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第6章 憤怒の憧憬

02話 アシュレイ・スタッガルド

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「暖かな春の訪れとともに、私達は今日よりこの名誉あるユグドラシア魔法学園の入学式を迎える事になりました。本日は私達の為に、このような立派な式を準備していただきありがとうございます。私達は────」

大勢の保護者や、国の象徴である王様が見守る中、俺は答辞を読み上げていく。
オズ様やエド様と同学年だったなら、俺の方が成績がよくても彼等が新入生代表となったであろうが、今回俺の成績が断トツで良かったことと、王女の体調を考慮して俺が任される事になった。

保護者席にチラリと視線を向けると、母様が感激したように目を潤ませて俺を見ている。
その手には勿論、ビデオカメラと同じ機能を持つジョディー特製の最新式魔導具が握られていた。

父様やお祖父様達まで見に来てるし……父様、仕事休んで大丈夫なのかな?

父様は最近特に忙しくしているようだったので、この日の為に無理をしたのではないかと心配だ。

新入生の席に目を向けると、リオナやスール達の姿も見えた。
彼等は俺に合わせて入学し、俺の学園生活をサポートする手筈になっている。
因みに、ユリアは王族専用の特別席で、王様達と共に入学式に参加している。

そして、肝心のアシュレイ・スタッガルド。
先程は遠くてよくは見えなかったが、この距離なら顔がハッキリと認識出来る。
遠くからでも目立つ燃えるような長い赤髪に、光加減によっては銀にも見えるグレーの瞳。
少し三白眼気味だが、切れ長の鋭い眼光は狼を彷彿とさせ、年齢の割に高い身長からか野性味溢れるワイルド系イケメンと呼べるものだった。

兄様やオズ様や達とは、違う系統の美形だな……でも、そこまで兄様に似てないかも。
知らなければ、誰も兄弟だとは思わないな。

母親が違うせいか、そこまで2人の顔に共通点は見当たらない。
恐らく兄様は父親似で、アシュレイは母親似なのだろう。

“だってレイアス様とアシュレイ様の仲を改善しないと、アシュレイ様√のバッドエンドで、レイアス様が死んじゃうよ!”

しかし入学式前にユリアがもたらしたこの情報、実に現実味をおびてきた。
先程からアシュレイの視線は、一点に固定されている。
壇上の俺には目もくれず、一心に見詰めるその先には在校生の席。
俺の晴れ姿を熱心に録画しているブラコン全開な兄様に、固定されている。

……憎悪までは、まだいってないように見えるけど。

このまま放置し続けるのも、よくなさそうだ。
まだ改善の余地があるうちに、何らかの行動を起こすべきだろう。

さて……どう仲を取り持つか。

この2人や周囲を取り巻く環境もドロドロで、ナイーブなだけに取り扱いに注意しないと更に拗れる可能性もある。

“レイアス様の父親とアシュレイ様の母親は、将来を誓いあった仲でもうすぐ結婚式ってところで、クリスティーナに無理矢理引き裂かれたんだよ。アシュレイ様の母親は、自分から奪った上にレイアス様の父親を殺したクリスティーナを憎悪しているの。だから、息子にもレイアス様に負けないよう、プレッシャーをかけ続けたり、シュトロベルンへの憎悪を植え付けたりで追い詰めてるって言うのが、アシュレイ様の闇に当たる部分。アシュレイ様はその影響で、レイアス様やシュトロベルンを嫌ってるって設定だったよ”

重い……。
本当、何だよこの乙ゲー。
恋愛を主としているくせに、重すぎる。

しかも、ユーリの時と違って、未然に母親からアシュレイへの影響を絶つのは難しい。
それにアシュレイの母親であるアーシャ・スタッガルドの気持ちもある程度理解出来る。
奪われた側のアーシャに対して、俺が復讐なんか止めろと言っても偽善にしか聞こえないだろう。

……本当にどうしたものか。

それに問題はそこだけではない。
アシュレイの養父、ジークフリード・スタッガルドも厄介だ。
何故ならこの男、由緒正しき侯爵の血を引くだけでなく、軍の将軍を勤め国防の一端を担っている。
しかも、それにプラスして魔眼持ちでもある。
そんな家庭の込み入った事情に口出しするなんて、死にに行くの? としか言いようがない。

「――――□月▲日、リュート・ウェルザック」

俺が考え事をしながらも答辞を締め括ると、溢れんばかりの拍手がなった。
この後の予定では、それぞれ割り振られたクラスで説明を受ける事になっている。
クラスは成績と身分によって、S~Fまでの各クラスに割り振られる。
勿論、俺やユリア達のクラスは最高ランクのSクラス。
そして十中八九、アシュレイ・スタッガルドのクラスも……

さて、アシュレイとの初顔合わせはどうなるのか?







◆◆◆◆◆◆◆◆









「────お前がウェルザックの妾の子供か。淫売だけでなく平民まで妻に迎えるとは、ウェルザックも堕ちたものだな」

………いきなり、これか。
うん、…………殴っていいかな? いいよね?
生意気なガキをちょっと絞めるくらい、許されると思うんだ。

会って早々、俺の中でのアシュレイの評価は地に落ちた。


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