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短編物語
天職フォルテ
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~あらすじ~
仕事が上手くいかず、今勤めている会社を退職を考えている主人公は、ある帰り道に不思議な"お店"を見つける。
その店は'天職フォルテ'と言われており、自分の天職を探す為に様々な職業体験を仮想空間で体験する事が出来る。
主人公は、自分の合った職業を見つける事が出来るのか。
<登場人物>
高嶋優=本作の主人公
愛沢ツバサ=本作のヒロイン
天職フォルテの謎の店主=本作のキーパーソン
「人は生まれた時から天命と言われるべき宿
に居なければならない。
アナタは、自分が居るべき場所に居るのか?」
東京都港区・午前
とある大手企業とまではいかないが、そこそこの大きいビルで、そこそこの功績を得ている会社に、スーパーエース社員が勤務していた。
社員の名前は"高嶋優"。
何度も同じミスをして、上司から何度教えられてもすぐに忘れてしまい、周りから反感を買う存在。
この様な存在は、どの組織にでもいる。
不安定で不完全な世界の構造は、神様のイタズラによって生み出されているのか。
それとも社会の敵と呼ばれる、この社員は入るべき穴に入っていないだけなのかもしれない。
高嶋は今日もまた、自分のデスクに座り上司のお咎めを待つ。
そして望んでた通り、係長から怒号を浴びせられる。
説教の内容は、
「お前また顧客情報リストの入力を打ち間違えたろ?」
「何回ミスってんだよ!」
係長は持っている資料で、高嶋の頭の中何度も叩く。
係長はオフィス内で、同僚達にあえて聞かせるかの様に高嶋を叱る。
しかし、このミスは高嶋には見覚えが無かった。
それでも高嶋は、今まで積み重ねたポンコツぶりのせいで自分に自信が持てず、渋々説教を聞き入れる。
オフィスにいる同僚達は、上司が無責任な罪を着せている事に誰も疑わなかった。
それどころか納得する始末で、高嶋を蔑む小言がオフィス内で伝染する。
「またアイツかよ」
「給料泥棒」
「マジで辞めてくれないかな」
組織内で彼の味方をする人間は少ない、でも0じゃない
無責任な上司を多勢する中、1人だけ高嶋の味方をする"女性"がいた。
名前は"愛沢ツバサ"。
高嶋の同期で唯一の理解者。
なすりつけの説教が終わった後にオフィスを出た上司の後を追う愛沢。
愛沢「係長!」
係長「ん、なんだ?」
愛沢は上司である係長に芯よく詰め寄り、責任逃れした事を問う。
愛沢「昨日高嶋さんと一緒に作業やってまし
たよね?」
係長「ああ、そうだが」
愛沢「さっき確認したんですけど、あの資料
作成は係長が担当だったはずですよ、
彼は別の資料を作成してたはずです
よ、なのにどうして彼に責任を押し付
けるんですか?」
観念した係長は小声で愛沢に告げる。
高嶋にミスをなすりつけても、誰も疑わない。
そんな身勝手な行為をした係長に、例え相手が上司だろうと怒りを隠さず露わにする愛沢。
彼女のそんな様子を見て。
係長「・・・アイツの事が好きなのか?」
愛沢「・・・」
係長「いい好みしてるな」
愛沢「・・・アンタよりかはマシよ」
午後21時
ほとんどの同僚達が帰宅して、何人かの残業員と愛沢のみ。
愛沢は高嶋の仕事が終わるまで待っていた。
高嶋の仕事は社長から呼び出され、今後の処置についての話し合いで、もしこれ以上ミスを連発するなら、簡単な作業の異動申請を個人の判断関係なく強制的に出してもらう。
もう一つの選択肢は、"辞表"を出してもらうか。
高嶋は、しばらくの間は会社に来ず有給を取り、提案した案をじっくりと考える時間を与えられた。
会社に3年以上勤めている流石の高嶋も、精神共に疲労している。
高嶋はある言葉を信じていた。
「石の上にも三年」
しかし、自分の場合は10年先も見えない。
先輩達からは怒り、同期達は侮る、後輩達から揶揄される。
職場で自分の事を対等に見てくれる人間はいない、嫌な意味の特別扱いされる。
辞めても誰も困らない、なら辞めよう。
高嶋はそう思いながら、下に降りるエレベーターに乗り、1階のボタンを押す。
その時、閉まる瞬間に愛沢が勢いよく入ってきた。
高嶋「愛沢さん?」
愛沢「一緒に帰ろう!」
愛沢は太陽の様な笑顔を見せてくれた。
この笑顔は高嶋にとって明日に足を運べる原動力だった。
彼女だけが高嶋と平等に接してくれている事に喜びを感じるが、同時に何故愛沢は自分にこれ程までに接してくれるのか"疑問"も合った。
2人は六本木を歩きながら、どこか静かで飲める店を探していた。
30分探してようやく、人が余り入店していないバーを見つけ、テーブル席に腰を下ろす。
2人だけの会話の内容は決まっている。
愛沢は自分のカバンから、封筒に入った原稿用紙を取り出して、高嶋に読ませる。
高嶋も自分のカバンから、封筒に入った原稿用紙を取り出して、愛沢に読ませる。
そして20分後、お互いの"作品"の感想を言い合う。
愛沢の作品はミステリーホラー小説。
高嶋の作品はギャグコメディー小説。
愛沢は高嶋の文芸力だけで、笑いを誘ってしまい、腹を抱えて爆笑する。
愛沢「凄いわ、文字だけでこんなに人を笑わ
せるなんて」
高嶋「愛沢さんのミステリーも中々だよ、短
編なのにこんなにワクワクするなんて」
2人は共に小説好きで、休みの日はこうしてお互いの自作小説を読み合い、評価して合っている。
実際に愛沢よりも高嶋の小説の方が、ストーリーの深さと創造性は高く、プロ並みの文芸力。
愛沢は話題を変え、高嶋の心境を探る。
愛沢「ねぇシーマ君・・・会社辞めるの?」
高嶋「えっ!・・・なんで分かったの?」
愛沢「分かるよ、顔に書いてある」
愛沢は知っていた、高嶋には他の同僚には無い才能があると、世には出ていないとはいえ、こんなにも面白い小説を無料で読める。
そして何よりも気が合う仲間が、今まで他にいなかった。
だからこそ、会社を辞めてほしくのが正直な気持ち。
高嶋の気持ちは、入社してから会社にずっと迷惑をかけ、足を引っ張ってばかり。
自分は周りから殴られて当然の存在、でもパワハラ問題になれば更に足を引っ張る。
それに唯一の心の支えになっている愛沢にも迷惑をかける、そうなる前に退職した方がいいと考えた。
愛沢「本当に辞めたいなら、私には止める権
利はないけど、それなら本気で小説家
を目指してみたら?」
高嶋「・・・無理だよ、自分には才能無い」
愛沢「またそんな事を言って、今日の短編も面白かったし、前に読ませてくれた"母猫の日"、あれも凄く面白かったよ、絶対に芥川賞取れるよ」
高嶋「あー・・・そうだった、原稿は返して
くれるの?」
愛沢「あー・・・ごめん、読み終わったんだ
けど妹がまだ読んでて」
高嶋「そう、まぁ別に返さなくていいよ」
愛沢「・・・どうしたの?」
高嶋は全てを伝えた。
退職をして実家に帰り、田舎の農業を継ぐ。
そして執筆とはおさらばして、愛沢ともおさらばする。
高嶋「愛沢さんもいい歳だし、そろそろ落ち
着いたらいいんじゃないか?」
愛沢「結婚の長続きをする人は趣味が合う人
よ」
午後23時
高嶋と愛沢は、バーで酒乱になり、フラフラになりながらも愛沢の家まで到着。
高嶋は愛沢を家まで送り、自身も帰宅を目指す。
近道に広場公園を抜ける。
高嶋は歩きながら、将来を見据えていた。
高嶋は長年、人格を否定され続けたせいで自分の才能にも開花せずにいた、そうして小説家になる道を諦め、実家の農家を継ぐと言っていたが、それも自分に任せられる仕事なのだろうか。
そして本当に"ペン"を捨てられるのだろうか?
