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episode.09
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ソフィアは最近カストに店番をお願いして外に出る機会も増えた。
と言うのも、買い物をカストにばかり頼んで自分は店に引きこもってばかりいたら、とうとうカストにジト目を向けられたのだ。
「ソフィ…カビ生えるぞ」
「……………へ?」
ってな具合で、カビ対策に買い物という名の日光浴をする様になった。万が一何かあったらカストがソフィアを呼びに来る手立てになっている。
ソフィアが全力で50メートルを走る頃、カストは恐らくプラス50メートルは軽々走るだろう。
それくらい足が速いのだ。
「あ!ソフィちゃん!!」
不意に名前を呼ばれて振り返ると、数メートル先で「おーい」と遠目でも分かる笑顔で手を振る騎士と、その隣で腕を組んで佇んでいる無愛想な騎士にソフィアは見覚えがあった。
「バルトロさん!こんにちは。リディオさんも」
「奇遇だね。運命かな?」
「ふふっ、運命ですかね?」
「あの子の様子はどうなった?」
バルトロがアリーチェの事を言っているのを察するのは簡単だった。
「はい、もう後はカサブタが綺麗に取れるのを待つだけです。ちょっと痒みを伴うでしょうが、問題無さそうでしたよ」
「そう?それは良かった」
「バルトロさんのおかげです。ありがとうございました」
「どういたしまして。今日は買い物?ソフィちゃんが店を離れるのは珍しいんじゃない?」
「あ……実はその、あまりにも引きこもりすぎて助手に店を追い出されまして。……昼飯を買ってこいと……」
「あはっ!あの少年か!あはははっ!!それじゃあどっちが助手か分からないじゃないか!」
「全くその通りです……」
「おい」
穏やかな昼下がり、晴れやかな騎士と薬師の間に突如怪しい雲がゴゴッと押し寄せてきた。
雨を降らせそうな雲を携えていたのは、それまでソフィアとバルトロの様子を静観していたリディオである。まさに冷酷騎士。その視線はバルトロに向いていた。
「いつの間に知り合ったんだ」
「ちょうど1週間前かな?だよね?」
「そうですね」
バルトロが逃げる様にソフィアに救いを求めてくるので、ソフィアも咄嗟に答える。
「……まさか、押しかけたのか?」
「いやぁ!まさかまさか!さっきの話を聞いていただろう?怪我した子供をソフィちゃんの所に連れて行ったんだよ!ね?」
「は、はい!その通りです!大変助かりました」
真意を確かめるためか、リディオの視線がバルトロからソフィアに動く。嘘は言っていないのだが、なぜか責める様な視線にソフィアは無意識に背筋を伸ばしていた。
「白いな」
「…はい?」
何を言われるかと身構えていたソフィアだったが、なんの脈絡もない言葉に下手な笑みを貼り付けて固まった。
「肌だ。太陽の元では余計に肌が白く見える」
「あぇ………そう、ですか?」
ふと自分の腕を掲げてみたものの、自分の肌の色になど興味が無さすぎて、言われたところでよくわからない。
「わ~、本当だね。俺と比べたらわかりやすいよ、ほら!」
そう言うとバルトロは腕捲りをして自身の腕をソフィアの細い腕に並べた。並ぶと確かに、バルトロの腕は程よく日焼けしていて健康的に見える。騎士らしい腕だ。
「おお…本当ですね。いや実を言うと助手に、このままだと体にカビが生えるから外に出ろと言われまして…」
「ぶははっ!それは大変だ!」
「体にカビなんて何を言ってるんだと思ったんですけど、なんだか妙に納得してしまいました」
「今日はいい天気だからね、太陽殺菌だ」
「ですね」
バルトロはかなり人が良い。威張らず驕おごらず、壁を作らず。接しやすい騎士だと思う。
だがリディオが「あはは~」と呑気に笑っているバルトロに向ける視線は冷ややかだった。
いや、いつもその目にあまり温度を感じないのだが、今日はいつにも増してと言うか………氷点下。
「はぁ。そろそろ行くぞ」
「あ、そうだね。ごめんねソフィちゃん、引き止めちゃって」
「いえ!こちらこそすみません!お仕事中のお二人に会うのは新鮮でつい駆け寄ってしまって」
「呼び止めたのはこいつだ。お前は謝らなくて良い。送ってやれなくて悪いな」
「昼間だし荷物も多くないので大丈夫です」
ソフィアが微笑むと、ほんの僅かにリディオの表情が緩んで大きな角ばった手がポンポンと2回ソフィアの頭を撫でた。
「じゃあな」
「あ、はい………」
