67 / 159
第4章 リュート君誘拐事件!?
02話 第1回家族会議
しおりを挟むトーリが教皇につくことを決心してから、また1週間ほどが過ぎた。
ルーベンスは、完全に落ち着きを見せ始めた。
よって、今宵は先伸ばしにしてきた、家族での話し合いが開かれることになったのである。
上座から父様、母様、兄様、俺の順でテーブルを囲う。
「では此度の件、詳しく説明して貰おうか?」
父様が始まりの幕を切った。
「はい、父様。僕から先に説明させて頂きます」
まずは俺から説明した方がいいだろう。
俺が1番間近で見てきたのだから。
「あぁ、頼む」
「僕達はあの日、回復魔法の魔導具の件で教会を訪れました。ただ連絡に不備があり、トーリさんは僕達の訪問を知らなかったみたいです。ユーリに案内されている途中で、カイザーク・クレイシスと言い争うトーリさんを目撃したのが事の発端です」
父様に促され、俺はあの日の事を順に話始めた。
「それで?」
「……はい、トーリさんはすぐにその場を去ったのですが、不審に思った僕とユーリは後を追いました。それで……その、追い付いた先でトーリさんが悪魔召喚を行っているのを目撃しました」
ここで父様に嘘をつくべきでないと判断した俺は、正直にあの日見たことを話した。
「そんなっ!? 何てことをっ!!」
母様が驚愕の声を上げる。
お伽噺のこととはいえ、その重大さは分かっているのだろう。
事が世間に知れたら、トーリは処刑される。
「…………続けろ」
そんな母様に反して、父様は表情を変えずに続きを促した。
随分と冷静だ。
もしかしたら、薄々は察していたのかも知れない。
「悪魔召喚が行われた際、生け贄としてトーリの代わりにユーリがなり黒い靄に飲み込まれました。ユーリは本来の契約者でないからか、暴走して回りに無差別に攻撃を開始しました」
「……ユー君は大丈夫だったの?」
母様がユーリが心配なのか、口を挟んだ。
「えぇ、問題ないみたいですよ母様。その後も医者や神官が体調を確認していますが、すこぶる健康状態だそうです」
「そう……よかったわ!」
母様は安堵の笑顔を浮かべた。
家によく遊びに来るユーリの事を、母様もよく可愛がっていたから。
「悪魔は厄介でした。光属性の浄化魔法である程度の攻撃は防ぐことは出来ましたが、此方の魔法が通らなくて浄化が全く出来ませんでした。このまま防御一択かと思っていたんですが……そこで兄様が現れて、攻撃魔法を加えました」
俺は悪魔の事と同様に、兄様がユーリを攻撃した事も隠さなかった。
「なっ!? レイ君本当なの!?」
俺の話を聞いた母様が兄様を問い詰めた。
「えぇ……それが最善と判断しました。此方に打開策はありませんでしたから」
兄様は涼しく返した。
今でも自分の行動に間違いがあったとは思っていないようだ。
「でも……ユー君が……」
「カミラ、思うところがあるかもしれないがひとまず話は後だ。リュート、続けろ」
父様が母様を宥めて、俺に話の続きを促す。
「僕も兄様の案には納得できなかったので、僕の魔力が尽きるまでという条件で時間を貰いました」
「……無謀だな」
父様が初めて口を挟んだ。
母様はああだったが、父様は兄様の意見に賛成だったんだろう。
「まぁ、自分で言うのは何ですが、無謀でしたね。僕が魔眼持ちでなければ、実際問題じり貧でしたし」
俺も無謀なことをしたという自覚はある。
俺は運がよかっただけだ。
「魔眼? ……まさか発現したのか!?」
「本当なのリュー君!?」
いつもあまり表情の変わらない父様までも、驚きの表情を浮かべた。
「はい、そのことでお話があるんです……兄様」
俺はひとまず兄様にバトンタッチする。
「ではリューに代わってそこは僕が。カミラさんの出生についても関わることですので」
「カミラの出生? ……どう言うことだ?」
父様が訝しげな目線を向ける。
「リューの固有魔法は、かの亡国の皇太子妃と同じ“アストラル・ファイア”でした」
「何だとっ!?」
ガタッと驚愕のあまり、父様は思わず席から立ち上がった。
父様もそれは予想していなかったのだろう。
「あすとらる、ふぁいあ?」
対称的に母様はピンときてないのか、首を傾げている。
