上 下
30 / 159
第2章 俺と攻略対象者と、時々悪役令嬢

20話 誕生パーティー ①~幕開け~

しおりを挟む
 
とうとうパーティー当日の日を迎えた。
マナーや覚えておくべき知識は完璧に身につけた。
何も問題ない。

……まぁ途中色々あったが、女装とか女装とか女装とか。
が、しかし本番では何とかドレスを逃れて、今日は青を基調とした服を着ている(勿論、ズボンだ)

このパーティーで父様は母様のことも俺と一緒に紹介するつもりらしく、今日のパートナーとして母様を連れている。
これでクリスティーナが、来ないかと言えばそうではない。
婚約者リリスの母親として招待が来てるので、別の男と来ているらしい。
これには流石の俺も引いた。
外でやるならまだしも、公式の場でやるのはさすがに醜聞になる。
実際、陰では毒婦と呼ばれているらしい。

シュトロベルン公爵家は何も言わないのか?
クリスティーナの行動が、家に利益をもたらすとは思えない。

しかし、それがシュトロベルンの力の強さを表しているのかもしれない。
貴族は醜聞を嫌う。
そんな中でこれだけの事を、堂々と出来るのだ。
いかに権力ちからを保持しているのかが分かる。

「リュー君、緊張してる?」

母様が俺の顔を覗きこんだ。
そう聞いた母様もどことなく普段より、緊張しているように思える。

「大丈夫ですよ、母様」

俺は笑顔で返す。
俺が気をとられていては、母様まで気を使ってしまう。
それに前世では、幾つも修羅場は潜ってきた。
このくらいわけない。

「入るぞ」

父様の声と共に、扉が開く。
中に入るとともに、注目を浴びる。
此方を見ながら、ひそひそと喋る声が聞こえてきた。

「あれが噂の……」

「後継ぎはどうするのかしら?」

「勿論、シュトロベルン公爵家の血を引くレイアス様でしょう?」

「でもウェルザック公爵家の血を引いてないだろう……」

「王子の誕生パーティーで、妾を連れてくるなんて……」

口々に囁かれた内容は、好奇の目から悪意に満ちたものまで様々だった。
やはり、ある程度自前に情報は回っていたようだ。
俺は悪意ある者の顔はしっかり覚えつつ、素知らぬ顔をして父様達の後ろをついて行った。
父様達の向かう先、大勢の人達が集まる場所の中心には見覚えのある金髪の美丈夫がいた。
先日会った時のまま、王者のオーラを纏っている。

「来たか、ヴィンセント!」

王様が俺達に気付いて、手をあげて俺達を迎えた。
周囲の人達が一歩下がり、王様までの道が開けた。

「陛下……公式の場ですよ」

父様が王様の砕けすぎた態度に眉をしかめる。

「堅いな、ウェルザック公爵は」

ははっと、王様は笑って返した。
注意されても直す気はないらしい。

「お? リュートは今日ドレスじゃないのか?」

王様は俺の姿を見付けると、そんな爆弾発言を投下した。

なっ何て事を言うんだ!!
母様が本気にしたらどうするんだ!?
ただでさえ今日まで散々……

「リュートをからかわないでください。流石に公式の場では着させませんよ」

俺が衝撃を受けている間に父様がキッパリ否定した。
俺は父様の心強い言葉に、ほっと息を吐く。
父様が常識を持っていて、俺は一安心だ。

「フィーリアが残念がるな……」

王様は残念そうに呟いた。
本当に残念そうだから、笑えないところだ。

いやいや、嫌だよ。
息子いるんだから、自分の息子に頼んでよ。

「──これはこれは陛下とウェルザック公爵ではないですか。ご機嫌麗しゅう?」

父様達の会話に唐突に割り込んで来たのは、白髪混じりの金髪に黒い目の壮年の男だった。
王族と公爵の話に割って入るのだ。
かなり身分の高い者だろう。

「シュトロベルン公爵……」

「公爵本人が参加するとは珍しいな?」

男の正体は俺やウェルザックにとっては因縁の相手。
リリスやクリスティーナの祖父であり、父である男。

シュトロベルン……こいつがそうか。

「当然ですよ。我が国の王子の誕生パーティーなのですから……それにウェルザック公爵がお子を迎えたと小耳に挟みましてね。次期公爵となる方ですからね、ご挨拶をと」

シュナイザ・シュトロベルン、こいつが全ての元凶にしてこの国の腐敗の象徴。
シュトロベルンが権力ちからを持つのは、財力や広大な領地を持っている事だけが理由ではない。
シュナイザの黒い濁ったような目には、俺と同じように魔法陣が浮かんでいる。
つまり、この男も魔眼持ちということだ。
魔眼持ちは強力な力を持つと共に、今や希少な存在だ。
だからこそ、国もシュトロベルンの横暴に強く対応出来ない。

「我が娘を置いて妻子に迎えた程だ。皆も先程から気になっておりますよ? ねぇ、皆さま方?」

口角を歪ませ、シュナイザは他の貴族達に目を向け言った。
この行動には悪意がある。
父様はシュナイザの周囲を巻き込むやり方に、更に眉をしかめた。
俺は父様達の背後から、前へ出た。

「初めてまして、シュトロベルン公爵。私はウェルザック公爵家の第3子、リュート・ウェルザックです」

兄様やリリスがいるので、俺はウェルザックにとって3番目の子供だ。
名乗り出た瞬間、周囲からざわめきが起こった。

「美しい……」

「あの銀髪……養子との噂だったが、実子であったか!」

「オッドアイとは……初めて見るな」

「何て綺麗なんだ!!」

周囲からは口々にその様なことが囁かれている。
俺の容姿から父様の血を引いてるのは一目瞭然だ。
先程まで、飄々としていたシュナイザの顔も驚愕に変わった。
隠していた事もあり、俺が魔眼持ちだという情報は掴んでいなかったらしい。

「っ!! 魔眼持ちだとっ!?」

シュナイザの叫び声に周囲のざわめきは更に増し、辺りは騒然とした。

「あぁ、そうだ。リュート・ウェルザックはこの国の新たな魔眼持ちだ」

王様は集まった貴族達にそう宣言した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。 王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか? 元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。 これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン
恋愛
 前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。  すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?  私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!  そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。 ⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎ ⚠︎誤字多発です⚠︎ ⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎ ⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎

処理中です...