「またねソフィちゃ~ん!」と手を振るバルトロが煩かったのか、リディオはパシンとバルトロの肩を叩いていて、そんな様子をソフィアはしばらく目をパチパチとしながら見送った。
と言うのも、買い物をカストにばかり頼んで自分は店に引きこもってばかりいたら、とうとうカストにジト目を向けられたのだ。
「ソフィ…カビ生えるぞ」
「……………へ?」
ってな具合で、カビ対策に買い物という名の日光浴をする様になった。万が一何かあったらカストがソフィアを呼びに来る手立てになっている。
ソフィアが全力で50メートルを走る頃、カストは恐らくプラス50メートルは軽々走るだろう。
それくらい足が速いのだ。
「あ!ソフィちゃん!!」
不意に名前を呼ばれて振り返ると、数メートル先で「おーい」と遠目でも分かる笑顔で手を振る騎士と、その隣で腕を組んで佇んでいる無愛想な騎士にソフィアは見覚えがあった。
「バルトロさん!こんにちは。リディオさんも」
「奇遇だね。運命かな?」
「ふふっ、運命ですかね?」
「あの子の様子はどうなった?」
バルトロがアリーチェの事を言っているのを察するのは簡単だった。
「はい、もう後はカサブタが綺麗に取れるのを待つだけです。ちょっと痒みを伴うでしょうが、問題無さそうでしたよ」
「そう?それは良かった」
「バルトロさんのおかげです。ありがとうございました」
「どういたしまして。今日は買い物?ソフィちゃんが店を離れるのは珍しいんじゃない?」
「あ……実はその、あまりにも引きこもりすぎて助手に店を追い出されまして。……昼飯を買ってこいと……」
「あはっ!あの少年か!あはははっ!!それじゃあどっちが助手か分からないじゃないか!」
「全くその通りです……」
「おい」
穏やかな昼下がり、晴れやかな騎士と薬師の間に突如怪しい雲がゴゴッと押し寄せてきた。
雨を降らせそうな雲を携えていたのは、それまでソフィアとバルトロの様子を静観していたリディオである。まさに冷酷騎士。その視線はバルトロに向いていた。
「いつの間に知り合ったんだ」
「ちょうど1週間前かな?だよね?」
「そうですね」
バルトロが逃げる様にソフィアに救いを求めてくるので、ソフィアも咄嗟に答える。
「……まさか、押しかけたのか?」
「いやぁ!まさかまさか!さっきの話を聞いていただろう?怪我した子供をソフィちゃんの所に連れて行ったんだよ!ね?」
「は、はい!その通りです!大変助かりました」
真意を確かめるためか、リディオの視線がバルトロからソフィアに動く。嘘は言っていないのだが、なぜか責める様な視線にソフィアは無意識に背筋を伸ばしていた。
「白いな」
「…はい?」
何を言われるかと身構えていたソフィアだったが、なんの脈絡もない言葉に下手な笑みを貼り付けて固まった。
「肌だ。太陽の元では余計に肌が白く見える」
「あぇ………そう、ですか?」
ふと自分の腕を掲げてみたものの、自分の肌の色になど興味が無さすぎて、言われたところでよくわからない。
「わ~、本当だね。俺と比べたらわかりやすいよ、ほら!」
そう言うとバルトロは腕捲りをして自身の腕をソフィアの細い腕に並べた。並ぶと確かに、バルトロの腕は程よく日焼けしていて健康的に見える。騎士らしい腕だ。
「おお…本当ですね。いや実を言うと助手に、このままだと体にカビが生えるから外に出ろと言われまして…」
「ぶははっ!それは大変だ!」
「体にカビなんて何を言ってるんだと思ったんですけど、なんだか妙に納得してしまいました」
「今日はいい天気だからね、太陽殺菌だ」
「ですね」
バルトロはかなり人が良い。威張らず驕おごらず、壁を作らず。接しやすい騎士だと思う。
だがリディオが「あはは~」と呑気に笑っているバルトロに向ける視線は冷ややかだった。
いや、いつもその目にあまり温度を感じないのだが、今日はいつにも増してと言うか………氷点下。
「はぁ。そろそろ行くぞ」
「あ、そうだね。ごめんねソフィちゃん、引き止めちゃって」
「いえ!こちらこそすみません!お仕事中のお二人に会うのは新鮮でつい駆け寄ってしまって」
「呼び止めたのはこいつだ。お前は謝らなくて良い。送ってやれなくて悪いな」
「昼間だし荷物も多くないので大丈夫です」
ソフィアが微笑むと、ほんの僅かにリディオの表情が緩んで大きな角ばった手がポンポンと2回ソフィアの頭を撫でた。
「じゃあな」
「あ、はい………」
「またねソフィちゃ~ん!」と手を振るバルトロが煩かったのか、リディオはパシンとバルトロの肩を叩いていて、そんな様子をソフィアはしばらく目をパチパチとしながら見送った。
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