湧き上がる想像力を心の中に仕舞い、封印出来るのか?
彼の脳内図は、不安でいっぱいだった。
そしてこう思った。
「もし自分に合う職業を見つけられたら」
このセリフから様々な職業体験をしたいと読み取れる。
そしてその言葉の願いが叶う。
高嶋は、ある奇妙な光に惹きよそられた。
その光の矛先に足を運ぶと、ある物が視界に映る。
サーカス並みのテントが張られており、そのテントの内側から強く光っている。
看板が立てられており、何かの店だと分かる。
看板にはこう書かれている。
"天職フォルテ"
聞いた事もない、見た事もない店だが、不思議な興味を感じ、心理的行動で恐る恐る店の中に入る。
店の中に入った高嶋は、呆気に取られる。
店内は異様な飾りだらけ置かれていた。
人形・動物の剥製・目ん玉・ホルモン漬けの臓器。
まるでファンタジーを想像させる、空間。
でも1番気になったのは理解の授業で使われる試験管みたいなのが、天井から紐グラスが何個もぶら下がっており、全て一つ一つに文字が書かれていた。
よく見ると、何かの"職業"みたいな言葉が書かれていた。
掃除・警備員・消防士・警察官。
他にも色んな職業がある。
一体ここは何の店なのか、疑問に思いながら、疑問を解くために店の店員らしき人物を探すが、見当たらない。
それどころか人の気配すらも感じられない。
??「いらっしゃいませ」
背後から声が聞こえてきた。
高嶋は驚いて後ろを振り向くと、いつの間にか自分の背後に人が椅子に座っていた。
後ろにいた人物は、100キロはありそうな大柄で、占い師みたいな格好をした女性。
奇体で不気味だが、見た感じ店の店主だと分かる。
高嶋「あのーここは、占いとかの店ですか?」
オーナー「いいえ、ここは自分の合った天職
を見つける場所です」
高嶋「天職?・・・じゃあここにある小瓶に書かれているのは職業ってこと?」
オーナー「左様でございます」
高嶋「よく分からないなー、この小瓶をどう
したらいいわけ?」
オーナー「決められたフォルテをお飲みにな
り、あなた様の頭の中で職業を実体
そのものとなって体験できます」
謎のオーナーが言うには、この店は様々な職業を五感として体験できる、つまり仮想空間の中に入り、自分の合った職業を見つけると言う事。
オーナーの話は怪しさ満点でそんな話を普通の人間なら信じないが、アーティスト性のある人間なら興味の欲で試したくなる。
もちろん高嶋はそういう人間なので、迷わず試す事にした。
高嶋「いくら?」
オーナー「2万円になります」
高嶋「高くね!」
オーナー「いくら飲んでも構いません、お持
ち帰りも結構でございます」
高嶋「分かりました、その代わりいい仕事に
会わせてくださいね」
オーナー「それは貴方様次第です」
高嶋は半信半疑ながらも、天職を見つける為にフォルテを探す。
探している内に、職業とは思えないようなフォルテを見つける。
そのフォルテの名は"犯罪"。
犯罪? 殺人・強盗などの罪を犯した事を犯罪者と呼ぶが、これはその類なのか?
それともマフィアとか薬物売人になどに加担する、犯罪組織なのか?
気になった高嶋は、オーナーに聞くが、
「それはアナタ様次第です」と、返されるだけだった。
高嶋は犯罪フォルテを記念すべきデビュー作として、飲む事に決めた。
用意されたベッドに仰向けになり、フォルテを飲み干す。
フォルテの味は、まるで動物のションベンを飲んだ感覚で、すぐにでもゲロを吐き出したい程の味。
高嶋は余りの不味さに吐き出しそうになり、嘔吐寸前になるが、なかなか口から出てこない。
しかし、何とか口から出したが、出てきたのはゲロじゃない。
高嶋「ウー、ウー、ゲオ⁉︎」
黄色いシャボン玉の様な物で、プカプカと浮いている。
恐る恐る触ってみると、感触は普通のシャボン玉だが、普通のシャボン玉と違っていくら触ってもなかなか割れない。
高嶋はそのシャボン玉を見ていると、突然の眠気に襲われ、ゆっくりと瞼が閉じていく。
仮想空間
高嶋優・職業:銀行強盗犯
高嶋はショットガンを片手に、もう片方の手には綿巾着袋を持ち、顔は覆面で隠している。
そして銀行に入り、ショットガンを天井に撃ち、周囲を威嚇する。
高嶋「全員動くな、床に伏せろ!」
銀行店にいた客や銀行員は悲鳴を上げる。
高嶋は受け付けの方に向かい、女性の銀行員に綿巾着袋を渡す。
そしてその中に、金を入れる様に指示する。
高嶋「3分以内に金を詰めろ、入れられるだけ詰めるんだ」
女性銀行員は怯えながらも、すぐに指示に従った。
3分後
女性銀行員は渡された綿巾着袋を持ってきた。
袋はパンパンに膨らんでおり、高嶋は指示通り動いたと思った。
そして外に停めてある、偽装パトカーで警察の目を欺き、遠くに逃亡する計画。
高嶋は念の為に袋の中にある金を確認した。
すると中にあるのは札ではなく、銀行強盗が来た時の対策の為の偽札用の新聞紙。
一体どういう事なのか、女性銀行員に聞くと。
高嶋「おい、何だこれ・・・ガァ⁉︎」
高嶋は突然、銀行員に催涙スプレーを顔に浴びせられ、目が焼ける感覚の激痛が走った。
突然、視界を奪われた高嶋は無我夢中で銀行を出ようとしたが、プロレスラー並みの肉体をした女性銀行員2人に取り押さえられる。
まず1人の女性銀行員がスラインディングキックで転ばさ、高嶋の視界は天井を見る。
そして次にもう1人の女性銀行員が、プロレス技の一種 "エルボー・ドロップ"で高嶋の胸部分を攻撃する。
胸に強い衝撃が走った高嶋は、悲鳴を上げる。
高嶋「ぐぉーーーー!!」
現実世界
生まれてはじめて食らうエルボーに、勢いよく目覚め起き上がる高嶋。
仮想空間から現実世界に戻ってきた高嶋は先程喰らった胸部分と目を抑えるが、何故か痛みはなく、あるのは皮膚から出ている焦り汗。
そして、呼吸の荒い息遣い。
初めて体験したフォルテに頭が混乱する高嶋。
一体先程の出来事は何だったのかを、オーナーに聞く。
オーナーは答える。
高嶋が犯罪フォルテを飲んで、銀行強盗犯になったのは、1番適性のある犯罪行為が自動的に選ばれ、そして銀行強盗事件を起こす。
しかし、1番適性があるからと言って、そのフォルテが天職とは限らない。
バッドエンドで終われば無職、ハッピーエンドで終われば天職。
つまり多量のフォルテの中から一つだけある、自分の天職を見つけなければならない。
オーナー「天職じゃなかったみたいですね」
高嶋「・・・気に入った」
高嶋は気合いの入った顔で、次なる天職を探す為にフォルテを見極める。
そして彼が次に選んだフォルテは、
"スパイ"
またも一般的な職業とは違って、危険極まりない職業。
でも彼は普通の仕事業務じゃ満足できない事を自分なりに自覚しており、これを選んだ。
仮想空間
高嶋優 職業:スパイ
一流スパイの高嶋は、敵国の戦争行為を防ぐ為に敵地に侵入。
そして敵国の超機密情報を入手したスパイ仲間が、その情報を高嶋に渡す為にとあるパーティー会場で内密に会う。
カウンターの席で仲間から情報の資料が入ったアタッシュケースを渡される。
仲間「これを母国に持ち帰れ、これには我が
国の存亡が掛かっている、いいな?」
高嶋「了解」
仲間「特に"殺し屋"には気をつけろ、情報だ
けじゃなく命も奪われるぞ」
高嶋「俺はこの道10年のベテランだぞ、見た
目だけでどんな人間かを判断出来る」
仲間「そんな事はどうでもいい、お前はコレ
を真っ直ぐ国に持ち帰れ! どこにもよ
るな、女殺し屋のハニートラップに引
っかかるな」
高嶋「自分の心配をしてろ、俺はどんな絶世
の美女にも心は奪われない」
高嶋は資料を手に持ち、会場のエレベーターに乗り、どこにも寄らずに帰ろうとするが、
⁇「すみません、乗りまーす!」
突然、エレベーターに女性が乗り込んできた。
乗り込んできた女性は、Z級の絶世美女。
ロングヘアーの黒髪・ふくよかな胸・無駄な肉がついていないスタイル・クールな瞳・完璧フェイスライン。
完全体の美女に心を奪われる高嶋。
すると美女の方から高嶋にアプローチをかけてきた。
美女「あのー私、帰りのタクシー代を忘れて
しまって、それでアレなんですが、タ
クシー代を貸していただけませんか?
