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第6章 憤怒の憧憬
21話 特別教官
しおりを挟む「皆にも紹介する。今日から君達に実技を教えてくれる、キリリィク・ブロウル殿だ。現役の騎士、それも将軍補佐殿に教えを受ける機会などそうはない。皆、これを機により一層励むように!」
その週の実技の授業で、その人物は俺の前に再び現れた。
いずれまた会うことになるとは思っていたが、こうも早く機会が巡ってくるとは予想外であった。
「マジかよ……キリリィク様って、将軍補佐だろ?」
「……あぁ、こんな大物がたかが小等部の生徒を教えるなんて……やっぱり」
周囲の生徒も期待はしていたが、まさか将軍補佐が出張るなんて思いもしなかったのだろう。
皆驚愕の表情を浮かべ、興奮を隠せずにいる。
中にはキリリィク・ブロウルに憧れて騎士を目指しているものも、多数いるのかもしれない。
「アシュレイ・スタッガルドがいるからか……」
そして、半数の生徒はアシュレイにチラチラと視線を向けていた。
アシュレイは将軍の息子で、キリリィク・ブロウルの親類だ。
その関係でやって来たのだと考える生徒がいても、不思議ではない。
「キリリィク叔父上……何で……」
しかし、当のアシュレイも他の生徒と同様に、キリリィク・ブロウルが来た事を心底驚いた顔をしていた。
どうやら、アシュレイも事前に知らされてはいなかったようだ。
「黙れ! 今、この場での私語を私は許していない!」
キリリィク・ブロウルのその一言で、先程まで騒がしかった場内が一瞬で静まった。
アシュレイに注がれていた視線も、自然とキリリィク・ブロウルに寄せられる。
「将軍補佐をしているキリリィク・ブロウルだ。私もこの学園の出であり、かつては君達と同じ様に現役の騎士に剣を教わった。……今でも、私が最も尊敬している騎士だ。だからこそ今回、私はこの学園からの依頼を引き受けたのだ。故に私がこの場で誰かに手心を加える事も、贔屓をする事は断じてない!」
毅然と言ってのけたキリリィク・ブロウルだが、一瞬俺によせた視線には敵意がひしひしとこめられていた。
「……また、嫌な予感しかしないな」
寧ろこれだけ敵意を向けられて前向きでいられる程、俺の神経は図太くない。
手心を加える事はなくとも、特別厳しくされる事はありそうだ。
「キリリィク様! 本物だっ!!」
そんな俺の気持ちとはいざ知らず、ミーハーな腐王女は乙ゲーの登場キャラに目をキラキラと輝かせていた。
……本当、軽く不幸になってくれないかな。
「……キリリィク・ブロウルって、ゲームだとどんな立ち回りな訳? 確か、悪魔に憑かれる訳じゃないんだよな?」
俺はキリリィク・ブロウルを直接見た事で、また何か思い出した事がないかと腐王女にゲームについて確認した。
「うん、悪魔には憑かれないよ。でも、復讐を否定するヒロインを、キリリィク様は嫌ってたかな。場合によっては、敵キャラにまわったり、味方になる事もあるキャラだよ」
すると腐王女は記憶を思い出したのか、スラスラと情報を吐いていった。
……この見たら思い出すシステムは、一体何なんだろうか?
重大な情報が後から後から出てくる事もあるし、面倒この上ない。
「それに今思い出したんだけど、キリリィク様ってファンディスクで攻略キャラになってたよ!! やっぱり、攻略キャラだから超イケメンだねっ!」
腐王女はそう言うと、キリリィク・ブロウルの頭からつま先までをガン見し始めた。
きっと近いうちにキリリィク・ブロウルも、腐王女の腐った妄想の被害者になってしまうのだろう。
「は? ……また、攻略対象者なのかよ」
本当、後出し多いな!!
そういう重要事項は、早く言えよっ!
新たにもたらされた重大な情報に、俺も思わずキリリィク・ブロウルに目を向けた。
確かに彼の容姿は、ひどく整っている。
父様と並んでも見劣りはしないだろう……父様の方が格好いいけど。
「……あーぁ、やっぱりそうだよね。そうなるよね」
俺が視線を向けたその先で、射殺さんばかりに睨み付けているキリリィク・ブロウルの視線と交差した。
本当に、面倒くさい。
前世なら、ああいった輩は自分の周りから遠ざけていた。
当たり障りがないよう、関わらないのがお互いの為にもなるからだ。
けれど、兄様達の事がある以上逃げる訳にはいかない。
腐王女が駄目駄目な以上、俺1人で何とかしなくては。
……でも、あんまり厳しくされるようだったら、腐王女の創作物を陰でバラ撒いてやろうかな。
多分、最高の嫌がらせになるし。
俺は独り心の中で黒い笑みを浮かべたのであった。
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