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蠱毒綺譚
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※蟲姦
※残酷な描写がございます。
※女、子どもに対しての胸糞表現がございます。
ご注意ください。
代々蠱毒によって生業を行う一族の中で、近々成人の儀式を執り行う家があるそうだ。
そんなに頻繁にあるものでもないし、ひとつ紹介状を書くので立ち会ってみてはどうか。
この界隈の知人からこのような手紙をもらい、私は早速その家に向かうことにした。
古い屋敷の呼び鈴を鳴らせば、小さな蛍がゆらゆらと揺れて案内をしてくれた。
蛍を追っていくと、小さな和室の前でふわりと灯りが消えた。
躊躇いながらも声を掛けて中にはいれば、三十代半ばほどの美貌の男と、十代後半と思わしき美青年が白い装束に身を包み座っていた。
案内が式神の蛍で申し訳ない。貴方が紹介にあった学者先生ですね。
どうぞよくおいでくださいました。
少々目を離すことができず、このような形で失礼します。
美貌の男が頭を下げて非礼を詫びれば、青年も同じく頭を下げた。
なんとも、香り立つような美しさだ。二人は顔立ちが良く似ているので兄弟……いや、親子だろうか。
私は紹介状を取り出しながら、成人の儀式の立会人という稀なる機会を得た事を感謝をして部屋に入った。
そのこじんまりとした部屋には親子と、部屋の真ん中にはブラウン管の古びたディスプレイが置かれていた。
成人の儀式を執り行うのはこちらの美青年だろうか。じっと観察していると、青年が艶やかに笑う。
いいえ、学者先生。僕は数年前に成人しています。今日儀式を執り行うのは弟なのです。
弟……ふっと真ん中のブラウン管を見つめると、白黒の映像が流れているかと思いきや、どうやらそれは監視カメラの映像のようだった。
そこには寝具の上にちょこんと座り、緊張した面持ちの年端もいかぬ麗しい少年が写し出されていた。
はて、まだ幼い子どもにしか見えない。
そう首を傾げていると、父親らしき男が薄く笑った。
蠱毒を扱う我が一族は、精通を経ると成人として認められるのです。下の息子は小柄な上に精通が早かったので、心底不思議と思われるでしょう。しかしご安心ください。これは我が一族が何代にも渡って続けてきた儀式ですので。
はぁ、と気の抜けた返事をして画面に目線を戻すと、少年の部屋の襖が乱暴に開けられた。
部屋の中に入ってきたのは、酷く肥えた巨漢の男だった。
小さな少年はびくりとするとカタカタと震えながら寝具に手をついて頭を下げた。
可愛そうに、怯えた様子である。
思わず立ち上がりかけると、父親が止めた。
お待ちください。あの方も儀式のためにお招きした方なのです。
そう言われて画面を見つめると、巨漢の男は無遠慮に小柄な少年の肩を掴み、その唇に自身のそれを合わせているところだった。
戸惑ったように再び男に目を向けると、真剣な眼差しで画面を見続けていた。
この方は幼児趣味を持つ男で、何度も幼い男児に悪戯をしては、自身の持病を理由に不起訴にされてきた者です。
此度息子の顔写真を付けて、男娼として売り出す前に水揚げをしてもらえないだろうかと手紙を送れば、喜んで引き受けてくれました。
怯える少年が思わず下がるのを巨漢の男は押し倒し、その白い着物を無理矢理脱がそうとする。
音はこちらまで聞こえてこない。けれども、涙を浮かべる少年の口元が動いているので、もしかしたら助けを呼んでいるのかもしれない。
耐え兼ねて目を逸らしても、少年の家族である二人は表情を変えずにただじっとその様を見つめていた。
私も画面に視線を戻せば、巨漢の男は少年に覆い被さり、その小さな穴に酷く立派なものを挿入しようとしていた。
画面からは音は聞こえない。
けれどもかぶりを振る少年の意に反して、男は醜く肥え太った亀頭をそのまだ未成熟な蕾に押し当てると襞を開くように押し入った。
少年の喉が仰け反る。
処女地を分け入り、馴染む間もなく男が腰を打ちつけた。
引き抜くときに粗い為に判別がつかないが、どうやら破瓜の血が白い寝台にぱたたと散り、色を変える。
男は荒々しく、押しつぶすように少年を抱いた。
小さな手が巨漢の男の腕を引っ掻いても微動だにせず、男が腰を進める度に、小さな細い足がぷらぷらと揺れた。
これのどこが成人の儀式だと言うのだろうか。
私が顔をしかめているのを見て、父親が口を開いた。
学者先生、蠱毒の事をどこまでご存じですか?
