古墳ガール

琉介

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弱小考古学部

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「また発掘旅行に行きたい 今度は西都原に」
野上礼奈は考古学部2年の女子高生だ
楽しくて仕方がないというような表情で言った
ショートカットの明るい感じの女の子だった。

「またですか」

透は歴史人を読みながら言った

「前も言ったじゃないか 野上さん」
「何が」
「発掘旅行は前もって言ってくれないと 旅費とかの関係もあるし」

福田透はあきれながら言った。

放課後の教室 考古学部は相変わらず弱小の文化部で
今年は1年生は居なかった。
2人しか部室に居ない。
野上礼奈と福田透 池上高校の2年生だ。
野上は活動的で友人も多い元気いっぱいの女の子だ。
一方 福田は歴史がずば抜けており日本史世界史の知識に長じていた。

対照的な2人は考古学部に夢を持って入部してきたものの
部長の大堀巧は軽音部の活動で忙しく
他に部員が集まらないまま何となく時間だけが過ぎていった。
最初はそのずば抜けた知識と情熱を持っていた福田透も
最近は部の状況にやる気をなくして他の分野に興味を移していた。
幕末の頃の資料を膨大に集めている。

「でもやっぱり福田君考古学が好きなんでしょ」
「最近は維新の頃が好きなんですけどね 大学は日本史専攻に進もうかと」
「えーそうなの でも考古学の知識半端無いのに」
「というか 歴史全般が好きなんだけどね」
「あーそういえば 歴史の成績トップだったよね」

歴史において福田の知識量は群を抜いていた。古文漢文の成績もトップクラスだ。
「凄いよね 福田君」
礼奈は言った。
「野上さんはもう少し歴史の勉強をした方がいいと思う」
福田は言う。
「何で?」
「この前の日本史の試験 赤点ギリギリだったじゃないですか」
「日本史は苦手なのよ 漢字多いし あれほんとに苦手」

「そんなの考古学部として認められません」
呆れたように福田は言った。そして部室を見回すと
「大堀先輩は相変わらず来ないし 何やってるんだが」

部長の大堀は学校の内外でバンド活動をやっており其の活動で忙しかった。
バンドではボーカルを務めている。
2つのバンドを掛け持ちでやっており
いつも曲作りやレコーディングで忙しく考古学部の活動ではなかった。

「大堀先輩なんか気にしてたら駄目よ」

「そんなもんかなあ」

福田は納得しない。

「大体あの人 考古学なんてどうでもいいんでしょ」

「あらそう? 大堀先輩の父親って考古学の教授でしょ
先輩もそれで頑張ってるのに」

「バンド活動の方が大切なんでしょ あの人」

そういいながらまた福田は歴史人を読み始めた。

部室のドアが開く。男性が現れる。背中にはエレキギターを背負っている。
部長の大堀だった。


「お前ら いいニュースだ」
そういって2人にプリントを渡す。

「来週発掘現場の仕事が入ってきた」

「またですか」
「大体 先輩いかにもミュージシャンを目指してますと言った感じ 考古学と関係ないじゃないですか」
2人は顔を見合わせて溜息をついた

「楽しいだろ 発掘は」

大堀は言うが 地下足袋を履いての炎天下の作業は
苦痛を伴った

「大堀さんはいつも何か言って回避するでしょ」

礼奈は口を膨らませながら言った。

「まあそうだけど受験生だし仕方ないだろ」
「福田後は頼むな」

それだけ言うと大堀は急いで部室を後にした。
「軽音の活動が有るんでしょうねえ」
福田は言う。
「全くなに考えてるんだか」
「大堀先輩って あれだよね 確か専門学校に行くらしいんだよね 音楽系の」

礼奈は言った。
「ヘーバンドマン目指すのか 凄いね」
「今のうちにサイン貰っておこうかな デビューして有名人になったりして」
「野上さん ミーハーですよね いつもは大堀先輩の文句ばっかり言ってるのに
この前の大堀の先輩のライブでは歓声あげてるし」
「だってかっこ良かったんだもん 大堀先輩のライブ」

礼奈は前に行った大堀のライブを思い出していた。
大堀は主に市内のライブハウスで演奏をしている。
高校生だというのに熱狂的なファンを持ち追っかけも多い。
インディーズでデビューの話も有るくらいだ。

「何でこんな地味な部活に居るんだろうねえ 大堀先輩」
「そりゃ 大堀先輩のお父さんって考古学の権威だから。
仕方なく居るんじゃないのかな」

福田は言った。
大堀の父親は帝都大学の文学部で教授を務めている。
考古学の世界ではいくつかの著作も出している。

「そうなんだ 可哀想だね そう考えると
好きな事やらしてあげればいいのに」

礼奈はバンド活動をしている大堀の事は好きだった。
しかし考古学部の部長としてははっきり言って頼りない。
やる気も見当たらなかった。

「大堀先輩がバンド活動するのも大反対してますからねえ 先輩のお父さん」
「そうなの」
「帝都大学教授ともなると色々大変みたいですよ 息子の進路も
色んな面で学閥争いに関わってくるみたいで」

