後宮の調達人

弥生

文字の大きさ
上 下
2 / 12

2.調達人、鬼と遭遇する 承

しおりを挟む

 さて、門番の言っていた、文官に襲い掛かる鬼とやらをどうにかするために、東門に向かって歩き始めたは良いものの……。

「地味に……遠い……」
 てちてちてちと歩いていくが、中々たどり着かない。
 なんて構造をしているんだ。広すぎるぞ外堀。
 ……いや皇帝のいる宮殿だから仕方がないのか。けっ。

 やっと東門のところまでやってくることができた。
 みると門番と文官が何やら話をしているようだ。

「だから本当なんだって! 本当に、鬼が……鬼が居たんだ!!」
「何度も言うように、橋には何度か調査しに行っている。あれだろう。柳すら幽霊に見立てるような見間違いなんじゃないのか? 文官ってのは皆想像力が豊かだそうだからな」
「あれは本当に人外の異形で……! それに知恵があるのか文官が退勤する夕方、暮れの時刻を狙っているんだ! あんたたちは出入りの多いこの時間帯は門から離れないだろう? もう一度、この時刻に調査してきてくれ!」
「五月蠅い五月蠅い! 仕事の邪魔だ!」
「頼むよ、仕事に支障が出ているんだ! 怯えて宮に泊まる者も出てきている!」
「おいそこの者! 入る時には札が必要だ!紛れて入ろうとするな! しっしっこの時刻は忙しいんだ。お前たちの与太話に付き合っている暇はない!」

 なるほど、確かにこれでは話に聞いてもらえない様子だ。
 追い払われて意気消沈としている文官にてててっと近寄ると、話を聞き出すことにした。

「お困りですか?」
「おや、小さいお嬢ちゃんかな……。この東門から町に下りるには、すぐそこの橋を渡らないといけないのだけれど、ちょっと困ったことがあってね。お嬢ちゃんは遠回りしても別の道を通った方が良いよ」
「あの、少しだけ聞こえてしまったのですが、鬼が……なんとか……」
「……聞こえてしまったのかい。怖がらせるつもりはないのだけどね、その……巨大な鬼が出没してね……襲い掛かるんだ」

 もう少しだけ情報を集めることにする。どういう風に聞けば答えてくれるかな。

「あの……文官のおじさんたち大変だね……いつもその時間帯だけなの?」
「いや……その、怖い話だからね。あまり聞かない方が良いよ」
「私、調達人をしている関係で、西門の武官に仲が良い人がいるんだ。茶菓子差し入れた時に相談してみるよ」
 
 文官は迷っていたけれど、東門の頭の固い門番では話が通じないということもあり、教えてくれるみたいだ。

「その……不思議な事に、退勤して町に降りる夕方の時間だけしか現れないんだ。橋を通った相手に大声を掛けながら追いかけまわし、次の者が橋を渡ると、戻ってきてその者が餌食に……」

 とても恐ろしかったのが、文官が震えはじめる。
 ……まぁ、訳も分からず襲い掛かられたら怖いだろうよ……。

「何人ぐらい食べられちゃったの?」
「食べ……いや、いつも橋を渡ろうとする文官を追いかけているが、しばらくすると消えるんだ」
「消える……追いかけるのを諦めるってこと?」
「あぁ……だが、怖くて怖くて……皆胃を壊してしまって……」
「困るよね……」
「一応、心強き者たちは、数人で走って渡ればどうにかなるだろうと追いかけられる事有りきで渡っているよ」
「町に降りられないと大変だもんね。いつからはじまったの?」
「ここ数日かな……別の門から帰ればよいのだけれど、あいにく我々が持っている札は東門のものしかなくてね……」
 町に入るのにも一つ関があり、身分の証明をしなければならない。
 文官が与えられた札は門番に見せるだけで入れるので、別の門を通るよりも時間が短くて済むのだ。

「私はもう懲り懲りだ。時間は掛かっても別の門から町に入ることにするよ」
「おじさん、大変だったね……ちゃんと伝えておくね」
 バイバイっと手を振ると、幸薄く笑って文官はふらふらと大門の方へと向かっていった。

 なんだか意図がよくわからないな。
 鬼は何が目的なんだろう。
 拾い集めた断片を組み合わせて、ここまでの情報を整理する。

 一つ、鬼は夕方、文官の退勤時間に橋に現れる。
 二つ、鬼は文官を追いかけるが、次の文官が橋を渡るとそちらを追いかける。
 三つ、鬼は大声を上げて追いかけはするが、今のところ喰われた者はいない。

 やっぱり、何故がわからない。
 何を目的として、こんな事をしているのだろう。
 とりあえず現場を見てみるかと、とてとてと橋に向かう。
 
 1つだけわかっているのは、現状のところ食われたり、怪我を負わされた人物というのがいないということだ。
 まぁ、追いかけられて怖かったという被害はあるけど、命に別状がないところを見ると、目的は人を害す事ではないという事だ。

「うぉあああああ、助けてくれーーーー!!」
 
 居た。
 居たよ、鬼……。
 橋まで行くと鬼……? らしきものが大声を上げながら、逃げていく文官を追いかけている。

「いや獣の皮を身に着けて、ずだ袋を頭に被った大男が追いかけてきたら、そりゃ逃げるわ」


 うん、確かに。



 これは怖い。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...