ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 何度、桜の季節が来ても

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「家まで送ってく……」


「う、うん……」


 横顔を盗み見したら、ヨウちゃんは目の下を赤く腫らして、じっと行く先を見つめてた。


 送ってくれるのは、うれしいんだけど。

 あたし、ママに「人前でイチャイチャするな」ってとめられてて。

 今、この山道には、あたしとヨウちゃんしか歩いてない。


 ってことは、人前じゃない?

 っていうか、これ……いつものつなぎ方よりずっと、はずかしいんだけど……。


「……綾……きょうはありがとう……」


 ヨウちゃんの指に力がこもった。


「おまえにはいつも、カッコ悪いとこばっか見られてる……。我ながら、なさけなくて、イヤになる……」


「そ……そう……?」


「そうだよ……。きょうなんて、ボロボロ泣いたし。かと思えば、いきがって、かあさんにぜんぶ見抜かれるし……。ホント……なんでオレって、こんななんだろ~な」


 ヨウちゃん、右手で自分の首後ろをさすってる。


「……ヨウちゃんて、そんなこと考えてたの……?」


「そんなことって、なんだよ? オレだって本当は、スマートでいたいんだよ」

「スマートって? クールで、名探偵みたいにピピピって解決できて。怖いものなんかひとつもなくって。スーパーマンみたいに、サッとあらわれて、あたしのことを守ってくれる。みたいな?」

「……いや、具体的に言われると、なんかアレだけど。まぁ……そう……」


「あたし、そんなヨウちゃんいらな~い」


 あたしは、頭でこてんと、ヨウちゃんの腕にもたれた。


「だってそんな機械みたいな人、いっしょにいても冷たくって、ちっとも、あったまらなさそうだもん。あたしは、今のまんまのヨウちゃんがいい……」


 う……。はずかしい……。


 今、顔を見ないで、ヨウちゃん。ほっぺた熱くて、燃えちゃいそう。


 ヨウちゃんは、それきり、だまり込んじゃって。

 登山道の入り口まで来ると、つないでいた手をはなして、あたしのポケットから手を出した。

 赤みが消えて、うす青色に染まっていく街並み。

 家の前の大通りを、ヨウちゃんと肩をならべて歩くのは、ちょっとレア。

 あたしの家とヨウちゃんの家は、学校の東側と西側にあって。いつもあたしのほうが、ヨウちゃんちに行ってるから。

 帰りに送ってもらうときは、ヨウちゃんのお母さんの車でだし。


 窓明かりに照らされるフラワーショップの前を通ったとき、あたしは「あっ!」と、立ちどまった。


「なんだよ?」


 どうしようっ!

 あたしまだ、ヨウちゃんにバレンタインデーのチョコ、わたしてなかったっ!


 まばたきするヨウちゃんのコートの腕を、ぎゅっとつかんで。


「まだ帰らないで、お願い。そこで待ってて」


 家の門を開けて「ただいま~!」と、あたしは玄関にかけこんだ。


「おかえり、綾。ちゃんと、塾行ったんでしょうね?」


 リビングのママの声に、「行ったぁ~」と答えて、そのまま、ドタドタ二階にあがる。

 塾のカバンを投げ捨てると、勉強づくえの上から紙袋をつかんで、また階段をかけおりる。


「ヨウちゃん、おまたせ」


 ハアハア、家の門の前までもどったあたしの口から、白い息があがった。


「あ、あの! これ、一日遅れちゃったけど、バレンタインデーのチョコレートっ!! 」


 きのう一日学校で持っていた紙袋から、チョコの箱をつかんで、ぐいっと、ヨウちゃんの胸につきつける。


「……わ……? ……え?」


 赤いハート型のちっちゃな紙箱。ピンクのリボンでむすんでる。

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