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第4章 リュート君誘拐事件!?

02話 第1回家族会議

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トーリが教皇につくことを決心してから、また1週間ほどが過ぎた。
ルーベンスは、完全に落ち着きを見せ始めた。
よって、今宵は先伸ばしにしてきた、家族での話し合いが開かれることになったのである。
上座から父様、母様、兄様、俺の順でテーブルを囲う。

「では此度の件、詳しく説明して貰おうか?」

父様が始まりの幕を切った。

「はい、父様。僕から先に説明させて頂きます」

まずは俺から説明した方がいいだろう。
俺が1番間近で見てきたのだから。

「あぁ、頼む」

「僕達はあの日、回復魔法の魔導具の件で教会を訪れました。ただ連絡に不備があり、トーリさんは僕達の訪問を知らなかったみたいです。ユーリに案内されている途中で、カイザーク・クレイシスと言い争うトーリさんを目撃したのが事の発端です」

父様に促され、俺はあの日の事を順に話始めた。

「それで?」

「……はい、トーリさんはすぐにその場を去ったのですが、不審に思った僕とユーリは後を追いました。それで……その、追い付いた先でトーリさんが悪魔召喚を行っているのを目撃しました」

ここで父様に嘘をつくべきでないと判断した俺は、正直にあの日見たことを話した。

「そんなっ!? 何てことをっ!!」

母様が驚愕の声を上げる。
お伽噺のこととはいえ、その重大さは分かっているのだろう。
事が世間に知れたら、トーリは処刑される。

「…………続けろ」

そんな母様に反して、父様は表情を変えずに続きを促した。
随分と冷静だ。
もしかしたら、薄々は察していたのかも知れない。

「悪魔召喚が行われた際、生け贄としてトーリの代わりにユーリがなり黒い靄に飲み込まれました。ユーリは本来の契約者でないからか、暴走して回りに無差別に攻撃を開始しました」

「……ユー君は大丈夫だったの?」

母様がユーリが心配なのか、口を挟んだ。

「えぇ、問題ないみたいですよ母様。その後も医者や神官が体調を確認していますが、すこぶる健康状態だそうです」

「そう……よかったわ!」

母様は安堵の笑顔を浮かべた。
家によく遊びに来るユーリの事を、母様もよく可愛がっていたから。

「悪魔は厄介でした。光属性の浄化魔法である程度の攻撃は防ぐことは出来ましたが、此方の魔法が通らなくて浄化が全く出来ませんでした。このまま防御一択かと思っていたんですが……そこで兄様が現れて、攻撃魔法を加えました」

