ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
上 下
324 / 646
2 バレンタインデーは大好きなキミと

17

しおりを挟む

「あれぇ? 和泉ぃ?」


 大きな口をにへっと横に開いて、誠がふり返る。


「ねぇ誠、どっかでヨウちゃん、見なかったっ?」

「え~? ぜんぜん。まだ、だれかのチョコを返しに行ってるんじゃん?」

「だよね~」


 はぁ~と、白い息をはきだして、肩をがっくり。


「あはは。和泉ってば、葉児にチョコわたすタイミング、完全に逃しちゃったね~」

「そうなの~。なんでこう、肝心のときにさ……」


「オレなら、すぐにもらってあげるのに」


 ハッとして顔をあげた。


 どうしよう……。あたし、今、無神経に……。


 誠は、桜の木の陰にかがんでいる。

 そこに、小さな飼育小屋がふたつならんでる。飼っているのは、チャボが三匹に、ウサギが五匹。


「和泉、オレ、これから飼育委員の仕事するからさ~」


 ふり返った誠はもう、眉尻をさげて笑ってた。鍵を開けて中に入って、ウサギのエサのお皿の上に、手に持っていたキャベツの葉っぱをのせている。


「あ。そういえば誠って、飼育委員だったっけ?」

「だよ。しかも六年だから、飼育委員長。今、給食室でさ、給食のおばちゃんに、のこりのキャベツもらってきたんだ」


「ね。あたし、水かえてきてあげようか?」

「和泉、いいの? 葉児をさがさなくて」

「だって、いないんだもん。ちょっと休憩」

「じゃあ、お願い~」


 誠から、お水のお皿を受け取って、あたしは蛇口のところへ歩いていった。


 誠は友だち。チョコは本命にしかわたさない。

 自分で決めたことなんだけど、なんだか胃がじくじくする。


 ごめんね、誠。


 昇降口から出てくる小学生たちの中に、とびぬけて背の高い琥珀色の髪の男子の姿はない。




「和泉、手伝ってくれて、ありがと~」


 ウサギとチャボのエサと水をかえて、誠といっしょに手を洗って。

 ハンカチタオルで手をふいていたら、誠がにっこり笑った。

 鼻の上にきゅっとしわが寄って、無邪気な笑顔。


 わ……カワイ……。


「オレはもう帰るけど。和泉はどうする? まだ葉児のこと待ってるの?」


「うん……待とうかな~」


 ランドセルを背中でゆらして、あたしは鉄棒にとびのった。

 鉄棒の上に腰かけて、足をプラプラ。

 アホ毛をゆらす冬の風。白い曇り空の下を、背中を丸めて帰っていく子どもたちの数も、ずいぶんと減ってきた。


 もしかして、入れちがいで帰っちゃった……?


「……こうやってるとさ。なんか、幼稚園のころを思い出すなぁ~」


 横を見たら、誠も、鉄棒に腕をかけて寄りかかって、目を細めてた。


「え……? 誠って、そんな大昔のこと、覚えてるの?」

「覚えてるよ~。オレ、すみれ組さんまで、和泉と同じ幼稚園で、よく遊んでたじゃん。親が離婚してからは、オレ、葉児と同じ保育園にうつったけど。和泉はわすれちゃった~?」


「お……覚えてるけど……」


「じゃあ、オレが和泉のこと、なんて呼んでたか覚えてる?」

「えっと、『あやたん』?」

「あれは、『綾ちゃん』って、言ってたつもりだったんだぞ~」

「誠って、口がまわらなかったんだ」

「そ~。こうやって昔よく、あやたん・・・・と、パンのトラックが通るのを待ってたよな~」

「あ、あれでしょ。お昼前になるといつも通る、食パンの形をしたトラック!」

「『ドレミの歌』のメロディー流して、幼稚園の前の道、通るやつ。園庭から、ながめるだけなんだけどさ。なんでか、トラックが通るのが、楽しみでさ~。お外で遊んでるとき、ふたりしてよく待ってたよな~」



しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~

狭山ひびき@バカふり200万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。 そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。 「……わたしは、妖精が見えるの」 気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは―― 心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...