タイトルは後から考えます。

霧氷

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0.選択肢

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 *

 家族で幸せに暮らすという選択肢は私にはなかった。

 母は私が小学生の頃に病死し、父は存在するという認識でしかない。
 人生に不満があったわけじゃない、家庭環境にも一切不満はなかった。
 これが、私の最後なら、それはそれで仕方がないと運命を受け入れたかっただけ。

 それだけなのに…

「選択肢は2つ。"俺と生きる"か"俺を殺す"か」

 私にそっと刃物を持たせ、男はどこか嬉しそうに微笑む。
 男の行動は明らかに変だ。いや、変だなんて言葉じゃ済まない、異常だ。
「相手の生死」を天秤にかけたのではない、「自分の生死」を天秤にかけたのだ。
 それも、全く知らない”赤の他人"に。

「斧で大木を伐るように、肋骨の間を狙えば心臓に到達する。切り落としてもいいし、ゆっくり痛めつけたいなら、好きなようにやればいい」

 私の手をゆっくり引っ張り、自身に刃物を近づかせる。
 冷や汗が止まらない。その汗のせいで、刃物が滑ってしまうのではないかと焦ってしまい、さらに冷や汗をかく。

「俺は…一思いに切り落として欲しいかな。顔を見るのは…とても、恥ずかしいから…」

「…なんで…そんな…」

まるで、恋をした人間みたいに頬を染めて笑う。

「別に、俺はどの選択肢でもいいから」

 男が喜ぶ理由も、自ら死に向かう事も、何一つ理解できない。
ただ、目の前の現実についていけないという結果だけはわかる。

「さぁ、"俺たち"の人生を決めてくれ未来(ミク)」

そうして、知らないはずの私の名前を口にする。

「…ッ」

私は男に向かって刃物を振り上げた。

一体、どこで道を間違えたのだろうか。
どうしてこうなったのだろうか。
考えることは様々だ。

「何もわからない…」

ふと、力が抜ける。床に足をつき私は泣き崩れた。

「私は…あの時…死んだのに…」

現実を理解できない私は、ひたすらに泣いた。
ただ、死んだはずの自分が生きている現実を受け入れるしかなかった。



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