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第三章 行く末
土の子の町
しおりを挟むサイキ・ハイレンが闇の子を外に出した事は、数日がたつと、瞬く間にギンフォン国中に広まって行った。
「闇の子が出たか」
ギンフォン国の中で一番大きな町”ギンハン”の代表を務めるサタラー・ミンハは、低い声を出した。
サタラーの部屋にはギンハンのタウンのリーダーたちが集まっており、彼らは闇が外に出たと聞き、サタラーの下へ集まったのだった。
ギンハンには20ものタウンが存在する。20人もの人の前で、中心に立つサタラーは、大きな声を出して続けた。
「しかし、"光の代表"が闇を引き取ったのは、ある意味、幸運だったかもしれませんね」
サタラーは穏やかな口調で言い、タウンの代表たちの顔を眺めた。
「幸運…でしょうか」
タウンのリーダーたちの一人が、眉を顰めたまま呟くように言う。
「光の代表に、手の打ちようがない、と言われる方が、恐ろしい事ですから」
サタラーは、低くも落ち着いた声を響かせた。
先程から彼らが言っている"光の代表"とは、サイキ・ハイレンの事である。
サイキが説得に町を回った際に、彼女が言った言葉は、サタラーが最も恐れていた事の一つであった。ギンハンには神々の子が2人生まれ、その力の成長の早さを目の当たりにして来たサタラーは、神々の力と奇跡の力の両方を持つ闇の子の力を恐ろしく思っていた。
神々の子たちが、無邪気に笑いながら、大きな力を使いこなして行く姿を見ながら、痛感したのだ。彼らの力は、あそこに閉じ込めておける力ではないと。そして、そんな事を思っていた矢先、サイキ・ハイレンが現れた。
『いずれ闇の力は溢れ出すでしょう。炎の力も。人の心を教えておくべきです』
サタラーを真っすぐに見て言う彼女の姿を見て、光の代表が立ち上がった意味を十分に理解したサタラーは、対して抗議することもなく、彼女の提案を了承したのだった。
サイキは、町を去る時に再びサタラーの下を訪れて『もし、万が一の事があったら、よろしくお願いします』と言った。神々の子の2人が暮らす町の長への言葉だと汲み取ったサタラーは『分かりました』と告げたのだった。
「もし、"光の代表"でも抑制出来ない時が来たら」
サタラーは低い声を出す。
ギンハンのラワールタウンのリーダー、ランズ・レイミーと、モントタウンのリーダー、ルイ・ブラッカーの2人の顔を交互に見たサタラーは、「頼みますよ」と呟いた。
「はい」
ルイとランズは静かに返事をする。
二人は神々の子の親だ。
ギンハンの東に位置するラワールタウンのリーダー、ランズ・レイミーの妻は、5年前に"土の力"を宿す赤ん坊を出産した。
ギンハンの北にあるモントタウンのリーダー、ルイ・ブラッカーの妻は、"氷の力"を宿す赤ん坊を出産。
神々の子がギンハンでは2人も産まれたと、当時は大騒ぎになり、町中でお祭り騒ぎだった。
「経過を見守るしかありませんね」
サタラーは皆に言うと、ゆっくりと瞬きをした。タウンのリーダーたちは頷き、彼の家を出るために足を進ませる。ランズとルイもまた、彼らに続いて歩き出す。
リーダーたちはサタラーの家を出て、自分のタウンへ向かうため、それぞれが別々の方向へ馬を走らせていた。ランズとルイも馬に乗ったが、2人だけは同じ方向へ向かっている。
「リキュウが悪さしてなければいいが」
ルイは硬い口調で低い声を出した。
「大丈夫、大丈夫」
ルイの口調とは対照的に、明るい声を響かせたランズは「おまえに似て真面目な子だし」と続けた。
彼らは東に向かって馬を走らせていた。
東には、ランズが住むラワールタウンがある。
馬を走らせながら、ランズは「闇かー」と呟いた。
「まぁ、よかったと思うぞ。結果的に」
彼の声を聞いたルイは、轡を引きながら言う。
「世話すんのが"光の代表"だもんな。いい子に育ってくれりゃー問題ねぇ」
高い声を響かせたランズ。
サイキ・ハイレンが闇の子を外に出して育てる事に、ランズもルイも賛成しているようだった。
神々の子を持つ2人は、子供らが持つ力の大きさを、誰よりも目の当たりにして来た。
ランズ・レイミーの子供、"土の力を宿す子"は、産まれた日は大地を揺らし、成長とともに、草木を生やしたり、土を操ったりと、五歳にして多くの事ができるようになっていた。
土の力は、六つの神々の力の中で、力を使い熟すのが一番難しいと言われている。土の力を訓練する者の中で、竜を出現させた者は一人もいないのはそのためだ。雷や水、炎や風、そして氷のように、操る対象か一つである能力に対し、土の力は土の他に、草や木、そして大地その物を動かす力もあるため、他の能力よりも多彩に操れる技術を身につけなければならないのである。
土の力を宿す子供は、ほかの神々の子たちよりも、能力の習得が遅いように見える。それは、土の力は使うのが非常に難しいものであるからだ。
馬を走らせてから大分時間がたった頃、ランズの住んでいるタウン、ラワールタウンが見えて来た。ラワールタウンは、土の子の多彩な能力によって、タウンの雰囲気は大きく変わっていた。隣の別のタウンは普通に家が並ぶ中、ラワールタウンでは大きな木が何本も立ち、遠くから見ると、ギンハンに1カ所森ができているかのようだった。
ラワールタウンに入ったランズとルイは、馬を木の作が付いている牧場へ預け、歩き出した。辺りは大きな木が規則正しく立っており、木の下には戸が付いている。上の方には窓があり、外には洗濯物が干されていた。ラワールタウンを埋め尽くす大きな木々たちは、人々が住む家となっているのだ。
土の子が産まれる前は、どれも普通の家だったが、土の子が成長し、力が大きくなるにつれ、木や草が急激に成長し始めた。木でできた家は、枝が多く生え出し、頭上には草を実らせ花を咲かせた。
土の能力のおかげで、作物に恵まれたラワールタウンは、余った食材をギンハン全てに巡らせていた。まだ五歳のため、ギンフォン国中とまでは行かないが、将来、最も期待されている力の一つである。
大きな木を通り過ぎて行くランズとルイ。
「ランズさんこんにちは! ルイさん。遊びにいらしたんですか」
大きな木の前で洗濯物を干している村人が、ランズとルイに話しかけた。
「ハミーさんどーも」
ランズはにっこりと笑って会釈をし、ルイは「えぇ、お邪魔しています」と硬い口調で言った。
「ランズさん!」
別の木の、家の窓から顔を出した男が、ランズたちに向かって声を上げた。
「ルイさん大変だなー。遊びに来たらすぐサタラーさんに呼び出しだもんな」
窓から顔を覗かせた男に、苦笑して答えたランズと「まぁ、でも、リキュウを預けられてよかったです」と返すルイ。
ルイの言葉に、村人たちは切ない表情を浮かべた。2人は小さく会釈し、彼らを通り過ぎてランズの家へ向かう。
「お帰りなさい」
大きな木の前で子供たちと戯れる一人の女性が、彼らの帰りを迎え入れた。
彼女は、ランズ・レイミーの妻、そして土の子の母親、マリーだ。マリーが言葉を発したら、彼女の足元でしゃがんでいた小さな男の子2人が、ランズとルイの方へ振り向いた。2人の子供は目を大きく開けてランズとルイを見た。
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