その問いに、私は知っている知識の中で答えようとした。
数多の毒蟲を一つの壺に入れ、共食いをさせて最後の一匹になるまで続ける呪術。
飢餓を覚えた最後の一匹を使役するものだと。
父親は概ねそうです。と答えた。
朱を塗っていないのに赤く感じられる唇が弧を描く。
我らの一族は壺の代わりに腹を使うのです。
腹……と小さく呟けば、犯される少年から目を話さずに男が話し始めた。
ええ、代々私どもの一族は男の腹で毒蟲を飼うのです。
霊体化させた毒蟲を何匹も直腸の中に入れ、共食いさせます。
一匹だけ残ればまた腹を蟲で満たし、再び最後の一匹になるまで何度も何度も繰り返すのです。
そうしてたっぷり肥え育った一匹の毒蟲が、私たちの使役する蟲毒となるのです。
我らの一族はいにしえの蟲神と契約を結んでおりましてね。
生まれた女児を供物として捧げる代わりに、蟲の毒が我らを害す事はありません。
腹を喰い破る事もなく、力の強いただ一匹の毒蟲を作る事が出来るのですよ。
女児を捧げる……ぞっとするような盟約に私は口元を抑えた。
蟲神は一族の女をとても好まれるので。
もちろん、我が一族の男には毒蟲の血が混ざっておりますので、子を生すとしても女の腹は精々一度しか持ちません。
隣に居る息子は私が精通してすぐに娶った女に産ませましたが、すぐに儚くなってしまったので、下の息子は別の女を孕ませました。
さも当たり前の事の様に美貌の男は一族について語るが、こちらの概念と違い過ぎて何を言って良いのか困惑する。
奥方は、その……貴方がたの血の毒によって儚くなったのか。
そう尋ねれば、男は困ったように微笑した。
一人目は親戚筋の女を娶ったのですが、私の蟲毒が悋気を起こしてしまいましてね。食い殺してしまったのです。
二人目は毒に耐えられずに亡くなってしまいましたが。
悋気……。
そう呟いた時、画面をじっと見つめていた青年が弟の様子が変わった事に気が付いたのか、私に注視するようにと促した。
画面の中の巨漢の男は、少年の腹に種を全て注ぐように、ぐっぐとその身体を押し潰していた。
震えていた少年の足はくたりとしている。
男が引き抜こうとした瞬間、仰け反って少年の身体から離れる。
白黒の為に判断しにくいが、巨漢の男が泣き叫びながら股間を押さえている。
掌を染めるのはどす黒い……おそらく血痕。
男に成す術なく犯されていた少年の下腹部から、見慣れぬ物……いや、この状況では違和を感じるものが見て取れた。
甲殻類の鋏のような何か。
それはずるりと少年の中から這い出てくる。
少年の薄い腹から出るにしてはあまりにも大きな、蠍が生れ落ちた。
その大きな蠍は股間を押さえる巨漢の男に喰らいつくと、それからは一方的な蹂躙が始まっていった。
少年の虚ろな目がそれをじっと見つめている。
あぁ、学者先生、見てください。
私の下の息子の蜜壺は、蠍が最後に残ったようですね。
無事儀式は相成りました。
父親がほっとしたように微笑んだ。
あれが、少年の直腸を壺代わりにして育まれた蟲毒だろうか。
一族の者が蟲毒として使役できるたった一匹の毒蟲は、そのままでは姿を現しません。
最初は、ああやって主を貪る者を使って悋気を起こさせる他ありません。
ほら、蠍はあの男を喰らうよりも千切る事に無心となっているでしょう?
