ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 バレンタインデーは大好きなキミと

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「あれって、なんのトラックだったんだろ。住宅街にパンを売りに来てたのかな?」

「だろうね~」

「あたし、おっきいパンが走ってくるみたいな気分だった」

「荷台が丸ごと、食パンのデザインだったしね。がぶりって、トラックごと食べちゃいたい、みたいな」

「あはは……そんなこと、できるわけないのに~。小さいあたしたち、ヘンっ!」


 肩をすぼめてケラケラ笑ったら、鉄棒にもたれて、誠も笑った。


 なつかしそうな、ちょっと泣きそうな、不思議な顔で。



 その顔がふいに真顔になって、校庭のほうを見る。


「……葉児……」



「え……?」


 あたしも校庭を見た。

 昇降口からヨウちゃんが出てきていて、こっちを見ている。


「ヨウちゃんっ!」


 あたしは、鉄棒からとびおりた。

 鉄棒の下に置いていた紙袋を手に持って、ヨウちゃんのところに走り出す。


「ヨウちゃん、今までどこ行ってたのっ!?  あのね、これ……」


 だけど、ヨウちゃんは立ちどまって、自分の足元に視線を落とした。



「……また、誠かよ」


「え?」


「なんなんだよっ、嫌がらせかよっ!?  どうしていつも、誠なんだよっ!?  オレが、こんなになってるときにっ!」


「……え?」


 心臓をしめつけられた。


「ヨウちゃん? ……なにかあったの?」



 あたしの後ろから、誠がペタペタと歩いてくる。


「葉児ぃ、なにを怒ってるわけ~? 和泉はずっと、葉児のことさがしてたんだぞ~。葉児こそ、今までどこに行ってたんだよ?」


「……保健室だよ」


 ひたいに手を置いて、ヨウちゃんは肩を丸めた。


「貧血起こして……寝てた……」


「えっ!?  ……う、ウソ……? 具合悪いの、ヨウちゃん?」



「ヨージ!」


 校門のほうから声がした。

 ビクンと、ヨウちゃんの肩がとびはねる。

 英語なまりのある男の人の声。


「帰りが遅いじゃないか! とうさん、心配で心配で、迎えにきてしまったよっ!! 」


 そろそろと校門をふり返ると、茶色い背広を着た男の人がいた。

 中折れ帽子のすき間から、琥珀色の髪がのぞいている。


 あれは……。


 ヨウちゃんのお父さんの体に入っている、黒いタマゴの中身。


「あれぇ? 葉児って、お父さんいないよね?」


 誠が、目をしばたかせている。

 ヨウちゃんは無言で歯ぎしりした。


 その間にも、お父さんは、スタスタと校庭に入ってくる。


「あはは。かなしいなぁ。長年、家を留守にしている間に、わたしは存在しないことになってしまっていたなんて! ずっとイギリスに単身赴任しててね。先日帰ってきたところさ。きみは、ヨージの友だちかな? いつも、ヨージが世話になってるね」


「えっと……。どっちがどっちを世話とか、そういうのはないけど……」


 誠、髪をぽりぽり。

 ヨウちゃんは、お父さんから顔をそむけて、うつむいたまま。その腕に、お父さんの右手がのびてくる。


「さ、ヨージ。家に帰るぞ」


 ぞくっと、背中に寒気が走った。


 ヤダっ! ヨウちゃんにさわんないでっ!!


「待ってよっ! ヨウちゃんはあたしと帰るんだからっ!! 」


 とっさに両腕を開いて、ヨウちゃんとお父さんの間に割って入る。


「あれ? 綾ちゃん、嫉妬しちゃったかい? それじゃあ、おじさんと三人でうちに来るかい?」


 あたしがギンギンににらんでいても、琥珀色のお父さんの目は、笑いじわをうかべたまま。

 その目の奥が、ドロッとにごって見えた。


 ……感情が……ない……。




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