もちろん家に着けばお返ししますので」
高嶋「・・・それって、一緒にタクシーに乗
るって事ですか?」
美女「ハイ! あっお詫びとして家に上がって
ご一緒に紅茶でもどうでしょうか?」
高嶋は胸が躍った。
こんな絶世の美女と同席出来るだけじゃなく、家にも上げてくれる、また伴いチャンスだった。
しかし、この女は殺し屋の可能性がある。
仲間から言われた「女を信用するな」
高嶋はスパイの勘から、この女を警戒してある行動を取った。
美女の家
高嶋はベッドの上で胸元に銃を押し付けられている。
実は美女の正体はプロの女殺し屋で、今まで抜群のプロモーションで多くのスパイを葬ってきた。
彼女の手段は、ハニートラップでスパイを誘惑、自宅に連れ込んで男が自ら見ぐるみを脱いだ瞬間に、ベッドの上に寝かせて銃で脅す。
今回も何らく簡単に、ハニートラップの罠にかけることが成功。
高嶋は一瞬の期待と油断により、美女の餌場に飛び込んでしまった。
高嶋の内心「こんな美女と会話出来るのは、
また伴いチャンスだ。
下手したら会話以上の事が出来る
かもしれない。
これもお国のため」
殺し屋「奪った資料はどこ?」
高嶋「拷問しても無駄だ、俺はプロだ・・・
でも命を奪わないでくれたら、教える」
殺し屋「なら早く出す!」
高嶋「アタッシュケースの中にあります」
殺し屋「・・・そう・・・ご苦労さん」
殺し屋は引き金を引き、高嶋の心臓を撃ち抜く。
現実世界
胸を抑えて、現実世界に戻ってくる。
1回目と同様に、バッドエンドらしき終わり方をした。
オーナー「天職ではなかったみたいですね」
次に高嶋が選んだフォルテは"殺し屋"
仮想空間
高嶋優 職業:殺し屋
一流の殺し屋は既に裁判で"死刑"判決を下され、絞首台の上で首に縄をかけられる。
そして執行官がボタンを押し、床が開く。
高嶋は5メートルの高さから落下して、縄が首に絞まり死亡。
現実世界
高嶋「なんでやねん‼︎ 」
ツッコミながら目覚めて、起き上がる。
オーナー「天職じゃなかったみたいですね」
高嶋「天職も何も、仕事すらしてないわ!
ただ首を吊らされただけじゃん!」
次に選んだフォルテは"役者"。
仮想空間
高嶋優 職業:俳優
大人気俳優の高嶋は、大物女優との出演が決まるが、撮影中にセクハラとも言えるアプローチを女性にしたせいで、降板させられる。
それから七股交際の瞬間をスキャンダルされ、それと同時に強制わいせつ行為で逮捕。
俳優業から永久追放。
現実世界
次に選んだフォルテは"傭兵"。
仮想空間
高嶋優 職業:傭兵
戦地に降りて、5秒後に地雷を踏み死亡。
現実世界
次に選んだフォルテは"猟師"。
仮想空間
高嶋優 職業:猟師
背後から熊に強烈な鉄拳を喰らい、首の骨が折れて死亡。
現実世界
高嶋は色んな種類のフォルテを試しているが、どれも望んだ結果にはならない。
ベッドの近くには空の瓶だらけで、無惨に終わった多量のフォルテを摂取している事が分かる。
多くのフォルテを胃の中に入れても、さほど問題はないが、フォルテの味に関してはゲロよりも不味い。
そんな物を何本も飲めば、いずれ気分を害し、精神的に不安定なる。
それでも高嶋は息切れを激しくなりながら、"天職"を見つけるまでフォルテを飲みまくる。
仮想空間
高嶋優 職業:ホスト
不人気ナンバーワンの高嶋は、余興として何本も客に酒を一気飲みさせられる。
飲みすぎたせいで、嘔吐しそうになりトイレに駆け込む。
現実世界
現実に戻ってきた高嶋も、フォルテを飲みすぎた副作用のせいで、トイレでゲロを吐きまくる。
トイレから出てきた高嶋は、完全に精神不安定の状態。
自我を失い、どれだけ探しても見つけられない"天職'に、怒りが膨れ上がる。
そして怒りの矛先を、オーナーにぶつける。
高嶋「この豚マン野郎、何が天職だ! どれも
これもダメ職じゃねーか!」
オーナー「それはフォルテのせいではありま
せん、お客様が天職フォルテを見つ
けられないだけです」
高嶋「ふざけんな! 2万も払ったんだ、それ
なりの結果を残せるのを寄越しやが
れ!」
オーナー「それはアナタ次第です」
高嶋はオーナーに不信感を抱き、オーナーに対して会社に勤めている同僚達と重ねる。
同僚達は毎日、自分をゴミのような目で見ていて、対等に見てもらえない自分に苦痛を感じていた。
高嶋「・・・アンタも俺をゴミみたいに蔑ろ
にするんだろ? そうだよな俺は仕事も
ロクに出来ない、給料泥棒のスーパー
エース高嶋君だもんな!」
オーナー「・・・」
高嶋「俺だって皆んなみたく普通に仕事出来
るようになりたい、別に人並み以上に
優れてなくてもいい、でもどんなに治
そうとしても治せねーんだ!・・・対
等に見てくれよチクショー」
オーナーは悲観的になった姿の高嶋を見て、椅子から立ち上がり、激昂する。
オーナー「調子いいこと言ってんじゃねー
よ!」
高嶋「‼︎」
オーナーは先程までの紳士的で落ち着いた態度から一変した。
座っていたから分からなかったが、オーナーは2メートル近くもある身長で大柄な体格もあり、かなりの威圧感を放つ。
オーナー「オメー、自分が見下されるの他人
のせいだと思ってんだろ?
