ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしたちの決断

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「お願いっ!!  あたし、ヨウちゃんが心配なのっ! あたしがヨウちゃんとはなれてる間に、知らないうちに、ヨウちゃんがどうにかなっちゃうんじゃないかって、胸がおかしくなっちゃいそうなのっ!!

それくらいなら、あたしもいっしょにいるっ! ヨウちゃんがだいじょうぶかどうか、そばで、ちゃんと見てたいっ!!」


「わかんねぇのかっ!!  今のオレにとって、おまえは足カセなんだよっ!」


 ズクッと、言葉の矢が胸に刺さった。


「……あし……かせ……?」


 ヨウちゃんの眉間に深いしわが寄ってる。泣きそうな目。傷ついたあたしの顔に、傷ついている目。

 ヨウちゃんは歯を食いしばって、うつむいた。


「……綾……ごめん。けど、オレは、ただのちっぽけなガキでしかないんだ……。どっかの映画のヒーローみたいに、こんな場所まで来て、おまえまで守り切れる自信なんて、あるわけないんだよ。いっしょにいたら……共倒れして、ふたりとも終わりだ……」





「……ヨージ。レディーにそんなセリフを吐くもんじゃない……」


 ゾクッと心臓がこおりついた。


 ヨウちゃんも目を見開いてる。


 今の声、ヨウちゃんの肩にたれさがっている、お父さんの頭からきこえた……。



 ヨウちゃんの肩で、ぞわぞわと、琥珀色の髪が動いた。

 ぶらさがっていた左右の手が、自らの意志を持って、ヨウちゃんの首の両側に近づいていく。


「よ、ヨウちゃんっ!」


 十本の指は、ヨウちゃんの首にふれたとたん、ぐっと力がこもった。


「っ!」


 ヨウちゃんが息をつまらせる。


「……ヨージ。おまえが、そんな冷たい子に育ってしまったなんて、とうさんはかなしいぞ」


「は、ハグっ!?  どうしてっ!?  お父さんは、お母さんの食事で眠らされたはずじゃ……」


 あたしの声に反応して、お父さんの前髪がゆっくりと持ちあがった。にやけた口元。

 なのに、琥珀色をしているはずの目は、牛乳のように白く濁っている。


「なに……この体は、いまだに眠っているさ。セイコが盛った、強力な眠り薬の力でね。けれど、入れ物は入れ物。中身は中身。わたしの魂は、入れ物が眠ったところで眠らない……」


「そんな……」


「誤算」って言葉が、頭にうかんできた。

 ハグは、はじめから寝てたわけじゃなかったんだ。

 ずっと寝たふりをして、ヨウちゃんたちが何をはじめるか、ようすを見ていただけなんだ……。


「ヨージ。おまえは、セイコに告げ口したね? かあさんにとうさんの悪口を言うとは、なんて悪い子なんだ!」


「……ぐ……」


 ヨウちゃんの肩から力が抜けていく。目がぼんやりと閉じられちゃう。


「や、やめてっ!! 」


 あたしの悲鳴に、ヨウちゃんが目を見開いた。両手に力をこめて、ハグの両手首をつかむ。力まかせに、自分ののど元から、お父さんの手を引きはなす。




 空の月明かりを黒い棒状のものがさえぎった。

 棒状のものは、みるみる大きくなり、輪郭がくっきりとして、ハグの手元に落下してくる。


 なにあれ……?

 杖……? 先端に銀色の羽がついた……。


 ハグが右手に杖をつかんだと思ったとき、それはもう、ヨウちゃんの鼻の先につきだされていた。



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