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episode.14

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起きなくてはと思うのだが、体がずっしりと重い。

「おはよう、サーラ」
「……………おはよう、ございます…」

まさか自分がこの男と同じベットで眠り同じベットで目が覚める日が来るなんて、過去の自分が知ったら腰を抜かして驚くか、もしくは信じてくれないだろう。

朝から爽やかさマックスのジュリオは、まだ起き上がれないサーラを差し置いてひょいと上半身を起こした。

目に入る引き締まった身体を前に、サーラがぎこちなく視線を逸らすと、ジュリオはサーラの頭を優しく撫でた。

「ごめんね。これでも加減しているつもりなんだけど、どうしても君が愛おしくて、つい…」
「…………………いえ…」
「何か飲み物を持ってこようか。まだ時間はあるからゆっくりしていて」

そう言い残しジュリオが部屋を後にすると、サーラは邪念を振り払うように頭をフルフルと振った。

ジュリオが護り人としての勤めを果たした日の翌日は、サーラはベッドの住民となる事が多い。対するジュリオはピンピンしているので納得がいかない。

護り人を救う運命の乙女の力は愛だと言われている。2人が愛し合う事が、護り人に力を与える条件であり、愛を確かめ合う方法は、どれをとって見てもサーラは赤面せずにはいられない。飄々としているジュリオの方がおかしいのだ。

ジュリオが甘い言葉を紡ぐのは常だし、ならばジュリオはサーラの事をそれ程想っていないのかとも思える態度なのだが、執着と失った魔力の回復度を見るとそうでは無い事が分かるから余計に恥ずかしい。

ジュリオの情は、確実にサーラのところにある。

「っん~~~~~っ!」

邪念を払うつもりだったのに、余計に顔が熱くなる。寝返りを打ったサーラの目に、壁際に掛けられた黒のドレスが目につき、今日の予定を思い出した。

真っ黒なドレスはスペンサーが仕立てた上等品だ。運命の乙女として午後からこれを着てフランカル領の繁栄を願う祭りごとに出なければいけない。

ドレスを仕立てる話しになった時、サーラはいつものローブが良いと抗議したのだが聞き入れて貰えなかった。ジュリオはスペンサーの事が嫌いなのかと思っていたのだがそう言うわけでもないらしい。

ガチャっと部屋の扉が開き、トレイを持ったジュリオが入ってくる。清潔なシャツを着ているが、やはり外にいる時よりボタンが空いていてラフに着ているのが似合うのだから腹立たしい。

恨めしい気持ちが表情に出ていたようで、ジュリオはベットに腰掛けると困ったように笑った。

「本当に可愛い人だね、君は」
「なっ!?」

差し出されたミルクはほんのり温かい。こんな風にサーラを労ってくれるから優しい人だと勘違いしそうになるが、そもそもこうなっているのはこの男のせいだ。

だが、あまりの甘い雰囲気にいつも責め立てる気分にもなれない。

「そうだ、今日は店は開けないと言っていたよね」
「………まあ、はい。今日は色々準備があると聞いていたので」
「なら、もう少し2人っきりでいられるね」
「……………まぁ…」

サーラはジュリオとの婚約が発表され、住まいをフランカル邸に移した後も、今までと変わりなく仕事を続けさせてもらえていた。護り人と結ばれる運命の乙女を見つける事がサーラの1番の責務だが、その後も縁結びの魔女として、人々の悩みに寄り添うのが勤めだ。ジュリオもサーラが街の人々から慕われている事を知っていて、仕事を続ける事を許してくれた。

その事には感謝している。が、時折サーラの体が悲鳴を上げて臨時休業をした次の日は本当に恥ずかしい思いをしている。

サーラがジュリオの運命の乙女である事も、運命の乙女がどんな方法で護り人を癒すのかも、知る人ぞ知る事なのだ。

つまり、そう言う事があったのだと知らしめているようなものなのだが、身体がついてこないのでは仕方がない。

サーラがカップを置くと、その時を待っていたと言わんばかりにジュリオに抱き寄せられる。

「ち、ちょっ…!」

サーラは全然、それだけでまだ顔を赤くする。だがジュリオは厭わない。

「君は昔からいつも仕事ばかりしているから、僕の事はどうでも良いのかと思う事があるよ」
「そん、な事は……」

むしろどうでも良くないから仕事ばかりしているのだ。何かしていないと、ついジュリオの事を考えては赤くなってしまう。

今だって、拗ねたような態度のジュリオに胸を締め付けられていると言うのに、この男はそれだけでは満足してくれないらしい。

「違うと言うなら、証明してくれる?」
「証明なんかしなくたって……」

分かるだろう、と思うのだが、一方でふと思い至る。自分の態度や表情は分かりにくいと言われる事がある。

「……………」

考えながらジュリオに目を向ければ、目が合ったことを喜ぶように微笑みながらも首を傾げる仕草に、また内心ではキュンとする。

何を期待されているかは分からないフリをして、サーラは口を開いた。

「…今日、私は…あのドレスを着てあなたの隣に立ちます。……それではダメですか」

ジュリオは一瞬キョトンとしたが、すぐにフンと鼻を鳴らした。

サーラは今日、ジュリオの運命の乙女として初めて公の場に出る。領地の者には既に知れ渡っている事だが、魔女の性質もあって大勢の人前を得意としないサーラが、ジュリオの為に着飾って隣に立つと言うのに、それなりの覚悟が必要だった事は理解しているつもりだ。

そんな婚約者の健気さを前にしたら、本当は望む事は山のようにあるが今はジュリオが折れるしか無い。だが、タダで食い下がるつもりはない。

「分かった」

引き下がってくれた事にホッとしたサーラだったが、安堵するには時期尚早だった事をすぐに知ることとなった。

ジュリオがサーラの耳元に顔を寄せる。

「でも、あのドレスを脱がすのは僕で良いよね?」
「なっ………!?」

サーラの顔が赤く染まるのをジュリオはクスクスと笑みを浮かべて見ていた。

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