君は僕を知らない

茶々

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第一章

初めてのデート(前編)

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あのあと、2人は0から友達として始めることにしたのであった。

「おはよ、千鶴。」

社会人や学生が多く利用する駅のホーム。朝の人混みをかき分け翔は待ち合わせ場所にやってきた。

「おはよう、翔くん。」

お互いに軽く挨拶をして学校に向かって歩き出した。昨日の今日で一緒に学校に行くことにお互い抵抗があったが、

なるべく前と同じように過ごしたほうがいいと達樹に言われたのでそうすることにしたのだ。

「そうだ。毎日のこの登下校の時間に翔くんについて教えてよ。前までの私が知ってた翔くんのことが気になるんだ。」

千鶴は自分たちの出会いはいつで、どんな感じだったのか。翔の得意なこと、好きなことは何か。そして、自分のど

んなところが好きになり、逆に翔のどんなところを好きになったのか。気になって仕方がなかった。

「そうだね。もしかしたら何かわかるかもしれないし、僕のことをもっと知ってほしいしそうすることにするよ。」

そうして翔は毎日の登下校の時間にたくさんの話をするようになった。

子供のころはどんな性格をして、どんな見た目をしていたのか。

千鶴と今までにどんな喧嘩をしたのか。

どんなところに出かけて、どんな話で盛り上がっていたのか。

毎日さまざまな話をした。千鶴がこんな話を聞きたいとリクエストをする日もあった。2人は付き合っていただけあ

って、仲良くなるのに時間はさほど必要なかった。そのうち、登下校の時間以外にも電話で話したり、休み時間に立

ち話をしたりと、どんどん2人の仲は深まっていき、今までは翔くんと呼んでいた千鶴であったが、今では翔と気安

く呼ぶようになっていた。

金曜日の昼休み。2人は屋上で向かい合ってご飯を食べていた。

「あのさ、翔。明後日何か予定あったりする?」

「いや、ないけど。どうしたの?」

「もしよかったらなんだけど、その、2人でショッピングに行きませんか?」

手をもじもじさせながら上目遣いでそう言った千鶴の顔は、今にも火が出そうなくらい真っ赤だった。

「もちろん!」

喜びのあまり大きい声を出してしまった翔は慌てて口を押さえた。

「よかった。」

イエスの返事が返ってきた千鶴は安心して大きく息を吐いた。

「あの、それってデートのお誘い?」

自分で聞いておきながら顔を赤らめる翔。

「え、いや、そうじゃなくて、その達樹くんがここまでサポートしてくれたから今私たちは仲良くなれてるわけで、

だからお礼の品でも買いに行こうかなーって思って。」

デートなんて面と向かって言われた千鶴はあたふたした。

「そっか、そうだよね。俺とデートなんてしないよな。」

千鶴にデートに誘ってもらえたと思っていた翔は、自分の勘違いだと知って思いっきり落ち込んだ。

「あ、そのそうじゃなくて、デートのお誘いなんだけど、でもそうじゃなくて、達樹くんにお礼の品買いに行くわけ

であって、だからデートじゃなくて、って私なに言ってるんだろ。その、一言でまとめると、デートって言うのが恥

ずかしくてごまかしました。」

先ほどよりもいっそう千鶴の顔は赤くなり、今度はマグマが出そうなくらい真っ赤だった。

「ってことは、デートってことだよね。」

「そうだよ、そうだから、お願いだからもうこれ以上デートって言わないで。」

最後の一言がダメ押しとなり千鶴はぷしゅーと顔から煙を出し完全にノックダウンしてしまった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そして日曜日。

10時に駅前で待ち合わせをしていた2人であったが、翔は9時にそこへ来てしまった。

「やばい、遅れたらいけないと思って早めに家出たけどちょっと早すぎたな。」

腕時計を時間を確認した翔は、あと1時間をどうやって過ごすか考え始めた。周りを見渡してどこかゆっくりとでき

る場所を探していると、すぐ近くに喫茶店があった。

「ちょっとだけ値は張るけど、ゆっくり過ごせるからあそこでいっか。」

喫茶店の中ではお洒落なクラシックが流れていてとても居心地がいい場所だった。

「いらっしゃいませ、一名様でよろしかったでしょうか。」

「はい。」

そう言うと窓際の席に案内された。

席についてメニューを眺める。コーヒーだけで500円もしたが、これもデートの準備と前向きにとらえることにした。

「それじゃあ、コーヒーを1つ。」

「かしこまりました。」

あまりこういう場は慣れていないので少し緊張した。

すぐにコーヒーを持った店員がやってきた。

「おまたせしました。」

カップをテーブルにおきお辞儀をする一連の動作がとてもきれいだな、なんて思いながらコーヒーをひと口口に含

む。初めて飲んだ少し良いコーヒーは香りがよく、苦みも強く大人な味わいだった。

窓の外を眺めながら時間を確認すると時計の針は9時30分を指していた。

あと30分かと思いカップに手を付けたとき、チリンチリーンとドアが開く音がした。

「いらっしゃいませ、1名様でよろしかったでしょうか。」

「はい。」

自分と一緒で1人で喫茶店にやってきたのはどんな人かなーと思いながらも、あまり見ていると気持ち悪がられると

考え、ちらっと確認するとそこには千鶴がいた。

「千鶴!?」

静かな喫茶店に声が響いた。急に名前を呼ばれた千鶴はびっくりして声のするほうに顔を向ける。

店員さんにすみませんと一声かけ千鶴がこちらへとやってきた。

「どうしてこんな時間に翔がいるの?」

「そっちこそ、待ち合わせにはまだ30分もあるのに。」

お互いにまさかこんなところにいるなんて考えもしていなかった。

「いや、実は遅れたらいけないと思って早めに家を出たら思ってたよりも早く着いちゃって。」

「千鶴も!?実は俺も同じなんだ。」

まったく同じ理由で早く来た2人は苦笑いをして顔を見合わせた。

「せっかく来たんだし少しゆっくりしてから行こうか。」

「そうだね、そうしよっか。」

そう言って千鶴は席につき、メニューを開いた。

「うーん、どれがいいんだろ。ところで翔は何にしたの?」

千鶴もあまりこういう所には来ないのか悩んでいた。

「俺はコーヒーにしたよ。」

「嘘!?翔ってコーヒー飲めるの?」

意外そうな顔で千鶴はこっちを見てきた。

「結構好きだよ。苦みが病みつきになるんだ。」

「そうなんだ。私はその苦いのがダメなんだよね。」

千鶴はべーっと舌を出し苦いのは無理と表情で表した。

「うーん、どうしよう。」

千鶴が迷っていると店員さんが近寄ってきた。

「もし苦いのが苦手でしたら、ミルクと砂糖多めの甘いカフェオレもお作りできますが、いかがいたしますか?」

「ほんとですか!?それなら両方たっぷりでお願いします。」

「かしこまりました。」

店員さんは注文を取るとすぐに厨房に向かっていった。そして5分ほど待つとカップをもってやってきた。

「お待たせしました。もしまだ苦いようでしたらこちらのミルクと砂糖をお入れください。」

「ありがとうございます。」

千鶴はカップを受け取るとふーっと息を吹きかけた。そして、ひと口。

「んっ、甘くておいしい。」

そう言ってもうひと口口に含んだ。

「カフェオレってこんなにおいしかったんだ。」

初めてのカフェオレに千鶴は大満足のようだ。

それから30分後。2人は飲み物を飲み終え喫茶店を後にした。


~この話は後編に続きます~






























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