ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 真実を追いかけて

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 受話器の奥から、一瞬、音が消える。


「――ごめんなさいね、綾ちゃん。朝早くにおかしな電話しちゃって。このことは気にしないで。教えてくれてありがとう。もう切るわね」


 プチンと電話が切れた。

 にぎりしめる受話器が、あたしの手のひらの汗でしめっていく。


 ビンゴだ……。

 ヨウちゃんが……家から消えた……。


「綾? 中条さんはなんだって?」


 後ろでママの、のんきな声。


「あたし、ちょっと外行ってくるっ! きょうは、朝ご飯いらないっ!」


「えっ!?  ちょっと、綾っ!? 」


 ドタドタ、自分の部屋に階段をかけあがって。

 パジャマをぬぎ捨てて、トレーナーとショートパンツに着がえて。ピンクのコートのボタンをとめながら、また階段を一階におりる。


「綾、きょうも、十時から塾があるのよっ! わかってるのっ!? 」


「わかってるっ!」


 ママの声に背を向けて。玄関でスニーカーをはいて。

 あたしはドアを開けて、朝日のもとへとびだした。




 高台の住宅街へつづく坂をのぼると、ハーブ園みたいなお庭が見えてくる。ひときわ白い横板壁。屋根には風見鶏。ヨウちゃんち。

 アーチの門をくぐって、あたしは次に出す足をとめた。


 ……なにこれ……。


 この庭にだけ、竜巻が通りすぎていったみたい。

 冬越しのために、ヨウちゃんがこつこつ剪定したハーブたち。それが今、根がひっこぬかれて、茎がへし折られて。木の枝は裂けている。


「ど、ど、どうしてっ!? 」


「綾ちゃんっ!!  来てくれたのっ!? 」


 玄関から、エプロンをかけたお母さんがかけだしてきた。


「お母さん、何があったんですかっ!?  こ、このお庭っ!! 」


「……葉児がやったって……」


 お母さんが、自分の口を手のひらでおおった。


「……ヨウちゃんが……?」


「り、リズが、昨晩、葉児が庭を荒らすところを見たって……」


 お父さんが……?

 そんなのウソに決まってんじゃんっ!!


「それでお母さん、ヨウちゃんはっ!?  い、いなくなっちゃったんですかっ!? 」

「……ごめんなさいね、こんな朝早くに。わたしがあんな電話しちゃったから……。綾ちゃんのことだもの、心配になって、来ちゃうわよね」

「そんなの、いいんですっ! お母さん、ヨウちゃんはどうしていなくなっちゃったんですかっ!? 」


「それが……わからないの。夜、寝るまではふつうだったのよ。それなのに、朝、あの子が部屋から出てこなくて。おかしいと思って部屋を開けたら、あの子がいなくて……。庭を見たらこんなふうで……。しょ、書斎まで……」


 お母さんが、声をつまらせた。


「……書斎……?」



 お母さんの後ろで人影がゆれた。

 お母さんよりもずっと背が高い男の人が、玄関から出てくる。

 琥珀色の髪。茶色い背広。筋肉ののった厚い胸板。


「夜、わたしがトイレに起きたときにね。書斎から、ガラスを割る音がきこえてきたんだ。なぜこんな夜遅くにって。わたしも気になって、近づいたのさ。そうしたら、ドアが開いて、書斎からヨージが出てくるじゃないか。わたしは、声をかけたんだが。あの子はわたしを無視して、庭に出ていってしまった。

そして、朝起きたら、庭までこんなことにっ! まさか……まさか、こんなことになるとは思わなかったっ!!  あの子がここまで深い闇を背負っていただなんてっ! ああ……あのとき、なんでわたしは、あの子をとめなかったんだっ!! 」


「リズのせいじゃないわ」


 お母さんは、お父さんの背中をさすった。


「いや、わたしの責任だよ。ヨージは、わたしが帰ってきてから、おかしくなったのだろう? もしかしたら、自分にとっては記憶のうすい父親が、とつぜん家を占領しだしたことに、納得がいかなかったのかもしれない」


「……リズ……」


 両手で自分の顔をおおうお父さんを、お母さんは心配そうにのぞきこんでいる。


 なにこの茶番……。


 ぎゅっと、くちびるをかみしめて、あたしはきびすを返した。


「綾ちゃんっ!? 」


「あたし、ヨウちゃんをさがしに行ってきますっ!」

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