あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?

AK

文字の大きさ
8 / 17

8話

しおりを挟む
「今すぐにとは言わぬ。だが前向きに検討してほしい」

 そう言って陛下は部屋を後にした。
 残された私は混乱する頭を抱えながら、そのまままっすぐ家路についた。
 本来ならばこの後もすぐに工房に戻って研究の続きに取り掛かりたかったところだけれど、事態が変わったのでまずはお父様たちに報告するべきだと思ったからだ。

「これは……凄いことになりましたね。シェリル様」

「……うん。まさか王子様とのお見合いを申し込まれるだなんて、予想もしてなかったよ」

 王子との婚約。
 それはあらゆる貴族令嬢――いや、その親が理想とするものだろう。
 王家との繋がりを持つことができた貴族は、例え爵位が同格でも他の貴族とは扱いが異なってくる。
 当然発言力も増し、金銭面でも優位に立つことが可能となるだろう。

 だからこそ貴族に生まれた娘は、より優れた容姿を持つものや突出した才能を持つものが尊ばれるのだ。
 自身よりも上位の存在と強い関係を結ぶこと。
 それが貴族社会における婚約の最大の目的なのだから。

「しかしシェリル様の魔導の才を以ってすれば当然の事かと。陛下はシェリル様を近しい存在として置いておきたいのでしょう」

「……まあ、そうだよね」

 陛下が私のことを本気で気遣ってくださっているのは分かっている。
 本来ならば無理にでも見合いをさせ、やや強引にでも結婚まで結びつけることだってあのお方ならできたはずだ。
 でも、そうはせず、あくまで私の意思を尊重すると言ってくださった。

 まあ、正直なところ陛下が私を他の国へ逃がしたくないと考えておられることも分かっている。
 何故ならユーリスとの婚約が公になった時、陛下自ら、

「これでわしも一安心だ。これからも我が国で存分に活躍するがいい。支援は惜しまぬ」

 と、仰っていたからだ。
 公爵家は王族と最も近しい存在だ。
 中でもヴァールハイト公爵様は陛下が特に信を置いているお方。
 だからこそ、あのような言葉をかけてくださったのだろう。

 まあ、結果としてこのような最悪の形となってしまったからこそ、陛下は改めて私と王家に強い繋がりを持たせるべくお見合いを申し込んできたのだろう。
 でも正直なところ、それが分かったところで私にとってはさほど重要なことではない。

 私はもともとこの国から出ていくつもりは微塵もないし、尊敬する陛下から直々のお見合いを申し込まれたら断る理由なんてない。
 それに私とて女の子の端くれ。
 王子様と言う輝かしい存在にあこがれを抱いたことだって当然ある。
 決して悪いことばかりではないとは思った。

 まあ、一つ引っかかることがあるとすれば――

「……王女殿下、か」

 あの日の夜、下卑た笑みを浮かべながらこちらを見下すナディア王女の顔がチラついた。
 口には出さないけれど、もし王子様がアレと同じような存在なのだとしたら、それは流石に全力でお断りしたい。
 流石に肩書だけで一生を共にするパートナーは選べない。
 それならずっと一人で引きこもって研究している方がマシと断言できる。

 そして家に到着し、早速お父様にこのことを相談してみると、

「なんと……陛下がそのように仰ってくださるのはとても喜ばしいことではあるが、シェリル。お前はどうだ? このお見合い、受ける気はあるのか?」

「……はい。せっかくのご縁ですので、まずはお話だけでもと」

「そうか。無理はしていないな?」

「はい。大丈夫です。私の意思でこの件、お受けしようかなと」

「そうか。何度も繰り返すようだが家のことは気にするな。まずはお前が幸せになれる相手を見つけることに集中しろ」

「はい。ありがとうございます」

 お父様はいつも私のことを最優先で考えてくれる。
 本来ならば絶対にいけ。粗相はするなよ。必ず婚約を勝ち取れ。
 くらい言いたい立場のはずなのに、そんなのは表情にすら出さない。

 だからこそ、ああ、私は恵まれているな。
 なんて、そんな想いすら抱けるのだ。


しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

処理中です...