光と闇

まこ

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第四章 力との闘争

可愛がるって何?

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 草原を後にし、馬に乗ってカントリーへ帰って行ったラリー一家を見送り、家に帰って来たサイキたち。

「家がにぎやかですねぇ~」

 サイキは上機嫌に言うと「さっきと話し方違くね?」と、黒猫はぶっきらぼうに口を開いた。

 サイキに誘われ、断ると思ったが、なぜか反論もすることなくおとなしく着いて来た黒猫。

 ユハンは目を丸くして黒猫を視界に入れており、先程から直視し続けている。真顔で見詰め続けるユハン。妙な視線を無視するかのように、体の掃除をし始めた黒猫は、自分の体をめ始めた。

 子猫はユハンの足に体を擦りつけているが、ユハンは先程のようにでる様子はない。

「ユハン、はい、お水」

 サイキは椅子に黙って座るユハンに、水が入ったコップを渡すと、彼女の向いの席に腰掛けた。

「ずっと見てるね。猫さんの事」

 サイキは、ユハンの目を見ながらやわらかい口調で言った。

「うん。かわいいってどう言う事だろうと思って」

 まるで心ここにあらずと言ったように、上の空で答えるユハン。

 彼女は、シエルたちが猫に抱く感情をいまいち理解できていない様子だった。闇の力を宿すユハンには、生き物をかわいいと思う感情がなく、目の前の対象を攻撃するかしないかと言う選択しか浮かばない。

「ユハンが乱暴な事した時、シエル君が言った事、理解できた?」

 そんなユハンに、サイキは変わらずやわらかい声を響かせた。

「えっと、かわいそうだからしてはいけないって、小さい生き物も、生きてるからって」

 まるでシエルが言った事を組み合わせるかのように、言葉を発するユハン。

「理解できるよ。大丈夫」

 ユハンは、まるで自分に言い聞かせるように、水を飲みながら言った。コップを持つ手は、微かに震えている。

「ユハン」

 サイキは、ひどく優しい声を響かせる。

「あなたの中にある衝動は、おさえる事がとても大変なものなのは、分かってる」

 ユハンの成長を一番近くで見続けているサイキは、ユハンが自分の力と戦い続けている事や、一生懸命周りの価値観を取り入れようと努力している事を十分に分かっていた。

 昔、サイキがユハンに、虫を殺すのを止めさせた時、衝動の発散方法を見失ったユハンは、サイキが寝静まった時間帯に、自分の体を傷付けた事があった。神々の力で、傷付けた体は跡形もなく消え去るため、サイキの目に触れる事はなかったが、彼女はユハンの中で渦巻く闇を感じ取っていた。

 虫を傷付けない。そんな些細ささいな事でさえも、自分の体を引き裂くほど、衝動を止める事は簡単な事ではなかったのだ。今ではもう、自らの体を傷付ける行動をする事はなくなったが、衝動や残酷な思想は持ち続けている。

「…………」

 ユハンは無言で下を向いた。

「ぐす…」

 下を向いたまま涙を流すユハンは、腕を目に当てて肩を揺らした。

「でも、人間と同じように、動物にも感情があるの。痛みもある。苦しみも、家族もいる」

 サイキは、ゆっくりとした口調でやわらかく言う。

「う、うん」

 体が大幅に震え出したユハンは、懸命に声を上げる。

 足元にいた子猫は、驚いて逃げてしまった。ガタガタと震え始めた体は、彼女の内に潜む"何か"が、まるで光の言葉を拒絶しているかのようだった。

「こんなに小さな動物が、大きな人間に心を許す姿は、とても愛おしく尊いもの。それを感じた時、人は、かわいいって表現するんだよ」

 サイキは、迷う事無くとても優しい言葉を震えるユハンに送り続ける。

「かわいい対象の子が喜ぶ事をたくさんしてあげる事を、かわいがるって言うの」

 ゆっくりとした口調で、丁寧に教えるサイキは、ユハンが理解できずにいるものの答えを優しく言い聞かせた。

 そして、少し低い声を出して「傷付けたり、苦しめたりするために、存在しているものでは決してないの」と、続けた。

  腕を目に当てる暗闇の中、降って来るサイキの言葉は、どれほど彼女を苦しめているのだろうか。

「…………」

 ユハンの体の震えが、さらに大きくなった頃、サイキは話すのを止めて、無言で落ち着くのを待っていた。

 もしユハンが抱える衝動が、人を導く灰の衝動だったら、どれほど立派で、周りに尊敬される事だろうか。もしユハンが、光の子であるなら、どれだけ周りに癒やしを運び、自分の全てを信じる事ができるだろうか。闇の子である彼女は、一番過酷な運命を背負った存在なのかもしれない。

「…………」

 震えは徐々に収まって来ているのを確認したサイキは、ゆっくりとした口調で、最後にこう口にした。

「大きくなったら、自分の言葉を見つけようね」

 サイキの言葉を聞いたユハンは、大分落ち着いて来た体の震えを感じながら「うん」とうなずいた。

 黒猫は、そんな二人をただ黙って見ていた。なぜ、攻撃欲求を強く持つ闇の子との暮らしを、素直に了承しておとなしく着いて来たのかという疑問が残る黒猫だが、サイキは何も聞く事はなかった。

「お母さん」

 ユハンは、体の震えを落ち着かせながら、口を開いて小さな声を出す。

 ユハンの声を聞き、ほほ笑みを彼女に送ったサイキは「ん?」と聞き返した。

「シエル、また遊びに来るかな?」

 どうやらユハンは、シエルの前でひどい事をしてしまった事を気にしているよう。

「大丈夫だと思うけどなぁ~。家隣みたいだし?」

 元気なく下を向くユハンに、サイキはいつもの口調で話した。

 ユハンは首をかしげているが、すぐに何の事だか分かったようで、笑みを浮かべ始める。

「さてと!」

 サイキが明るく声を出して、家の隅に置いてある荷物に向かって歩き出した。

「…………」

 ユハンは、サイキの急な行動に目を丸くしている。

「引っ越しだよ~!」

 国中、あらゆる所に住んでいたサイキは、慣れたように荷物を背負い、笑いながら言った。

 引っ越しと言っても、家具や必要品はあらかじめ用意されていた家なため、持って行く自分たちの物は食材や毛布だけだ。

「おいおいおい!!」

 一人で用意し始めたサイキに、堪らず黒猫が口を開いた。

「引っ越しって何だ?今日!?今から!?」

 三本の尻尾を漂わせながら、透き通った声を響かせた黒猫は、驚いたように立ち上がった。



ーーー・・・



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ここまでお読みいただき
ありがとうございましたm(_ _)m
来週の土曜日18時に更新予定です。
今後もお付き合いいただけたら
嬉しいです!宜しくお願いします。

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