12 / 26
episode.11
しおりを挟む
カストが助手となったソフィアの薬屋はやはり忙しい日々を送っているが、幾分か楽になったのは言うまでも無い。
カストは要領が良くて凄く助かっている。
「ソフィ、薬草ここに置いておくから」
「ありがとう!お客さんも途切れたし、お昼にしようか」
以前ならこの時間帯に薬草を取りに行ったりそれを調合したり、掃除や整頓をして昼休みと言う時間を過ごしていた。
それに比べたら天地ほどの違いだ。
朝に握っておいたおにぎりを2人で頬張る。カストの昼ごはんは給料天引きという形で働きに来る日はソフィが作ったり、時にはカストが料理をしたりする。
これがまた上手で驚いた。カストは母親の代わりに家族にご飯を作る事もあると言う。納得の美味しさだった。
「最近、あの騎士さん来なくなったんじゃね?」
「リディオさんなら、出張で王都にいないよ」
「へぇ~…。喧嘩でもしたのかと思った」
「しないよ。何で喧嘩なんて」
「だってソフィとあの騎士さん、付き合ってんだろ?」
10歳の少年の言葉に、ソフィアは米粒があらぬところへ入り込んで「ゴフォ!」と咽せた。
しばらくゲッフゲッフと咳き込むソフィアに、カストが呆れ顔でお茶を差し出してくれる。
あんな爆弾さえ投下しなければとてつもなく良い助手なのだけれど。
「つ、つき!?なんで!?」
「え?だっていつも来てるじゃん。俺結構すれ違ってるし」
カストは日が暮れる前には家に返している。そしてリディオは夕方にやって来る事も多々ある。その時にすれ違っていたらしい。
リディオは昼間にやって来る事も稀にあって、その時にカストと顔を合わせた事があるから覚えたのだろう。
「リディオさんはそういうのじゃないから!この薬屋の事を心配してくれてるだけ!」
「………なんで?」
「なんでって……………なんでだっけ…」
「ソフィの事、好きなんじゃねえの?」
ボッと顔から火が出そうに熱くなった。耳まで赤くなっているに違いない。
「そんっ…!そんなわけないって!」
「ソフィは好きなのか?あの騎士さんの事」
「!?」
10も歳の離れた子供に揶揄われている。生まれてこの方、恋だ愛だ、好きだ嫌いだという事に無頓着に生きてきた弊害がこんな所で現れるとは思わなかった。
今時の子供は随分ませている。
「もうこの話はおしまい!リディオさんが帰ってきても、絶対変な事言わないでよ?」
「ソフィが騎士さんの事好きだって話?」
「なっ!?ち、違う!!絶対そんな事言わないでよ?リディオさんは王宮の騎士なんだから、変な噂が立ったら迷惑になるから!!」
カストの肩をガッチリ掴んでブンブン揺さぶると「分かった分かった」ともはやどちらが歳上なのか分からない返事が返ってきた。
ほんとにもう、裏のおばあさんと言いカストと言い、勘弁して欲しい。
ソフィアはカストより一足先におにぎりを食べ終えると、そそくさと表のカウンターでゴリゴリと、それはもう無心で干した薬草をすり潰した。
⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎
「プシュン」とくしゃみが出たリディオは用意して来た水筒に口をつけ一口含み顔を歪ませると、「ゴキュン」と喉を鳴らして飲み込み「ケホッ」と咳き込んだ。
「なんだリディオ、風邪か?」
「いや」
フォード騎士団基地は王都より北に位置していて、確かに王都よりは気温は低いが寒いという程でもない。
疲れが溜まりつつあるとは言え、この程度で体調を崩すほどやわではない。
くしゃみはともかく、咳の原因は紛れもなくこの水筒に用意してきたお茶だ。
ソフィアが金平糖のお礼にと善意でくれた薬膳茶だ、大事に取っておくのは流石に気持ちが悪いかと思い、ありがたく頂くことにしたは良いものの、やたらと苦い。
ソフィアはこれを平気で飲んでいるのだろうかと、もし平気で飲んでいるならその味覚を疑うほどに苦い。
良く言えば、凄く効きそうなお茶である。
いや、もしかして味覚に異常をきたしているのは自分なのかとあまりの苦味に思考までおかしくなる。
「バルトロ。お前これ、飲んでみろ」
「え?」
一応確認しておこうと一緒に来ていたバルトロに水筒を差し出すと、一瞬怪しんだものの匂いを嗅いで「漢方か?」とぽつりと漏らし水筒を傾け、そして………
「ブーーーッ!!ゲヘッ!ゴホッ!!」
「汚い」
そして吐き出した。
「何だこれ?大丈夫なやつか?」
「大丈夫は大丈夫だろうが、俺の味覚が間違いじゃないようで良かった」
「罰ゲームじゃねーか!」
罰ゲーム…確かに。嫌がらせという線もあるが、ソフィアに限ってそんな事はしないだろう。される心当たりもない。
恐らく、いやほぼ確実に、善意の薬膳茶だ。であれば飲む他にない。
「……良く飲み込めるな」
「疲れた時に飲むと良いと言われて貰ったんだ」
「誰だよこんなもの………あ…ははーん?ソフィちゃんだな?」
