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第3章 敬虔なる暴食

02話 ヤンデレ?いいえ、萌です。

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ユーリ・クレイシス

ヤンデレ攻略キャラにして、あの昼休みの悪夢。
あの日、あの腐女子のせいでクラスメイトは皆食欲をなくし、あれからどんな時でも即逃避が絶対になった。

本当、食事中にカニバの話とか普通しないよな。
……まぁ、転生した今少しは感謝してるけどな。

あれだけ盛大にネタバレしてくれれば、シナリオを大体は把握出来る。

「魔眼持ちは数少ないから、同年代の友人としてユーリとは仲良くして欲しい」

屈みこんで俺に目線を合わせて、優しく微笑んだ。
大人の利害ではなく、父親としての願いだ。
その姿はまるで良き父親のようだった。
なんか凄くいい人そうだ。
少なくとも悪い人に見えない。

……どう見ても豚じゃなくて、只のイケメンなんですけど?
しかも教皇でもないみたいなんだけど!?
腐女子~ぃ、どう言うことだよコレ。

強制的に聞かされていたネタバレが、現実と食い違っている事に俺は内心混乱した。

聞いてないよ。
それともいい人そうなのは演技で、裏は真っ黒なのか?
……うぅー、分からん、兄様の例もあるしな……。

すぐに判断を下せる訳もなく、俺は取り敢えず判断材料を集める事にした。

「勿論です! 僕も同年代の友人は少ないので、仲良くしてくれると嬉しいです」

愛想よく笑顔を浮かべて俺は後ろのユーリに握手を求めたら、おずおずと手を握られた。

「……ん…」

こんな子が、ヤンデレね……。

容姿は父親譲りの髪と目の色で、髪の長さは肩より少し長いおかっぱ。
少年というよりは少女に見えるし、仕種はまるで小動物のようだ。

「人見知りのこの子が握手を……珍しいな。これは是非とも仲良くして貰わなければ」

トーリはそんな息子の様子を微笑ましく見ていた。
握手くらいで驚くとは、ユーリは相当人見知りを拗らせているようだ。

「お前達は同年代だし、魔眼持ち同士だ。国家の有事の時は、協力して貰うこともあるだろう。仲良くしといて損はない」

王様は俺達の頭をわしゃわしゃと撫でた。
折角、整えて貰った髪型が少し崩れてしまった。

「さてと、大人達は退散するか。子供同士仲を深めとけ」

「では、ユーリ。私は挨拶回りをしてくるよ。リュート君と遊んで貰いなさい」

ユーリがトーリの言葉にこくこく頷いて、バイバイと手を横に振った。
そして王様達は俺達から離れ、別々の貴族の輪に入っていった。

「「………………」」

ユーリは大人しい性格のようで、2人の間に静寂が流れる。
俺としては初対面であるし、大人達にはもう少し間を取り持って貰いたかったものだ。

「……軽食でも食べますか?」

「……(コクッ)」

俺の提案に、ユーリは言葉ではなく頷いて答える。

んー、あんまり好かれてないのかな?
それともただ人見知りなだけか?

ゲーム設定ヤンデレ知っているせいか、どうもやりにくい。
何が地雷になるか分からないから、手探りの状況だ。

「じゃあ、行きましょうか」

俺は取り敢えず先導して前を歩こうといた。

“くいっ”

背を向けた瞬間、後ろに引かれた。
振り向くとユーリが俺の服の裾をを掴んでいる。

「……どうかしましたか?」

「…………」

尋ねるが、ユーリは喋らない。

何なんだこれは?

よく分からないが害はないので、裾を掴んだままなのは放置して、俺は軽食の置いてある場所に進んで行くことにした。
ユーリも裾を掴んだままだが、黙ってついてきた。

軽食は甘いものから、食事系まで様々だった。
王族の誕生会だけあって、どれも一流の料理人が調理した豪勢な食事だ。

「何が食べたいですか?」

「……」

ユーリは答えなかったが、視線はケーキやお菓子に向けられている。

甘い物がすきなのかな?

「ケーキ、美味しそうですね。いくつか食べますか?」

「ん、……たべる!」

食べたいものが当たってたのか、目を輝かせた。
俺は微笑ましくなって、ケーキを取り分けてあげた。
すると、モグモグと食べ始める。
まるで、雛鳥に餌をあげる親鳥になった気分だ。

ちょっと可愛いかも、弟みたいで。
……年齢的には年上だけれど。

だが、見た目は小動物系の幼い容姿であるし、俺の1歳上に見えにくい。
何より、精神的に幼く感じる。

「美味しいですか?」

「ん。もっと……?」

まだ食べ足りないのか、首を横にコテンと倒した。

かっ可愛い!!

初めて母様達の気持ちが分かった。
俺は新たにケーキを取り分けた後、思わず頭を撫でてしまっていた。
母様もいつもこんな気持ちなのだろうか。

「あり……が…と」

ユーリは少しだけ口角をあげ笑みを作る。
先程まで表情が薄かった分、それにはインパクトがある。


……そうか、これが萌ってやつか。
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