天地のレストガーデン

keiTO

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短編物語

失愛ロボット

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~あらすじ~

20xx年、人型"アンドロイド"が社会的に復旧している日本。
本来のアンドロイドは社会問題を改善する為に開発されたロボットだが、アンドロイドに対して好意的に感じる人間が増えた事も問題となっている。

主人公の"安木聡"は、30歳になっても独身で孤独な人生を過ごしていた。
高校生の頃に疎遠となった幼馴染の"井上マリー"の想いを未練として残してしまっていた。

安木は、昔の未練を断ち切る為に女性型アンドロイドを購入しようと思っているが、アンドロイドは高価で、最低でも1台50万円もする代物。
安木は買うのを諦めようとした時に、アンドロイド店の店長から密談で18万円の値段のアンドロイドを買い取る交渉を持ち掛けられた。

安木は18万円の女性用アンドロイドを購入する事に決め、自宅でアンドロイドの人格設定を済ませる。
そしてアンドロイドの容姿は、今だに心の中で引きずっている井上マリーの容姿に近づけた。

人間とアンドロイドの奇妙な生活が始まる。



登場人物

安木聡=本作の主人公

マリアン=本作のヒロイン、アンドロイド

井上マリー=本作のキーパーソン

松本=ホストクラブのオーナー

鈴木=安木の友人








=僕の名前は"安木聡"。
この物語は、ダメな男とダメなロボットが屋根の下でダメダメな生活をする、なんだか変なお話。
まず僕が小学生3年生まで遡らなければ、この物語の重要性が分からない。

僕が三年生の2学期の頃、あの"女"が転校しってきた。

アジア人のDNAじゃ、どんなに頑張っても金色にはなれない髪色を持ち、青いダイヤモンドの様に美しく光っている瞳、ファンタジーに出てくるエルフ並の白い肌。

彼女の名前は"井上マリー"

まるで別世界からやってきた、女神の子。
男なら誰しもが虜になり、彼女がどんな罪を犯しても許してしまいたくなる程の美貌の持ち主と少しでも会話したいと願うはず。
転校初日で彼女の席は、人に興味がある群れた狼達に囲まれたおかけで、彼女は新しい環境にすぐに適応できた。

実は僕とマリーは家が近所で、帰り道も一緒だった。
これは大いなる有り難み、他の男達よりも一歩リードできる立ち位置。
つまり僕とマリーは幼馴染の関係にあり、そうなれば家族ぐるみの付き合いや子供同士の遊びもするに決まっている。

多分あの頃の僕が、誰よりも1番マリーと一緒にいた時間多かったと思う。
彼女とは、よく一緒に遊び、よく一緒の時間を過ごしさせてくれた。
おかげで僕は彼女の事を"マリリン"と呼び、マリーは僕の事を"ヤッチャン"と呼ぶ。
他の男は"マリー"だが。

下校の帰り道、マリーのランドセルを持ってあげた。
マリーのお気に入りの靴が汚れた時、僕が磨いて上げた。
夏休みと冬休み、かったるい学校の宿題は自分の分と彼女分も両方終わらせた。
親から貰ったお小遣いで、彼女が欲しいと望んだ"物"を買ってあげる。
貯金箱は0でも、マリーの喜ぶ笑顔を近くで見れるだけで嬉しかった。

僕にとってマリーは特別、僕といる時に嫌な顔はしない、むしろ向こうからデートに誘われた回数が多い、マリーも僕の事を特別に思っていると、あの時はそう思った。

高校は彼女と同じ所を受けた。
本当はもっと上を目指せたけど、高校もマリーと同じ所に入学したかった。

無事彼女と同じ高校に入学、交流は相変わらず続いたが、高校三年生になっても、友達以上恋人未満の関係は脱出出来なかった。

そして高校の頃に出来た、ある"友達"のせいで、マリーと僕は友達以下恋人断絶の関係となってしまう。=


安木・高校3年生

安木・松本・鈴木は、夕方の時間帯、誰もいない教室で恋話をする。
鈴木は眼鏡をかけたガリ勉、松本はアメリカ人の父親を持つ白人の血が流れた混血。
安木は親友の2人に長年、自分が"井上マリー"が好きな事を伝える。


松本「お前なら絶対に"イケる"!」

安木「無理だよ」

松本「絶対にお前ならイケる、だって安木はイケメンで頭も良くて、運動も出来て三軍なんだから!」

安木「三軍なら、なおさら無理だろ」

鈴木「でも多分、井上さん、安木君の事が好
きだと思うよ、だって今だに彼氏がいないんだよ」

松本「そうだよ、お前の事をまってるんだよ!」

安木「まぁ・・・卒業後に告白するよ、それなら保険となるし」

松本「ダメだ! 今いけ、今すぐに行ってこい!」

鈴木「そうだよ、青春を満喫できる内に告白
しないと」

松本「聞いた話じゃ、井上マリーが好きな人
はイニシャル"Y"から始まる名前の人らしいぞ」

鈴木「それって・・・安木しかいないじゃん」

安木「そうともら限らんぞ」


2人は安木を面白がって煽り、そして告白を急かられる。
2人は絶対に振られた事は誰に言わないと言うが、絶対にこの言葉を信用してはいけない。
絶対に周りに言いふらすからだ。

2人に唆され自信が付いた安木は、マリー屋上に呼び出した。


マリー「ヤッチャン、どうしたの?」


安木は遂に新しい扉を開くつもりでいた。


安木「マリリン、俺はキミの事が・・・」

マリー「ごめんなさい!」


マリーは頭を深く下げる。
そして、告白される前に安木のハートは二つに割れた。


マリー「ヤッチャンとは幼馴染だから教える
ね、アタシね、松本君が好きなの?」

安木「⁉︎・・・松本って、アメリカ人のハー
フの?」


マリーは顔を赤くして、照れながら答える。


マリー「うん、同じ白人の血が流れている同
士、なんか惹かれ合う気がするの」

安木「・・・」


安木はまんまと2人に騙された事に気づいた。
安木は、騙して自分を誘導した松本と鈴木をブン殴った。

失恋した安木は、マリーとは気まずい関係になり、高校卒業後に僕は東京の大学に入学。
高校を卒業してから、マリーとは一度も会っていない。
でも、顔に痣を作ってやった松本と鈴木とは地元で和解した。
彼らの関係は長く続いた。



安木"30歳"。

東京の喫茶店のテーブルで、安木・松本・鈴木は頼んだコーヒーを飲む。
どうやら3人とも今は東京で仕事をしている。

鈴木は結婚して、少し年上の妻と6歳の娘と慎ましく幸せに暮らしている。

松本は、高校卒業後は1番苦労を重ね、現在は銀座で一流ホストクラブを経営、かなりの収入を得ている。

安木は30歳になっても独身で、マリー失恋後も恋人は作らず、今でもマリーの事を忘れられずにいた。
東京で勤めている会社は小規模で、安い月給。


3人は久しぶりに会い、高校時代の昔話や現在の心境を話す。


松本「まだ井上マリーの事が好きなのか?」

安木「好き・・・なのかな? 」

鈴木「いいじゃん! プロポーズしろよ!」

松本「鈴木・・・また殴られるぞ」

安木「・・・そもそも、今頃マリーは二枚目の男と結婚して、子供授かってる歳だろ」

松本「・・・もうあの女の事は忘れて、新し
い恋を探せよ」

安木「お前って、マリーの話になるとそんな
事ばっかり言うよな、何なん?」

松本「・・・」

鈴木「松本は、お前の事を心配してるんだ
よ、30歳になっても独身のお前をな」


安木はふと、窓越しから外を見る。
最近、社会問題になっている光景を目にする。


安木「最近、美男美女カップルが増えたよな」


外にはリア充共で溢れていた。

手を繋ぐか腕を組むかで横に並んで歩く。
女の方はアイドル並みの可愛さ、アニメの世界から飛び出してきた美貌だが、男に関しては、運動不足の肥満体・骨と皮しかない眼鏡・中年のサラリーマン。


鈴木「それを言うなら、野獣カップルだろ」

安木「あれどうせ全部"アンドロイド"だろ、少子化は止まらんな」


現代の日本は人間そっくりの人型アンドロイドが復旧しており、購入すれば自分でアンドロイドの設定を決められる。
容姿や人格までも、アンドロイドの仕事は家事と労働だが、リア充を体験できない人間がアンドロイドを好意的に見てしまい、社会問題化している。

鈴木は妻子持ちで、寂しさを紛らわせるアンドロイドは必要としていない。

松本は、職業がホステスなので女には間に合っている。

今1番、アンドロイドを欲しがっているのは安木だった。

しかしアンドロイドは簡単に手に入る代物ではない、何せ1台最低50万円もする。
それだけじゃない、アンドロイドを充電する充電器や、自宅の電気代も大幅にアップする。

アンドロイドを手に入れられるのは、それなりの収入を得た人で、安月給の人間には手に入らない高額な商品。




=この時の僕は、自分が解けない"呪い"にかかっていると思った。
僕はどうしても、この呪いを解きたかった=



安木は買いもせずにアンドロイド店で、アンドロイドの商品を見る。
一台だけで50万円もするし、充電器も買う必要がある。
安木にとってはアンドロイド店に足を運ぶのは、時間の無駄でもあるが、気晴らしになればと、いつも店に寄っていた。

買いもせずにアンドロイド商品を見にくる安木の顔を店員達はインプットしていた。

店員の中には、安木が万引きしないかを監視していたが、中年の店長は安木に狙いを定める。


店長「何かお探しですか?」

安木「・・・いえ、もう諦めました」

店長「諦めた?」

安木「自分の給料じゃアンドロイドは高くて
買えませんので・・・すいません、買いもせずにウロウロして、もう来ない様にします」

店長「お待ちくださいお客様、実はお客様に
ご相談したい事があるのです」

安木「相談?」

店長は周囲を見渡し、人がいない事を確認。
そして安木の耳元に近づき、小声で相談を持ちかける。

店長「もしお客様が内密にしてくれるのな
ら、安い価格でアンドロイドを購入出来ますが、どうしますか?」

安木「!」


その店長は曰く、この店の地下には表で商品として販売できないアンドロイドが何台か放置されている。
そのアンドロイドは旧作で、最新よりも性能は衰えているが、かなりの安い価格で購入が可能らしい。

安木はすぐには購入は決めず、そのアンドロイドを拝見したいと店長に持ちかける。

店長は了承。

2人はエレベーターで地下に降りて、店長は眠っているアンドロイドを見せる。
地下に眠っているアンドロイドは、地上のアンドロイドと違って、やや古臭さを感じる。
このアンドロイド達は、主人の好みな人格や容姿に一度でも設定したら、変更は不可能。

でも安木が1番気になるのは、値段。


店長「お値段は18万円になります」

安木「18万円⁉︎」

店長「充電器を含めれば、合計20万円になります」

安木「安い! 安すぎる!」

店長「ただ返品は出来ませんので、ご了承く
ださい」

安木「買います」


安木はテンション爆上がりの状態で、購入を決定。

それから2日後にアンドロイドが自分の住んでいるマンションに届く。
すぐにアンドロイドを充電する。
それからアンドロイドの人格と容姿をパソコンに繋げて、データ入力して設定する。

これから安木と一緒に住む、アンドロイドの名前は"マリリン"として名付けた。
自分の事は"ヤッチャン"、もしくは"アナタ"。
安木とは夫婦という設定で、職業は専業主婦の甘えん坊。

容姿は、エルフ並みの白い肌・髪の色は金色・青い瞳、想い人の井上マリーに近づけた。

女性用の服を充電しているアンドロイドのそばに置いておく。
1回目の充電は10時間かかる、それまでは仕事場で時間を潰しておく。
家に帰って来る頃には、マリリンは二足歩行で歩き、玄関でお出迎えしてくれる。
 
全ての設定と準備を完了した安木は、家に帰るのを楽しみにして出勤する。





夜8時頃、安木はようやく長い勤務から解放され家の玄関まで到着。
玄関の鍵でドアを開けた時に、ある事を思い出した。

いつも変わらない日常じゃない、今日から自分専用のアンドロイドが夫の帰宅を待ち、出迎えてくれる。

安木は、ゆっくりとドアを開けて、靴を脱がずに玄関で、


安木「ただいまー!」


このセリフは、一人暮らしをしてから一度も言ったことがなかった。

家の中に人は居ないが、人の気配は感じる。
そして、安木のいる玄関に向かってくる足音が聞こえ、足音が大きくなってきた。
アンドロイドの充電が完了し、自己活動して安木の目の前に姿を現す。


マリリン「おかえなさい、アナタ」


安木は驚愕した。
目の前には長年、憧れた女性がエプロン姿で現れ、自分に失恋の黒星を付けたマリーが、今自分の目の前にいる。

だがマリーではない、"マリリン"。
姿や声は似ていても、名前はマリーではない、女性専用アンドロイド"マリリン"。


マリリン「どうしたの、アナタ?」

安木「あっ! すまない・・・ただいま」


安木はとにかく今は冷静さを保ち、夫婦という設定を楽しむ。


マリリン「それじゃあお風呂にする、それと
もご飯にする?」


安木はこの選択肢に少し悩んだが、いつも先にお風呂に入ってる為、"風呂"を洗濯。
カバンを格納する為に自分の部屋に向かう。

安木は自分の部屋で服を脱ぎながら、感激と疑問が浮かび上がった。

まず感激。
人型アンドロイドを見るのは初めてじゃない。
何度も見ている、何度も見ても人間そのものの動きや構造。
違和感はほぼ感じられない、これで18万えんならお買い得だが。

やはり疑問。
いくらなんでも18万円は安すぎる。
一体どれほど性能が劣っているのか、それとも壊れやすくなっているのか、今の所はそうは見えない。
買ってしまった以上、あの店長が言った通り返品はできない。
今はとにかく様子を見る事にしたが、安木の嫌な予感はすぐに的中した。

風呂場からシャワーの水が流れる音と、何かを磨いている物音、"ゴシ、ゴシ、ゴシ"と。
安木は気になり、風呂場に向かった。
風呂場のドアを開けると、マリリンが浴槽に洗剤を掛けて、スポンジで掃除をしていた。


安木「風呂・・・洗ってるの?」

マリリン「うん、そうだよ、最初は風呂がいんでしょ?」

安木「・・・そういう意味だったのね」

安木は誤解した。
お風呂か夕飯か選択肢を迫られたから、てっきり既に用意が終わっていると思っていた。
確かに彼女は、風呂け夕飯か聞いただけで、用意するとは言っていない。


安木「じゃあ・・・お風呂が出来るまで先にご飯にたべるわ」

マリリン「えっ! 待ってよ、今お風呂掃除を始
めたんだから、終わるまで待っててよ」

安木「えっ? ・・・もしかして、夕飯作り終
わってないの?」

マリリン「うん!」

安木「じゃあ何で・・・さっき玄関で風呂か
ご飯か聞いたの?」

マリリン「はっ? どういう事?」

安木「・・・」

マリリン「・・・」

安木「・・・・」

マリリン「・・・・」

安木「・・・・・」

マリリン「・・・・・」


安木とマリリンの脳内はお互いに理解しておらず、"?"マークで溢れていた。
ただ真顔で見つめ合い、なぜの沈黙が続く。
目を合わせ、その目を逸らさず、お互いをじっと見つめる。

マリリン「・・・・・・」

安木「・・・・・・(何なんだ、この沈黙は、
そしていつまで続くんだ)」

彼これ1分も沈黙が続く、これ以上の意思疎通が出来ないやり取りに意味を見出せないと判断した安木から会話を切り出す。


安木「分かりました、じゃあリビングでテレビ待ってます」

マリリン「うん、待ってて!」


リビングのソファーに座り、空腹を紛らわす為にビールを飲み、テレビを観て、料理が出来るのを待つ。

マリリンは台所で料理に奮闘していた。
まな板を敷き、包丁で野菜を高速で切る音が聞こえてくる。
フライパンで何かを炒めている、電子レンジで何かを温めている。
時間を掛けている事から、かなり手の込んだ料理を作ってるぽく、台所にいるマリリンの姿は一流のシェフ並みの働きぶり。
安木の期待は高まる。

