ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 バレンタインデーは大好きなキミと

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「おお~っ!! 」


 クラス中がどよめいた。


「これ、逆チョコかっ! 逆チョコなんだなっ!? 」

「すげぇっ!!  葉児のほうから、和泉にチョコわたした~っ!」

「イヤだぁ~、中条君~っ!! 」


 う、ウソぉ~!?


 あたしのほっぺた、カーッとなって、湯気出そう!


「ね、ねぇ、ヨウちゃん、これっ!? 」


「あ~、かあさんが、店に出すヤツつくりすぎたんだって。綾にやれって」


 な、なんだ。そうなの?


「あ、ありがとう」


 ヨウちゃんはまた腕の中に顔をうずめた。つくえの上につっぷして、眠っちゃったみたい。


 びっくりした。深い意味は、ないんだ……。


 だけど、よく見たら、琥珀色の前髪と腕に隠された、その下。ほんの少しのぞいている、ヨウちゃんのほっぺた、赤い。

 ドキドキ、心臓が鳴り出した。


 ……深い意味……あるっ!?


「あ、あの、ヨウちゃんっ!」


 さけんで、ぎゅっと自分の紙袋をにぎりしめたら、「授業はじめるぞ~、席につけ~」って、大河原先生が入ってきた。

 顔をあげたヨウちゃんの目が、先生にうつる。


「ほら、和泉! 自分の席に行け! プリント配るぞっ!」


 あ~あ、ざんねん。


 チョコをわたすのは、また後で。



 窓ぎわの自分の席に座ったら、黒板の前の席でふり返っている男子と目が合った。

 クリクリした黒目がちの目。おサルみたいに横に広がった耳。


 ――誠。






「ウソっ? ヨウちゃんがまた、どっか行っちゃった~っ!! 」


 みんなが、バイバイやさよならをして出ていく中。

 あたしひとり、ランドセルを背負って、教室をうろうろしてる。

 ヨウちゃん、休み時間ごとに、女子に呼び出されて、あっちにこっちに消えちゃうから。放課後こそ、チョコをわたそうと思ってたのに。


「あ、中条ならさっき、くつだなに入っていたチョコを、下級生に返しに行くって、出てったぞ。って言っても、大岩と話してるのがきこえてきただけだけど」


 教えてくれたのは、真央ちゃん。


「え~っ!?  まさか、そのまま帰るつもりなのかな~? ランドセルまで消えてる~」


「綾ちゃんなら、直接、家までわたしに行けばいいんじゃない?」


 有香ちゃんは言うけど。


 きょうは、あたし塾だし……。

 なにより、ヨウちゃん、あたしをお父さんに会わせたくないだろな……。


「さがしてくるっ!」


 紙袋の取っ手をにぎりしめて、あたしは廊下にとびだした。


「いてら~、がんばって~」

「綾ちゃん、わたしたちは先に帰るけど、健闘をいのってるよ」

「ありがとう、真央ちゃん! 有香ちゃん!」


 廊下をまがって、五年生の教室をきょろきょろ。

 階段を二階におりて、四年生の教室をきょろきょろ。

 四年生たちは、自分と同じくらいの身長の六年生を、不思議そうに見ながら通りすぎていく。


 どうしよ……。ヨウちゃんが見つかんない。


 昇降口におりると、ヨウちゃんのくつだなにはまだ、スニーカーが入っていた。


 うわばきがないってことは、校内にいるんだ……。

 でも……これ以上、どこをさがしたら……?


 校庭のはじに、葉の落ちた桜の木がならんでいる。その下を歩いていく男子が見えた。

 あたしとあんまりかわらないくらいの身長。ダッフルコートに、黒いランドセルを背負って、手には、なんだろ? 黄緑色の葉っぱみたいなものを持っている。


「誠っ!」


 あたしは、スニーカーにはきかえて、校庭にとびだした。

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