3 / 57
第一章 誕生
6つの泣き声
しおりを挟むエフティヒア国で光の子が泣き声を上げたと同時に、はるか遠くでは6つもの泣き声が響き渡っていた。
名もない国がある。地図上には存在しない国が。そこは大きな島国であったが、文明も発展しておらず、荒れ果てた地では食べ物も少ない。人口が増えすぎて食べ物が追い付かなくなったようだが、彼らは一体どこから来たのか。
人々は、日夜食べ物を探して歩き回り、少ない食材を懸命に見つける日々を送っていた。
そんな貧しい国、ギンフォン国に、六つもの泣き声が響き渡る。それは、光の子が泣いたのと、ほぼ同時だった。
ギンフォン国の、ある村では、一つの木の家に多くの人集りができていた。家の中では、赤ん坊を抱いている妻と、隣で目を丸くしている夫がいる。
大きく口を開けて泣いてる赤ん坊は、灰色の空気を身にまとっていた。
「オギャア、オギャア」
かわいらしい音色を奏でるたびに、部屋の台所の水が、あふれ出す。
「なんてことだ。この子は……」
震える手で赤ん坊を大切そうになでる夫は「灰の子だ! 水の神の力も持ってるぞ」と、目に涙をためて、歓喜の声を上げた。
静かに見守っていた周りにいる人たちは、慌てて部屋の外へ駆け出し、夫と同じく大声を上げる。
「ラリーさんの家で! 灰の子だ! 産まれた! 産まれたぞ! しかも、水の神の力を宿す子供だ!」
急に部屋から出て来て、大声をあげた男に、辺りは驚いた顔をしていたが、彼の話を聞いた瞬間、集まっていた人たちは、感激の声を上げた。
「灰の子ですって!」
「えぇ! すごい! まさかギンフォン国に奇跡の子が産まれるなんて!」
「えぇ! 水も! 水の神も!」
「こんなことってあるか!?」
それぞれ興奮して話す様は、お祭りでもしているかのようににぎやかだった。
祝福されし灰の子。
赤ん坊は周りからラリーと呼ばれた母に抱かれながら、元気よく泣いていた。
この世界には、二種類の大きな力が存在していた。それは、奇跡の力と呼ばれるものと、神々の力と呼ばれる二つの力である。奇跡の力は、光、灰、闇の三つの力に分かれている。そして、そのいずれかは、皆の身に宿っているものだ。神々の力は、火、水、土、電気、風、氷の、六つの力。自然と身につく奇跡の力とは違い、神々の力は訓練で習得する力。
光の力を宿す者が多い国は、病気や、事故、事件での死亡率が極端に少ないとされているほど、身を守る力が長けている力。そして、灰の力は、身を守る力と、攻撃性を兼ね備えた力を持つ。攻撃の力も使える灰の力を身につけた者は、光とは別の教育を受け、道徳を徹底的に学ばされる。
500年に一度、力が宿って産まれて来る赤ん坊がいた。大きすぎる力は、産まれた瞬間から光ならば光を放ち、灰ならば灰色を外に放つ。
600年前に産まれた光と灰の力を宿した赤ん坊も、ほぼ同じ時代に産まれたと言われていた。彼らは、光の子、灰の子、あるいは奇跡の子と呼ばれた。
全ての人たちが宿す力。奇跡の力。そして、その奇跡の力には、光と灰のほかに、もう一つの力が存在する。
「大変だ!」
灰の子を産み、周りから祝福を受けていたラリー夫婦の元に、血相を変えた一人の男の声が飛び込んで来た。
家に飛び込んで来た男は、ラリー家の父親よりも、若く見える青年だった。もともと細い目は、目付きが悪く見えるが、決して睨んでいる訳ではない。
「…………」
歓喜に満ちていた辺りの空気は、青年のただならぬ形相によって人々の笑顔を強張らせた。
「なんだよヤン、そんな顔して。ラリーさんの所に灰の子が産まれたんだ。祝杯だぞ。おまえも参加しないか」
息を切らして目を見開くヤンと呼んだ年老いた老人は、優しく言った。
灰の子が産まれたと聞いたと同時に、ヤンと呼ばれた青年は、ラリー夫婦に目を向けるが、相変わらず彼の形相は変わらなかった。
「灰の子も産まれただと……」
ヤンは呟くように言い、もともと細い目をむりやり見開かせて、目を泳がせた。
「ちょっと、何があったって言うの」
戸惑うように声をかけた女性。
ヤンは、ラリー夫婦が抱く赤ん坊を見ながら、息を吸い込むように肩を上げて「ラリーさん、その子を大切に育てるんだ」と、低い声を響かせた。
そして、次の瞬間の言葉を持って。
「炎の力を持った闇が産まれた。闇の子の誕生だ…」
辺りの時は止まった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる