縁結びの魔女(モブ)に恋愛は難しい。

黒猫とと

文字の大きさ
上 下
5 / 15

episode.04

しおりを挟む


「え?あ……えっ!?ちょっ……?」

迷うといけないから会場まで案内すると言われた仮面舞踏会当日、サーラは仮面なんて持っていなかったがローブを深く被れば良いかといつも通りの格好でいたのだが、伯爵邸にてメイド達に着てきたものをあれよあれよと剥ぎ取られた。

息つく間も、抵抗する隙も無いまま、為されるままにされているサーラはまるでお人形だ。途中コルセットを締め上げられた時は「ぐえぇ」とまるで干からびそうな蛙のような声が可愛げもなく漏れた。

そして出来上がったメイド達の集大成を見て、サーラは言葉を失った。

サーラがいつも好んで着るような暗い色に合わせたような、露出は控えめでシック色合いにキラキラとスパンコールが散りばめられていて見るからに豪華なドレスはサイズや丈感もぴったりだった。加えて、顔を隠して参加する集会なのにご丁寧にばっちりメイクアップまで施されている。

もちろん、こんな姿になったのは生まれて初めての事だ。見慣れないし、いくらメイクで別人の如く変身させられたといっても自分にはとても似合う身なりだとは思えない。

「…………あの、これは一体、どういう…?」

ジュリオは確かに仮面舞踏会だと言ったはずだ。顔や素性を隠すからサーラはその縁を見るために呼ばれたはずだ。魔女は魔女らしく、ひっそりと角の方で息を潜めていれば良かったはずだ。

鏡の前で固まるサーラに、メイドの1人が答える。

「ジュリオ様がこちらをと。今夜の為に用意された特注品です」
「………えっ!?!?」

思わず大きめの声が出たが、メイド達は気にする様子もなくせっせと使った道具の片付けに勤しんでいる。

「と、特注って言いました…?」
「はい!お似合いですよ」

特注というのはつまり、特別に注文したという事で合っているだろうか。こんなしがない魔女のために?そんな馬鹿な。

理解が追いつかず唖然としていて、背後からメイド達の慌ただしいものとは違う足音が近づいてきている事にも気づかなかった。

「よく似合うね。僕の見立てた通りだ」
「っ!?!?!?」

思わず肩をすくめたサーラをクスクスと面白そうに見ているのは、サーラの支度が済んだ事をメイドから知らされてやってきたジュリオだった。

彼もまた普段にも増してかっこよく着飾っているのだが、見惚れている場合では無い。こんなにらしくない姿をジュリオに見られるのは気恥ずかし過ぎる。

「こ、こんな事する必要がありますか?」
「舞踏会にドレスコードは必須でしょ」
「私は魔女ですよ」
「関係無いよ。はいこれ」
「……………」

手渡された仮面は主に目元を覆って隠すものであり、こんなもので本当に素性を隠せるのかと疑問が募る。深くローブを被った方が余程顔は隠れる。

だがこれがお金持ち達の礼儀なのだと言われたら従うしか無い。サーラは仮面を受け取ると目元に合わせてみた。

「………邪魔ですね、視界が悪いです。それに、これだけで素性が隠せるとは思いませんけど」

ジュリオ程の人なら特に、目元を隠したぐらいじゃ隠しきれない魅力が至る所からダダ漏れている。こんなものでは即バレだろう。

この期に及んでブツブツと文句を言うサーラを、ジュリオは穏やかな表情で許していた。

「君は外見や家柄だけで人を見ていないからそう思うんだよ」
「?誰だってそうでしょう。むしろ人は外見だけで判断出来る事の方が少ないです」
「全くその通りなんだけどね」
「………?」
「さあ、時間だ。そろそろ行こうか」

ほんの一瞬、笑みの裏で困ったように見えたジュリオの表情は、次の瞬間には無くなってしまっていた。

サーラがロングドレスにもヒールの靴にも慣れていない事を十分に心得ているジュリオは歩き出す前にサーラに手を差し伸べる。不甲斐無くもサーラはその手を掴むしか無い。

広いお屋敷なのはもちろん知っていたが、馬車に乗るまでの距離がこんなにも長く感じた事はない。

「今日の君は本当に綺麗だ。まあ、いつも可愛い人だとは思っているけどね」
「揶揄うのはやめてくださいと言ったはずですけど」
「本心だよ」
「……………」

冗談だと分かっていてもドギマギしてしまうから勘弁してほしい。俯くサーラは今からでも断りを入れて逃げ出したい気分だったが、馬車に乗せられてしまっては逃げ場もない。

「上手く見つかってくれると良いんですけど…」
「どうだろうね。あまり期待していないよ。僕の運命の乙女は恥ずかしがりらしい」

期待していないなら、こんな事までさせないでほしい。

とは流石に言えなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...