これであの子は安心です。
主に執着する蟲毒ほど、良い守り手……良い仕事の道具になりますからね。
安心するように目を細めて息子の様子を語る父親に、私は得心する。
……なるほど。なぜあのような男に大切な息子の処女をくれてやるのかと思えば……最初から蟲毒の餌にする為だったのか。
妙なところに納得してしまう。
我らの一族はこの腹を使って生業とします。
淫らに誘い、腹に招き入れれば、私たちの可愛い蟲毒が悋気を起こして殺して食べてしまうでしょう。
父親の言葉に頷きかけて、肌が粟立つ。
部屋の中の空気が重くなる。
何かが這いずるような音が……部屋の中からする。
画面の中の少年から目を外して蟲毒を使う二人の男に目を移せば、父親の身体を這う巨大な百足と、青年の身体を這う巨大な蛭のようなものが現体していた。
扇情的に笑む美貌の父親の装束の中にまで執拗にまとわりついているのか、百足が這いずる度にカサカサと音を立てていた。
んっと小さく顔を赤らめて俯いた青年を見れば、腹がぽこぽこと膨らんでいる。
どうやら巨大な蛭は青年の中を犯しているようだ。
おそらく同じように腹まで百足を招いているのだろうが、父親の方は慣れているのか汗一つ流していない。
いや、少しだけ瞳がとろりとしているだろうか。
愛しそうに自身の纏う蠱毒に口付ける。
どうやら新しい蠱毒の気配に、私どもの蠱毒が驚いて出てきたようですね。
蟲毒は主を奪う者に容赦がないので。所有権を誇示したいのでしょう。
私の蟲毒は百足の化生です。隣の長男は毒を持つ蛭の化生を身に宿しています。
あぁ、申し訳ございません。まだ長男はこの生業に付いて浅く、蟲毒が腹を犯す快楽に慣れていない様子で。
少々お目苦しい所がありますが、お気になさらず。
恐らく新しい蟲毒の気配に慣れれば落ち着くと思うのですが。
見れば蛭に犯されている青年は、頬を染めながら、声を堪えるように口を塞いだ。
腹の中を蛭が這いずっているのだろう。
百足と蛭が主の身体の中をぬちぬちと蠢く音だけが部屋に響く。
ふふ、もし貴方様が私どもの身体にご興味を持ってくださるのでしたら、好きにして頂いても構いませんよ。
伽の作法も息子たちには口伝しておりますので、長男でも次男でもお好きに抱いていただいても結構ですよ。
もちろん、薹が立っておりますが、私でも。
ただし……命の保証はいたしませんが。
父親が艶やかに笑った。
恐らく、この一族の者の身体は極上なのだろう。
……その後に蟲毒に食い殺される覚悟があれば。
ふっと画面に目を戻せば、現体したばかりの大蠍が巨漢の男を食い殺した様子だった。
あれだけ大量に画面を染めていた黒い血の跡も、すっかりとなくなっている。
少年は初めて見た自身の蟲毒を愛おしそうに見つめていた。
人を喰らって一回り大きくなった大蠍が、その太い尾針を少年の処女を散らされたばかりのそこに捩じ込む。
人と大蠍の違いはあれど、少年は再び巨体に押し倒されて、腹の中を太い物で埋める。
ただ、先ほどは違って少年は嬉しそうに頬を染めていた。
尾が抜かれると、中に注ぎ込まれた毒液が穴からごぽりと溢れる。
その蜜を中に擦りつけるように再び尾が穴に捩じ込まれる。
大蠍が腹に捩じ込む度に白くて細い脚がゆらゆらと揺れていた。
恐らくこの少年も、部屋の中で蛭に喘がされている青年も、父親と同じように殺す相手を腹に招き、蟲毒に食い殺させるのだろう。
そうして、女を娶り子を生して、次の世代に蟲毒に纏わる術を口伝していく。
同じようにまたこの成人の儀式が繰り返されるのだろう。
父親も長兄も、精通したての弟が性交する前に男に乱暴されないようにと面越しに見守っていた。
そこに人としての慈悲は無かったが、おそらく蟲毒を扱う一族として慈悲深く儀式を見守っていたのだろう。
……私の概念からは外れているが、確かに……この家族にも情はあるのだろう。
蟲毒に嬉しそうに犯される少年を見つめながら、最後に父親に尋ねた。
人ではなく蟲毒に身を捧げる貴方がたは、この行為をどう思っているのだろうかと。
父親は、少し首を傾けて、愛しそうに腹を蠢く蟲毒を撫でながら答えた。
さぁ、幼い頃から腹でこの子を飼っているのです。
当たり前のこと過ぎて、疑問にも思いませんよ。
※残酷な描写がございます。