違うよ、見下されるのはテメーのせ
いだ、誰のせいでもない!
他人は他人をよく見る、そして観察
した結果はよく的を得ている。
でもな・・・自分の事を1番理解し
ているのは"自分"だろ?」
高嶋「!」
オーナー「社会でゴミに認定されたらゴミ
だ! なら生かしとく必要が無い
のは当然のことだ!
もしその"ゴミ"になりたくなかっ
たら、自分の価値を受け入れろ!
目を逸らすな」
"目を逸らすな"。
彼女の言葉はどれも正論だった。
自分が周りから特別扱いされるのは簡単な事。
だって特別だから。
他人は他人をよく理解している、でも完全にじゃない。
見えない部分を見る事は、どれだけ洞察力が優れている人間でも不可能だ。
その見えない部分を曝け出すのは、"自分"しか出来ない。
高嶋はオーナーの言葉で自分に目が覚め、1番飲みたがっていた"フォルテ"を探す。
そのフォルテは"小説"。
彼はそのフォルテを手に取り、じっと見つめるが、その場では飲まずに家に持ち帰る事をオーナーに伝える。
いくらでもお持ち帰りは可能だが、高嶋はそのフォルテのみ持ち帰る事にした。
午前0時前
自宅に帰宅した高嶋は、この日はフォルテを飲まずにリビングのテーブルの上に置く。
そしてソファーの上に寝っ転がり、ゆっくりと目を閉じる。
午後21時
高嶋は全ての覚悟を持ち、3年間お世話になった会社とおさらばする。
社長に辞表を出し、エレベーターで下に降りる。
高嶋がビルの外に出た後、自分を呼び止める女の声が聞こえた。
愛沢「待ってー!」
愛沢だった。
愛沢「酷いよ、自分に黙って会社を辞めるな
んて・・・本当に辞めるの?」
高嶋「本当の本当、これでスッキリしたよ」
愛沢「じゃあ実家に帰って、農家を継ぐの?」
高嶋「それはまだ分からないんだ、もう少し
じっくりと考えたい」
愛沢「高嶋君が居なくなったら、私・・・もうキミの小説は読めないんだね、いつも楽しみにしてたのに」
高嶋「なら早く安定した作家と結婚しなよ、そうしたら愛沢さんは毎日無料で小説を読めるよ」
愛沢「・・・それじゃあ、どの作家と結婚するかは私が決めていいんだよね?」
高嶋「うん・・・そういう事になるんじゃない」
愛沢「それなら」
愛沢は微笑んだ顔で高嶋の口元に人差し指を置き、ロマンチストにプロポーズする。
愛沢「アナタは、バカでドジでおっちょこち
ょいで、いつも手間を掛けさせるけ
ど・・・一緒に居て楽しくない日は無
かった」
高嶋「・・・」
愛沢「アナタの冒険に私も連れて行って」
まさかの高嶋は逆プロポーズされた。
2人は輝いている瞳で見つめ合い、自然と二つの唇が近づていく、少しずつ触れ合いに近づく、そして。
午前10時
高嶋の自宅に一本の電話が鳴り響く。
この電話のせいで、せっかく愛沢と後数センチでキスを出来る"夢"に目を開けてしまった。
高嶋は悔しながらも、見た事もない電話番号に出る。
⁇「もしもし、突然のお電話申し訳ございま
せん、高嶋優のお電話でお間違いないで
しょか?」
高嶋「はい」
⁇「恐れ入ります、わたくし日本文学振興会
の者です」
夢から覚め、この電話に出た高嶋に新しい人生が始まる瞬間だった。
電話の相手は日本文学振興会の審査員で、高嶋が数ヶ月前に応募して来た、"母猫の日"が芥川賞受賞が決定した。
それだけじゃない、多くの一流作家達からも高く評価される程の作品で、ぜひお会いしたい言われるほどの出来だったらしい。
しかし、突然に朗報に高嶋は困惑する。
そもそも"母猫の日"は自分が書いた作品だが、応募はしていない。
なのに何故かいつの間に芥川賞に受賞が決定された。
母猫の日を見せたのは、友達の"愛沢ツバサ"のみ。
作品は彼女の手元にあるはず。
なら誰が勝手に応募したのか、それはもう1人しかいない。
そう考えたら、"謎"が全て解けた。
高嶋は昨日の夜、天職フォルテから自宅に帰宅して、お持ち帰りした"小説"フォルテを飲まずに、テーブルに置いたが、フォルテはいつの間にか"空"になっていた。
高嶋が先ほど見ていたのは夢じゃない、フォルテの仮想空間の中だったと気づいた。
多くを体感したフォルテよりも、最高の最後で終焉した小説フォルテ。
彼はようやく気づいた、自分の天職は・・・
高嶋は自分の全てを受け入れ、掛かってきた電話を切らずにスマホを放置して、私服のまま会社に向かった。
止まらずに走った、足を止めなかった。
疲れも感じなかった、"愛'する人と結ばれる思いが嬉しくて仕方がなかった。
会社に到着して、目立ちながらもエレベーターに上がる高嶋。
そして自分のオフィスに到着して、愛沢を見つける。
愛沢を視界に捉えた瞬間、
高嶋「ツバサさん‼︎」
大声で名前を呼ぶ。
愛沢「シーマ君?」
周りが仕事中だろうと関係なく高嶋は、愛沢に駆け寄る。
愛沢は高嶋の真剣な眼差しと突然行動に驚きを隠せずにいた。
愛沢「どうしたの突然、高嶋くん今日は休み
のはずじゃ」
高嶋「・・・休みだけじゃない、この仕事は
辞める、それを社長に伝えて来た、そ
れともう一つ」
高嶋は本心を伝える。
高嶋「僕と結婚してくれ! ツバサさん!」
唐突の告白に驚く、同僚達と愛沢。
いきなり同僚達の前で退職宣言と同時にプロポーズもされた愛沢は困惑してしまう。
愛沢「ちょっと落ち着いて、一体何が合った
の?」
高嶋「選ばれたんだ、僕の小説が!」
愛沢「えっ⁉︎」
高嶋「芥川賞を受賞したんだ、キミのおかげ
で」
愛沢「・・・嘘」
高嶋「本当だ、だから僕はこれから本気で小
説家になり、名作を生み出し続ける、
そしてキミを幸せにする」
愛沢「・・・」
高嶋「僕はダメなにんげんかもしれない、い
やダメだろうだ、でもこれからは自分
正直に生きて成功を掴む。
そしてキミを絶対に幸せにする、誰よ
りも! 絶対に! だから、ぼ・・・ 」
愛沢はそれ以上は高嶋に言わせない為に、人差し指で高嶋の口を塞ぐ。
そして本心を伝える。
愛沢「アナタは、バカでドジでおっちょこち
ょいで、いつも手間を掛けさせるけ
ど・・・一緒に居て楽しくない日は無
かった」
高嶋「・・・!?」
夢も全く同じセリフに驚く高嶋。
そして次の言葉も読めていた。
愛沢「アナタの冒険に私も連れて行って」
高嶋「もちろん」
プロポーズ成功に周囲の同僚達から拍手の嵐と歓声が送られる。
この日、地球上で"愛"がまた咲いた。
この後の2人は、愛が永遠に続き、そして愛によって誕生した、新たな生命が生まれたのは、言うまでもない。
オーナー「アナタの居場所、必ず見つかりま
すよ」
仕事が上手くいかず、今勤めている会社を退職を考えている主人公は、ある帰り道に不思議な"お店"を見つける。
その店は'天職フォルテ'と言われており、自分の天職を探す為に様々な職業体験を仮想空間で体験する事が出来る。
主人公は、自分の合った職業を見つける事が出来るのか。
<登場人物>
高嶋優=本作の主人公
愛沢ツバサ=本作のヒロイン
天職フォルテの謎の店主=本作のキーパーソン