俺は悪魔の事と同様に、兄様がユーリを攻撃した事も隠さなかった。

「なっ!? レイ君本当なの!?」

俺の話を聞いた母様が兄様を問い詰めた。

「えぇ……それが最善と判断しました。此方に打開策はありませんでしたから」

兄様は涼しく返した。
今でも自分の行動に間違いがあったとは思っていないようだ。

「でも……ユー君が……」

「カミラ、思うところがあるかもしれないがひとまず話は後だ。リュート、続けろ」

父様が母様を宥めて、俺に話の続きを促す。

「僕も兄様の案には納得できなかったので、僕の魔力が尽きるまでという条件で時間を貰いました」

「……無謀だな」

父様が初めて口を挟んだ。
母様はああだったが、父様は兄様の意見に賛成だったんだろう。

「まぁ、自分で言うのは何ですが、無謀でしたね。僕が魔眼持ちでなければ、実際問題じり貧でしたし」

俺も無謀なことをしたという自覚はある。
俺は運がよかっただけだ。

「魔眼? ……まさか発現したのか!?」

「本当なのリュー君!?」

いつもあまり表情の変わらない父様までも、驚きの表情を浮かべた。

「はい、そのことでお話があるんです……兄様」

俺はひとまず兄様にバトンタッチする。

「ではリューに代わってそこは僕が。カミラさんの出生についても関わることですので」

「カミラの出生? ……どう言うことだ?」

父様が訝しげな目線を向ける。

「リューの固有魔法は、かの亡国の皇太子妃と同じ“アストラル・ファイア”でした」

「何だとっ!?」

ガタッと驚愕のあまり、父様は思わず席から立ち上がった。
父様もそれは予想していなかったのだろう。

「あすとらる、ふぁいあ?」

対称的に母様はピンときてないのか、首を傾げている。

「義父上……ウェルザックの血にかの血族の血は、入っていませんよね?」

兄様は俺達の立てた仮説を、証明するために父様に尋ねた。

「………………あぁ、入っていない……仮に入っていたとしても、血が薄すぎて隔世遺伝で現れる事もまずないだろう……そうなると」

父様は母様に視線を向ける。

「……え? え? なにかしら? どう言うこと?」

え? え? と父様や俺、兄様に視線を向ける。
母様はまだ話の流れを理解していないようだ。

「……カミラ、両親の事は分かるか?」

父様が真剣な面持ちで尋ねる。

「え? 両親ですか? 家は小さな商いをしている家でしたが……両親は流行り病で既になくなっていますし、他に兄弟もいませんが……」

母様は突然の質問に、当惑気味だ。

「それは実の両親か?」

「えぇ……あの、それはどういう意味ですか?」

父様の質問に母様が怪訝そうに答える。
どうやら母様は何も知らないらしい。

「いや……まだ此方でも詳しくは話せない。分かり次第教える」

そう言うと父様は思案に入った。

「義父上、カミラさんの警護をより強化するべきです。シュトロベルン公爵は、本気で母様を狙ってきます」

兄様が父様に進言した。
先程までの笑顔は消え、真剣な面持ちだ。

「シュトロベルンが? ……確かにあの家は固有魔法に固執しているが、既に私の妻だ。そこまでするか?」

父様はそこまでしてシュトロベルンが動くかには、懐疑的なようだ。

「忘れましたか? 公爵があの時何をしたのか。戦争を仕掛けてまで、皇太子妃であった彼女を奪ったんですよ?」

「……他にも固有魔法をもつ家系はある」

俺も正直直接固有魔法を受け継いだ訳ではない母様を、そこまでして狙うとは考えられない。

「……公爵の執着は固有魔法のみに向いていた訳ではありませんから。20年近く経った今でも、公爵は彼女に執着している。娘がいることを知ったら、必ず奪いにかかります……例えどんな手を使ってもね」

「……分かった。この件は私と王のみで、情報を共有する。離れの警備も増やそう。……リュート、悪いがその固有魔法の事は他言するな」

「はい、分かりました」

父様の指示に俺も納得の意を示した。
俺もそれが妥当なところだと思う。

「それで……他には何かあるか?」

「はい、僕とユーリがそもそもトーリさんを追ったのは、兄様から話を聞いたからなんです。兄様……何故ルーベンスへの支援が行われてないことを知っていたんですか?」

俺は父様に促され、ずっと聞きたかったことを尋ねた。
何故、兄様はそんな事を知っていたのか。

「それは本当か、レイアス?」

父様も兄様に厳しい視線を向けた。

「えぇ、本当です。少し前に話を聞いてました」

「何故報告しなかった?」

「僕も知ったのは直前でした。たまたま公爵家を訪れた時に、公爵が話しているのを耳にしただけですし……義父上も疑惑程度には耳に入り始めていたのでは? 事が明るみになるのも時間の問題かと思っていましたので、特に報告はしませんでした」

あの時点では既に手遅れだと思いましたから、とにこりと笑って答える。

「……此度の件、シュトロベルンが関わっていたのか?」

「直接は関与してませんよ。ただその金が家にも流れていたみたいです。だからこそ公爵は早い段階で、把握していたみたいですけどね」

「何故公爵は国へ報告しなかった? 金のためか?」

直接関与していなくても、報告義務はある。
早期の報告があれば、ここまで深刻化しなかったはずだ。

「あの程度のはした金の為に、公爵家は動きませんよ」

兄様はハッキリと断言した。
目的は他にあると。

「ならば……何故だ?」

「あくまで推測ですが、狙いはトーリ・クレイシスでしょう」

「何故トーリさんを狙ったんですか?」

思わぬ発言に俺は口を挟んだ。

「さあ? それはよく分からないな。アレ・・のすることなんか理解したくないし……ただ悪魔の書グリモワールをトーリ・クレイシスに流したのは、シュトロベルンの可能性が高いですね」

