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第6章 憤怒の憧憬

07話 本気には本気で

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「お前も、お前俺を愚弄するのか!? リュート・ウェルザック!!」

アシュレイは、本気で怒っていた。
初めて会った時とは違い、それは俺自身・・・に対して向けられた怒りだった。

「いえ……そのようなつもりは……」

俺は歯切れ悪く言った。

愚弄したつもりは、勿論ない。
寧ろ、自分の中ではアシュレイに最大限配慮したつもりだった。

「……もういい。お前にとっても、アイツ・・・にとっても、所詮俺程度相手にする価値もないという事なんだろ」

「待て! アシュレイ・スタッガルド!!」

アシュレイはそう吐き捨てると、教官が止めるのも聞かずに、演習場を去った。

「………………」

俺はアシュレイが去っていくのを、ただ呆然と見詰めることしか出来なかった。

「…………リュート君」

名前を呼ばれて振り向くと、心配そうな顔をしたユリアやスール達がいた。
周囲もアシュレイの突然の行動に驚いて、ザワザワと騒いでいる。

「リュート様、授業も終わりましたし、移動しましょう」

「えぇ…………」

スールに促され、俺達は好奇の視線の中演習場を後にした。










◆◆◆◆◆◆◆◆










「……さっきのは、リュート君が悪いと思うよ?」

空き部屋に入り、スール達が茶の用意をしに部屋を出てくと、ユリアが唐突にそう言った。

「……俺の中では、配慮したつもりなんだけど」

初日にアシュレイと握手をした時、その手は所々硬く日常的に剣を振っていることが分かった。
先程の構えや剣技といい、並々ならぬ努力を積んでいるのは目に見えていた。
対して俺は、剣の指南を自前に受けた事はあったが、そこまで剣に時間や労力を費やしていた訳ではない。
そんな俺がアシュレイに勝利することは、アシュレイにとって屈辱的なのではないだろうか?
俺はこれ以上アシュレイとの関係が拗れる事を避けた。

「まぁ、リュート君の言ってることも間違ってはいないと思うけどね。私も止めなかったし……実際、それで折れちゃう人が大半だろうしね」

「なら――」

「――でもね? アシュレイ様は強かったんだよ。そんなもので折れないくらいに、強かったし真剣だったの。そういう人には、向き合わないと駄目だよ。本気には本気で返さないと」

ユリアが俺を諭すように言った。

「……腐王女に、諭される日が来るなんて……はぁー」

散々、常識がないと言ってきたユリアに、常識的に諭される日が来るなんて。

本気には本気で、ね……。
そんなに強いもんなのかな……、アシュレイ・スタッガルドは。

前世で俺は始めは無自覚に、けれど後には無関心に。
俺は容赦することなく、周囲のプライドや人生を手折ってきた。
誰一人、耐えられる者はいなかった。

「え、腐ってるのは関係無くない!? 腐女子バカにしないでよ! わりと、心は清らか何だからね!?」

ユリアは心外だとばかりに意味不明な事を言った。

「清らかって……腐ってるんだから、正反対じゃない?」

「男同士の恋愛のみだからそれ!」

「何がのみ・・だ。それが最大の問題だろ。しかも、周囲の人間をそれに当てはめるとか、セクハラだろ、セクハラ」

しかも、お前がセクハラしてる相手は中身別にして8歳児だから。
ヴィジュアル的に色々アウトだから。

「大丈夫! 私の見た目は、10歳児だから! ロリショタは無罪だから、大抵のことは許されるから!!」

「いや俺が許さねぇよ!!?」

ユリアのあまりの暴論に、俺はユリアの頭を叩いて突っ込んだ。

「えぇー」

えぇー、じゃないよ本当……。

「アシュレイ・スタッガルドとは……もう厳しいかな?」

ただでさえ印象は悪かったのに、俺は今回で決定的に間違えた。

それに……、アシュレイはお前って言ったんだよな……
つまり、俺以外にも同じことをした奴がいると言うことだ。
そして多分それは……。

「え、何で? 次の授業の時、容赦なくこてんぱんにすればいいじゃん!」

俺が暗く落ち込む中、ユリアは何でもないようにのほほんと言った。

「……もう、無理じゃないか? 今更だろ……」

「……そこがリュート君のダメなことろかもね。合理的に考えすぎるところ。私達はまだ8歳、10歳の子供だよ? もっと、シンプルに考えればいいよ。間違ったらやり直せばいいし、謝ればいい。子供の好き嫌いなんて、わりと簡単に変わったりしちゃうんだから、そこはもっと気楽にいけばいいよ!」

「……そんなもんか? 軽くないか?」

俺にとって好き嫌いは、簡単に変わるもんじゃない。
嫌いには嫌いの、好きには好きの確固たる理由がある。
1度とことん嫌ったら、それが覆ることはない。

「寧ろ、リュート君が重いよ。早熟なんだろうけど。まぁ、そこがいいところでもあるんだけどね?」

多分俺よりユリアの方が、人の感情の機微には聡い。

……癪だけど、此処はユリアの案に乗るか。

「……そう。……来週、またアシュレイと組んでみるよ」

「うん! 頑張っ!!」

本当に軽いな。
でも……まぁ、ぼちぼちやってみますか。
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