「人は生まれた時から天命と言われるべき宿
に居なければならない。
アナタは、自分が居るべき場所に居るのか?」
東京都港区・午前
とある大手企業とまではいかないが、そこそこの大きいビルで、そこそこの功績を得ている会社に、スーパーエース社員が勤務していた。
社員の名前は"高嶋優"。
何度も同じミスをして、上司から何度教えられてもすぐに忘れてしまい、周りから反感を買う存在。
この様な存在は、どの組織にでもいる。
不安定で不完全な世界の構造は、神様のイタズラによって生み出されているのか。
それとも社会の敵と呼ばれる、この社員は入るべき穴に入っていないだけなのかもしれない。
高嶋は今日もまた、自分のデスクに座り上司のお咎めを待つ。
そして望んでた通り、係長から怒号を浴びせられる。
説教の内容は、
「お前また顧客情報リストの入力を打ち間違えたろ?」
「何回ミスってんだよ!」
係長は持っている資料で、高嶋の頭の中何度も叩く。
係長はオフィス内で、同僚達にあえて聞かせるかの様に高嶋を叱る。
しかし、このミスは高嶋には見覚えが無かった。
それでも高嶋は、今まで積み重ねたポンコツぶりのせいで自分に自信が持てず、渋々説教を聞き入れる。
オフィスにいる同僚達は、上司が無責任な罪を着せている事に誰も疑わなかった。
それどころか納得する始末で、高嶋を蔑む小言がオフィス内で伝染する。
「またアイツかよ」
「給料泥棒」
「マジで辞めてくれないかな」
組織内で彼の味方をする人間は少ない、でも0じゃない
無責任な上司を多勢する中、1人だけ高嶋の味方をする"女性"がいた。
名前は"愛沢ツバサ"。
高嶋の同期で唯一の理解者。
なすりつけの説教が終わった後にオフィスを出た上司の後を追う愛沢。
愛沢「係長!」
係長「ん、なんだ?」
愛沢は上司である係長に芯よく詰め寄り、責任逃れした事を問う。
愛沢「昨日高嶋さんと一緒に作業やってまし
たよね?」
係長「ああ、そうだが」
愛沢「さっき確認したんですけど、あの資料
作成は係長が担当だったはずですよ、
彼は別の資料を作成してたはずです
よ、なのにどうして彼に責任を押し付
けるんですか?」
観念した係長は小声で愛沢に告げる。
高嶋にミスをなすりつけても、誰も疑わない。
そんな身勝手な行為をした係長に、例え相手が上司だろうと怒りを隠さず露わにする愛沢。
彼女のそんな様子を見て。
係長「・・・アイツの事が好きなのか?」
愛沢「・・・」
係長「いい好みしてるな」
愛沢「・・・アンタよりかはマシよ」
午後21時
ほとんどの同僚達が帰宅して、何人かの残業員と愛沢のみ。
愛沢は高嶋の仕事が終わるまで待っていた。
高嶋の仕事は社長から呼び出され、今後の処置についての話し合いで、もしこれ以上ミスを連発するなら、簡単な作業の異動申請を個人の判断関係なく強制的に出してもらう。
もう一つの選択肢は、"辞表"を出してもらうか。
高嶋は、しばらくの間は会社に来ず有給を取り、提案した案をじっくりと考える時間を与えられた。
会社に3年以上勤めている流石の高嶋も、精神共に疲労している。
高嶋はある言葉を信じていた。
「石の上にも三年」
しかし、自分の場合は10年先も見えない。
先輩達からは怒り、同期達は侮る、後輩達から揶揄される。
職場で自分の事を対等に見てくれる人間はいない、嫌な意味の特別扱いされる。
辞めても誰も困らない、なら辞めよう。
高嶋はそう思いながら、下に降りるエレベーターに乗り、1階のボタンを押す。
その時、閉まる瞬間に愛沢が勢いよく入ってきた。
高嶋「愛沢さん?」
愛沢「一緒に帰ろう!」
愛沢は太陽の様な笑顔を見せてくれた。
この笑顔は高嶋にとって明日に足を運べる原動力だった。
彼女だけが高嶋と平等に接してくれている事に喜びを感じるが、同時に何故愛沢は自分にこれ程までに接してくれるのか"疑問"も合った。
2人は六本木を歩きながら、どこか静かで飲める店を探していた。
30分探してようやく、人が余り入店していないバーを見つけ、テーブル席に腰を下ろす。
2人だけの会話の内容は決まっている。
愛沢は自分のカバンから、封筒に入った原稿用紙を取り出して、高嶋に読ませる。
高嶋も自分のカバンから、封筒に入った原稿用紙を取り出して、愛沢に読ませる。
そして20分後、お互いの"作品"の感想を言い合う。
愛沢の作品はミステリーホラー小説。
高嶋の作品はギャグコメディー小説。
愛沢は高嶋の文芸力だけで、笑いを誘ってしまい、腹を抱えて爆笑する。
愛沢「凄いわ、文字だけでこんなに人を笑わ
せるなんて」
高嶋「愛沢さんのミステリーも中々だよ、短
編なのにこんなにワクワクするなんて」
2人は共に小説好きで、休みの日はこうしてお互いの自作小説を読み合い、評価して合っている。
実際に愛沢よりも高嶋の小説の方が、ストーリーの深さと創造性は高く、プロ並みの文芸力。
愛沢は話題を変え、高嶋の心境を探る。
愛沢「ねぇシーマ君・・・会社辞めるの?」
高嶋「えっ!・・・なんで分かったの?」
愛沢「分かるよ、顔に書いてある」
愛沢は知っていた、高嶋には他の同僚には無い才能があると、世には出ていないとはいえ、こんなにも面白い小説を無料で読める。
そして何よりも気が合う仲間が、今まで他にいなかった。
だからこそ、会社を辞めてほしくのが正直な気持ち。
高嶋の気持ちは、入社してから会社にずっと迷惑をかけ、足を引っ張ってばかり。
自分は周りから殴られて当然の存在、でもパワハラ問題になれば更に足を引っ張る。
それに唯一の心の支えになっている愛沢にも迷惑をかける、そうなる前に退職した方がいいと考えた。
愛沢「本当に辞めたいなら、私には止める権
利はないけど、それなら本気で小説家
を目指してみたら?」
高嶋「・・・無理だよ、自分には才能無い」
愛沢「またそんな事を言って、今日の短編も面白かったし、前に読ませてくれた"母猫の日"、あれも凄く面白かったよ、絶対に芥川賞取れるよ」
高嶋「あー・・・そうだった、原稿は返して
くれるの?」
愛沢「あー・・・ごめん、読み終わったんだ
けど妹がまだ読んでて」
高嶋「そう、まぁ別に返さなくていいよ」
愛沢「・・・どうしたの?」
高嶋は全てを伝えた。
退職をして実家に帰り、田舎の農業を継ぐ。
そして執筆とはおさらばして、愛沢ともおさらばする。
高嶋「愛沢さんもいい歳だし、そろそろ落ち
着いたらいいんじゃないか?」
愛沢「結婚の長続きをする人は趣味が合う人
よ」
午後23時
高嶋と愛沢は、バーで酒乱になり、フラフラになりながらも愛沢の家まで到着。
高嶋は愛沢を家まで送り、自身も帰宅を目指す。
近道に広場公園を抜ける。
高嶋は歩きながら、将来を見据えていた。
高嶋は長年、人格を否定され続けたせいで自分の才能にも開花せずにいた、そうして小説家になる道を諦め、実家の農家を継ぐと言っていたが、それも自分に任せられる仕事なのだろうか。
そして本当に"ペン"を捨てられるのだろうか?
