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第2章 俺と攻略対象者と、時々悪役令嬢
10話 家族団欒
しおりを挟む兄様と微妙な気分で別れた後、城から帰ってきた父様が俺が焼いたケーキが既にないことを知り非常に残念がった。
……残しとこうとは思ったんだけど、母様1人でほぼ全部食べちゃったんだよね。
まさか全部平らげるとは……胃もたれしないのかな?
前々から薄々感じてはいたが、母様の胃はブラックホールのようだ。
あまりにも父様がしょんぼりしていたので、俺は今度また何か作ろうと心に決めた。
勿論、母様が沢山食べても大丈夫な量を。
「……ところで何か必要なものや欲しいものはないか?」
ショックから立ち直った父様が、俺と母様に尋ねた。
「欲しいものは特にありませんが……リュー君の洋服や靴が新しいのがそろそろ必要になりますね」
「そうか、明日仕立屋をよぼう。セルバ手配を」
「畏まりました」
母様の要望に父様が応え、即座に指示を出した。
「子供って成長するのが早いですね。ほんのちょっと前までこんなに小さかったのに」
「……それは私も見てみたかったな」
父様が俺の頭を撫でる。
少し悲しそうだ。
「これからは見れますよ? 大きくなるのはまだまだこれからですから」
「……そうだな、これからはずっと一緒だ」
「はい!」
母様が笑うと、父様も笑う。
母様はとっても幸せそうだ。
俺も嬉しい。
やはりこの屋敷に来て正解だった。
「リュートは何かないのか?」
「そうですね……では本が読みたいです」
今までは母1人子1人の質素な暮らしで、娯楽品とは無縁であった。
だが、本がどんなに高価でも此処は公爵家だ。
蔵書だけでも数多くある筈だ。
「そんなものでいいのか? 我が家の蔵書は多い。セルバに後で持ってこさせよう。読みたい本があるなら言いなさい」
「ありがとうございます!」
父様は即座に快諾してくれた。
これで上級魔法や、空間魔法も試せるだろう。
「子供なのに無欲だな……そういう所はカミラに似たのか?」
父様が俺の頭を撫でながら言った。
そうであるなら俺も嬉しい。
だが、母様と違って、俺は無欲とかそんなにいいものではないだろう。
興味があるものが、限られているだけだ。
「それと王に謁見することになった。3日後に王宮へ一緒に連れていく」
「謁見ですか?」
問い掛けでなく断定。
3日後に謁見する事は決定事項のようだ。
結構すぐだな。
それだけ魔眼持ちは、国にとって無視出来ない存在ってことなのか。
「あぁ、王様に顔を見せに行くんだ。……謁見用の服を1から作るのは難しいから、出来合いの物を持ってこさせなくてはな」
時間があれば一から作らせるのに残念だと、父様は言ってセルバさんを見やった。
「その様に手配します」
「頼んだ」
セルバさんは俺達に頭を下げると、部屋を退出して行った。
「父様、王様はどんな人ですか?」
母様から寝物語に聞いた話では、人物像が掴めない。
「うむ……そうだな変人? いや豪胆? 思い切りがいいとも言えるな」
俺の質問に、父様が頭を悩ませながら言った。
え?変人?
それって大丈夫なのか?
父様の言葉で、急に謁見が不安になってきた。
「変人、ですか?」
「あぁ、少し変わったところがある、な。カリスマ性や能力はあるが、気分屋というか……少々、回りを振り回すタイプではあるな」
父様は苦笑い気味に答えた。
その口振りから、王様とかなり親密ではないかと感じた。
「仲がいいんですか?」
「あぁ、子供の頃から陛下の将来の側近として長く一緒にいるからな」
幼馴染みってやつか。
兄様も皇太子の親友設定だったし、随分王家と近しいな。
……俺もそうなるのかな?
確か第3王子は俺と1歳差だ。
……けど、そしたらまたリリスに絡まれそうだな。
俺は簡単に予測出来る未来に、少しうんざりした。
「後は私の父と母にも、近いうちに顔を見せに行くことになる。両親は領地の方にいるから、落ち着いたら行こう」
「はい!」
俺は元気よく頷いた。
お祖父様とお祖母様か。
俺や母様のことを嫌がらなければいいけど。
「大丈夫だ。お前達のことは歓迎してくれる。元々私達の結婚に強く反対してたのは、他の親族達だ。父も……今では受け入れている。初孫を見て泣いて喜ぶさ」
俺の考えている事に気付いたのか、父様が安心させるように俺にそう言った。
「そうなんですか?」
「あぁ、最近は会う度にまだ見つけられないのかと何度も言われたよ。母には情けないとばかり叱られたものだ」
母様の質問に父様は苦笑いで答える。
父様にとっても、認めてくれた事は嬉しい事だったのだろう。
そうか……あまり歓迎されてないと思っていたから良かった。
拒絶されるよりも、歓迎されていた方が何倍もいい。
リリスのように取り付く島もないと、態々手を伸ばす気にはなれない。
「奥様が……」
母様は俺以上に驚いているようだ。
けれど、受け入れられた事をとても喜んでいる。
「あぁ、だから顔を見せてやってくれないか?」
「はい、もちろんです!」
母様は涙を滲ませた目で笑った。
俺も会うのが楽しみだ。
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