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4 何度、桜の季節が来ても
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しおりを挟む「これ……リズにやられたのっ!? 」
ヨウちゃんのケガを見ると、お母さんは両手で口をおおった。
「だから、お母さん。ヨウちゃんのお父さんじゃないんです。お父さんの姿をしているのは、外見だけで、黒いタマゴの中身が入ってるんです」
「葉児……綾ちゃんが言ってること、本当なの……?」
お母さんが、目に涙をためて、ヨウちゃんにたずねる。
「……ああ」
パイプイスに座って、ヨウちゃんは、重たそうにつぶやいた。
「なんで……なんで、こんなことに……」
「清子さん。葉児君は黒いタマゴの中身……つまり、ハグに脅迫されていたんです。そのせいで、こんなことになってしまった。一番の被害者は、葉児君です」
管理棟のせまい部屋で、鵤さんが説明する。
お昼をまわって、塾から帰ってきても、植物園はほぼ、お客さんがゼロだった。
管理棟の中でヨウちゃんは体を休めていて、鵤さんは、荒らされた植物の茎に寄木を立てていた。
「……かあさん……ごめん。これでオレは二回も、かあさんから、とうさんを取りあげることになる……」
「ちがうわ! そんなんじゃないっ!! 」
お母さんが顔をあげた。イスに座るヨウちゃんの前にひざまずいて。ぎゅっとヨウちゃんの両手をにぎって。
「リズが亡くなったことは、わたしもちゃんと理解しているつもりだった。なのに、リズの姿を目の前にして、舞いあがってしまった、わたしがいけなかったの! わたしは冷静な判断ができていなかった! あなたが……大切なあなたが、こんなにつらい目にあっていたのにっ!! 」
「……かあさん……」
「葉児……人は、ある日とつぜん、そばから消えたりするものよね……」
ヨウちゃんの手の甲を見おろして、お母さんはさみしげにほほえんだ。
「のこされた者は、その穴がうまらなくても、それでも生きていかなきゃならない。苦しいことだけど……それでも……だからこそ、わたしは、人といっしょにいる時間を大切にしなきゃって、思うようになったのよ。
わたしが、今、大切にしなきゃいけないのは、リズの幻じゃなくて、今、ここにいる、あなたよ」
ヨウちゃんは、何度も鼻をすすっている。
「あ、あたし、レモンバームの塗り薬つくるね!」
あたしは部屋のすみに逃げ出した。
だって、弱ってるヨウちゃんを見るのって、ホンットきつい。
「鵤さん、ここのコンロ借ります!」
管理棟にそなえつけられた小さな流しとコンロ台。その前に立って、あたしは立てかけられているまな板をおろした。
鵤さんに包丁を借りて、レモンバームを千切りにしていく。
えっと……その先のつくりかたはどうだったっけ?
あたし、秋に一回だけ、この薬をつくったことがある。
だから今は、頭の中の記憶がたより。
「たしか……水、一リットルに、レモンバーム十グラムを入れて、濃縮……。――鵤さん、ビーカーと計量スプーン貸してください!」
分量通りになべに入れたら、きっちり百ミリリットルまで濃縮させなきゃならない。
それが、とってもむずかしい。
カチッとコンロをとめて、ガーゼで葉っぱをこしながら、耐熱ビーカーにそそいでいく。
「うあ……七十九ミリリットル……。しっぱい」
「貸してみろ」
ふり返ったら、後ろにヨウちゃんが立っていた。
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