湧き上がる想像力を心の中に仕舞い、封印出来るのか?
彼の脳内図は、不安でいっぱいだった。
そしてこう思った。
「もし自分に合う職業を見つけられたら」
このセリフから様々な職業体験をしたいと読み取れる。
そしてその言葉の願いが叶う。
高嶋は、ある奇妙な光に惹きよそられた。
その光の矛先に足を運ぶと、ある物が視界に映る。
サーカス並みのテントが張られており、そのテントの内側から強く光っている。
看板が立てられており、何かの店だと分かる。
看板にはこう書かれている。
"天職フォルテ"
聞いた事もない、見た事もない店だが、不思議な興味を感じ、心理的行動で恐る恐る店の中に入る。
店の中に入った高嶋は、呆気に取られる。
店内は異様な飾りだらけ置かれていた。
人形・動物の剥製・目ん玉・ホルモン漬けの臓器。
まるでファンタジーを想像させる、空間。
でも1番気になったのは理解の授業で使われる試験管みたいなのが、天井から紐グラスが何個もぶら下がっており、全て一つ一つに文字が書かれていた。
よく見ると、何かの"職業"みたいな言葉が書かれていた。
掃除・警備員・消防士・警察官。
他にも色んな職業がある。
一体ここは何の店なのか、疑問に思いながら、疑問を解くために店の店員らしき人物を探すが、見当たらない。
それどころか人の気配すらも感じられない。
??「いらっしゃいませ」
背後から声が聞こえてきた。
高嶋は驚いて後ろを振り向くと、いつの間にか自分の背後に人が椅子に座っていた。
後ろにいた人物は、100キロはありそうな大柄で、占い師みたいな格好をした女性。
奇体で不気味だが、見た感じ店の店主だと分かる。
高嶋「あのーここは、占いとかの店ですか?」
オーナー「いいえ、ここは自分の合った天職
を見つける場所です」
高嶋「天職?・・・じゃあここにある小瓶に書かれているのは職業ってこと?」
オーナー「左様でございます」
高嶋「よく分からないなー、この小瓶をどう
したらいいわけ?」
オーナー「決められたフォルテをお飲みにな
り、あなた様の頭の中で職業を実体
そのものとなって体験できます」
謎のオーナーが言うには、この店は様々な職業を五感として体験できる、つまり仮想空間の中に入り、自分の合った職業を見つけると言う事。
オーナーの話は怪しさ満点でそんな話を普通の人間なら信じないが、アーティスト性のある人間なら興味の欲で試したくなる。
もちろん高嶋はそういう人間なので、迷わず試す事にした。
高嶋「いくら?」
オーナー「2万円になります」
高嶋「高くね!」
オーナー「いくら飲んでも構いません、お持
ち帰りも結構でございます」
高嶋「分かりました、その代わりいい仕事に
会わせてくださいね」
オーナー「それは貴方様次第です」
高嶋は半信半疑ながらも、天職を見つける為にフォルテを探す。
探している内に、職業とは思えないようなフォルテを見つける。
そのフォルテの名は"犯罪"。
犯罪? 殺人・強盗などの罪を犯した事を犯罪者と呼ぶが、これはその類なのか?
それともマフィアとか薬物売人になどに加担する、犯罪組織なのか?
気になった高嶋は、オーナーに聞くが、
「それはアナタ様次第です」と、返されるだけだった。
高嶋は犯罪フォルテを記念すべきデビュー作として、飲む事に決めた。
用意されたベッドに仰向けになり、フォルテを飲み干す。
フォルテの味は、まるで動物のションベンを飲んだ感覚で、すぐにでもゲロを吐き出したい程の味。
高嶋は余りの不味さに吐き出しそうになり、嘔吐寸前になるが、なかなか口から出てこない。
しかし、何とか口から出したが、出てきたのはゲロじゃない。
高嶋「ウー、ウー、ゲオ⁉︎」
黄色いシャボン玉の様な物で、プカプカと浮いている。
恐る恐る触ってみると、感触は普通のシャボン玉だが、普通のシャボン玉と違っていくら触ってもなかなか割れない。
高嶋はそのシャボン玉を見ていると、突然の眠気に襲われ、ゆっくりと瞼が閉じていく。
仮想空間
高嶋優・職業:銀行強盗犯
高嶋はショットガンを片手に、もう片方の手には綿巾着袋を持ち、顔は覆面で隠している。
そして銀行に入り、ショットガンを天井に撃ち、周囲を威嚇する。
高嶋「全員動くな、床に伏せろ!」
銀行店にいた客や銀行員は悲鳴を上げる。
高嶋は受け付けの方に向かい、女性の銀行員に綿巾着袋を渡す。
そしてその中に、金を入れる様に指示する。
高嶋「3分以内に金を詰めろ、入れられるだけ詰めるんだ」
女性銀行員は怯えながらも、すぐに指示に従った。
3分後
女性銀行員は渡された綿巾着袋を持ってきた。
袋はパンパンに膨らんでおり、高嶋は指示通り動いたと思った。
そして外に停めてある、偽装パトカーで警察の目を欺き、遠くに逃亡する計画。
高嶋は念の為に袋の中にある金を確認した。
すると中にあるのは札ではなく、銀行強盗が来た時の対策の為の偽札用の新聞紙。
一体どういう事なのか、女性銀行員に聞くと。
高嶋「おい、何だこれ・・・ガァ⁉︎」
高嶋は突然、銀行員に催涙スプレーを顔に浴びせられ、目が焼ける感覚の激痛が走った。
突然、視界を奪われた高嶋は無我夢中で銀行を出ようとしたが、プロレスラー並みの肉体をした女性銀行員2人に取り押さえられる。
まず1人の女性銀行員がスラインディングキックで転ばさ、高嶋の視界は天井を見る。
そして次にもう1人の女性銀行員が、プロレス技の一種 "エルボー・ドロップ"で高嶋の胸部分を攻撃する。
胸に強い衝撃が走った高嶋は、悲鳴を上げる。
高嶋「ぐぉーーーー!!」
現実世界
生まれてはじめて食らうエルボーに、勢いよく目覚め起き上がる高嶋。
仮想空間から現実世界に戻ってきた高嶋は先程喰らった胸部分と目を抑えるが、何故か痛みはなく、あるのは皮膚から出ている焦り汗。
そして、呼吸の荒い息遣い。
初めて体験したフォルテに頭が混乱する高嶋。
一体先程の出来事は何だったのかを、オーナーに聞く。
オーナーは答える。
高嶋が犯罪フォルテを飲んで、銀行強盗犯になったのは、1番適性のある犯罪行為が自動的に選ばれ、そして銀行強盗事件を起こす。
しかし、1番適性があるからと言って、そのフォルテが天職とは限らない。
バッドエンドで終われば無職、ハッピーエンドで終われば天職。
つまり多量のフォルテの中から一つだけある、自分の天職を見つけなければならない。
オーナー「天職じゃなかったみたいですね」
高嶋「・・・気に入った」
高嶋は気合いの入った顔で、次なる天職を探す為にフォルテを見極める。
そして彼が次に選んだフォルテは、
"スパイ"
またも一般的な職業とは違って、危険極まりない職業。
でも彼は普通の仕事業務じゃ満足できない事を自分なりに自覚しており、これを選んだ。
仮想空間
高嶋優 職業:スパイ
一流スパイの高嶋は、敵国の戦争行為を防ぐ為に敵地に侵入。
そして敵国の超機密情報を入手したスパイ仲間が、その情報を高嶋に渡す為にとあるパーティー会場で内密に会う。
カウンターの席で仲間から情報の資料が入ったアタッシュケースを渡される。
仲間「これを母国に持ち帰れ、これには我が
国の存亡が掛かっている、いいな?」
高嶋「了解」
仲間「特に"殺し屋"には気をつけろ、情報だ
けじゃなく命も奪われるぞ」
高嶋「俺はこの道10年のベテランだぞ、見た
目だけでどんな人間かを判断出来る」
仲間「そんな事はどうでもいい、お前はコレ
を真っ直ぐ国に持ち帰れ! どこにもよ
るな、女殺し屋のハニートラップに引
っかかるな」
高嶋「自分の心配をしてろ、俺はどんな絶世
の美女にも心は奪われない」
高嶋は資料を手に持ち、会場のエレベーターに乗り、どこにも寄らずに帰ろうとするが、
⁇「すみません、乗りまーす!」
突然、エレベーターに女性が乗り込んできた。
乗り込んできた女性は、Z級の絶世美女。
ロングヘアーの黒髪・ふくよかな胸・無駄な肉がついていないスタイル・クールな瞳・完璧フェイスライン。
完全体の美女に心を奪われる高嶋。
すると美女の方から高嶋にアプローチをかけてきた。
美女「あのー私、帰りのタクシー代を忘れて
しまって、それでアレなんですが、タ
クシー代を貸していただけませんか?