そして1時間後、ようやく料理が出来上がり。
出来上がった、料理をお盆に乗せて、マリリンはリビングまで持って行く。

マリリンは安木の手前に、日清食品"どん兵衛・きつねうどん"を振る舞う。


マリリン「どうぞ、召し上がれ」

安木「・・・」


安木は箸を手に持ち、3分クッキングのインスタントうどんを口の中に入れる。


安木「さっき、台所で何を作ってたの?」

マリリン「えっ? きつねうどんだけど?」

安木「嘘・・・だって野菜を切る音とか、な
んかフライパンで料理してなかった?」

マリリン「だからそれは、うどんを作ってた
の」

安木「これって・・・インスタントだよね? 
フライパンは使う必要ないんじゃ・・・」


マリリン「・・・」

安木「・・・」

マリリン「・・・・」

安木「・・・・」

マリリン「・・・・・」

安木「・・・・・」

マリリン「・・・・・・」

安木「・・・・・・(また黙り出した、この沈
黙は彼女の作戦なのか?)」


学校で何かをやらかした生徒が、その事が先生にバレて説教を喰らう時に、先生からの返答が困難な質問を浴びせられた時はとにかく生徒は"黙る"戦法を取る。
というか、この時の"生徒"は吐き出したい言葉を吐き出せず、言葉を詰まらせてしまうのが、正直な本音。


安木「・・・まさか!」


安木は食べるのをやめて、台所を確認する。
すると台所は悲惨な状態になっていた。

床は雑に切ったキャベツが散らばっており、
フライパンは丸こげで、食材も原型をとどめていない程の丸く焼け上がっていた。
そもそも何の食品を使ったかも分からなくなっている。
冷蔵庫を開けると、3日分の食料と同僚から貰った高級プリンが何故か無くなっていた。

アンドロイド"マリリン"は、一体何を作っていたのか?


午後22時

マリリンは、温かい紅茶が入ったティーポットと一個のマグカップをお盆の上に乗せて、リビングまで持ってきた。
マリリンは安木に紅茶を振る舞うかと思ったが、自分の分だった。

まだ数時間しか経っていないが、初の体験であるアンドロイドに今までの経緯を観察して、安木の中で疑問が解けた。


安木「さすが、18万円のアンドロイドだけあ
るな・・・まぁでも家事は自分ですればいいし」


安木はニヤけながら、マリリンの体を舐め回す様に見る。

安木が女性型アンドロイドを購入したのは、野獣カップル達と一緒で、"動機"はただ一つ。

憧れのマリーとは、子供の頃から長い期間、一緒に行動していたが、"軽い'触れ合い程度をする事はあった。
でも、今日は軽くじゃすまない、呪いを断ち切る手段は彼女を屈服させる事。

この時の安木は、まだアンドロイドのポンコツ具合に心は折れておらず、18万円のぼったくりにも気づいていなかった。
後にすぐに気づくが。

安木とマリリンは、リビングのソファーでバラエティー番組を観る。
腹を抱えて爆笑するマリリンは、まるで女の品格は無駄を感じさせて、足をバタバタさせる。
アンドロイドにも"喜怒哀楽"の機能がプログラムされている事には知っていたが、主人の顔の前で足の裏を見せるなんて、他のアンドロイドも同じなのかと安木は思う。
多分、このアンドロイドが"特別"なだけ。

安木はそんな彼女を見て、特に何も感じない、頃合いを図り寝室に連れて行くつもりでいた。

観ていたバラエティー番組が見終わり、安木はマリリンを寝室にエスコートする。
そして、一つのベッドの上にマリリンを押し倒す。


マリリン「ちょっと、乱暴にしないで」

安木「もう我慢できない」


安木は着ているシャツを脱ぎ、自分の肉体美を見せる。
そして、自分の今までの女性との"経験"をマリリンに教える。

安木は長い間、日本人女性よりも白人女性と接してきたせいで、白人女性しか抱けない体となっていた。
高校生の頃に疎遠になってもマリーの事が忘れられず、わざわざアメリカに行ってまで白人の女性を抱いた。
それでも欲は満たされても、心の傷は癒えなかった。

マリーに振られた腹いせを、マリリンに全てをぶつけようとする腹づもりの安木だったが、ここで予想外な誤算が生じる。

安木「俺はあれだけキミに尽くしたんだ!
なのによくも・・・振りやがって!
どんな気分だ? 振った男・・・抱かれたくもない男に抱かれる気分は! 松本なんか忘れさせてやるよ!」

マリリン「ゴムはあるの?」

安木「無いよ・・・でも別に無しでいいだ
ろ、ロボットなんだし」

マリリン「いいけど、でもアタシ、"エイ
ズ"持ってるよ?」

安木「えっ⁉︎」

マリリン「あと"梅毒"」

安木「・・・なんでアンドロイドが梅毒なん
て持ってるの?」

マリリン「オプション付き」


安木は頭が混乱する。

安木「(性病? 毒? ロボットって何? ・・・
夜の営みが出来ないなら、何の為にコ 
イツはこの家に居るんだ・・・そうか
家事!・・・いやダメだ・・・18万
円、もしかして払い損?・・・もしかしてぼったくられた?」


安木は呆然と立ち尽くし、頭の中を整理する。


マリリン「・・・ゴム無しでもいいけど」

安木「良いわけねーだろ‼︎」


安木は平常心を失い、マリリンに襲いかかるが、マリリンの防御反応装置が作動。
マリリンの裏拳により、安木は吹っ飛ばされる。
安木は吹っ飛ばされた衝撃で壁にぶち当たり、顔面打撲の重傷を負う。



=それからの僕とマリリンの生活は"慣れ"を覚えてきた。
アンドロイドも人間と同じで、"ミスをする。
でも生活に適応していくうちに学習能力がつき、より精密になっていく。
18万円アンドロイド"マリリン"も初日よりかはマシになっていく。
彼女なりに頑張ってるらしく、簡単な家事はこなせる程度の精度は上がった。
家から帰って来てから浴槽に湯船は溜まっており、帰宅後すぐに風呂に浸かれる。
入浴後には料理が完成している、見た目は良いが・・・絶対に自分で作った方が上手い。
でも1番厄介なのは、"甘えん坊"の設定にしてしまった事。
マリリンは何かと構ってちゃんで、家で明日までに終わらせないといけない雑務をしている最中に飼い猫みたくスキンシップを求める。
自分の足に上にまたがり、意味もなく喘ぎ声を上げる。=


マリリン「ヤッチャン! ヤッチャン!」

安木「明日までに終わらせないといけなん
          だ、テレビでも観てろよ!」

マリリン「ウザいんだよ! いい加減にして
よ!」

安木「こっちのセリフだ! 重いからどけ!」

マリリン「アッー! アンッ! アンッ! アー  
ダメー‼︎」

マリリンは安木の膝の上で腰を上下に動かす。

安木「気持ち悪い声出すな! お前どうせやれ
ねーんだろうが、毒女!」

マリリン「・・・」

安木「・・・」

マリリン「・・・・」

安木「・・・・」

マリリン「・・・・・」

安木「・・・・・」

マリリン「・・・・・・」

安木「この沈黙が時間を無駄にしてんだよ!   邪魔だからあっち行ってろ!」


一度設定した"人格"はもう変更不可能。
安木は、しつこすぎるマリリンの甘えん坊モードに頭を悩ませていた。

予想外のアンドロイドとの生活に、ストレスが溜まり始めてた安木は、ストレスの捌け口を松本を選ぶ。



午前10時

行きつけの喫茶店で安木と松本は注文したコーヒーを飲む。

安木は隠さずに全てを話した。

井上マリーそっくりのアンドロイドをデザインして、未練を断ち切る為にアンドロイドと共同生活をしているが、逆に井上マリーを侮辱している行為に感じ、電源をシャットダウンして、返品出来ないので廃棄処分を考えている。
アンドロイドとの生活にストレスが溜まり、廃棄処分したいが、18万円もしたアンドロイドを廃棄するのは勿体無さを感じ、無料でもいいから松本に譲りたいと。
だが結局、松本は断る。

安木「それじゃあ廃棄処分するか、勿体無い
けど、電気代は浮くしな」

松本「・・・安木、マリーが今どうなってい
るか知りたいか?」

安木「それは・・・知りたいけど、どこにい
るか分からないし、実家の近所は引っ越したみたいだし」

松本「・・・俺、マジで知ってるぜ、マリー
がどこに居るか」

安木「嘘‼︎ 何で知ってんの? インスタ?」


安木は最初冗談かと思ったが、松本の表情はいつも以上に真剣だった。

本来、人は冗談を言う時の顔は、"笑"の文字が書いてある。
松本は過去に安木を騙した時の顔は"笑"だったが、いつもマリーの話をする時の松本はどこか哀しそうで深刻な表情だった。

安木と松本は午後21時に駅前で落ち合う。
松本は安木の引率の元、ある店に入店する。

その店は"ホストクラブ"、松本が経営している店。
店内は豪華で広く、男の安木にとっては未知の体験でもある。
ホスト経営はかなり繁盛しているらしく、どの席も客とホストで埋め尽くされていた。


安木「松本、何だってホスト店に入るんだ?」

松本は突然立ち止まり、ある方向に指を刺す。
松本が指を刺した方向は、20メートル先にある席。
安木はその指先の方向を見て、1人の女性客が複数のホストに囲まれ、楽しんでいる光景が目に映る。

安木は、その盛り上がっている席の女性客をよく見ると、どこか見覚えのある顔だった。


安木「・・・・・マリー⁉︎」


ホストに囲まれ、酒に酔い、浮かれている顔をした女は、"井上マリー"だった。

少し年齢を感じさせているが、昔と変わらない美貌、だが今の彼女は見るに耐えない姿だった。
顔を真っ赤にして、声を荒げて、ホストに酒を注がせる姿は、安木が想像したマリーよりもかけ離れていた。

安木は現在の彼女の姿に目を疑った。
まさか憧れていた人が、ニュースでも話題になる"ホスト狂い"となっていたなんて。


安木「・・・一体何が?」

松本「ごめんな安木、黙っているつもりだっ
たんだが、またお前を騙したくなかっ
た・・・いくら面白いからって、冗談でも人を騙しちゃいけないよな、最後は"本気"になっちまうからな」


松本が得た情報では、井上マリーは1年前から店の常連客だった。
マリーは美容師として働き、25歳の時に在日オランダ人と結婚、子供を1人授かるが、夫との浮気により離婚。
それからマリーは、仕事も上手くいかなくなり、寂しさを紛らわす為にホストに足を運ぶ様になった。

幼い子供の育児放棄して、稼いだ金はホストに貢ぐ、正真正銘の己を見失ったホスト狂いかしていた。


 安木「あの・・・マリーが・・・そんな」


マリーの現在の姿を知った安木は、自然と膝から崩れ落ち、落胆した。

"全て"を知ってしまい、絶望した安木に松本は現実的な言葉を叩きつける。


松本「安木・・・人は変わるよ、俺や彼女が変わった様にな・・・変わってないのは"お前"だけなんじゃないのか?」

安木「(・・・変わってない・・・自分だ
け⁉︎)」


安木はこの言葉が心に深く刺さり、二つ自分の過ちに気づいた。


一つ目は、そもそも"井上マリー"という人間に対して、自分の勝手なイメージを持ってしまった。
簡単に言えば、"期待"という2文字。
誰しもが生きていれば体感する"期待"。
他人に対して期待度が高すぎると、その人の歪んだ価値観が分かると失望の度も大きくなる。

二つ目は、1人の人間に執着しすぎたせいで、今日の今まで積み重ねてきた物を全て失った。
失ったのは、時間・金・愛。
もっと自分を見つめ直すべきだったと、安木は後悔した。

安木の成長心は過去に置いて来てしまった。

安木は二つの過ちを紛らわす為に、バーや居酒屋で飲みまくり、脳内でグルグル回る思考を消し去りたかった。

でもいくら飲んでも消えない。
どれだけ飲んでも、一瞬の痛み止めにしかならない。
飲んでも意味が無いなら、家に帰って寝よう。
今の安木は、とにかく落ち着ける場所にいたかった。
しかし、安木はある事に気づいた。
家に帰宅しても落ち着けない、だって"アイツ"が待っている。

