ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 バレンタインデーは大好きなキミと

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「綾ちゃん、チョコはもうちょっと細かく刻んだほうがいいよ。溶かすときに、ぜんぶ均等に溶かせるから」


「は、はい。有香ちゃん先生!」


 最後のほうは、有香ちゃんに手伝ってもらって、なんとか千切りチョコの完成。

 そしたら、なべに入れて、へらでかきまぜながら、弱火で溶かして。


「そういや、綾はチョコ、誠まことにはあげないわけ?」


 後ろから、真央ちゃんにきかれて、ドッキリした。


「えっ!?  あげないよっ! なんでっ!? 」

「だって、綾って、クリスマスだって、誠にプレゼントやってたじゃん。『友チョコ』とかなんとか言って、今回もやるのかなと思って」

「そりゃ、誠は大事な友だちだけど……でも……チョコは、あげちゃいけないと思うんだ……」


 誠は、あたしにはじめて告白してくれた男子。

 あたしが、ヨウちゃんとつきあいはじめてからだって、すきを見て、ヨウちゃんからあたしを奪うって宣言してる。

 誠は、インフルエンザが治ったとこで。毎日、「おはよう」を言い合う程度で。このごろは、そんなにしゃべってないけど。


 チョコをあげたりしたら、誠、期待しちゃう……。



「綾ちゃん、焦げてる、焦げてるっ!」


 有香ちゃんの声で、ハッとしたら、なべの中で、チョコがカニみたいに泡をふいてた。


「あ、あああ~っ!! 」


「なにやってんの、綾は。また、一からつくり直しだぞ。板チョコ代がもったいない」

「なによ~。真央ちゃんがとつぜんヘンなこと言うからでしょ~」


 ぶ~とほおをふくらましたら、真央ちゃんは「ごめん、ごめん」って笑った。


「でも、綾。成長したな。誠より中条のほうを、ちゃんと選んでるってことだもんな」


「……う、うん……」


 ヤダ。なんか、ほっぺた熱くなってきた。


 人を好きでい続けるって、きっと、とってもむずかしい。


 ただ、恋に、ドキドキ、キュンキュンしてるだけじゃダメなんだ。

 ちゃんと、相手のことを見てあげていて、何かあったら、すぐに手をさしのべなくちゃ。

 だって、人の心ってふわふわだから。

 かんたんに痛んじゃうし。あっちこっちに飛んでっちゃうし。自分の気持ちを相手から隠しちゃったりする。


 あたし……これからもずっと、ヨウちゃんといっしょにいられるのかな……?




「またあした、学校でね」って、有香ちゃんの家を出て。

「じゃ、うちはコンビニ寄ってくから」って言う真央ちゃんに、手をふって別れて。


 大通りの歩道を、あたしは家に向かって歩いてる。

 ガードレールの外は、二車線の国道。車がびゅんびゅんとばしていく。

 暮れた空。通りにならぶお店のあかりがまぶしい。


 ビビットピンクののれんのお店が近づいてきた。

 玄関先に置かれてるブリキのジョーロや、小人の置物がかわいくて、いつも目が行っちゃうフラワーショップ。

 だけど、きょうはもう、店じまい。店員さんが、お店の前の植木鉢をかたづけてる。

 真っ赤なシクラメンや、紫のパンジー。白とピンクのデンマークカクタス。

 お店のはじに白いペンキで塗られた木のたなが置かれていて、そこに小さなブリキ缶がならんでた。


 前を通りながら、缶に植わっているものをのぞきこんだら、緑色したバラの花。


 え……? なにこれ……?
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