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episode.19②

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カストが作り置いて行った夕飯を温め直して食卓に並べた。

上着を脱いだのに、はめていた手袋を取らないまま匙を持ったリディオを不審に思い指摘すると、リディオは観念した様に手袋を外した。

リディオの手はあれから改善するどころか酷くなっていた。痛むに違いない。

「適切な手当てを受けているんですか?」

「薬室には足を運んでいる」

「本当に?」

「………子供じゃないんだ」

…なるほど。いつぞや、ソフィアが言った事を根に持っているらしい。

それにしてもこれは治療だと言うのに、リディオの手に触れるのは少し緊張する。ソフィアのシワシワの手に比べたらリディオの手は少しごつごつしていて指は長い。

「どうして手に…」

リディオの症状は見事に両手のみ。他の患者さんは手の他に、顔、全身に広がりを見せる。

「他の騎士さんも、こんな感じですか?」

「同伴していた8人の騎士のうち、2人には酷い症状が現れて倒れた」

やはり分からない。倒れた騎士とリディオの違いは何なのだろう。というかそれでは4分の1の確率で重症化する事になる。

次はリディオの番かもしれないと思うと、やはり気が気ではいられない。

「これからも、エストには行かれるんですか?」

「ああ。原因がわからなければ対処のしようがない」

「リディオさんが、行かないとだめなんでしょうか」

声が震える。良くない、良くない。

リディオは騎士だ。どんな方法であれ、人を守る事が仕事でそれに誇りを持っているのを知っているのに、ソフィアの今の発言はつまり、リディオが行かずとも、他の人が何とかしてくれると、そう言う意味だ。

「何が言いたい」

リディオの声もいつもより固くなったのを感じた。それはまるで、ソフィアが何を言いたいのか問いながらも既に察しているようだ。

溜まった疲労が、ソフィアの心を弱くする。それでも、行かないでと言えるほど図々しくは無い。

唯一出来ることは、何でもありませんと下手な笑みを浮かべて、心のモヤを、弱いところがこれ以上溢れ出ない様に必死に蓋をするくらいだった。

歯を食いしばって涙だけは流すまいと努めていると言うのに、リディオは手袋をはめた手でソフィアの頬に触れた。

「そんな顔をするな。お前に、そんな顔をさせるためにここに来たんじゃない」

「………」

そんな風に見ないでほしい。そんな風に触れないでほしい。そんな…そんな声を、今だけは聞かせないでほしい。

今はその声を聞いただけで、どうしようもなく切なくなる。

「何でも無いんです、本当に。気にしないでください」

リディオがスッと手を引くと、それはそれで寂しいだなんてわがままにも程がある。

「…すまない。責めたかった訳じゃないんだ。お前が俺の身を案じてくれているのは分かっているつもりだ」

「はい」

「だが、俺がエストに行くのはお前の為だぞ」

「……………え?」

「エストの調査は俺が望んで志願した。流行り病となれば、今は区画が違えどいずれお前の負担になるだろうと思っていた。そうなる前に、何とか出来れば良かったんだが、私欲に走ったからか神は味方してくれなかった。世の中、そう甘くは無いな」

困ったように笑うリディオを前にして、早い段階でそこまで考えていてたなんて知らなかったと目を丸くした。

「リディオさんが、私のために…?」

「ただの自己満足だ、気にするな。前に言っただろう、お前に1番に選ばれたいと。そう望むなら、俺は騎士として出来る限りお前の力になるように振る舞おうと思っただけだ」

「そっ…それ…!それです……!!」

ハッとして大きな声を出したソフィアに、リディオはなんだ?と怪しむように半眼を向けた。

「私に選ばれたいって、どっ…どういう事だろうと思って、ずっと考えてて………。先生にも相談したけどろくな答えじゃなくて、気がかりで…」

先生に相談?とリディオは首を傾げていた。先生は既に亡くなっているはずだ。他に先生と呼ぶ人物がいるという事だろうかと考えて見るも思い当たる人物はいなかった。

「先生は、何と言っていたんだ?」

「何も言いませんよ死んでるんですから。いつでも話聞くって言ってたのに本当に聞くだけで返事しないし……いや、そんな事はどうでもいいんです」

そんな事はどうでもいいんだ。返事をしない先生の事なんてこの際放っておいてもバチなんて当たるものか。どうせ話も聞いているふりをして聞いてないんだ。

「………っ!!とにかくもう!気になって気になって、気づいたらずっとリディオさんの事ばっかり考えてるんです!!良い加減にしてくださいもう!!」

疲れは人格をも破壊する。良くない、良くない。

フーフーと威嚇する猫の如く……いや、今にも突進して来そうな闘牛のように荒げていた。

「疲れて、いるな………」

「誤魔化さないでください!!」

あまりの迫力に、珍しくあのリディオが気圧されていた。


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