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第4章 リュート君誘拐事件!?

15話 忠告

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「りゅーと!!」

俺は教会へ着いた途端、待ち構えていたユーリに抱き着かれて少しよろけた。

「おっと!? ユーリ久し振り!! 今日は、急にごめんね」

俺は抱き着くユーリを離して、頭を撫でた。

「んーん……。だい…じょぅぶ! ぼく……もあいたかっ…た!」

ユーリは満面の笑みで、首を横に振った。

「はははっ、ユーリは相変わらず、リュート君が好きだね」

声のする方へ目を向けると、ユーリの父親であるトーリが微笑ましそうに此方を見ていた。

「トーリさんも急にすみません。お邪魔します」

「いやいや、リュート君なら何時でも大歓迎だよ! むしろ此処で暮らすかい? ユーリもその方が嬉しいだろうし」

「ん! ん!」

トーリのちょっとした冗談に、ユーリは嬉しそうに何度も首を縦に振った。

「トーリさん冗談はやめてください。ユーリが本気にしてますよ?」

「ははっ、でも君なら何時でも大歓迎だよ?」

俺が注意すると、トーリはいたずらっ子のように微笑んだ。

「お気持ちだけいただいておきます」

俺は苦笑いで返した。

「む……じょう…だ…ん…むぅ……」

ユーリに目を向けると既に期待してしまっていたのか、冗談だと分かり少し頬を膨らませいた。

「ほら、ユーリ。そう拗ねないで、私が悪かったよ」

トーリがユーリを宥めるように、抱き上げた。

「おー!」

これにはユーリの機嫌は直ぐ様上昇し、嬉しそうに笑っている。

ユーリって、ちょっとファザコンだよね……まあ、俺も人の事は言えないけど。

2人の関係は、良好そうだ。
トーリも以前の事は完全に吹っ切れているようだし、ユーリも悪魔に一時的に憑かれていたけが見る限り後遺症などは無さそうだ。

「リュート君、仕事で疲れているだろう? 君の為に、お菓子を用意したからね。部屋で一緒に食べよう」

ひとしきり抱き上げられて満足した様子のユーリを床におろし、トーリが俺に手を差し出した。
もう片方の手は、勿論既にユーリと繋がれている。

…………3人仲良くお手手を繋いで歩くとか……。

中身はいい年した大人であるので、少し躊躇する。
と言っても、母様が相手であればもう抵抗は無いのだが。
時として、人は環境に順応するものだ。

「……気を使っていただいたみたいで、ありがとうございます」

俺は差し出された手をおずおずと、躊躇いがちに握り返し、3人で手を繋いで移動した。

「♪~♪~♪~」 

ユーリは嬉しいのかスキップで、鼻唄を歌っていた。

はぁ……若干恥ずかしいけど、ユーリが楽しそうだしいいとするか。





◆◆◆◆◆◆◆◆







「――――あぁ、あの時の子か覚えてるよ」

「ん、……ちぃ…さな…おんな…のこ」

俺はおやつに用意されていたマカロンを食べながら、リオナの事を話した。
予想通りトーリやユーリは、2年前の事をきちんと覚えていたようだ。

「……あの事故は酷くてね……もう少し早く駆け付けてあげられればよかったんだけど。私達が着いた頃には母君は手遅れで、既に亡くなっていたんだ」

トーリは当時を思い出したのか、少し悲しそうな顔をして言った。

「ん……ゆに…じゃ…むり…だった……」

ユーリも俯いて言った。

「ユーリ……固有魔法にだって限界がある。僕達は神じゃないのだから、よくやったよ。ユーリ達のお陰で、一つの命が救われたんだから」

「……んぅ……」

落ち込んだユーリを、俺は励ますように言った。

当時の事は調査報告書でしか俺は分からないが、状況を推測するに2人は最善を尽くしたと言えるだろう。
全てを救うことは、ひどく難しい事なのだ。

「……彼女、お姉さんの方が、僕の専属の侍女として来ているんですよ」

俺は暗くなった雰囲気を、変えるように言った。

「そうなのか……あの子がね。何処で縁が繋がるか、分からないものだね。まさか、リュート君の侍女になるとは……」

「びっく…り!」

当時リオナは一般市民として生活していたので、その子が今俺の侍女をしていることに、2人は心底驚いていた。

「凄い偶然ですよね。それで、リオナさんがユーリに感謝を伝えたいそうなので、今度家に来た時に会ってくれないかな?」

俺はリオナに会って貰えるよう、ユーリにお願いした。

「ん! …ぼく…も…あぃたい!…」

「よかった! リオナさんにも、そう伝えておくね!」

ユーリも俺の話を聞いて気になったようで、快く了承してくれた。
この事をリオナに伝えたら、きっと喜ぶだろう。

その後はお互いに最近の事や、トーリからは教会の事などを教えてもらい楽しい時間を過ごした。
暫くすると、トーリは仕事があるので部屋から退出した。

「……よし、2人だけになった事だし、約束していた魔導具造りをしようか?」

俺はトーリが部屋から退出したのを確認して、ユーリにそう声をかけた。
これはユーリからトーリへのプレゼントだろうから。

「ん!」

ユーリは大きな目を嬉しそうに目を輝かせた。

「じゃあ、まずはこの魔石を──」

俺は手紙を出す時についでに頼んでいた荷物から、必要な道具を取り出した。




◆◆◆◆◆◆◆◆






楽しい時間は早く過ぎる。
どうにか魔導具は完成したが、あっという間に帰る時間になった。

「…も…ぅ、かえ…るの?」

ユーリが俺の手を握って、寂しそうに言った。

「うん……遅くなると、母様達が心配するから」

「…そぅ…」

「ユーリ、また何時でも遊べるよ。そんな暗い顔をしてはいけないよ、運気が逃げてしまう」

仕事を終わらせて見送りに来ていたトーリが、ユーリの頭を撫でる。

「うん、また遊びに来るし、ユーリも家にまたおいで?」

それに、プレゼント、今日渡すんでしょう?

俺がこっそりとユーリに囁いた。

「!…ん!…ばぃ…ばい…」

魔導具の事を思い出したのか、ユーリはようやく顔を上げ少し笑みを見せた。
今日の夜にでもトーリに渡すに違いない。

「……じゃぁ、行くね? またね、ユーリ」

「ん…また…」

「あっ、リュート君。1ついいかな?」

俺が馬車に乗ろうとすると、トーリから声がかかった。
俺は後ろを再度振り向く。

「何ですか?」

何か忘れ物でもしていたのだろうか?

「うん……ちょっとした忠告かな」

「……忠告、ですか?」

トーリの言葉に、俺は首を横に傾げた。

「君の空間魔法の事は、ひょっとしたら固有魔法よりも目を引くかも知れないからね。既に他国からも、諜報員が大量にこの国に送られているようだから……賢い君は分かっていると思うけど、周りには注意して欲しい。君の魔法の腕では心配はないと思うけど、魔力を封じる手段はある。私やユーリにとって、君は大切な人だからね。ちょっと、心配なんだ」

トーリは先程までの笑みを消して、真剣な顔で言った。

「……はい、身の回りには注意します」

俺もその忠告を真剣に受け入れ、頷いた。
トーリは俺の事を、心から心配しているのだろうから。

それにしても魔力を封じる手段か……
確かに場合によっては、危ないかもな……

俺は一抹の不安にかられながらも、帰路についた。
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