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第3章 敬虔なる暴食
05話 兆
しおりを挟むあの後、兄様も家庭教師が来るとかで兄様も本邸へ戻っていき、俺とユーリの2人だけになった。
ユーリはまだ時間があるようなので、俺は気になることをこの際直接聞いてみることにした。
「そう言えば……ユーリのお父様はお元気?」
「?…げんき…」
急な質問に疑問に思ったのか首を傾げた。
「あぁ、こないだは余りお話しできなかったから、どんな人なのかと思って。教会の人は初めて会ったしね」
こう言っておけば、不審に思われないだろう。
ゲームの設定と乖離している理由を、今後の為にも確認しておきたい。
「…ん…とても…やさし…よ!」
「そっか。……仲が良いんだね」
「ん。…いそがしい…けど、…ときどき…あそん…で…くれる」
俺の質問にゆっくりだが答えてくれた。
やはり、話を聞く限り親子仲は悪くないように思える。
父親の事を話すユーリの表情はどこか嬉しそうで、寧ろ良好のように思える。
まだ、気付いてないだけ?
それとも……まだ起こってないだけなのか?
……全てがゲームのシナリオ通りだとは思わないが、起こってからでは遅い。
俺の他にも転生者が居て、シナリオに影響を与えた可能性もある。
もう少し探りを入れた方が良さそうだな。
「…ただ…さいきん、すこし…い…そがし」
「忙しい?」
ふと、思い出したかのようにユーリが少し寂しそうにポツリと言った。
「ん、とおくの…ルーベンス…のいなか…まち、びょうきと…、まものひがい…できょうかい……いそ…がし」
その話題は、この間の父様の話にも出ていた。
王都から北、ルーベンス領の田舎町で疫病が流行っているらしい。
元々魔物被害の多い場所で作物も育ちにくい。
狩猟や鉱山業でかろうじて成り立っているような田舎町。
そこでここ1週間程前疫病が流行り、その近隣の町ごと封鎖していると父様が言っていた。
ただこれは被害を拡散しないための処置であり、直ぐに王宮や教会に伝えられ治療部隊や食糧が送られている筈だ。
「確か教会が主導で動いているんだっけ?」
今回、被害の町へは教会が人員や物資を出すと父様が言っていた。
こういった出来事に対しては、教会が主導で動くのが慣わしらしい。
それなら、ユーリの父親が忙しいというのにも頷ける。
「……ん。…ぼきんとか…かいふく…まほう…つかえる…ひと、…おくってる」
「ユーリのお父様は、教会でも重要な立場に居るからね。でも、もう少しすれば落ち着くと思うよ?」
問題の町は王都からかなり離れているためある程度時間がかかるかも知れないが、教会の迅速な対応により多くの人が助かるだろうと父様は言っていた。
「……ん!」
ユーリは俺の言葉を聞いて、少し微笑んだ。
心配事が解消されて何よりだ。
うーん?
やっぱり周囲の話を聞く限りだと、ユーリの父親がそんな悪い人には思えない。
父様はトーリ・クレイシスの事を、信心深い敬虔なる信徒で民をよく思っている人物だと話していた。
この件が落ち着いたら、教会の方に直接行って自分の目で見極めてた方がいいだろう。
自分の目で見ればまた違った顔が見れるかも知れない。
もし、そういった犯罪行為に手を染めているのなら教会には、何らかの痕跡も残っている筈だ。
俺はそう判断した。
「落ち着いたら、教会へ遊びに行ってもいい? 1度見てみたいんだ」
「ん……あんない…する」
俺が尋ねると、快く案内まで引き受けてくれた。
これで段取りは出来た。
「ありがとう! 約束だね」
「……ん!」
俺とユーリは指切りした。
この約束はすぐに果たされることになった。
そして、この時既に物語が動き出していたことを、俺はまだ知らなかった。
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