過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと

文字の大きさ
上 下
11 / 26

episode.10

しおりを挟む


「ふっほー……」

リディオが持ってきてくれた蒸し芋を口に詰めたは良いものの、まだ思ったよりも熱くて、ソフィアからは何語かも分からない言葉が漏れた。

言いたかった言葉は「出張」である。

「ああ。北地のフォード騎士団までな」

「何かあるんですか?」

「腕のいい奴がいるか見に行くだけだ。俺がフォードの出だから毎年視察に行かされるんだ」

「へぇ…」

「移動も合わせて約1ヶ月といったところか」

リディオは1ヶ月間、この王都を離れると言う。理由は先の通り。

「大変ですね」

「大変なのはお前だ」

「………?」

「…………いや、何でもない」

なんだよ気になるじゃないかと思ったけれど、フーフーと冷ました蒸し芋が適温になったので冷めすぎないうちにとソフィアは口いっぱいに頬張った。

「カストは熱心なようだな」

「そうですね。お母さんが喜んでくれるのが嬉しいみたいで、こちらも助かっています。力だけで言ったら私より強いかもしれません」

「お前は筋力よりも先にもう少し肉をつけろ」

「そんなには痩せてませんよ」

普通よりちょっと痩せ型かもしれないけれど、背丈もそれ程大きいわけでもないし、普通と言えば普通だろうと思う。

「食事と睡眠はきちんと摂れ。買ったものでもいい。物を食べなければ体力も落ちる」

外では冷酷無慈悲と噂の騎士様も、ソフィアの前ではただの心配性星人へと成り下がる。

ソフィアだってリディオがいなくてもお腹が空いたら何か適当に摘むくらいはしているのだが、1人の時は何も食べてないとでも思われているのだろうか。

「心配しなくても大丈夫ですよ。私も大人ですよ?」

「見るからに、多忙を理由に食事を疎かにしそうな大人だ」

「…………そんなバカな」

そんな風に見えているのか?とソフィアは自分の手元に視線を向けた。手首の細さで言えばリディオの半分より少し太いくらいだろうか。

でも袖から覗くリディオの手首は鍛えている人のそれなので、やはり普通では無いだろうか。

そう思っていると、リディオは何やらポケットから取り出すとソフィアに差し出してきた。

「腹の足しにはならないだろうが、甘いものは疲れを癒すと言う。疲れた時に食べると良い」

「……何ですか?」

「金平糖と言う砂糖菓子だ」

「コンペイトウ」

ソフィアが意味もなく繰り返したその貢ぎ物は、小指の爪程のカラフルで可愛らしい見た目をしている。透明な瓶詰めにしてあるおかげで、置いておくだけでも癒されそうだ。

「ありがとうございます。リディオさんは甘い物食べないからな………」

「全く食べないわけでは無いが、さほど必要だとも思わない」

貰った金平糖を片手に、ソフィアはハテ…と少し考えて、やはりあれが良いかと思い至る。

「ちょっと待っててください」

ソフィアは表の薬棚の引き出しを開けると、目的のものをいくつか取り出して、紙袋は普段薬を受け渡すのに使っている物しか持ち合わせていなかったのでそれに詰めた。

「これ、良かったらどうぞ。コンペイトウのお礼です」

「なんだ?」

「お茶です。リラックス効果があるやつ、疲れた時に飲んでみてください。水出しでもいけるので!」

「…そうか。貰っておく」

「はい」と返事をしたところでカランカランとベルが鳴る。

「ソフィちゃん!いるかい??階段を踏み外して足を挫いちまったみたいなんだよ」

「はーい!」

ソフィアが表まで聞こえるように返事をして立ち上がると、合わせてリディオも立ち上がった。帰るのだろう。

「無理はするなよ」

「リディオさんこそ、お気をつけて」

「ああ。土産を買ってこよう」

別にお土産を強請った訳では無いのだが、その約束は、必ず無事に帰ってくるとの約束のようだったのでソフィアは素直に頷く事にした。

「じゃあ、楽しみにしています」

「ああ」

その後2人揃って奥の部屋から出て来ると、リディオはそのまま振り向く事なく店を出ていった。

足を挫いたと言う旦那さんと付き添いの奥さんに見られて「邪魔しちゃったねえ」なんて言われて、またしてもソフィアは「違うから!」と弁明祭りが始まったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~

バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。 幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。 「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」 その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。 そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。 これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。 全14話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

伯爵令嬢は身代わりに婚約者を奪われた、はずでした

佐崎咲
恋愛
「恨まないでよね、これは仕事なんだから」 アシェント伯爵の娘フリージアの身代わりとして連れて来られた少女、リディはそう笑った。   フリージアには幼い頃に決められた婚約者グレイがいた。 しかしフリージアがとある力を持っていることが発覚し、悪用を恐れた義兄に家に閉じ込められ、会わせてもらえなくなってしまった。 それでもいつか会えるようになると信じていたフリージアだが、リディが『フリージア』として嫁ぐと聞かされる。    このままではグレイをとられてしまう。   それでも窓辺から談笑する二人を見ているしかないフリージアだったが、何故かグレイの視線が時折こちらを向いていることに気づき――   ============ 三章からは明るい展開になります。  こちらを元に改稿、構成など見直したものを小説家になろう様に掲載しています。イチャイチャ成分プラスです。   ※無断転載・複写はお断りいたします。

お飾り妻宣言した氷壁の侯爵様が、猫の前でドロドロに溶けて私への愛を囁いてきます~癒されるとあなたが吸ってるその猫、呪いで変身した私です~

めぐめぐ
恋愛
貧乏伯爵令嬢レヴィア・ディファーレは、暗闇にいると猫になってしまう呪いをもっていた。呪いのせいで結婚もせず、修道院に入ろうと考えていた矢先、とある貴族の言いがかりによって、借金のカタに嫁がされそうになる。 そんな彼女を救ったのは、アイルバルトの氷壁侯爵と呼ばれるセイリス。借金とディファーレ家への援助と引き換えに結婚を申し込まれたレヴィアは、背に腹は代えられないとセイリスの元に嫁ぐことになった。 しかし嫁いできたレヴィアを迎えたのは、セイリスの【お飾り妻】宣言だった。 表情が変わらず何を考えているのか分からない夫に恐怖を抱きながらも、恵まれた今の環境を享受するレヴィア。 あるとき、ひょんなことから猫になってしまったレヴィアは、好奇心からセイリスの執務室を覗き、彼に見つかってしまう。 しかし彼は満面の笑みを浮かべながら、レヴィア(猫)を部屋に迎える。 さらにレヴィア(猫)の前で、レヴィア(人間)を褒めたり、照れた様子を見せたりして―― ※土日は二話ずつ更新 ※多分五万字ぐらいになりそう。 ※貴族とか呪いとか設定とか色々ゆるゆるです。ツッコミは心の中で(笑) ※作者は猫を飼ったことないのでその辺の情報もゆるゆるです。 ※頭からっぽ推奨。ごゆるりとお楽しみください。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

処理中です...