自分の人生をメチャクチャにした"アイツ"が。
ろくに家事も出来ない、男の心を癒す事も出来ない、居るだけでマシでもない、むしろあの女の憎い顔を見たくない。
でも他に帰る所はない、なら帰るしかない。


マリリン「おかえなさいアナタ、ご飯にす
る? それともお風呂にする?」

安木「・・・」

安木の目は虚いていた。
自分の全てを失わせた"元凶"が、目の前にいる。

安木「・・・」

マリリン「どうしたの? ご飯なら出来てる
よ」

安木「・・・いらねえよ・・・どうせ不味い
んだろ?」

マリリン「そんな事ないよ、今日はヤッチャ
ンの大好物"シチュー"を作ったんだから!」


もう安木の視界には、マリーもマリリンも映っていない。
彼の瞳に映っているのは、"粗大ゴミ"。
家に着く前から、このオンボロをどうやって廃棄しようか考えていた。

今の彼は、まるで全てを失った無敵の人状態。

安木は、お風呂にも入らず物置部屋に行き、ある"道具"を取り出した。
その道具は一度も使った事もなく、今後も使う時が来るのか分からなかったが、念の為に買っておいたが、彼の中では忘れられていた道具。
でもこの日に思い出し、ようやく使う道が来た。

その道具とは、"パール"。

長きに渡る"呪い"を断ち切る為に、安木はパールを手に取り、マリリンが居る台所に向かう。

パールは、ゾンビオタク達の間ではゾンビに対抗する1番の有効なアイテムとして認知されている。
その理由は初心者でも使いやすい武器で、どこでも手に入りやすい、ゾンビの頭を簡単にかち割れる。

アンドロイドの金属骨組みは硬いが、素手でなければ簡単に破壊出来る。
ならパール程度の鈍器で充分。


安木「(お前さえ・・・いなければ!)」

安木は、台所でシチューを作っているマリリンの背後に忍び寄り、パールを頭上まで上げる。
だが、手が止まり振り下ろすことが出来ない。
相手がアンドロイドだと分かっていても人間に近いロボット。
もしパールを振りかざせば、人を殺す感覚と一緒のはず。

"殺"とは、"宿"を破壊し、"魂"を消し去ること。

安木は狂乱になりながら、松本のある"言葉"を思い出す。

松本「変わっていないのは、お前だけ」

"呪い"を壊さなければ、何も始まらない。
自分を変えるには、コイツを壊すんだと。

安木は覚悟が決まり、殴ろうとした瞬間、


マリリン「ヤッチャン・・・なんか元気ない
ね」

安木「⁉︎」

マリリンはシチューをかき混ぜ、温めながら、安木に暖かい言葉を贈る。

マリリン「仕事で疲れてるんでしょ? でも大丈夫、マリリンの愛情こもったシチューを食べれば、元気出るから!」

安木は、マリリンの優しい音声が耳の奥の中まで響いた。
そして、手に持っていたパールは、滑り落ちる様に床に落ちた。


リビングのテーブルで、マリリンの手料理"シチュー"を、口に運ぶ安木。


マリリン「美味しい!」

マリリンは自信たっぷりの表情で聞いてくるが、見た目がいいシチューも、いつもと同じ様に不味い。

でも味はともかく、シチューの温かさが、安木の心を癒した。


安木「ああ・・・美味しいよ・・・」


自然の摂理により、瞳から涙がポロポロの流れ落ちる。


安木は気づいたのだ。


マリーへの想いは、"呪い"ではなく"愛"だと。
愛は人を狂わせる。
安木は"愛"に長年苦しませられ、そして今日ようやく"愛"によって救われた。


家の部屋中の電気を消し、全ての部屋のカーテンを閉め、暗闇の中で安木とマリリンはソファーの上で疲れを癒す。
安木はマリリンの柔らかい太ももの上で、安らかに眠る。




=これで僕とマリリンの物語は終わります。

最後に僕がどうして子供の頃からマリーのどんな"願い"も聞いたのは、嫌な気持ちにもならず聞いたのは・・・そんなの簡単な事=





安木「だって"愛"した人が自分のそばに居て
くれるんだから」




         「・・・・・今もそばに・・・・」
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