「…」
「時に無言は肯定を表すんだぞ?それじゃあ飲まないわけにはいかないもんなぁ」
味見をさせる相手を間違えたかもしれない。
とは言えこの強烈な苦味は、今は気軽に様子を見に行くことも出来ないソフィアを、お茶を飲むたびに思い起こさせる。
無理をしていないだろうか。
姿が見えないだけで、こんなにも気がかりになるとは思っていなかった。
もう一口、お茶を飲む。激烈に苦い。
次はもっと薄めて飲もうとリディオは心に誓った。
カストは要領が良くて凄く助かっている。
「ソフィ、薬草ここに置いておくから」
「ありがとう!お客さんも途切れたし、お昼にしようか」
以前ならこの時間帯に薬草を取りに行ったりそれを調合したり、掃除や整頓をして昼休みと言う時間を過ごしていた。
それに比べたら天地ほどの違いだ。
朝に握っておいたおにぎりを2人で頬張る。カストの昼ごはんは給料天引きという形で働きに来る日はソフィが作ったり、時にはカストが料理をしたりする。
これがまた上手で驚いた。カストは母親の代わりに家族にご飯を作る事もあると言う。納得の美味しさだった。
「最近、あの騎士さん来なくなったんじゃね?」
「リディオさんなら、出張で王都にいないよ」
「へぇ~…。喧嘩でもしたのかと思った」
「しないよ。何で喧嘩なんて」
「だってソフィとあの騎士さん、付き合ってんだろ?」
10歳の少年の言葉に、ソフィアは米粒があらぬところへ入り込んで「ゴフォ!」と咽せた。
しばらくゲッフゲッフと咳き込むソフィアに、カストが呆れ顔でお茶を差し出してくれる。
あんな爆弾さえ投下しなければとてつもなく良い助手なのだけれど。
「つ、つき!?なんで!?」
「え?だっていつも来てるじゃん。俺結構すれ違ってるし」
カストは日が暮れる前には家に返している。そしてリディオは夕方にやって来る事も多々ある。その時にすれ違っていたらしい。
リディオは昼間にやって来る事も稀にあって、その時にカストと顔を合わせた事があるから覚えたのだろう。
「リディオさんはそういうのじゃないから!この薬屋の事を心配してくれてるだけ!」
「………なんで?」
「なんでって……………なんでだっけ…」
「ソフィの事、好きなんじゃねえの?」
ボッと顔から火が出そうに熱くなった。耳まで赤くなっているに違いない。
「そんっ…!そんなわけないって!」
「ソフィは好きなのか?あの騎士さんの事」
「!?」
10も歳の離れた子供に揶揄われている。生まれてこの方、恋だ愛だ、好きだ嫌いだという事に無頓着に生きてきた弊害がこんな所で現れるとは思わなかった。
今時の子供は随分ませている。
「もうこの話はおしまい!リディオさんが帰ってきても、絶対変な事言わないでよ?」
「ソフィが騎士さんの事好きだって話?」
「なっ!?ち、違う!!絶対そんな事言わないでよ?リディオさんは王宮の騎士なんだから、変な噂が立ったら迷惑になるから!!」
カストの肩をガッチリ掴んでブンブン揺さぶると「分かった分かった」ともはやどちらが歳上なのか分からない返事が返ってきた。
ほんとにもう、裏のおばあさんと言いカストと言い、勘弁して欲しい。
ソフィアはカストより一足先におにぎりを食べ終えると、そそくさと表のカウンターでゴリゴリと、それはもう無心で干した薬草をすり潰した。
⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎
「プシュン」とくしゃみが出たリディオは用意して来た水筒に口をつけ一口含み顔を歪ませると、「ゴキュン」と喉を鳴らして飲み込み「ケホッ」と咳き込んだ。
「なんだリディオ、風邪か?」
「いや」
フォード騎士団基地は王都より北に位置していて、確かに王都よりは気温は低いが寒いという程でもない。
疲れが溜まりつつあるとは言え、この程度で体調を崩すほどやわではない。
くしゃみはともかく、咳の原因は紛れもなくこの水筒に用意してきたお茶だ。
ソフィアが金平糖のお礼にと善意でくれた薬膳茶だ、大事に取っておくのは流石に気持ちが悪いかと思い、ありがたく頂くことにしたは良いものの、やたらと苦い。
ソフィアはこれを平気で飲んでいるのだろうかと、もし平気で飲んでいるならその味覚を疑うほどに苦い。
良く言えば、凄く効きそうなお茶である。
いや、もしかして味覚に異常をきたしているのは自分なのかとあまりの苦味に思考までおかしくなる。
「バルトロ。お前これ、飲んでみろ」
「え?」
一応確認しておこうと一緒に来ていたバルトロに水筒を差し出すと、一瞬怪しんだものの匂いを嗅いで「漢方か?」とぽつりと漏らし水筒を傾け、そして………
「ブーーーッ!!ゲヘッ!ゴホッ!!」
「汚い」
そして吐き出した。
「何だこれ?大丈夫なやつか?」
「大丈夫は大丈夫だろうが、俺の味覚が間違いじゃないようで良かった」
「罰ゲームじゃねーか!」