兄様は心底嫌そうな顔で言った。

悪魔の書グリモワールは元々シュトロベルンにあったんですか?」

「……現物を見たことはないけれど、あっても不思議じゃないよ」

シュトロベルン公爵がトーリに悪魔の書グリモワールを流した?
何の為に?
別段シュトロベルンに得になるようなことは、無いように思えるけど……それとも狙いはユーリ魔眼持ちか?
ユーリにつくガードを、取り払う為にトーリが邪魔だった?
それとも清廉潔白なトーリがただ単に邪魔だったのか…………?
駄目だ、確定するには情報が少なすぎる。

「証拠は残っていないだろうな。残っていたとしても、シュトロベルンは代々必ず魔眼持ちを輩出している家系だ。その上、国でめぼしい固有魔法を持つ家と、婚姻で縁戚関係を持っている。これだけでは、あまり重い罪には問えないな……他の貴族共が納得しない」

固有魔法を持つ家は、その絶大な力故か栄える。
その殆んどの家と縁戚関係を持つ公爵家を排除するのは、不可能に近い。
少なくとも、俺が現れるまでは。

「僕が固有魔法を所持していてもですか?」

俺が出てきたことで、この国のパワーバランスがに多少の変動があるのではないだろうか?
公爵家に不満を持つ家は多そうだ。
それに俺は2つの固有魔法を所持している。

「あぁ、お前がいるおかげで少しだが変わる。これからはシュトロベルンに強く出ることが出来るだろう……だが今回の件はとぼけられて終わりだな。実際、直接関与しているわけではないし、表沙汰に出来ることでもない」

そんな本知らない。
そんな内容だとは思わなかったで済ませるだろう。
今回の件での追求は厳しい上に、追求するとトーリの件を公表しないといけなくなる。
今回は見逃すほかないだろう。

「そうですね……トーリさんの事もありますし」

「そうだな……」

「父様はトーリさんの罪を告発するつもりですか?」

自分で話したとはいえ、それは止めなければならない。
俺はトーリに教皇になって欲しいし、ユーリの為にもそれは避けたい。

「いや、トーリ・クレイシスは得難い人間だ。今後、彼のような人間が必要になる……この国は腐敗が進みすぎている。それに此度の件はルーベンスの民の為だろう? 彼なら2度と同じ過ちを犯さないだろうし、問題ない……まぁ、陛下にだけは報告するが、陛下も同意見だろう。だからそんな不安そうな顔をするな」

父様はそう言って少し微笑んだ。

「そうですか……よかったです」

俺も微笑み返す。

「それでは私からも口を挟ませて頂きます!」

話し合いが決着したところで、母様がピシッと立ち上がった。

「まずリュー君もレイ君も、一人で何とかしようとし過ぎです! 大人を頼りなさい! 何でもかんでも自分の中だけで完結しないで、ちょっとは相談しなさい。この際、私やヴィンセント様でなくてもいいわ。他の人に話すことで、自分だけでは見つけられなかった解決方法があるかもしれない。…………特にレイ君、次は回りの大人に相談しなさい……仮にその方法しかなくとも、貴方がその責任を取る必要はないわ」

母様は最後諭すように言った。
母様に悪魔と戦闘になったことを話していなかったので、怒ったような、驚きや心配が入り混じった表情を浮かべている。

「はい、ごめんなさい母様」

「……申し訳ありませんカミラさん」

母様のお怒りが俺達を思ってのことだと分かるので、素直に謝罪する。

やっぱり、母様は凄い。
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