福田は訳知り顔で言った。
「それで考古学部に所属して大学進学を考えてるふりしているんですね
行くつもりは無いのに」

「全く息子の進路くらい好きにさせればいいのに」
礼奈は憤慨していった。

「大体発掘の仕事を持ってくるの大堀先輩のお父さんですよね
行くのは僕ら2人だけど」
福田は溜息をついた。そして大堀が持ってきたプリントを見る。
「また今回も大堀先輩の代わりにいこうか 発掘」
「そうねえ」
「というか野上さんはいつもノリノリだけどね 発掘でも」
「福田君はインドア過ぎるんだよ」

放課後のチャイムが鳴り下校時刻が迫っていた。
福田はやれやれと言った言う風に立ち上がった。
「じゃまた後で連絡するから」


発掘現場は八王子だった。
「何でこんな山の仲間で来ないと行けないんでしょうかね」
福田が言う。年配が多い発掘現場で若いふたりは目立っていた。
「いいじゃないの さ いきましょ」
礼奈は言う。
考古学の発掘現場の人数は30人程だ。
「いやー良く来たねえ」
見ると50代くらいの年配の男性がやってきた。
「あー大堀教授 ごぶたさしています」
福田が言う。
「巧がいつもお世話になっていて あいつなんか夏期講習らしいね
悪いね二人だけ来てもらって」
大堀教授が言った。
二人は顔を見合わせた。大堀先輩は地方にライブに行ってるのを知っていたからだ。
「全くあいつには困ったもんだよ 大学で考古学専攻にするように言ってるのに
中々首を縦に振らないで バンド活動したいとか言い出すし
福田君みたいにもう少し歴史に情熱を注いで欲しいね どうだね最近の活動は」

「最近は邪馬台国研究に嵌っていて西都原に今年は行こうかと」
「それ私がいったんでしょ」
礼奈は横から口を挟む。福田は幕末時代に嵌っていて各地の資料を集めていた。
最近考古学部の活動の中心は礼奈がやっていた。
「いやいいね 西都原か ぜひ行ってもらいたい
何なら旅費は出すよ どうかね」
「本当ですか」
二人は顔を輝かせる。
「その代わりなんだが あいつを連れて行ってくれないか」
「あいつって大堀先輩ですか」
「そうだ 巧を連れて行ってやってくれ 何か最近受験勉強が忙しいのか
顔が青白くてねえ 頼むよ」
二人はまた顔を見合わせる。 大堀の顔が青白いのはレコーディングで
徹夜しているからだ。
「分かりました 先輩にも話しておきます」
大堀教授は顔を輝かせた。
「本当かね ありがとう いやー 君たちみたいな 考古学に興味を持った若者が
たくさん出てきてくれると将来楽しみだね ぜひ調査には色々とサポートさせてくれたまえ
じゃあ また後でね」
大堀教授は上機嫌で発掘現場を去っていった。
「大堀先輩のお父さん可哀想」
礼奈はぽつりと言う。
「親の心子知らずですね」
福田も同調した。


「いやー大変だった」
福田はふらふらになりながら休憩用のテントに入ってきた。
「お疲れ」
礼奈は飲み物を渡す。
「礼奈さん元気だね 相変わらず」
「福田君も読書ばっかりしてないでなんか運動すればいいのに」
「知ってるでしょ僕の体育の成績」
福田は言う。
「知ってるけど もうちょっと頑張ってくれないと 全然作業が進んでないじゃない」

粗掘りと呼ばれる 地面の土を掘る作業が全く進んでいなかった。
発掘現場といっても最初は殆ど土木作業だ。
地面の土を掘る作業と土の運搬が主になる。
体力的にきつい仕事だった。

「何か工事現場で働いてるみたい 礼奈さんはいいよね 草刈りが主だし」
「なに言ってるの 私も土の運搬とかしてるよ」
礼奈は憤慨していった。
「まあ今日は重労働だけど明日以降は少しは楽になるから」
一緒に休んでいた男性が言った。福田はぐったりと頷いた。

「ほら高校生バイト いつまで休んでいるんだ」
テントの外から声がする。
「福田君 呼んでるよ」
福田はふらふらしながら外に出て行った。

「はー疲れた」
帰りのバスの中で福田は呟いた。
「大変だったね」
礼奈は言う。
「まーそうだね というか礼奈さん午後は土木作業もがんがんやってたよね
僕よりも 女性はああいう仕事しなくていいのに」
福田が呆れたように言う。
「だって何か楽しくなっちゃって」
「あんまり無理しなくていいですよ」
「うんわかった」
礼奈は頷いた。

発掘調査は1ヶ月程続くらしく 2人は学校が休みの週末だけ
作業に加わる事にした。
放課後いつものように2人は部室に集まり考古学部の活動を始めた。
そこへ大堀が現れた。
「いやー悪いね お前らだけで発掘のバイトやらせちゃって」
「大堀教授心配してましたよ 先輩 顔が青白いって 後お話が有りました」
「親父のやつなんだって?」
珍しく大堀は他人の話を聞いている。父親には頭が上がらないようだ。
「西都原の調査旅行に参加して欲しいそうです」
「またかったるいなあ 夏のツアーどうするんだよ いや待って空いてる日にち
調べるから」
大堀はだるそうに言った。
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