罰ゲーム…確かに。嫌がらせという線もあるが、ソフィアに限ってそんな事はしないだろう。される心当たりもない。
恐らく、いやほぼ確実に、善意の薬膳茶だ。であれば飲む他にない。
「……良く飲み込めるな」
「疲れた時に飲むと良いと言われて貰ったんだ」
「誰だよこんなもの………あ…ははーん?ソフィちゃんだな?」
「…」
「時に無言は肯定を表すんだぞ?それじゃあ飲まないわけにはいかないもんなぁ」
味見をさせる相手を間違えたかもしれない。
とは言えこの強烈な苦味は、今は気軽に様子を見に行くことも出来ないソフィアを、お茶を飲むたびに思い起こさせる。
無理をしていないだろうか。
姿が見えないだけで、こんなにも気がかりになるとは思っていなかった。
もう一口、お茶を飲む。激烈に苦い。
次はもっと薄めて飲もうとリディオは心に誓った。
23
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説

デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~
バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。
幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。
「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」
その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。
そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。
これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。
全14話
※小説家になろう様にも掲載しています。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される
琴葉悠
恋愛
エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。
そんな彼女に婚約者がいた。
彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。
エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。
冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

お飾り妻宣言した氷壁の侯爵様が、猫の前でドロドロに溶けて私への愛を囁いてきます~癒されるとあなたが吸ってるその猫、呪いで変身した私です~
めぐめぐ
恋愛
貧乏伯爵令嬢レヴィア・ディファーレは、暗闇にいると猫になってしまう呪いをもっていた。呪いのせいで結婚もせず、修道院に入ろうと考えていた矢先、とある貴族の言いがかりによって、借金のカタに嫁がされそうになる。
そんな彼女を救ったのは、アイルバルトの氷壁侯爵と呼ばれるセイリス。借金とディファーレ家への援助と引き換えに結婚を申し込まれたレヴィアは、背に腹は代えられないとセイリスの元に嫁ぐことになった。
しかし嫁いできたレヴィアを迎えたのは、セイリスの【お飾り妻】宣言だった。
表情が変わらず何を考えているのか分からない夫に恐怖を抱きながらも、恵まれた今の環境を享受するレヴィア。
あるとき、ひょんなことから猫になってしまったレヴィアは、好奇心からセイリスの執務室を覗き、彼に見つかってしまう。
しかし彼は満面の笑みを浮かべながら、レヴィア(猫)を部屋に迎える。
さらにレヴィア(猫)の前で、レヴィア(人間)を褒めたり、照れた様子を見せたりして――
※土日は二話ずつ更新
※多分五万字ぐらいになりそう。
※貴族とか呪いとか設定とか色々ゆるゆるです。ツッコミは心の中で(笑)
※作者は猫を飼ったことないのでその辺の情報もゆるゆるです。
※頭からっぽ推奨。ごゆるりとお楽しみください。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました
八代奏多
恋愛
クライシス伯爵令嬢のアレシアはアルバラン公爵令息のクラウスに嫁ぐことが決まった。
両家の友好のための婚姻と言えば聞こえはいいが、実際は義母や義妹そして実の父から追い出されただけだった。
おまけに、クラウスは性格までもが醜いと噂されている。
でもいいんです。義母や義妹たちからいじめられる地獄のような日々から解放されるのだから!
そう思っていたけれど、噂は事実ではなくて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる