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23話:吉報と会話

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    その頃、園田一花は不安を抱えながらも岡本晃司の帰還を信じ、
    その報を待っていた。

園田一花「・・先輩、ご無事なら今頃帰還していると思うんだけど・・」
       
    一花は心の中でつぶやいた。

永野修身「どうしたね園田君、そんなに心配かね?」

一花「それはやはり。でも私は信じてますから。
   岡本先輩ならきっと成し遂げて帰ってきます」

永野「私は別に岡本君のこととは言っておらんがのう」

一花「え、総長閣下、おからかいにならないでくださいよ」

永野「ふふ」

一花「でも総長、史実通りですね。総長は私たちの歴史では、
   開戦後は軍令部の実質上の仕事は、伊藤整一軍令部次長以下の方々に、
   連合艦隊の方は、山本五十六司令長官に任せて、ご自身は、もっぱら
   戦死者の墓碑銘を書く日が多かったと言われていますから」

永野「後世でも私はやっぱりそう言われているか。あの二人は、
   よく現状を把握しているからな」

一花「総長がご洞察された通り、今後、より山本五十六司令長官は
   ご自身のお考えで、独自に行動されるかと思います」

永野「そうだな。そういえば、岡本君も言っていたな、君は歴史特に戦史に
   ついては相当に明るいと」

一花「私の場合は単に暗記するのが少々得手につくだけです。
   でも総長、総長が私を伊藤次長につけなかったのは、
   私が女だからですよね」

永野「こう言うてはなんだが、大日本帝国では女の軍人はおらん。
   私の命令と言っても、そうそう特例を常に認めさせるわけにも
   いかんのだ」

一花「ええ、わかります。ただ総長は年齢、身分、性別等を
   分け隔てなく、考えられる方と史実ではあります。
   今日までの短い間ですが、それが良く分かりました。
   しかし皆さんそういうわけでは、ないですものね」

永野「日本も差別はないが米国では、性別などでは殊更区別しないのだよ。
   私は米国にしばらくいてね、本来ならずっと米国に住み続けたいとも
   思っておるくらいなのだ」

一花「ええ総長。それも未来では有名ですよ」

永野「そうか、まあ私ほどではなくても、山本長官なんかも米国に
   在住経験があるし、その点は、私に近く、岡本君なんかも
   年齢や階級等を、あまり気にせず働けるかと思うよ」
 
一花「先輩なら今回も無事成功し、きっと今の日本をいい方向へ、
   向かわせてくれると信じています。
   でも私は今は待つだけ、何かしなければと焦る毎日です」

永野「君には岡本君同様、いやそれ以上に今から言うと先見の明が
   あるだろう。
   少なくとも前線にはでなくとも、私にそれを享受(きょうじゅ)
   してもらえれば何とか、出来るだけのことはするつもりだ」

一花「では総長、AL作戦について提案があります。お聞きいただけますか?」

永野「AL作戦?」

一花「はい。今から数か月後、日本海軍連合艦隊は、アリューシャン方面へ
   艦隊を展開することになります。
   それについてです。それまでの未来での史実についても
   お話し致します。
   今から話します、この史実に関しては、今の段階では私と岡本先輩以外
   永野総長だけしか知らず、同作戦が終了するまでは、他の一切の方に
   内密になさるよう、岡本先輩からも言われておりますので、
   その点ご留意下さい」

永野「分かった、聞こう」

    一花はこれから数か月先までの史実を含め、晃司の話を
    交える形でAL作戦について永野に提案した。

永野「ふむぅ、それでそれに君も出兵すると?」

一花「はい総長」

永野「となると作戦実行前に、一度君を山本長官に会わせておいた
   ほうがいいな。
   今回岡本君が成功した場合、作戦内容が内容だけに暗号が解読
   されているとなると、誰かじきじきに、彼の昇格の辞令を、
   通達する人間を使わさねばならない。
   その役を兼ねて君を派遣しよう。そのとき山本長官に会うといい」

一花「わかりました。ご配慮ありがたく頂戴したく存じ上げます」

    そこへ、二人の将校が現れた。
    長田仁志中尉と、加古川小成少尉であった。

長田仁志「永野総長、長田中尉、加古川少尉、作戦成功につき帰還の
     ご報告と、それらにつき書面をお持ちしました」

永野「おお二人ともよく戻った。岡本君も無事成功して戻ったわけだな」

    一花は嬉しさのあまり、声をあげそうになったが、
    じっとこらえた。

長田「はい永野総長、つきましてこの二通の書面をお読みください」

    フーヴァーの書面と山本の嘆願文を永野は読み上げた。

長田「ただいまもどりました園田さん。岡本さんは無事帰還されました」
   
加古川小成「岡本さんは私たちに、それを園田さんに伝えるよう頼まれ
      ましたので、ご報告します」

一花「ありがとうございます。長田さん、加古川さん」

長田「はい、園田さん。岡本さんの手腕はすごいものでした。
   通訳していて、鳥肌がたちましたよ」

    一花は、安堵(あんど)と嬉しさの気持ちとともに、
    胸にしっかりと感じるものがあった。
    晃司に対する絶対的な信用であった。

永野「これは間違いなくフーヴァー直筆の書面だ。山本長官からの
   嘆願も承知した。
   園田君、君は少尉に昇格だ。
   理由は今回の岡本君の作戦、H作戦に対する情報の提供だ。
   山本長官の嘆願書に、岡本君の直筆の印もある」

一花「私が少尉にですか?情報提供といっても普通に先輩と
   会話しただけで殊更(ことさら)今回の作戦についてはなにも
   してませんよ」

永野「岡本君がその方が君たちにとって、何かと都合がいいと
   配慮した結果だろう。
   彼のためにも素直に受理しておきなさい」

一花「わかりました総長。ありがたく受け取っておきます」

永野「正式な辞令は岡本君の中尉昇格とともに文面にておいて、後程手渡す。
   岡本君のところへ持っていきなさい」

一花「はい総長ご命令通り致します」

永野「長田中尉と加古川少尉の大尉、中尉昇進の件も私から参謀本部の方へ、
   強く推しておく。
   今夜は陸軍海軍分け隔てなく、ゆっくり語ろうではないか」

長田「はいありがとうございます、永野総長」

加古川「ありがとうございます、永野総長」

永野「岡本君とフーヴァーの話を、是非聞きたいものだ」

一花「総長、恐らく先輩はフーヴァー所長に、戦後の世界の共産主義の台頭、
   更に熱核兵器による人類滅亡の危機を説いて説得したと思います」
 
    長田と加古川が顔を見合わせ驚いた。

加古川「園田さんの考えはまるで岡本さんの考えの生き写しの様です」

長田「そりゃそうだろうな、加古川少尉。この人たちは未来人なんだ」

    一花は少し照れくさくおもってしまった。

永野「そうだったのか?君たち」

長田「はい永野総長。園田さんの言う通り岡本さんは予言者という形で、
   戦後の政治等の主義主張による世界像でほぼ説得し、
   未来の軍事兵器による人類滅亡の危機を訴えて、
   フーヴァー所長との最終的な提携に成功しました」

永野「うむ是非とも、両方とも具体的に、聞きたいものだな」

      長田と加古川は、晃司がフーヴァーに語った内容を詳細に、
      永野に話した。

永野「なんと、未来にはそんなことがあるのか?園田君」

一花「はい。戦後ソ連が一番得をし、共産主義は世界へその勢力を広め、
   ながらく未来はソ連とアメリカの二大大国の冷戦状態を経て、
   冷戦は終わりを告げ、ソ連は崩壊し、アメリカが世界最強の大国と
   なります」

永野「うーん、この戦争後の共産主義の台頭か。
   それもあるが核兵器というのはどういうものなのかな?」
 
    一花は3人に核エネルギーの兵器利用と平和利用について
    知る限りを話した。

永野「難しい内容だのう。それにしても人類滅亡どころか
   地上のほぼあらゆる動植物の滅亡とはな」

一花「核エネルギーの物理現象については専門的なことは、私たちのいた
   日本でも、成人してからも勉強しなければなりません。
   私は物理学の専攻ではなく、一般教養や雑学でしかわからないので、
   あまり専門的なことはわかりませんが、未来では私が生まれるより
   ずっと前から、核戦争による人類滅亡の警鐘(けいしょう)は鳴ら
   されてきたと言われています。
   人類は、エネルギーや科学技術を平和利用したいわけですが、
   政治的にも、経済的にも、更には技術的にも、どうしても兵器利用は
   なされてしまいます。
   これらの事によって、人類等にとってこの惑星のことを、未来では
   宇宙船地球号という形で、アームストロング船長が唱えるわけですが、
   この辺りにまつわることも、この時代に来てから、岡本先輩ともお話し
   させてもらいました。
   私もそうかとは思いますが、例えば、特に岡本先輩等は、
   こういう意見をおもちです。
   この地球にいる限り、この核兵器が実際使用されれば人類は
   滅亡するわけで、その点からも人類はその生存圏を、宇宙へ広げる
   必要性が出てくる、と考えています。
   これなら核兵器やそれ以上のエネルギー反応の兵器ができても、
   人類は滅亡しません。更には、非戦闘員への故意の殺傷もほぼ
   無くなりますよね」

     ニール・オールデン・アームストロングとは、
     アメリカ合衆国の海軍飛行士、テスト・パイロット、
     宇宙飛行士、大学教授である。
     人類で初めて月面に降り立った人物として著名である。

永野「いやはや半世紀もしないうちに、軍事面ではそんな課題が
   持ち上げられるとはな」

一花「でも、私も何の理由かわからないにせずとも、この時代に
   転移してきた以上、今直面している状況で、事にあたらなければ
   なりません。
   岡本先輩と私は協力して、この時代の日本を守る決意をしました。
   皆さんどうか力を合わせて頑張りましょう」

長田「そうですね、私達も陸軍の立場ですが、このお国のために
   全力を尽くします。
   どうか一緒に戦いましょう」
  
加古川「私も長田中尉と同じく、このお国のために全身全霊
    頑張る所存です」

永野「そうだな、私も年を取ったとはいえ、現役の軍人だ、
   出来ることはしなければならんな。
   まあ今晩は3人ともゆっくり休んでくれ。
   明日朝から、3人には出立してもらう」

    夜も更け、話は終わりそして朝を迎えた。

永野「これが岡本君と園田君の、正式な辞令だ、園田君、頼んだよ。
   長田中尉、加古川少尉、いや大尉と中尉と呼ぶべきかな
   参謀本部の方には連絡はしておいた。
   君たちの今後の健闘を祈る。
   では3人とも出立したまえ」
 
一花「では総長、行って参ります。ご配慮ありがとうございます」

長田「永野総長、色々ありがとうございました。
   我々、今後も任に励みたいと存じます」

加古川「永野総長、私からも、色々お世話になりました。
    これは内密にお願い致しますが、我々は、皇道派につく模索を
    しておりますので、海軍との懸け橋になれればと思います。
    何かあったら私たちをまたご利用下さい」

永野「そうかわかった。それでは諸君らの健闘を祈る」

    一花は深くお辞儀をし、3人は敬礼をして別れた。
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