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第2章 俺と攻略対象者と、時々悪役令嬢

15話 可愛いは正義☆

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先程まで揉めに揉めていたが、兄様達もクールダウン出来たのか今は皆で席を囲みお茶をするに至っている。
母様はお茶請けのお菓子に夢中だ。

母様、王様の前なんだし遠慮しなよ……。
確かに王宮で出されるだけあって、美味しいけど。

今日も母様のド天然っぷりも絶好調のようだ。

「すまんな、王妃は仕事が押しているらしくまだ時間がかかるようだ」

王様がすまなそうに謝る。

「いえ、王妃様が忙しいのは分かっています。貴方と違って」

父親が棘を含ませ王様に言う。 

「棘のある言い方だなぁ? ちゃんと、自分の分の仕事してるぜ?」

「仕事もしてますが、勝手に護衛も付けず城下を彷徨いたりしてますよね? しかも仕事だって王妃様の十分の一の量です」

父様は王様の言い分を、バッサリ切り捨てた。
客観視した厳しい評価だ。

確かに……ちょっと無茶苦茶な人かもな。
でもそこが人を惹き付けるのか?
豪快な笑顔や行動も、魅力的ではあるだろう。

「王なんて、娯楽がなきゃやってらんねぇよ、なぁオズ? それに俺の周りの奴は優秀な奴が多いからいいんだよ」

「そのお鉢が私に全てまわってきてるんですよ。今まではよくとも、これからは気をつけていただきたい。私には妻子がいるのですから。これからは、残業をするつもりはありません」

王様相手に凄い言いようだが、事実だから仕方がない。
俺としても、あまり残業はしない方向でお願いしたい。

「なんだノロケかよ? ……俺も新しく側妃でもめとろうかな?」

父様に羨んだ目を向け、そんな冗談を口にした時だった。

「側妃? 何を世迷い言を言っているのです、ギルベルド様?」

そこには冷麗な美貌を持った女性がいた。
キリリと冷たい視線を王様に向ける。

「フィーリア、仕事は終わったのか?」

王様は笑って、女性を迎えた。
どうやら王妃様のようだ。
名前は本で読んだ。
フィーリア・ルイリ・ユグドラシア、他国からこの国に嫁いできた王女様でこの国の王妃様。
髪はミルクティー色で、瞳は夕焼けのオレンジ。
そしてこの国一番の才女と称えられているらしい。

「えぇ、勿論です。それよりもギルベルド様、今の発言は何です? 側妃? 既に5人もいる上、王子も王女も足りてます。これ以上は国費の無駄です。何を考えているんですか?」

王妃様はツラツラと冷たくいい放った。
正論過ぎて、反論の余地はない。

「ただの冗談だ、本気にするな!」

王様は少したじろいで言った。
額から汗が滴っている。

王様、尻に敷かれているのかな?
確か王妃様は30才で、姉さん女房の筈だし。

王様がかなりの自由人なので、年上のしっかりした女性の方が合うのかもしれない。

「冗談? 貴方様は王なのですよ? それで付け上がる貴族もいるかも知れません。冗談では済まされません」

王妃様はなおも責め立てる。
今まさに始まろうとしている長い説教。
これには少し同情した。

こっ怖いな。
無表情だし。
軽い冗談みたいなもんだし、公式の場でもないのに。

真面目でしっかりしてはいるのだろうが、あまり融通のきかないタイプのようだ。

「はぁ、悪かったよ。……不用意だった」

王様が折れて謝った。
長い説教を思えば、此方が早々に折れるのが正しい選択であろう。

「いいえ、貴方様は理解していません。この間も」

「もういいのでは? それこそ公爵や夫人達の前で言うことではない。そもそも貴方はリュート魔眼持ちの確認をしに来たのでしょう?」

王妃様がまだいい募るのを遮り、オズ様が言った。
心なしかピリピリしている気がする。

そうか……、オズ様のルートでは悪役令嬢はシュトロベルンの公爵令嬢だったけど、王妃様も乗り越えるべき障害だとか言ってた気がする。
母親にとって道具としか思われておらず、2人の仲は冷えきっている。
それをヒロインが癒すというシナリオだったはず……。

確かに王妃様見る限りそんな感じかも知れない。
俺も彼女からは鉄の女という印象を受けた。
悪い人ではないのだろうけど、仕事以外は不器用そうだ。
人に与える冷たそうな雰囲気で、損している面もあるだろう。

「……そうですね。それでその子は……」

「僕です。お初にお目にかかります、リュート・ウェルザックと申します」

王妃様が俺に目を向けたので、俺は椅子から立ち上がり自己紹介をする。
じっくり観察している場合ではない。

「か、可愛い……(ボソッ)」

予想だにしなかった言葉が聞こえた。
顔を上げて、思わず王妃様の顔をまじまじと確認してしまう。

「え?」

今なんて言った?
なんかあり得ない単語が聞こえた気がする、そうまるで母様達のような。

そう思ったのは俺だけではなかったらしい。

「あ? フィーリア今なんて言った?」

王様が訝しげに聞いた。
言葉ははっきりと聞き取れたが、王様も王妃様がそんな事を言うとは信じられないようだ。

「いえ、何も言っていません」

まるで何事もなかったのかのように答える王妃様。
その表情に不自然な所はない。

いや、言ったよね?
しれっと誤魔化した!?