「義父上……ウェルザックの血にかの血族の血は、入っていませんよね?」
兄様は俺達の立てた仮説を、証明するために父様に尋ねた。
「………………あぁ、入っていない……仮に入っていたとしても、血が薄すぎて隔世遺伝で現れる事もまずないだろう……そうなると」
父様は母様に視線を向ける。
「……え? え? なにかしら? どう言うこと?」
え? え? と父様や俺、兄様に視線を向ける。
母様はまだ話の流れを理解していないようだ。
「……カミラ、両親の事は分かるか?」
父様が真剣な面持ちで尋ねる。
「え? 両親ですか? 家は小さな商いをしている家でしたが……両親は流行り病で既になくなっていますし、他に兄弟もいませんが……」
母様は突然の質問に、当惑気味だ。
「それは実の両親か?」
「えぇ……あの、それはどういう意味ですか?」
父様の質問に母様が怪訝そうに答える。
どうやら母様は何も知らないらしい。
「いや……まだ此方でも詳しくは話せない。分かり次第教える」
そう言うと父様は思案に入った。
「義父上、カミラさんの警護をより強化するべきです。シュトロベルン公爵は、本気で母様を狙ってきます」
兄様が父様に進言した。
先程までの笑顔は消え、真剣な面持ちだ。
「シュトロベルンが? ……確かにあの家は固有魔法に固執しているが、既に私の妻だ。そこまでするか?」
父様はそこまでしてシュトロベルンが動くかには、懐疑的なようだ。
「忘れましたか? 公爵があの時何をしたのか。戦争を仕掛けてまで、皇太子妃であった彼女を奪ったんですよ?」
「……他にも固有魔法をもつ家系はある」
俺も正直直接固有魔法を受け継いだ訳ではない母様を、そこまでして狙うとは考えられない。
「……公爵の執着は固有魔法のみに向いていた訳ではありませんから。20年近く経った今でも、公爵は彼女に執着している。娘がいることを知ったら、必ず奪いにかかります……例えどんな手を使ってもね」
「……分かった。この件は私と王のみで、情報を共有する。離れの警備も増やそう。……リュート、悪いがその固有魔法の事は他言するな」
「はい、分かりました」
父様の指示に俺も納得の意を示した。
俺もそれが妥当なところだと思う。
「それで……他には何かあるか?」
「はい、僕とユーリがそもそもトーリさんを追ったのは、兄様から話を聞いたからなんです。兄様……何故ルーベンスへの支援が行われてないことを知っていたんですか?」
俺は父様に促され、ずっと聞きたかったことを尋ねた。
何故、兄様はそんな事を知っていたのか。
「それは本当か、レイアス?」
父様も兄様に厳しい視線を向けた。
「えぇ、本当です。少し前に話を聞いてました」
「何故報告しなかった?」
「僕も知ったのは直前でした。たまたま公爵家を訪れた時に、公爵が話しているのを耳にしただけですし……義父上も疑惑程度には耳に入り始めていたのでは? 事が明るみになるのも時間の問題かと思っていましたので、特に報告はしませんでした」
あの時点では既に手遅れだと思いましたから、とにこりと笑って答える。
「……此度の件、シュトロベルンが関わっていたのか?」
「直接は関与してませんよ。ただその金が家にも流れていたみたいです。だからこそ公爵は早い段階で、把握していたみたいですけどね」
「何故公爵は国へ報告しなかった? 金のためか?」
直接関与していなくても、報告義務はある。
早期の報告があれば、ここまで深刻化しなかったはずだ。
「あの程度のはした金の為に、公爵家は動きませんよ」
兄様はハッキリと断言した。
目的は他にあると。
「ならば……何故だ?」
「あくまで推測ですが、狙いはトーリ・クレイシスでしょう」
「何故トーリさんを狙ったんですか?」
思わぬ発言に俺は口を挟んだ。
「さあ? それはよく分からないな。アレのすることなんか理解したくないし……ただ悪魔の書をトーリ・クレイシスに流したのは、シュトロベルンの可能性が高いですね」
兄様は心底嫌そうな顔で言った。
「悪魔の書は元々シュトロベルンにあったんですか?」
「……現物を見たことはないけれど、あっても不思議じゃないよ」
シュトロベルン公爵がトーリに悪魔の書を流した?
何の為に?
別段シュトロベルンに得になるようなことは、無いように思えるけど……それとも狙いはユーリか?
ユーリにつくガードを、取り払う為にトーリが邪魔だった?
それとも清廉潔白なトーリがただ単に邪魔だったのか…………?
駄目だ、確定するには情報が少なすぎる。
「証拠は残っていないだろうな。残っていたとしても、シュトロベルンは代々必ず魔眼持ちを輩出している家系だ。その上、国でめぼしい固有魔法を持つ家と、婚姻で縁戚関係を持っている。これだけでは、あまり重い罪には問えないな……他の貴族共が納得しない」
固有魔法を持つ家は、その絶大な力故か栄える。
その殆んどの家と縁戚関係を持つ公爵家を排除するのは、不可能に近い。
少なくとも、俺が現れるまでは。
「僕が固有魔法を所持していてもですか?」
俺が出てきたことで、この国のパワーバランスがに多少の変動があるのではないだろうか?
公爵家に不満を持つ家は多そうだ。
それに俺は2つの固有魔法を所持している。
「あぁ、お前がいるおかげで少しだが変わる。これからはシュトロベルンに強く出ることが出来るだろう……だが今回の件はとぼけられて終わりだな。実際、直接関与しているわけではないし、表沙汰に出来ることでもない」
そんな本知らない。
そんな内容だとは思わなかったで済ませるだろう。
今回の件での追求は厳しい上に、追求するとトーリの件を公表しないといけなくなる。
今回は見逃すほかないだろう。
「そうですね……トーリさんの事もありますし」
「そうだな……」
「父様はトーリさんの罪を告発するつもりですか?」
自分で話したとはいえ、それは止めなければならない。
俺はトーリに教皇になって欲しいし、ユーリの為にもそれは避けたい。
「いや、トーリ・クレイシスは得難い人間だ。今後、彼のような人間が必要になる……この国は腐敗が進みすぎている。それに此度の件はルーベンスの民の為だろう? 彼なら2度と同じ過ちを犯さないだろうし、問題ない……まぁ、陛下にだけは報告するが、陛下も同意見だろう。だからそんな不安そうな顔をするな」
父様はそう言って少し微笑んだ。
「そうですか……よかったです」
俺も微笑み返す。
「それでは私からも口を挟ませて頂きます!」
話し合いが決着したところで、母様がピシッと立ち上がった。
「まずリュー君もレイ君も、一人で何とかしようとし過ぎです! 大人を頼りなさい! 何でもかんでも自分の中だけで完結しないで、ちょっとは相談しなさい。この際、私やヴィンセント様でなくてもいいわ。他の人に話すことで、自分だけでは見つけられなかった解決方法があるかもしれない。…………特にレイ君、次は回りの大人に相談しなさい……仮にその方法しかなくとも、貴方がその責任を取る必要はないわ」
母様は最後諭すように言った。
母様に悪魔と戦闘になったことを話していなかったので、怒ったような、驚きや心配が入り混じった表情を浮かべている。
「はい、ごめんなさい母様」
「……申し訳ありませんカミラさん」
母様のお怒りが俺達を思ってのことだと分かるので、素直に謝罪する。
やっぱり、母様は凄い。
0
お気に入りに追加
2,428
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する
山本いとう
ファンタジー
異世界へと転生してきた悪役令嬢の取り巻き令嬢マリアは、辺境にある伯爵領で、世界を支配しているのは武力だと気付き、生き残るためのトレーニングの開発を始める。
やがて人智を超え始めるマリア式トレーニング。
人外の力を手に入れるモールド伯爵領の面々。
当然、武力だけが全てではない貴族世界とはギャップがある訳で…。
脳筋猫かぶり取り巻き令嬢に、王国中が振り回される時は近い。
異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる