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第3章 敬虔なる暴食

30話 再生の光

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「“ゲート”《接続:ルーベンス》」

俺が詠唱すると、扉に魔法陣が浮かび上がった。
この場所とルーベンスを繋ぐ魔法。
この状況を打開する為の魔法を。

「開けて下さい」

俺は扉を開けて貰うように言った。

「おぉっ! これは!!」

一先ず、魔法が正常に発動したことに歓喜の声が上がる。
だが、問題は何処に繋がっているかだ。
あまり距離があいていては、救助に時間を要してしまう。

「確認、お願いします」

俺は近くに待機していた、ルーベンスを訪れたことのある神官に頼んだ。

「はい!」

神官は扉を通り、繋がった別の地点へ足を踏み入れる。

「間違いありません! 少し町外れになりますが、間違いなくルーベンスですっ!!!」

数分後、確認を終えて戻ってきた神官の声が聖堂内に響いた。

「うおおー!!」

「これで多くの人が助かる!!」

「ぼさっとするな! 行くぞ!」

神官の声の後、歓喜の叫び声が聖堂内をこだました。
そして、待機していた魔術師や食糧や薬を持った神官、兵士が一斉に動き出す。

「……よかった」

俺はその様子にふぅと安堵の溜め息を溢した。
当初の予定とは、少しずれたようだが想定の範囲内で済んだ。

……成功してよかった。

魔力も一気に使ったからか、力が抜けてふらつく。
もし失敗に終わっていても、すぐに2度目の空間魔法とはいかなかっただろう。

「お疲れ、リュー。流石だね!」

床に座り込みそうになった時、俺の肩を兄様が後ろから支えてくれた。

「流石に緊張しました。失敗なんてしたらシャレにならないのに、ぶっつけ本番で使うわけですし」

俺はそのまま兄様にもたれかかった。

「ははっ、全然そんな風に見えなかったけどね。リューらしいな! ……そういえば、この魔法は継続時間ってあるのかな?」

「いえ、ほぼ永続的なものですよ。だからこそ固有魔法並みの魔力を消費してしまいましたし。僕今、魔力空っぽです」

だからなのか、怠さが半端ない。
とにかく眠りたくて仕方がない。
立っているのも、少し辛いくらいだ。
魔力を全て使いきるととこうなるんだな、と頭の片隅で思った。

「やっぱり、リューはすごいな! 魔力使いきったのって初めてだっけ? 使いきると倦怠感が凄いから、後は任せて休んでなよ」

「はい、これはキツイですね。ですがまだ休むつもりはないです。僕も手伝いを……」

俺は自身の力で立つと、扉に向かって歩こうとした。

「まだ無理だよ、少し休まないと」

歩き出そうとしたところで、兄様に止められた。

「ですが……」

緊張しているであろうユーリについててあげた方が良いだろうし、指示くらいなら俺にも出来る。
これでも医療知識については、前世で身に付けている。
行って足手纏いと言うことはない筈だ。

「指示とかなら僕が代わりにするよ。ユーリも固有魔法は1回しか使えないからね。ルーベンスにいる患者の状態を確認するまで、出番はないよ。だから少し休んで?」

「…………分かりました……では簡単な指示だけお願いします。病状を5段階で分けて、対応してください。レベル5は固有魔法でしか治療出来ない方を。レベル別に分けてレベル5の方のみをユーリにやって貰えば、効率的に治療出来ると思います。魔導具は上級魔法を込めているので、レベル3、4の人を優先で。レベル2の方は下級の回復魔法で対応出来る方を。レベル1の方は魔法による治療でなく、薬による治療で対応してください。……それでは30分くらい休みます。ユーリが魔法を使うときは、起こしてください。絶対ですよ?」

「ははっ、分かってるよ。確かに治療は分けた方が、効率的だね。指示として伝えておくよ……それじゃあ、僕は行くから少し休んでね?」

俺は指示をお願いして、少し休むことにした。
俺は近くにあった椅子の上で横になる。
すると、すぐに眠気におそわれ、本日2度目の眠りについた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「リュー、リュー起きて」

肩を揺すられ俺は目を覚ます。

「にぃさま? ……っつう!?」

起き上がると頭が割れるように痛んだ。
眠る前に感じていた倦怠感もあまり取れていない。
やはりほんの少し休んだくらいでは、魔力はあまり回復しないらしい。

「大丈夫?」

痛みに顔をしかめた俺を、兄様は心配そうに覗きこむ。

「大丈夫です。ユーリは?」

「今からだよ。リューの言った通りに、病状で分けたから人数は何とかなりそうだよ。11人いて、ギリギリ可能だって」

「そうですか……よかった」

多くいた場合、命の選択をしなければならない。
ユーリにはその選択は厳しい選択になる。
そうならずに済んでよかった。

「うん、そうだね。じゃあ、行こうか?」

「はい」

俺は兄様に手を引かれ、魔法でルーベンスへと繋がった扉を潜る。
扉を通り見えたのは、慌ただしい光景だった。

「これは……」

「かなり酷いよね……最初、僕達が来たときも飢餓状態がすごくて、ろくに動ける人が居なかったよ」

町の中は酷かった。
井戸の中の水は悪臭を放ち、少しばかりはあったであろう田畑も荒廃している。

「こっちだよリュー」

兄様に連れられてやって来たのは、1つの家屋だった。
室内に入ると、床に布団を敷いて老若男女関係なく寝ている人達が見えた。
ここにいる人達は、レベル5の通常の魔法では手遅れな人達だ。
皆皮膚があちこち爛れ、腐り、餓えのせいで枯れ木のように痩けていた。
生きているのが不思議な状態であった。

「りゅぅと!」

部屋の奥にユーリがおり、俺の姿を見つけて声をかけた。

「ユーリ大丈夫?」

ユーリは緊張のせいか、ただでさえ白かった肌が更に白くなって顔色が悪い。
ユーリにかかる何人もの命への責任。
幼子に簡単に背負える筈がない。

「ん、…りゅぅとが…きてくれた…から、だいじょぅ…ぶ!」

「大丈夫、ユーリなら出来るよ。僕達がついてる」

俺はユーリを安心させるように手を握った。
ユーリの手は冷えて震えていたが、段々と熱を取り戻していった。

「…ん、……やる!」

少しの間そうしていると、ユーリは手を離して病に苦しんでいる人達に向き直った。
手をかざして詠唱を始める。

「“われはしんせいにしてきゅうさいしゃ、すべてをいやすもの”

  “われはかみにあいされしせいじゃ、すべてをすくうもの”

  “いまこのちにしろきひかりをふりそそがん”


  “りじぇねれーしょん”」

その詠唱の直後、床に白き光を放つ魔法陣が浮かんだ。
一瞬にして部屋が光に包まれる。

「……発動したのか?」

俺は目を開けて患者を確認するも、治療された気配はない。
まさか失敗かと思った直後、部屋の中央に何かが浮かんでいるのに気付いた。

「……何だコレ?」

思わず言葉が溢れる。

それは頭に角をはやした白い馬だった。
前世に物語に登場したユニコーンに似ている。
ただし小さい。
ぬいぐるみの様な可愛いユニコーンだった。

「ゆに、おねがぃ!」

俺はユーリに聞こうとしたら、ユーリが先に口を開いた。

「きゅーぅっ!!」 

ユニコーンはユーリに応えるように声を上げると、角から白い光を辺りに振り撒いた
その光を浴びた患者は、どんどん傷が癒えていく。
痩けていた体がみるみる健康状態まで戻り、腐敗して爛れた箇所も元通りに癒えていた。

「凄いな……」

その様は神聖なものだった……ぬいぐるみみたいなユニコーンがいなければ。
ユニコーンのせいで神聖と言うよりも、ファンシーな感じが拭えない。

「…ありがと! …ばぃ…ばぃ!」

「きゅーぃ!」

治療が終わったのか、ユーリはユニコーンに手を振るとユニコーンはまた魔法陣の中へ帰っていった。

まだまだやるべきことは多くある。
だがこれで大きな問題は解決したと言ってもいい。
ルーベンスは救われるだろう。

でも……
最後がこれってちょっと締まらないかな。
可愛いんだけどね?
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