父様達もこれには微妙な反応だ。

「フィーリア様、お久しぶりです。カミラ・ウェルザックです。」

母様が空気を変えるためか、王妃様に挨拶をした。

「えっ! えぇ、7年ぶりかしら? 元気にしていて?」

「はいっ! こうして可愛い息子にも恵まれました!!」

これ幸いと話題転換に乗った王妃様に、母様はテンション高く応える。

「そうね……わたくしも驚いたわ。これ程の美貌は我国にはいないでしょう。女の子であったのなら、息子達どちらかの婚約者に据えたのだけれど……残念だわ」

王妃様は俺を見て言った。
本当に残念そうだ。

……褒めすぎじゃね?
兄様やオズ様も顔かなり整ってるんだけど。
むしろ攻略キャラに囲まれてら、俺埋もれてない?

自分の顔なんて毎日見ているから、そこまでのものに思えない。
両親が共に美形なので、子である俺も通常より整ってはいると思うが。

「はい、天使なんです!」

そうこう考えているうちに、またもや母様が親バカ発言を繰り出した。

はーはーさーまーっ!?
ここ屋敷じゃないよ?
王様、王妃様の前で親バカ発言はやめれ!
攻略キャラの前で言われるのメッチャ恥ずかしいよっ!?
てか兄様もうんうん、頷くんじゃない!!
2人共、TPOを弁えて!!

これから行く先々で言いふらすのではないかと、俺は心配だ。

「そうですね」

王妃様も同意しないで!?

何だか、段々俺の方がおかしいのではないかと思い始めてくる。
勿論それは錯覚で、母様達が世間とずれているのだけれど。

「分かってくれますか、フィーリア様っ!? 実はこれ先日撮影した写真なんですが……」

そして母様は懐から、本らしきものを出して王妃様に見せた。

あっ、あれは!!
俺の黒歴史!?
やーめーてーーーーーっ!!!

母様は何という爆弾を投下してくれるんだ。

「こっこれは!?」

目を通した王妃様は、驚愕の表情を浮かべる。

「なんだなんだ? 何を見て……これは、」

王様やオズ様も気になったのか、王妃様の手元を覗き込んだ。

「これは……勿体ないな。女であればシュトロベルンとの婚約を破棄して、妻として迎えるものを……」

オズ様がしみじみと呟く。
こうしてばら蒔かれていく、俺の黒歴史。

「そしたら僕が結婚するからね? 馬鹿王子にやるわけないだろう?」

兄様がすかさずつっこむ。
もう何か何だか分からない。

というか俺の意志は何処に行った!?
無視か!?

「可愛いですよね? まさに天使です!」

「あぁ。でもフィーリアは興味ねぇよ。なんせ鉄の女だからな!」

王様が何気なく言った。
俺もさっきまではそう思っていた。 
だが、この人は──

「陛下っ! デリカシーが有りませんよ! 女の子は可愛いものに弱いんです!!」

母様が断言した。

「いっいや、お前達女の子って年じゃ」

「レディーに年の事を言うなんて!? デリカシーが無さすぎです! そう思いませんか、フィーリア様っ?」

母様の勢いは止まらない。
父様はニコニコとそんな母様を見守っているだけ。
王様は孤立無援だ。

立場は王様の方が上なのに……。
意外に王様ってヘタレ?

「えっ、えぇ。……それにしても本当に可愛い(ボソ)」

王妃様も母様の勢いにたじたじだ。
それでも写真は離さないが。
この人、しっかりはしているが趣味は母様と同じだ。

「……フィーリアは普段、王妃として完璧に仕事をこなしているからその反動か? フィーリアとの間には娘はいないし……」

王様は王妃様を見て呟く。
此処に来て、王様も漸く王妃様の気持ち可愛いものが好きを悟ったらしい。

確かに、王族の系譜を見る限り、正妃との間には王子二人しかいない。
女の子が欲しいと思っていたのかもしれない。

「可愛いは正義なんです!!」

母様がぶっ飛んだ発言をかます。

「そっそうか、……でもそうだな、フィーリアにもガス抜きが必要かもな。なぁ、リュート」

あれ?
なんか嫌な予感が。

王様の視線に嫌な予感が止まらない。

「これからはたまに、フィーリアに付き合ってくれないか?」

やっぱりかっ!
予感的中だよ!!

俺としてはすぐに断りたい。

「ほっ本当ですか!?」

王妃様、ちょっと嬉しそうだよ。
喜びを隠しきれていないよ!
さっきまでの無表情キャラは何処行った!?

あまりに嬉しそうなので、駄目だとは言いにくい。

「王妃にも気分転換は必要だろ?」

王様は優しく微笑んだ。
まるで“主婦にもたまには休みは必要だろう?”って言ってあげる良き夫のようだ。

「陛下っ! フィーリア様良かったですね!」

「えぇ!」

王妃様も嬉しそうだ。
王様も満足げだ。

でも、それは俺のプライドと引き換えだからなっ!?

誰か俺の心からの叫びを聞いて欲しい。

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