もちろん家に着けばお返ししますので」
高嶋「・・・それって、一緒にタクシーに乗
るって事ですか?」
美女「ハイ! あっお詫びとして家に上がって
ご一緒に紅茶でもどうでしょうか?」
高嶋は胸が躍った。
こんな絶世の美女と同席出来るだけじゃなく、家にも上げてくれる、また伴いチャンスだった。
しかし、この女は殺し屋の可能性がある。
仲間から言われた「女を信用するな」
高嶋はスパイの勘から、この女を警戒してある行動を取った。
美女の家
高嶋はベッドの上で胸元に銃を押し付けられている。
実は美女の正体はプロの女殺し屋で、今まで抜群のプロモーションで多くのスパイを葬ってきた。
彼女の手段は、ハニートラップでスパイを誘惑、自宅に連れ込んで男が自ら見ぐるみを脱いだ瞬間に、ベッドの上に寝かせて銃で脅す。
今回も何らく簡単に、ハニートラップの罠にかけることが成功。
高嶋は一瞬の期待と油断により、美女の餌場に飛び込んでしまった。
高嶋の内心「こんな美女と会話出来るのは、
また伴いチャンスだ。
下手したら会話以上の事が出来る
かもしれない。
これもお国のため」
殺し屋「奪った資料はどこ?」
高嶋「拷問しても無駄だ、俺はプロだ・・・
でも命を奪わないでくれたら、教える」
殺し屋「なら早く出す!」
高嶋「アタッシュケースの中にあります」
殺し屋「・・・そう・・・ご苦労さん」
殺し屋は引き金を引き、高嶋の心臓を撃ち抜く。
現実世界
胸を抑えて、現実世界に戻ってくる。
1回目と同様に、バッドエンドらしき終わり方をした。
オーナー「天職ではなかったみたいですね」
次に高嶋が選んだフォルテは"殺し屋"
仮想空間
高嶋優 職業:殺し屋
一流の殺し屋は既に裁判で"死刑"判決を下され、絞首台の上で首に縄をかけられる。
そして執行官がボタンを押し、床が開く。
高嶋は5メートルの高さから落下して、縄が首に絞まり死亡。
現実世界
高嶋「なんでやねん‼︎ 」
ツッコミながら目覚めて、起き上がる。
オーナー「天職じゃなかったみたいですね」
高嶋「天職も何も、仕事すらしてないわ!
ただ首を吊らされただけじゃん!」
次に選んだフォルテは"役者"。
仮想空間
高嶋優 職業:俳優
大人気俳優の高嶋は、大物女優との出演が決まるが、撮影中にセクハラとも言えるアプローチを女性にしたせいで、降板させられる。
それから七股交際の瞬間をスキャンダルされ、それと同時に強制わいせつ行為で逮捕。
俳優業から永久追放。
現実世界
次に選んだフォルテは"傭兵"。
仮想空間
高嶋優 職業:傭兵
戦地に降りて、5秒後に地雷を踏み死亡。
現実世界
次に選んだフォルテは"猟師"。
仮想空間
高嶋優 職業:猟師
背後から熊に強烈な鉄拳を喰らい、首の骨が折れて死亡。
現実世界
高嶋は色んな種類のフォルテを試しているが、どれも望んだ結果にはならない。
ベッドの近くには空の瓶だらけで、無惨に終わった多量のフォルテを摂取している事が分かる。
多くのフォルテを胃の中に入れても、さほど問題はないが、フォルテの味に関してはゲロよりも不味い。
そんな物を何本も飲めば、いずれ気分を害し、精神的に不安定なる。
それでも高嶋は息切れを激しくなりながら、"天職"を見つけるまでフォルテを飲みまくる。
仮想空間
高嶋優 職業:ホスト
不人気ナンバーワンの高嶋は、余興として何本も客に酒を一気飲みさせられる。
飲みすぎたせいで、嘔吐しそうになりトイレに駆け込む。
現実世界
現実に戻ってきた高嶋も、フォルテを飲みすぎた副作用のせいで、トイレでゲロを吐きまくる。
トイレから出てきた高嶋は、完全に精神不安定の状態。
自我を失い、どれだけ探しても見つけられない"天職'に、怒りが膨れ上がる。
そして怒りの矛先を、オーナーにぶつける。
高嶋「この豚マン野郎、何が天職だ! どれも
これもダメ職じゃねーか!」
オーナー「それはフォルテのせいではありま
せん、お客様が天職フォルテを見つ
けられないだけです」
高嶋「ふざけんな! 2万も払ったんだ、それ
なりの結果を残せるのを寄越しやが
れ!」
オーナー「それはアナタ次第です」
高嶋はオーナーに不信感を抱き、オーナーに対して会社に勤めている同僚達と重ねる。
同僚達は毎日、自分をゴミのような目で見ていて、対等に見てもらえない自分に苦痛を感じていた。
高嶋「・・・アンタも俺をゴミみたいに蔑ろ
にするんだろ? そうだよな俺は仕事も
ロクに出来ない、給料泥棒のスーパー
エース高嶋君だもんな!」
オーナー「・・・」
高嶋「俺だって皆んなみたく普通に仕事出来
るようになりたい、別に人並み以上に
優れてなくてもいい、でもどんなに治
そうとしても治せねーんだ!・・・対
等に見てくれよチクショー」
オーナーは悲観的になった姿の高嶋を見て、椅子から立ち上がり、激昂する。
オーナー「調子いいこと言ってんじゃねー
よ!」
高嶋「‼︎」
オーナーは先程までの紳士的で落ち着いた態度から一変した。
座っていたから分からなかったが、オーナーは2メートル近くもある身長で大柄な体格もあり、かなりの威圧感を放つ。
オーナー「オメー、自分が見下されるの他人
のせいだと思ってんだろ?
