上 下
12 / 159
第2章 俺と攻略対象者と、時々悪役令嬢

02話 攻略キャラの息子のようです。

しおりを挟む
 
何て事だ。
転生6年目にして、この事実に気づくなんて……
というか、何で乙女ゲームなのだろうか?
俺は全くやったがことない。
……話ちゃんと聞いときゃ良かった。
あんだけベラベラネタバレしてたのに、半分くらいしか聞いてない。
クラスの奴等も皆引いてたし。
むしろ耳栓してたし。
攻略キャラの設定と大まかな流れ位しか分からないな、どうしようか。

何せ、このゲームはドロドロ設定の、人死にが出るゲームなのだ。
展開が把握出来ないなんて、恐怖でしかない。

……腐女子キモいとか思ってて、心の底からごめんなさい。
謝るんで今すぐ攻略本下さい(泣)

俺は後悔して、心の中で少女に謝罪した。

「本当に無事で良かった。ところでカミラ、もしかしてこの子は……」

俺がぐるぐる混乱していると、銀髪イケメンが俺を見て言った。

「はい……私と、貴方の子です。リュー君お父様だよ。ご挨拶してね」

母様が俺のフードを取って、背を前に押す。
だが、俺はそれどころじゃなかった。

父親ってことは……
ヴィンセント・ウェルザック=攻略対象者&攻略対象者の義父=俺の父親、という事だ。

……ヤバくね?
……俺ってモブだよね?
ゲームと関係ない筈だよね?
俺は無関係だよね?
…………でも、ヴィンセントって最愛の人を正妻に殺されるキャラだよな。
それってつまり、母様の事だよな。

無関係でいたいが、決して他人事では済まされない事実が俺に突き刺さる。
母様が死ぬなんて、冗談じゃない。

「はじめまして、私はヴィンセント・ウェルザック。この国の宰相をしている」

「あっはい、初めましてリュートと申します」

慌てて自己紹介を返す。
いけない、今は目の前の相手に集中しなければ。

「とても賢い子だな、6歳かな?」

銀髪イケメン、もとい父親が俺を抱き上げて顔を覗きこんだ。

「はい、つい先日6歳になったばかりです。リュー君は魔法が大好きでとっても頭のいい子なんですよ!」

俺の代わりに母様が応えた。
まるで宝物を披露するように、胸を張っている。

「そうか……。この子の眼は魔眼だな……」

俺の眼を見て父親が言った。

「はい、恐らく公爵家に伝わるものかと……」

「あぁ、左眼の陣は間違いなく我が家に伝わるものだな。右眼は……分からない。が、火の上級魔法を無詠唱で発動させたということは、火属性の固有魔法の可能性が高いな。家は過去に他国の王家や国内の有力な貴族とも縁戚を結んでいる。恐らく隔世遺伝だろう」

「そうですか……」

「公爵家に伝わる陣? それってどんな固有魔法なんですか?」

固有魔法の種類が気になり口を挟んだ。
ずっと気になっていた謎だ。

「あぁ、公爵に伝わるのは雷魔法だ。最後の保有者は私の祖父で固有魔法一つで小国を落としたことで有名だな」

父親がさらりと告げた答えに、俺は一瞬固まる。
想像以上の力だった。

何それ、怖い。
国って……

「どうやって……発動するんですか?」

誤発動しないよう聞いといた方がいいだろう。
うっかり町1つ破壊などしてしまったら、洒落にならない。

「開眼すれば、自然と頭に呪文が浮かぶらしい。魔眼持ちは少ない……この国で確認されてるだけでも10人もいない。最近確認された子は教会の子で7歳位だったか…」

教会の子供で魔眼持ちって……たしか攻略キャラにいたな、そんな感じのキャラ。
しかも7歳とか……てことは俺はヒロインの1歳下か。
……年近いな、シナリオとやらに巻き込まれなきゃいいけど。
俺は身内に被害がなければそれでいい。

「屋敷に帰ろう、カミラ。君達は私が必ず守る」

父親が母様に、手を差し伸べる。

「でも、この子に万が一の事があったら……」

「大丈夫だ。この子が魔眼持ちだったのが、逆に幸いだった。魔眼持ちは貴重だ。どこの国でも守られる。だから魔眼持ちの母親である君に手出しは出来ない。それはこの国で大きな力を持つシュトロベルン公爵でも同じだ。殺すなんて愚行を犯す筈がない」

「私はこの子を政治の道具にするつもりはありませんっ!」

母親は怒りをあらわにして怒鳴った。
それは母様は父親愛する人と別れる事になっても、俺を選ぶということだ。
その事に気付いて、胸が温かくなる。

「私は宰相の位に就いている。ある程度融通はきかせることくらいなら出来る」

「それでも全く制限を受けないということはないはずです!」

父親が冷静に返すのに対し、母様は納得いかないとばかりに引かない。
母様は俺を守ろうとしてくれている。
だから、俺は────

「……行きましょう、母様」

「リュー君……でも」

「いつか言っていたでしょ? 親子3人で暮らしたいって。それに僕も自由に外を歩いてみたいですし。ね? 僕なら大丈夫ですよ」

母様は本当はこの人と一緒にいたいのだ。
母様もこの人を愛しているから。
母様が思ってくれているように、俺も母様には幸せになって欲しいと思う。
それにこそこそ逃げるより、俺が立場を持っていた方が母様は安全かもしれない。
ゲームだと母様はシュトロベルン公爵家に暗殺されるのだ。
力はあればあるほどいい。
母様は俺が絶対に守る。

「ずっと隠しとおすことは出来ない。それこそ一生外に出ない限り難しいだろう。露見した時他国は勿論、様々な勢力から狙われる。ならば今国の保護を受けた方が安全だ」

「でも……」

母様はまだ決心がつかないようだ。
様々な葛藤が心の中にあるのだろう。

「……それに何より私は君達と一緒に暮らしたい」

そう母様に告げるちの目はとても慈愛にみちている。
これなら俺達を利用したりせず、全力で守ってくれるだろう。
……だからといって、俺はまだ認めた訳ではないが。

「……分かりました。お屋敷に戻ります」

「ありがとう。君達のことは私が何に変えても必ず守る」

母様はついに折れて、屋敷に戻ることを決めたようだ。

……それにしても流石ファンディスクとはいえ、攻略対象者なだけあるわ。
キラキラエフェクトが何か見えるし。

「では、行こう。馬車を用意してある」

「はい、ヴィンセント様」

父親が母様に手を差し伸べ、母様がその手取る。
そして、俺達は王都へ向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟
ファンタジー
 なんかよくわからないけど、神さまの不手際で転生する世界を間違えられてしまった僕は、好きなものに生まれ変われることになった。  そのついでに、さまざまなチート能力を提示されるが、どれもチートすぎて、人生が面白く無くなりそうだ。そもそも、人間であることには先の人生で飽きている。  だから、僕は神さまに願った。犬になりたいと。犬になって、犬達と楽しい暮らしをしたい。  チート能力を無理やり授けられ、犬(獣人)になった僕は、世界の運命に、飲み込まれていく。  犬も人間もいない世界で、僕はどうすればいいのだろう……まあ、なんとかなるか……犬がいないのは残念極まりないけど

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...