上 下
38 / 159
第3章 敬虔なる暴食

05話 兆

しおりを挟む
 
あの後、兄様も家庭教師が来るとかで兄様も本邸へ戻っていき、俺とユーリの2人だけになった。
ユーリはまだ時間があるようなので、俺は気になることをこの際直接聞いてみることにした。

「そう言えば……ユーリのお父様はお元気?」

「?…げんき…」

急な質問に疑問に思ったのか首を傾げた。

「あぁ、こないだは余りお話しできなかったから、どんな人なのかと思って。教会の人は初めて会ったしね」

こう言っておけば、不審に思われないだろう。
ゲームの設定と乖離している理由を、今後の為にも確認しておきたい。

「…ん…とても…やさし…よ!」

「そっか。……仲が良いんだね」

「ん。…いそがしい…けど、…ときどき…あそん…で…くれる」

俺の質問にゆっくりだが答えてくれた。  
やはり、話を聞く限り親子仲は悪くないように思える。
父親の事を話すユーリの表情はどこか嬉しそうで、寧ろ良好のように思える。

まだ、気付いてないだけ?
それとも……まだ起こってないだけなのか?
……全てがゲームのシナリオ通りだとは思わないが、起こってからでは遅い。
俺の他にも転生者が居て、シナリオに影響を与えた可能性もある。
もう少し探りを入れた方が良さそうだな。

「…ただ…さいきん、すこし…い…そがし」

「忙しい?」

ふと、思い出したかのようにユーリが少し寂しそうにポツリと言った。

「ん、とおくの…ルーベンス…のいなか…まち、びょうきと…、まものひがい…できょうかい……いそ…がし」

その話題は、この間の父様の話にも出ていた。
王都から北、ルーベンス領の田舎町で疫病が流行っているらしい。
元々魔物被害の多い場所で作物も育ちにくい。
狩猟や鉱山業でかろうじて成り立っているような田舎町。
そこでここ1週間程前疫病が流行り、その近隣の町ごと封鎖していると父様が言っていた。
ただこれは被害を拡散しないための処置であり、直ぐに王宮や教会に伝えられ治療部隊や食糧が送られている筈だ。

「確か教会が主導で動いているんだっけ?」

今回、被害の町へは教会が人員や物資を出すと父様が言っていた。
こういった出来事に対しては、教会が主導で動くのが慣わしらしい。
それなら、ユーリの父親が忙しいというのにも頷ける。

「……ん。…ぼきんとか…かいふく…まほう…つかえる…ひと、…おくってる」

「ユーリのお父様は、教会でも重要な立場に居るからね。でも、もう少しすれば落ち着くと思うよ?」

問題の町は王都からかなり離れているためある程度時間がかかるかも知れないが、教会の迅速な対応により多くの人が助かるだろうと父様は言っていた。

「……ん!」

ユーリは俺の言葉を聞いて、少し微笑んだ。
心配事が解消されて何よりだ。

うーん?
やっぱり周囲の話を聞く限りだと、ユーリの父親がそんな悪い人には思えない。
父様はトーリ・クレイシスの事を、信心深い敬虔なる信徒で民をよく思っている人物だと話していた。
この件が落ち着いたら、教会の方に直接行って自分の目で見極めてた方がいいだろう。

自分の目で見ればまた違った顔が見れるかも知れない。
もし、そういった犯罪行為に手を染めているのなら教会には、何らかの痕跡も残っている筈だ。
俺はそう判断した。

「落ち着いたら、教会へ遊びに行ってもいい? 1度見てみたいんだ」

「ん……あんない…する」

俺が尋ねると、快く案内まで引き受けてくれた。
これで段取りは出来た。

「ありがとう! 約束だね」

「……ん!」

俺とユーリは指切りした。




この約束はすぐに果たされることになった。
そして、この時既に物語が動き出していたことを、俺はまだ知らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

私は婚約破棄を回避するため王家直属「マルサ」を作って王国財政を握ることにしました

中七七三
ファンタジー
王立貴族学校卒業の年の夏―― 私は自分が転生者であることに気づいた、というか思い出した。 王子と婚約している公爵令嬢であり、ご他聞に漏れず「悪役令嬢」というやつだった このまま行くと卒業パーティで婚約破棄され破滅する。 私はそれを回避するため、王国の財政を握ることにした。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...