※女、子どもに対しての胸糞表現がございます。
ご注意ください。
代々蠱毒によって生業を行う一族の中で、近々成人の儀式を執り行う家があるそうだ。
そんなに頻繁にあるものでもないし、ひとつ紹介状を書くので立ち会ってみてはどうか。
この界隈の知人からこのような手紙をもらい、私は早速その家に向かうことにした。
古い屋敷の呼び鈴を鳴らせば、小さな蛍がゆらゆらと揺れて案内をしてくれた。
蛍を追っていくと、小さな和室の前でふわりと灯りが消えた。
躊躇いながらも声を掛けて中にはいれば、三十代半ばほどの美貌の男と、十代後半と思わしき美青年が白い装束に身を包み座っていた。
案内が式神の蛍で申し訳ない。貴方が紹介にあった学者先生ですね。
どうぞよくおいでくださいました。
少々目を離すことができず、このような形で失礼します。
美貌の男が頭を下げて非礼を詫びれば、青年も同じく頭を下げた。
なんとも、香り立つような美しさだ。二人は顔立ちが良く似ているので兄弟……いや、親子だろうか。
私は紹介状を取り出しながら、成人の儀式の立会人という稀なる機会を得た事を感謝をして部屋に入った。
そのこじんまりとした部屋には親子と、部屋の真ん中にはブラウン管の古びたディスプレイが置かれていた。
成人の儀式を執り行うのはこちらの美青年だろうか。じっと観察していると、青年が艶やかに笑う。
いいえ、学者先生。僕は数年前に成人しています。今日儀式を執り行うのは弟なのです。
弟……ふっと真ん中のブラウン管を見つめると、白黒の映像が流れているかと思いきや、どうやらそれは監視カメラの映像のようだった。
そこには寝具の上にちょこんと座り、緊張した面持ちの年端もいかぬ麗しい少年が写し出されていた。
はて、まだ幼い子どもにしか見えない。
そう首を傾げていると、父親らしき男が薄く笑った。
蠱毒を扱う我が一族は、精通を経ると成人として認められるのです。下の息子は小柄な上に精通が早かったので、心底不思議と思われるでしょう。しかしご安心ください。これは我が一族が何代にも渡って続けてきた儀式ですので。
はぁ、と気の抜けた返事をして画面に目線を戻すと、少年の部屋の襖が乱暴に開けられた。
部屋の中に入ってきたのは、酷く肥えた巨漢の男だった。
小さな少年はびくりとするとカタカタと震えながら寝具に手をついて頭を下げた。
可愛そうに、怯えた様子である。
思わず立ち上がりかけると、父親が止めた。
お待ちください。あの方も儀式のためにお招きした方なのです。
そう言われて画面を見つめると、巨漢の男は無遠慮に小柄な少年の肩を掴み、その唇に自身のそれを合わせているところだった。
戸惑ったように再び男に目を向けると、真剣な眼差しで画面を見続けていた。
この方は幼児趣味を持つ男で、何度も幼い男児に悪戯をしては、自身の持病を理由に不起訴にされてきた者です。
此度息子の顔写真を付けて、男娼として売り出す前に水揚げをしてもらえないだろうかと手紙を送れば、喜んで引き受けてくれました。
怯える少年が思わず下がるのを巨漢の男は押し倒し、その白い着物を無理矢理脱がそうとする。
音はこちらまで聞こえてこない。けれども、涙を浮かべる少年の口元が動いているので、もしかしたら助けを呼んでいるのかもしれない。
耐え兼ねて目を逸らしても、少年の家族である二人は表情を変えずにただじっとその様を見つめていた。
私も画面に視線を戻せば、巨漢の男は少年に覆い被さり、その小さな穴に酷く立派なものを挿入しようとしていた。
画面からは音は聞こえない。
けれどもかぶりを振る少年の意に反して、男は醜く肥え太った亀頭をそのまだ未成熟な蕾に押し当てると襞を開くように押し入った。
少年の喉が仰け反る。
処女地を分け入り、馴染む間もなく男が腰を打ちつけた。
引き抜くときに粗い為に判別がつかないが、どうやら破瓜の血が白い寝台にぱたたと散り、色を変える。
男は荒々しく、押しつぶすように少年を抱いた。
小さな手が巨漢の男の腕を引っ掻いても微動だにせず、男が腰を進める度に、小さな細い足がぷらぷらと揺れた。
これのどこが成人の儀式だと言うのだろうか。
私が顔をしかめているのを見て、父親が口を開いた。
学者先生、蠱毒の事をどこまでご存じですか?
その問いに、私は知っている知識の中で答えようとした。
数多の毒蟲を一つの壺に入れ、共食いをさせて最後の一匹になるまで続ける呪術。
飢餓を覚えた最後の一匹を使役するものだと。
父親は概ねそうです。と答えた。
朱を塗っていないのに赤く感じられる唇が弧を描く。
我らの一族は壺の代わりに腹を使うのです。
腹……と小さく呟けば、犯される少年から目を話さずに男が話し始めた。
ええ、代々私どもの一族は男の腹で毒蟲を飼うのです。
霊体化させた毒蟲を何匹も直腸の中に入れ、共食いさせます。
一匹だけ残ればまた腹を蟲で満たし、再び最後の一匹になるまで何度も何度も繰り返すのです。
そうしてたっぷり肥え育った一匹の毒蟲が、私たちの使役する蟲毒となるのです。
我らの一族はいにしえの蟲神と契約を結んでおりましてね。
生まれた女児を供物として捧げる代わりに、蟲の毒が我らを害す事はありません。
腹を喰い破る事もなく、力の強いただ一匹の毒蟲を作る事が出来るのですよ。
女児を捧げる……ぞっとするような盟約に私は口元を抑えた。
蟲神は一族の女をとても好まれるので。
もちろん、我が一族の男には毒蟲の血が混ざっておりますので、子を生すとしても女の腹は精々一度しか持ちません。
隣に居る息子は私が精通してすぐに娶った女に産ませましたが、すぐに儚くなってしまったので、下の息子は別の女を孕ませました。
さも当たり前の事の様に美貌の男は一族について語るが、こちらの概念と違い過ぎて何を言って良いのか困惑する。
奥方は、その……貴方がたの血の毒によって儚くなったのか。
そう尋ねれば、男は困ったように微笑した。
一人目は親戚筋の女を娶ったのですが、私の蟲毒が悋気を起こしてしまいましてね。食い殺してしまったのです。
二人目は毒に耐えられずに亡くなってしまいましたが。
悋気……。
そう呟いた時、画面をじっと見つめていた青年が弟の様子が変わった事に気が付いたのか、私に注視するようにと促した。
画面の中の巨漢の男は、少年の腹に種を全て注ぐように、ぐっぐとその身体を押し潰していた。
震えていた少年の足はくたりとしている。
男が引き抜こうとした瞬間、仰け反って少年の身体から離れる。
白黒の為に判断しにくいが、巨漢の男が泣き叫びながら股間を押さえている。
掌を染めるのはどす黒い……おそらく血痕。
男に成す術なく犯されていた少年の下腹部から、見慣れぬ物……いや、この状況では違和を感じるものが見て取れた。
甲殻類の鋏のような何か。
それはずるりと少年の中から這い出てくる。
少年の薄い腹から出るにしてはあまりにも大きな、蠍が生れ落ちた。
その大きな蠍は股間を押さえる巨漢の男に喰らいつくと、それからは一方的な蹂躙が始まっていった。
少年の虚ろな目がそれをじっと見つめている。
あぁ、学者先生、見てください。
私の下の息子の蜜壺は、蠍が最後に残ったようですね。
無事儀式は相成りました。
父親がほっとしたように微笑んだ。
あれが、少年の直腸を壺代わりにして育まれた蟲毒だろうか。
一族の者が蟲毒として使役できるたった一匹の毒蟲は、そのままでは姿を現しません。
最初は、ああやって主を貪る者を使って悋気を起こさせる他ありません。
ほら、蠍はあの男を喰らうよりも千切る事に無心となっているでしょう?
これであの子は安心です。
主に執着する蟲毒ほど、良い守り手……良い仕事の道具になりますからね。
安心するように目を細めて息子の様子を語る父親に、私は得心する。
……なるほど。なぜあのような男に大切な息子の処女をくれてやるのかと思えば……最初から蟲毒の餌にする為だったのか。
妙なところに納得してしまう。
我らの一族はこの腹を使って生業とします。
淫らに誘い、腹に招き入れれば、私たちの可愛い蟲毒が悋気を起こして殺して食べてしまうでしょう。
父親の言葉に頷きかけて、肌が粟立つ。
部屋の中の空気が重くなる。
何かが這いずるような音が……部屋の中からする。
画面の中の少年から目を外して蟲毒を使う二人の男に目を移せば、父親の身体を這う巨大な百足と、青年の身体を這う巨大な蛭のようなものが現体していた。
扇情的に笑む美貌の父親の装束の中にまで執拗にまとわりついているのか、百足が這いずる度にカサカサと音を立てていた。
んっと小さく顔を赤らめて俯いた青年を見れば、腹がぽこぽこと膨らんでいる。
どうやら巨大な蛭は青年の中を犯しているようだ。
おそらく同じように腹まで百足を招いているのだろうが、父親の方は慣れているのか汗一つ流していない。
いや、少しだけ瞳がとろりとしているだろうか。
愛しそうに自身の纏う蠱毒に口付ける。
どうやら新しい蠱毒の気配に、私どもの蠱毒が驚いて出てきたようですね。
蟲毒は主を奪う者に容赦がないので。所有権を誇示したいのでしょう。
私の蟲毒は百足の化生です。隣の長男は毒を持つ蛭の化生を身に宿しています。
あぁ、申し訳ございません。まだ長男はこの生業に付いて浅く、蟲毒が腹を犯す快楽に慣れていない様子で。
少々お目苦しい所がありますが、お気になさらず。
恐らく新しい蟲毒の気配に慣れれば落ち着くと思うのですが。
見れば蛭に犯されている青年は、頬を染めながら、声を堪えるように口を塞いだ。
腹の中を蛭が這いずっているのだろう。
百足と蛭が主の身体の中をぬちぬちと蠢く音だけが部屋に響く。
ふふ、もし貴方様が私どもの身体にご興味を持ってくださるのでしたら、好きにして頂いても構いませんよ。
伽の作法も息子たちには口伝しておりますので、長男でも次男でもお好きに抱いていただいても結構ですよ。
もちろん、薹が立っておりますが、私でも。
ただし……命の保証はいたしませんが。
父親が艶やかに笑った。
恐らく、この一族の者の身体は極上なのだろう。
……その後に蟲毒に食い殺される覚悟があれば。
ふっと画面に目を戻せば、現体したばかりの大蠍が巨漢の男を食い殺した様子だった。
あれだけ大量に画面を染めていた黒い血の跡も、すっかりとなくなっている。
少年は初めて見た自身の蟲毒を愛おしそうに見つめていた。
人を喰らって一回り大きくなった大蠍が、その太い尾針を少年の処女を散らされたばかりのそこに捩じ込む。
人と大蠍の違いはあれど、少年は再び巨体に押し倒されて、腹の中を太い物で埋める。
ただ、先ほどは違って少年は嬉しそうに頬を染めていた。
尾が抜かれると、中に注ぎ込まれた毒液が穴からごぽりと溢れる。
その蜜を中に擦りつけるように再び尾が穴に捩じ込まれる。
大蠍が腹に捩じ込む度に白くて細い脚がゆらゆらと揺れていた。
恐らくこの少年も、部屋の中で蛭に喘がされている青年も、父親と同じように殺す相手を腹に招き、蟲毒に食い殺させるのだろう。
そうして、女を娶り子を生して、次の世代に蟲毒に纏わる術を口伝していく。
同じようにまたこの成人の儀式が繰り返されるのだろう。
父親も長兄も、精通したての弟が性交する前に男に乱暴されないようにと面越しに見守っていた。
そこに人としての慈悲は無かったが、おそらく蟲毒を扱う一族として慈悲深く儀式を見守っていたのだろう。
……私の概念からは外れているが、確かに……この家族にも情はあるのだろう。
蟲毒に嬉しそうに犯される少年を見つめながら、最後に父親に尋ねた。
人ではなく蟲毒に身を捧げる貴方がたは、この行為をどう思っているのだろうかと。
父親は、少し首を傾けて、愛しそうに腹を蠢く蟲毒を撫でながら答えた。
さぁ、幼い頃から腹でこの子を飼っているのです。
当たり前のこと過ぎて、疑問にも思いませんよ。
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萬里様
わーー!嬉しいです!
攻めた内容すぎて、もしかしたらドン引きされているかも!ってドキドキしていたので、ご感想本当に嬉しくて!
ありがとうございます!
文章美しいっておっしゃっていただけて、とても嬉しくてはしゃいでしまいます。
続きも嬉しくなって書いてみたいと思います✨
ありがとうございます(〃▽〃)