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5 あたしたちの決断
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しおりを挟む「な……なにが指導だっ!」
ヨウちゃんがさけんだ。
「都合のいいときだけ、父親みたいなセリフ吐きがって。そんなこと、微塵も思ってねぇくせにっ!」
「おお、ヨージ。そんなこと言わないでおくれっ!」
ハグが白い眼を悲しげにゆがめて、上空のヨウちゃんを見あげた。
「わたしはちゃんと、おまえを自分の息子だと思っているさ。たしかに、この体は借り物で、中身のわたしは別物かもしれない。けれど、わたしはちゃんと、本物の家族になろうと努力していた。
事実、セイコはよろこんでいただろう? ヨージ、おまえがセイコにいらない告げ口さえしなければ、セイコは幸せな夢を見つづけていられたとは思わないかね? わたしは別に、世界を滅ぼしたいわけではない。世界を支配したいわけでもない。ただ、この世に存在したいだけの、ひ弱な生き物さ」
カツン、カツン。
妖精の羽のついた杖をついて、ハグがあたしたちに近づいてくる。
力の抜けたほお。白い目。ぼんやりと開いたままの口。そこからもごもごと、声だけがわきあがってくる。
「おまえがこの世に存在するように。木や草が、この世に存在するように。わたしだって、ふつうにこの世に存在したい。それは、ぜいたくな望みなのかね?
けれど、わたしの体は、孵化する前に壊されてなくなってしまったのだから、わたしは『入れ物』がなければ、この世に存在することができないのだよ。『入れ物』になれる媒体はかぎられている。妖精であるわたしとシンクロできる、妖精の体か。あるいは、魂の抜けた空っぽの体か。
わたしが、その妖精の娘の体に入るのをイヤがったのは、おまえじゃないか。だから、わたしはおまえの気持ちを尊重して、おまえの父親の体に入った。それの何が悪いと言うのだね?」
「わ、悪いに決まってんじゃねぇか! な、なにも、とうさんの体をつかうことねぇだろっ!! 」
「なぜ、そんなかなしいことを言うんだい? わたしは、おまえやセイコなら、あたたかくわたしを家族として迎えてくれると、信じていたのだよ。
おまえは、わたしの事情をわかってくれている。セイコなら、自分の夫を大切にしてくれる。体のないわたしでも、ふつうの人間として、ふつうにこの世に存在することができる。こんなわたしにも、些細な、つつましい、人間のよろこびを味わうことができる……」
「ヨウちゃん、こいつの言うこと、まともにきいちゃダメっ!! 」
あたしはヨウちゃんを抱えて、羽をはばたかせた。
怖いっ!
直感が、胸を寒くする。
こいつの言うことをきいていると、自分が飲み込まれる。
飲み込まれて、ヨウちゃんが傷つけられたことも、いじめられたことも、なかったことにされちゃう!
「綾……どこに行く気だ?」
「わかんない。けど、ハグのいないとこで、もう一度作戦を練り直そうっ!」
「待て……」
登山道をふらりふらりと、お父さんが追ってくる。
両肩をおろして。両腕をぶらさげて。右手で引きずっているのは、妖精の羽のついた杖。
「待ってくれ……。ヨージ。とうさんを見捨てて行かないでくれ……」
「なんなんだっ!! あいつ、ホントになんなんだっ!! 」
ヨウちゃんが自分の顔を腕でおおった。
「急に自分を正当化して。オレの父親だって名のって。わけわかんねぇっ!! 」
ヨウちゃん……。
ヨウちゃんはきっと、ずっとお父さんにあこがれてた。
自分の記憶にのこっているか、どうかもあやしいお父さん。だけど、書斎でお父さんの本を読んで。鵤さんからお父さんの話をきいて。
お父さんの残像を、心の奥で求めてた。
それがこんな形で、姿をあらわすなんて!
ひどすぎるよっ!!
あたしの右のほっぺたをピッと、何かがかすめた。
とがった痛みがほおを襲う。
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