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第5章 腐った白百合
01話 とある腐女子によるネタバレ③
しおりを挟む「──不憫系薄幸美少女だった!」
4限目の授業が終わり皆が片付けをする中、そんな叫びがクラス中に響き渡った。
そんな事をするのは唯1人、須藤 由奈だけだ。
「なんの事?」
他のクラスで叫び声を発する変人、もとい須藤 由奈の友人である為永 依子は表情1つ変えることなく尋ねた。
「レイアス様の婚約者だよ!!」
「レイアス? ……あぁ、例のゲームのキャラクターね」
依子は聞き覚えのある名前に、あぁ、あれねと相槌を打った。
依子は由奈から毎日のように、ゲームの話を語られている。
「依ちゃんが珍しく話した内容を覚えている、だとっ!!? 何時もは適当に聞き流してるから、後で振っても全く覚えてないのに!?」
「失礼ね、覚えてるわよ……少しは」
「少しって……………」
少しは興味を持ってくれたのかと喜ぶ由奈であったが、その期待は一瞬で崩れ去った。
やはり、依子は乙女ゲームにこれっぽっちも、興味など持っていなかったのだ。
「……まぁ、いーや。それが依ちゃんだしね!」
「相槌打ってるだけましでしょ」
由奈は少し落ち込みはしたものの、すぐに気分を切り替えて依子の前の席についた。
この時、このクラスにいたものは、皆嫌な予感を感じて弁当を急いで食べ始めた。
──そしてその予感は、この後的中することになる。
「それで婚約者がどうしたって?」
「そうそう聞いて! 昨日ついにレイアス様のルートが解放されて、プレイしたんだけど婚約者が超美少女でね! 他のキャラにも婚約者いるんだけど、格が違うスペックだったんだよ!!」
依子が話を振ると、由奈は勢いよく語り始める。
「格が違う?」
「うん、そもそも婚約者、ユーリアって言うんだけど、他の婚約者達は悪役令嬢ポジなのに、一人だけライバルポジ? 最後にはレイアス様を、ヒロインに託すみたいな感じになるんだよね。最初、警戒してたのに、結局凄いいい人キャラだったし。しかもぶっちゃけ、容姿も頭脳も魔法もヒロインより、高けぇーじゃねぇかっ!? ふざけんな! ってゆースペックだったし!」
「……そのレイアスとやらが、ヒロインに走った理由が不明ね」
誰得だよ、と少しブスくれた様子の由奈に依子が尋ねた。
「んー、唯一の欠点は病弱ってところだったんだよね。あとは、あーあれ、完璧すぎてちょっとみたいな感じだったんじゃない? ユーリアってノブリス・オブリージュの体現者ってゆーか、最後は皆のために命を投げ出すキャラだし」
「話を聞いてると、その子がヒロインでもよかったんじゃない?」
「まあねー、でも私はあんな自己犠牲精神の塊みたいな人は嫌いだけどね」
普段の楽しそうな様子とは一転、不貞腐れた様子の由奈。
「あら、厳しいわね?」
そんな由奈の珍しい様子に、依子は食事の箸を止めた。
「だって、最後にヒロイン達の為に死ぬなんて、後味悪すぎだし。レイアス様は凄い素敵だったのに、残念過ぎる!」
「……確かに嫌な奴が酷い目にあってもざまぁとしか思わないけど、いい人が酷い目に合うのは気分悪いわね」
「そうそう! お陰で何かプレイした後モヤモヤしちゃって、ヴィンセント様×レイアス様の薄い本をポチッとしちゃった! もうレイアス様が■△▽▲●■□□▲(自主規制)で、◆▲■●△▽□▲◆■■(自主規制)だったんだ!」
由奈がお昼に似つかわしくない禁止用語を発した瞬間、クラス全員が一斉に教室から出ていったのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「……はっ!」
早朝全身に汗をかいて、俺は目が覚めた。
窓の外はまだ暗い。
「嫌な夢、見た……」
あんな夢を見たせいか、俺の目覚めは最悪だった。
「あの腐女子には、慎みという言葉はないのか……」
須藤 由奈が他のクラスでTPOに反した話をするのは、1度や2度ではなかった。
それこそ、クラスメイトがそれとなく注意をした事もある。
この世界に生まれて、語られた知識には多少……ほんの少しは助けられた事もあったが、それとこれとは話が別だ。
あの女には、遠慮や慎みなど全くあったもんじゃなかった。
「……あの腐女子、もし次顔を合わせる事があったら絶対殴る」
俺は睡眠を害された不快感から、そう誓うのだった。
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