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第2章 俺と攻略対象者と、時々悪役令嬢

12話 プライドは崩れ去りました(泣)

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翌日、屋敷に仕立て屋のアンナとシェナがやって来た。
彼女達は姉妹でやっている仕立て屋で、王都で人気をはくしているらしい。
因みにアンナが姉で、シェナが妹だ。

「まぁまぁまぁっ、これはこれはシェナっ!」

アンナが俺を見た瞬間、鼻息荒くにじり寄ってくる。

「えぇ姉さんっ! わかっています!」

シェナも俺を見て、鼻息荒く手をワキワキさせている。
それがひどく不気味だ。

「あの、ちょっ」

俺はじりじりと後ろに後退し、母様の後ろに隠れた。
幼児相手にとる態度ではないだろう。

「すみません、息子が怖がっていますので離れてくれますか?」

母様が注意をして、俺を背にかばう。

普段天然だけど、今日は母様が頼もしく見えるよっ!

「「申し訳ございません!!」」

「あまりに可愛らしかったので!」

「こんな美しい天使を見たのは初めてでしたのでっ!」

と次々に口にした。
双子らしく息があっている。

うーん、このパターン。
なんかやな予感が。

「「是非この服を着て欲しいのです!!」」

声を揃えて言って、荷物から取り出したのは真っ白な……













青いリボンをあしらったフリフリワンピースであった。
しかも背中に羽がついている……所謂、天使のような。

「この服は自信作だったのですが」

「イメージに合うモデルがいなかったのです!」

興奮気味で姉妹は熱く語った。
その熱気は前世で見たあの腐女子に通じるものがある。

……………………え?着ないよ?
そんなキラキラした目で見ても嫌だよ。
俺、男だしね。
プライドってものがあるしね。
絶対嫌だよ。

俺は首を横に振った。

「絶対嫌です。無理です。とっととしまってください!むしろ帰ってください!」

俺は続けて言葉でも断固拒否を示した。
こういった輩にははっきり言うのが1番だ。

「絶対似合うのにっ!?」

「どうしても駄目ですか!?」

「ずぇったい無理です。あり得ません」

姉妹は食い下がってきたが、絶対無理、嫌だと言い放つ。

「ほらよく見てください!」

「最高級のレースとフリルを惜しげもなく使い」

「所々、宝石を散りばめた女の子の憧れ!」

「「どんなに高貴な貴族のお嬢様から、請われても売らなかった逸品ですよっ!!」」

姉妹が諦めずなおも食い下がる。
実にしぶとい根性をしている。

いや知らんし。
というか俺男だし、宝石もレースも興味ないし。
……なんか最近こういうの多くね?
変態が、異常繁殖してんのかな?

