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第二章 光の子と闇の子
彼女の目的
しおりを挟むカイムの家へ訪れたサイキ・ハイレンは、部屋の中を彼方此方見て「奇麗な家ですねぇ」と口にした。
「いいえ、そんな事」
苦笑しながらコップに入れた水を人数分テーブルに置き、ラムはカイムの横に静かに座った。サイキの真向かいに座るカイムは、シエルを膝の上に乗せている。空中に漂うカミナリはカイムの頭の上に浮いていた。
「金の竜はカイムさんの竜かな? ここまで大きくするとはすごいですなぁ」
目を丸くして竜を見るサイキ。
「おいおい、さっさと本題に入りやがれ」
子供のような幼い声を響かせたカミナリは、相変わらずの口調でサイキに言うと「カミナリちゃんだめだよ怒っちゃ」とやわらかい口調でラムに注意されていた。
「わかったよ」
ラムの言う事は聞くようで、素直に返事するカミナリ。
「サイキさん」
真面目な声を響かせたのはカイムだ。カイムはサイキを見ながら、単刀直入に聞いた。
「先ほどのシエルの発言は」
「う~ん核心を持った事は言えませんが、灰の子は天才ですからねぇ。”全て”を分かっているかもしれませんねぇ」
涼しい顔をして言うサイキ。
「全て、ですか」
カイムは呟くように口にし、膝の上でおとなしくしているシエルを見た。
「…………」
一瞬の沈黙を保った辺りに空気を察し、ラムは「シエル、ご飯を探しに行こうか」と椅子から立ち上がりながら言った。
「うん!」
ラムに元気よく返事したシエルは、父親の膝から降りると、ラムの手を握って外に出て行く。ふたりが外に出て行くのを見たサイキは「空気が読める奥さんですねぇ。さすがです」と、目を丸くして言った。
「先ほどの全てとは何ですか」
カイムは真面目な口調でサイキに言う。
「…………」
サイキは暫しの沈黙を守ると、堪らずカミナリが幼い声を響かせた。
「全てなんて把握してねぇよ! シエルが分かっているのは、漠然《ばくぜん》とした予感だけだ」
「予感?」
サイキはようやく口を開き、部屋を漂う黄金の竜を見詰めた。
「そうだ。奇跡の力を授かった子は、他の奇跡の子が近くにいると、なんとなくお互いの状況を把握できるんだ。600年前に生きていた奇跡の子のたちもそうだった」
目を見開くサイキは「なんと!」と声を出した。
「シエルはなんとなくだけど分かってるんだ。暗闇で過ごし続ける奇跡の子の存在がいる事をな」
竜は、カイムの、頭の上へ戻って来ると、静かに言った。
「…………闇の子…か」
カイムは苦しそうに声を絞り出す。かつて、闇の子が幽閉された日の事を思い出したかのように、カイムは眉を顰めて下を向いた。
黄金の竜からカイムに視線を変えたサイキは、下を向いてしまったカイムに「大丈夫ですか?」と声をかける。
「えぇ、すみません」
カイムは呟き、目線は下に下げたまま、顔だけ上げた。まるで、目の前の大きな光から、目を逸らすかのように。
「皆そうですよ」
サイキは、涼しい顔をして笑顔で言った。
あまりにも涼しげに口にしたサイキをようやく視界に入れたカイムは、不意を突かれたように「はい?」と声を上げた。
「闇の子について話をすると、皆、目を逸らします」
まるでカイムを宥めるかのように優しい口調で言う彼女は、彼から目線を逸さず、真っすぐにカイムを見ていた。
闇の子の事を話す人は皆、深刻そうな顔をして眉を顰め、声を低くする。カイムや竜もまた、そういう人たちを、今まで、たくさん見て来たが、目の前にいるサイキ・ハイレンと言う女性は、とても穏やかなほほ笑みを浮かべていた。
「…………」
カイムと金色の竜は、彼女を見ながら口を閉ざす。
シエルが闇の子の状況を把握していると発言したカミナリだったが、なぜ灰の子がサイキに泣きながら訴えたのかと言う疑問を口にする事はなかった。
光の代表が、灰の子を見に来た、それだけで来た訳ではないと、カイムもカミナリも確信したからだろうか。辺りは無言の空気に包まれた。
彼らは無言の時間を過ごしながら、まるで時が止まったかのように両者とも動かなかった。宙を漂うカミナリも、口を開く様子もなく、カイムもまた、サイキを視界に入れながら固まっている。
二人と対照的に、涼しげにほほ笑むサイキ・ハイレン。だが、彼女の表情から、徐々にほほ笑みが消えて行き、真顔でカイムを見詰めたその時、黄金の竜と灰の父親は、次に彼女が口にする発言は本題が来ると確信するのだった。
彼らもまた、真面目な顔をして彼女を見詰め返す。
サイキは、先ほどの穏やかな口調とは反対に、はっきりとした物言いで言った。
「私は、闇の子を外に出すために来ました」
目を丸くしたカイムと「なんだって!?」と声を出したカミナリ。
闇の子について話しをされると確信していた二人だったが、あまりにも単刀直入に言ったサイキの発言は予想外だったようだ。
驚いたように声を上げたカミナリに続いて「あの決定は…ギンフォン国中の長が集まり決定した事で……いくらあなたでも」と、混乱しているかのように、声を絞り出すカイム。
「えぇ、ギンフォン国中の長を説得するのは大変でした」
そんな二人とは対照的に、苦笑しながら言うサイキは、目を見開くカイムを見つめながら頭に手を置いて髪を掴んだ。
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