグに襲われるのは同じなんだって」


 あたしはにっこり笑って、ヨウちゃんの顔を見返した。


 あ……これ……ウソっこの笑顔。


 ヨウちゃん、前に、あたしはいつも本気で笑ってくれるって、リンちゃんに自慢してたのにな。


 ヨウちゃんのくちびるが震えてる。見る間に、琥珀色の瞳から、涙があふれた。涙は色白のほおを、幾筋も伝っていく。



「……い……いやだ……」


 ヨウちゃんがしゃくりあげた。


「綾……オレ……イヤだ……。綾が好きだ……」
 あたしは両手をのばして、ヨウちゃんのほっぺたにふれた。

 冷たい。冬の夜の気温が、ほっぺたを氷みたいに冷たくしている。


 だけど……やわらかい……。



「綾……お願いだよ……。お願いだから……そばにいて……」



 ヨウちゃん……。



 あたしのほおにも涙の筋が伝っていく。



 あたしも、ヨウちゃんが大好き……。


 何度、桜の季節が来ても、ずっとずっとそばにいたかった……。






「――ね? もう、やめよ」


 あたしは、ぐいっとモッズコートの胸を押し出した。


「今はそんなことより、ハグをお父さんから切りはなす作戦、立て直さなきゃ」




「……綾……」


 琥珀色の瞳が、うつろになる。

 静かな無。望みを失った人間の、もう、もがいても意味がないと悟ったときの、無。




 ごめんね、ヨウちゃん。


 あたしも覚悟するよ。

 ヨウちゃんは、あたしにとってすごくすごく大事な人だから。

 別れても、これから先も、陰でずっと、ヨウちゃんを見守っていく。


 そして、ヨウちゃんが危なくなったら、すぐに出てきて、この羽のりんぷんで、ヨウちゃんを守るから――。

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