最近会うのが、変な輩ばかりな気がする。
俺は埒が明かなそうなので、母様に助けを求める事にした。

「母様、僕は絶対着たくないです。男ですし」

「………………」

「母様?」

返事がない。
というか、肩がふるふる震えている。
何だか嫌な予感がする。

「かあさ「可愛いっ!! すごい可愛いっ!!」」

母様は突然叫んだ。
嫌な予感が的中してしまったようだ。

「そうでしょう、そうでしょう!」

「この服は女の子の憧れを詰め込んだお洋服ですもの!!」

「はいっ! とっても可愛いですっ!!」

母様は姉妹と手を取り合ってはしゃいでいる。

……逃げよう。
ここに味方はいない。

俺は騒いでいる3人をしり目にソロソロと扉に向かった。
だが──

「リュ~ゥ君っ? 何処にいくのかなぁ? まだ終わってないよぉ?」

母様は俺に呼び掛ける。
いつも通り優しい筈の母様の笑みが、今は非常に恐ろしく見えた。

「ちょっ、ちょっとお手洗いに、いっ行こうかと……」

俺は何とか戦線離脱を試みる。
諦めたら、そこで終わりだ。

「さっき行ってたよね? 私も一緒に行こうか?」

母様は俺の逃げ道を潰しにかかる。

「いっいえ、大丈夫です。あっなっなんかお腹が痛くなってきたなー?」

「2日後には王様に会うんだから、もうちょっと我慢しなきゃダメだよ?」

まだ採寸終わってないでしょ?と、母様が俺に徐々に近付いてくる。
俺はジリジリと後退し、背中がドアにぶつかった。
絶体絶命だと思った瞬間、扉が開いた。

「やぁ、おはよう、リュー。遊びに来たよ!」

そこには蕩ける様な微笑みを浮かべた兄様がいた。
神はまだ俺を見捨てていなかったのだと、そうその時思った。

「にっ兄様っ、助けてくださいっ!!」

俺は兄様に助けを求めた。
同じ男の兄様ならきっと助けてくれる筈だと。
俺の気持ちを察してくれる筈だと。

「うん? どうかしたのかな?」

兄様が俺の前に立ち、母様達にたずねた。

「レイ君そこを退いてっ! リュー君にはこの服を着てもらわないと!!」

「この服……?」

兄様が仕立て屋姉妹の持つ、フリフリワンピースを見た。

ゾクゥッ!?
なっ何か、悪寒がっ!?
逃げないとヤバイ!

俺は自分の直感を信じて、そのまま後ろに下がろうとした。

『ガシッ』

「リュー? 何処に行くんだい? 試着、まだだよ?」

逃亡しようとした俺の手を兄様が掴み、黒い微笑みを浮かべた。

「僕は男ですし……き着たくないです」

「ダメだよ? 我が儘を言っては。それに僕も見たいな?」

我が儘じゃねーよ!
あぁ、でもこれ断れないパターン……。

俺は兄様が同じ穴の狢変態である事を、この時思い出した。

「さぁ、戻ろうか?(ニッコリ)」

そうして俺は部屋に連れ戻されました(泣)






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








「「「キャーッ!!可愛いっ!!」」」


「……………………。」

女3人でキャーキャー盛り上がっているのを、俺は死んだ目で見つめる。

「完璧だよっ! まさに天使だ! よく似合ってる!」

「………………。」

そして兄様がはしゃいでいるのを見て、俺はドン引いた。
だってまた鼻血出てるし。
もうキャラ台無しだよ。
俺の中で鼻血キャラになりつつあるよ。

「写真っ、写真を撮らなきゃ‼」

母様が急に叫び始める。
もう俺1人だけ置いてきぼりだ。

「奥様、既にご用意出来てます」

カメラらしき物を取り出すセルバさん。
セルバさんに母様達の暴走を止める気はないらしい。

おぉーい!?
流石出来る執事セルバさん。
でもこれは要らなかった。
ここに味方はいないのか……。

絶望した。
俺は四面楚歌なこの状況に絶望した。

「流石セルバさんっ! ありがとうございます!」

「いえ当然のことです」

当然じゃないよ……。
俺のプライドってものが……。

そしてそれから5時間程撮影会となった。
俺のHPは既に0だ。
あれからあのワンピース以外の様々な服(女物)を、着せ替え人形の如く着せられた。
最後の方は最早何も感じなかった。
慣れって怖いね。

「奥様っ! 今度はこのピンクのワンピースなんてどうです?」

「いや、リューにはこの水色の方が似合うと思う」

「どっちも着てもらえばいいんだよ♪」

もう日が暮れつつあるというのに、まだ続けるらしい。
目が血走ってるよ。

「母様、流石にもうつか」

『ガチャッ』

俺がギブアップを訴えようとした時、扉が開いた。

「帰ったぞ。……まだ採寸が終わってなかったのか?」

扉から出てきたのは、仕事帰りの父様だった。
ナイスタイミング!!
これは天からの助けか!
俺は一縷の望みをかけて、父様に助けを求めた。

「父様!もう限界です。助けてくださいっ!!」

「……リュート?」

父様が俺を驚いた顔で見つめる。

「ヴィンセント様お帰りなさいませ! 今リュー君に似合う服を選んでいるところだったんです!」

母様は上機嫌で父様に言った。

……似合う服って、それ女物だからね!?
外で着たら俺、変態のレッテルを貼られちゃうよ?!

「そうか、だがもう時間も遅い。リュートの体力的にも限界だろう」

「父様!」

流石父様常識的人!
カッコいい!

「……そうですね。リュー君ごめんね、疲れちゃったよね?」

母様はしょんぼりしながらも頷いた。
父様相手に無理に押し通す事は出来ないようだ。

やっと……終わった。

俺はそう思った。
この瞬間までは。

「安心しろ、服は全て私が買い取る。明日またやればいい」

父様ブルータス、お前もかっ!?



そうして、俺は翌日も着せ替え人形になった(泣)

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