ナイショの妖精さん

くまの広珠

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1 はじめまして、お父さん

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 だって……だって……。


 ヨウちゃんが、なんかおかしいから……。

 もうちょっと、ようすを見たかったんだもん……。


 って思って、はじめた勉強だったけど。

 あたしは、お父さんのつくえの上にノートと教科書をひろげて。

 お父さんは、あたしが座る後ろから、その教科書をのぞきこんできて。

 なぜだか、ペラペラおしゃべりタイム。


「リズさんの名前って、『リース・ウィリアムス』っていうんですね。でもなんで、ヨウちゃんは、ふつうに日本名で、『中条』なんですか?」


「う~ん。ヨージは日本国籍だからなぁ~。セイコ側の苗字をつかって、『中条葉児』になったんだよ。せめて名前だけでも、外人っぽくしたほうがよかったかい?」


 お父さんがたずねているのに、ヨウちゃんは窓ぎわのゆりイスに座って、知らんぷり。


「まったく。無愛想な息子だ。少しはわたしの話につきあってくれてもいいのに」


 お父さん、眉尻を落として、かなしそう。


 わ……どうしよ。


「あ、ね、ねぇ。ヨウちゃんが、イギリス名だったら『ウィリアムスヨウジ』になるのかな?『ウィリアムスヨウジ』って、なんか『ウィリアム王子』のバッタモンみたいっ!」


 自分で言って自分でおもしろくなっちゃって、あたし、ぷっとふきだしちゃう。


 頭に王冠のっけたヨウちゃん。ちょっと見てみたいかも。


「……それを言うなら、『ヨウジ・ウィリアムス』だろ?」


 ヨウちゃんがぼそっとつぶやいた。


 あ、なんだ、きいてたんだ……。


「それから。とうさんは、イギリスのウェールズ出身だ。ウェールズ人はもともと、自分の名前の後ろに、父親の名前をつけて呼んでいた。自分の名前と父親の名前は、『アプ』でつなげる。つまりオレは『リース・ウィリアムス』の息子だから、『ヨウジ・アプ・リース』」


「へ、へぇ~」


 淡々と語ってはいるけど、ヨウちゃんの視線は窓の外。


「ヨージ、よく知っているねっ! 感心したよっ!!  わたしについて、ずいぶん調べてくれたんだね!」


 お父さんが、にっこにこで、両手をひろげる。

 ヨウちゃんの視線がすっと動いて、お父さんを見た。


 氷みたい……。


おまえ・・・については、なんも知らねぇよ」


 ――え?


「つ~か。調べても調べても、出てこなかった。とうさんがくわしくなかったのか。おまえが、知られることを恐れたのか。どっちなんだろうな……?」


「……ヨウちゃん……?」


 あたしはそろっと、イスから立ちあがった。

 イスの後ろに立ってヨウちゃんのお父さんは、じっとヨウちゃんを見返している。


 ヨウちゃんにそっくりの、琥珀色の瞳……。


 ポンッと、あたしの肩に、お父さんの手がのっかった。思わず、ビクッと肩がとびはねる。


 冷たくて重い……。

 雨水をしみこませたぞうきんのように。


 見あげたら、お父さんはにっこりと笑ってた。


「ヨージ? なんだい? もう、反抗期かい? アヤちゃんが見ている前で責められたら、とうさんだって、かなしいぞ」
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