違うよ、見下されるのはテメーのせ
いだ、誰のせいでもない!
他人は他人をよく見る、そして観察
した結果はよく的を得ている。
でもな・・・自分の事を1番理解し
ているのは"自分"だろ?」
高嶋「!」
オーナー「社会でゴミに認定されたらゴミ
だ! なら生かしとく必要が無い
のは当然のことだ!
もしその"ゴミ"になりたくなかっ
たら、自分の価値を受け入れろ!
目を逸らすな」
"目を逸らすな"。
彼女の言葉はどれも正論だった。
自分が周りから特別扱いされるのは簡単な事。
だって特別だから。
他人は他人をよく理解している、でも完全にじゃない。
見えない部分を見る事は、どれだけ洞察力が優れている人間でも不可能だ。
その見えない部分を曝け出すのは、"自分"しか出来ない。
高嶋はオーナーの言葉で自分に目が覚め、1番飲みたがっていた"フォルテ"を探す。
そのフォルテは"小説"。
彼はそのフォルテを手に取り、じっと見つめるが、その場では飲まずに家に持ち帰る事をオーナーに伝える。
いくらでもお持ち帰りは可能だが、高嶋はそのフォルテのみ持ち帰る事にした。
午前0時前
自宅に帰宅した高嶋は、この日はフォルテを飲まずにリビングのテーブルの上に置く。
そしてソファーの上に寝っ転がり、ゆっくりと目を閉じる。
午後21時
高嶋は全ての覚悟を持ち、3年間お世話になった会社とおさらばする。
社長に辞表を出し、エレベーターで下に降りる。
高嶋がビルの外に出た後、自分を呼び止める女の声が聞こえた。
愛沢「待ってー!」
愛沢だった。
愛沢「酷いよ、自分に黙って会社を辞めるな
んて・・・本当に辞めるの?」
高嶋「本当の本当、これでスッキリしたよ」
愛沢「じゃあ実家に帰って、農家を継ぐの?」
高嶋「それはまだ分からないんだ、もう少し
じっくりと考えたい」
愛沢「高嶋君が居なくなったら、私・・・もうキミの小説は読めないんだね、いつも楽しみにしてたのに」
高嶋「なら早く安定した作家と結婚しなよ、そうしたら愛沢さんは毎日無料で小説を読めるよ」
愛沢「・・・それじゃあ、どの作家と結婚するかは私が決めていいんだよね?」
高嶋「うん・・・そういう事になるんじゃない」
愛沢「それなら」
愛沢は微笑んだ顔で高嶋の口元に人差し指を置き、ロマンチストにプロポーズする。
愛沢「アナタは、バカでドジでおっちょこち
ょいで、いつも手間を掛けさせるけ
ど・・・一緒に居て楽しくない日は無
かった」
高嶋「・・・」
愛沢「アナタの冒険に私も連れて行って」
まさかの高嶋は逆プロポーズされた。
2人は輝いている瞳で見つめ合い、自然と二つの唇が近づていく、少しずつ触れ合いに近づく、そして。
午前10時
高嶋の自宅に一本の電話が鳴り響く。
この電話のせいで、せっかく愛沢と後数センチでキスを出来る"夢"に目を開けてしまった。
高嶋は悔しながらも、見た事もない電話番号に出る。
⁇「もしもし、突然のお電話申し訳ございま
せん、高嶋優のお電話でお間違いないで
しょか?」
高嶋「はい」
⁇「恐れ入ります、わたくし日本文学振興会
の者です」
夢から覚め、この電話に出た高嶋に新しい人生が始まる瞬間だった。
電話の相手は日本文学振興会の審査員で、高嶋が数ヶ月前に応募して来た、"母猫の日"が芥川賞受賞が決定した。
それだけじゃない、多くの一流作家達からも高く評価される程の作品で、ぜひお会いしたい言われるほどの出来だったらしい。
しかし、突然に朗報に高嶋は困惑する。
そもそも"母猫の日"は自分が書いた作品だが、応募はしていない。
なのに何故かいつの間に芥川賞に受賞が決定された。
母猫の日を見せたのは、友達の"愛沢ツバサ"のみ。
作品は彼女の手元にあるはず。
なら誰が勝手に応募したのか、それはもう1人しかいない。
そう考えたら、"謎"が全て解けた。
高嶋は昨日の夜、天職フォルテから自宅に帰宅して、お持ち帰りした"小説"フォルテを飲まずに、テーブルに置いたが、フォルテはいつの間にか"空"になっていた。
高嶋が先ほど見ていたのは夢じゃない、フォルテの仮想空間の中だったと気づいた。
多くを体感したフォルテよりも、最高の最後で終焉した小説フォルテ。
彼はようやく気づいた、自分の天職は・・・
高嶋は自分の全てを受け入れ、掛かってきた電話を切らずにスマホを放置して、私服のまま会社に向かった。
止まらずに走った、足を止めなかった。
疲れも感じなかった、"愛'する人と結ばれる思いが嬉しくて仕方がなかった。
会社に到着して、目立ちながらもエレベーターに上がる高嶋。
そして自分のオフィスに到着して、愛沢を見つける。
愛沢を視界に捉えた瞬間、
高嶋「ツバサさん‼︎」
大声で名前を呼ぶ。
愛沢「シーマ君?」
周りが仕事中だろうと関係なく高嶋は、愛沢に駆け寄る。
愛沢は高嶋の真剣な眼差しと突然行動に驚きを隠せずにいた。
愛沢「どうしたの突然、高嶋くん今日は休み
のはずじゃ」
高嶋「・・・休みだけじゃない、この仕事は
辞める、それを社長に伝えて来た、そ
れともう一つ」
高嶋は本心を伝える。
高嶋「僕と結婚してくれ! ツバサさん!」
唐突の告白に驚く、同僚達と愛沢。
いきなり同僚達の前で退職宣言と同時にプロポーズもされた愛沢は困惑してしまう。
愛沢「ちょっと落ち着いて、一体何が合った
の?」
高嶋「選ばれたんだ、僕の小説が!」
愛沢「えっ⁉︎」
高嶋「芥川賞を受賞したんだ、キミのおかげ
で」
愛沢「・・・嘘」
高嶋「本当だ、だから僕はこれから本気で小
説家になり、名作を生み出し続ける、
そしてキミを幸せにする」
愛沢「・・・」
高嶋「僕はダメなにんげんかもしれない、い
やダメだろうだ、でもこれからは自分
正直に生きて成功を掴む。
そしてキミを絶対に幸せにする、誰よ
りも! 絶対に! だから、ぼ・・・ 」
愛沢はそれ以上は高嶋に言わせない為に、人差し指で高嶋の口を塞ぐ。
そして本心を伝える。
愛沢「アナタは、バカでドジでおっちょこち
ょいで、いつも手間を掛けさせるけ
ど・・・一緒に居て楽しくない日は無
かった」
高嶋「・・・!?」
夢も全く同じセリフに驚く高嶋。
そして次の言葉も読めていた。
愛沢「アナタの冒険に私も連れて行って」
高嶋「もちろん」
プロポーズ成功に周囲の同僚達から拍手の嵐と歓声が送られる。
この日、地球上で"愛"がまた咲いた。
この後の2人は、愛が永遠に続き、そして愛によって誕生した、新たな生命が生まれたのは、言うまでもない。
オーナー「アナタの居場所、必ず見つかりま
すよ」
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いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

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