120 / 159
第6章 憤怒の憧憬
02話 アシュレイ・スタッガルド
しおりを挟む「暖かな春の訪れとともに、私達は今日よりこの名誉あるユグドラシア魔法学園の入学式を迎える事になりました。本日は私達の為に、このような立派な式を準備していただきありがとうございます。私達は────」
大勢の保護者や、国の象徴である王様が見守る中、俺は答辞を読み上げていく。
オズ様やエド様と同学年だったなら、俺の方が成績がよくても彼等が新入生代表となったであろうが、今回俺の成績が断トツで良かったことと、王女の体調を考慮して俺が任される事になった。
保護者席にチラリと視線を向けると、母様が感激したように目を潤ませて俺を見ている。
その手には勿論、ビデオカメラと同じ機能を持つジョディー特製の最新式魔導具が握られていた。
父様やお祖父様達まで見に来てるし……父様、仕事休んで大丈夫なのかな?
父様は最近特に忙しくしているようだったので、この日の為に無理をしたのではないかと心配だ。
新入生の席に目を向けると、リオナやスール達の姿も見えた。
彼等は俺に合わせて入学し、俺の学園生活をサポートする手筈になっている。
因みに、ユリアは王族専用の特別席で、王様達と共に入学式に参加している。
そして、肝心のアシュレイ・スタッガルド。
先程は遠くてよくは見えなかったが、この距離なら顔がハッキリと認識出来る。
遠くからでも目立つ燃えるような長い赤髪に、光加減によっては銀にも見えるグレーの瞳。
少し三白眼気味だが、切れ長の鋭い眼光は狼を彷彿とさせ、年齢の割に高い身長からか野性味溢れるワイルド系イケメンと呼べるものだった。
兄様やオズ様や達とは、違う系統の美形だな……でも、そこまで兄様に似てないかも。
知らなければ、誰も兄弟だとは思わないな。
母親が違うせいか、そこまで2人の顔に共通点は見当たらない。
恐らく兄様は父親似で、アシュレイは母親似なのだろう。
“だってレイアス様とアシュレイ様の仲を改善しないと、アシュレイ様√のバッドエンドで、レイアス様が死んじゃうよ!”
しかし入学式前にユリアがもたらしたこの情報、実に現実味をおびてきた。
先程からアシュレイの視線は、一点に固定されている。
壇上の俺には目もくれず、一心に見詰めるその先には在校生の席。
俺の晴れ姿を熱心に録画しているブラコン全開な兄様に、固定されている。
……憎悪までは、まだいってないように見えるけど。
このまま放置し続けるのも、よくなさそうだ。
まだ改善の余地があるうちに、何らかの行動を起こすべきだろう。
さて……どう仲を取り持つか。
この2人や周囲を取り巻く環境もドロドロで、ナイーブなだけに取り扱いに注意しないと更に拗れる可能性もある。
“レイアス様の父親とアシュレイ様の母親は、将来を誓いあった仲でもうすぐ結婚式ってところで、クリスティーナに無理矢理引き裂かれたんだよ。アシュレイ様の母親は、自分から奪った上にレイアス様の父親を殺したクリスティーナを憎悪しているの。だから、息子にもレイアス様に負けないよう、プレッシャーをかけ続けたり、シュトロベルンへの憎悪を植え付けたりで追い詰めてるって言うのが、アシュレイ様の闇に当たる部分。アシュレイ様はその影響で、レイアス様やシュトロベルンを嫌ってるって設定だったよ”
重い……。
本当、何だよこの乙ゲー。
恋愛を主としているくせに、重すぎる。
しかも、ユーリの時と違って、未然に母親からアシュレイへの影響を絶つのは難しい。
それにアシュレイの母親であるアーシャ・スタッガルドの気持ちもある程度理解出来る。
奪われた側のアーシャに対して、俺が復讐なんか止めろと言っても偽善にしか聞こえないだろう。
……本当にどうしたものか。
それに問題はそこだけではない。
アシュレイの養父、ジークフリード・スタッガルドも厄介だ。
何故ならこの男、由緒正しき侯爵の血を引くだけでなく、軍の将軍を勤め国防の一端を担っている。
しかも、それにプラスして魔眼持ちでもある。
そんな家庭の込み入った事情に口出しするなんて、死にに行くの? としか言いようがない。
「――――□月▲日、リュート・ウェルザック」
俺が考え事をしながらも答辞を締め括ると、溢れんばかりの拍手がなった。
この後の予定では、それぞれ割り振られたクラスで説明を受ける事になっている。
クラスは成績と身分によって、S~Fまでの各クラスに割り振られる。
勿論、俺やユリア達のクラスは最高ランクのSクラス。
そして十中八九、アシュレイ・スタッガルドのクラスも……
さて、アシュレイとの初顔合わせはどうなるのか?
◆◆◆◆◆◆◆◆
「────お前がウェルザックの妾の子供か。淫売だけでなく平民まで妻に迎えるとは、ウェルザックも堕ちたものだな」
………いきなり、これか。
うん、…………殴っていいかな? いいよね?
生意気なガキをちょっと絞めるくらい、許されると思うんだ。
会って早々、俺の中でのアシュレイの評価は地に落ちた。
10
お気に入りに追加
2,428
あなたにおすすめの小説
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる
レラン
恋愛
前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。
すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?
私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!
そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。
⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎
⚠︎誤字多発です⚠︎
⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎
⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
転生したら乙ゲーのモブでした
おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。
登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。
主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です
本作はなろう様でも公開しています
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる