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8話
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「今すぐにとは言わぬ。だが前向きに検討してほしい」
そう言って陛下は部屋を後にした。
残された私は混乱する頭を抱えながら、そのまままっすぐ家路についた。
本来ならばこの後もすぐに工房に戻って研究の続きに取り掛かりたかったところだけれど、事態が変わったのでまずはお父様たちに報告するべきだと思ったからだ。
「これは……凄いことになりましたね。シェリル様」
「……うん。まさか王子様とのお見合いを申し込まれるだなんて、予想もしてなかったよ」
王子との婚約。
それはあらゆる貴族令嬢――いや、その親が理想とするものだろう。
王家との繋がりを持つことができた貴族は、例え爵位が同格でも他の貴族とは扱いが異なってくる。
当然発言力も増し、金銭面でも優位に立つことが可能となるだろう。
だからこそ貴族に生まれた娘は、より優れた容姿を持つものや突出した才能を持つものが尊ばれるのだ。
自身よりも上位の存在と強い関係を結ぶこと。
それが貴族社会における婚約の最大の目的なのだから。
「しかしシェリル様の魔導の才を以ってすれば当然の事かと。陛下はシェリル様を近しい存在として置いておきたいのでしょう」
「……まあ、そうだよね」
陛下が私のことを本気で気遣ってくださっているのは分かっている。
本来ならば無理にでも見合いをさせ、やや強引にでも結婚まで結びつけることだってあのお方ならできたはずだ。
でも、そうはせず、あくまで私の意思を尊重すると言ってくださった。
まあ、正直なところ陛下が私を他の国へ逃がしたくないと考えておられることも分かっている。
何故ならユーリスとの婚約が公になった時、陛下自ら、
「これでわしも一安心だ。これからも我が国で存分に活躍するがいい。支援は惜しまぬ」
と、仰っていたからだ。
公爵家は王族と最も近しい存在だ。
中でもヴァールハイト公爵様は陛下が特に信を置いているお方。
だからこそ、あのような言葉をかけてくださったのだろう。
まあ、結果としてこのような最悪の形となってしまったからこそ、陛下は改めて私と王家に強い繋がりを持たせるべくお見合いを申し込んできたのだろう。
でも正直なところ、それが分かったところで私にとってはさほど重要なことではない。
私はもともとこの国から出ていくつもりは微塵もないし、尊敬する陛下から直々のお見合いを申し込まれたら断る理由なんてない。
それに私とて女の子の端くれ。
王子様と言う輝かしい存在にあこがれを抱いたことだって当然ある。
決して悪いことばかりではないとは思った。
まあ、一つ引っかかることがあるとすれば――
「……王女殿下、か」
あの日の夜、下卑た笑みを浮かべながらこちらを見下すナディア王女の顔がチラついた。
口には出さないけれど、もし王子様がアレと同じような存在なのだとしたら、それは流石に全力でお断りしたい。
流石に肩書だけで一生を共にするパートナーは選べない。
それならずっと一人で引きこもって研究している方がマシと断言できる。
そして家に到着し、早速お父様にこのことを相談してみると、
「なんと……陛下がそのように仰ってくださるのはとても喜ばしいことではあるが、シェリル。お前はどうだ? このお見合い、受ける気はあるのか?」
「……はい。せっかくのご縁ですので、まずはお話だけでもと」
「そうか。無理はしていないな?」
「はい。大丈夫です。私の意思でこの件、お受けしようかなと」
「そうか。何度も繰り返すようだが家のことは気にするな。まずはお前が幸せになれる相手を見つけることに集中しろ」
「はい。ありがとうございます」
お父様はいつも私のことを最優先で考えてくれる。
本来ならば絶対にいけ。粗相はするなよ。必ず婚約を勝ち取れ。
くらい言いたい立場のはずなのに、そんなのは表情にすら出さない。
だからこそ、ああ、私は恵まれているな。
なんて、そんな想いすら抱けるのだ。
そう言って陛下は部屋を後にした。
残された私は混乱する頭を抱えながら、そのまままっすぐ家路についた。
本来ならばこの後もすぐに工房に戻って研究の続きに取り掛かりたかったところだけれど、事態が変わったのでまずはお父様たちに報告するべきだと思ったからだ。
「これは……凄いことになりましたね。シェリル様」
「……うん。まさか王子様とのお見合いを申し込まれるだなんて、予想もしてなかったよ」
王子との婚約。
それはあらゆる貴族令嬢――いや、その親が理想とするものだろう。
王家との繋がりを持つことができた貴族は、例え爵位が同格でも他の貴族とは扱いが異なってくる。
当然発言力も増し、金銭面でも優位に立つことが可能となるだろう。
だからこそ貴族に生まれた娘は、より優れた容姿を持つものや突出した才能を持つものが尊ばれるのだ。
自身よりも上位の存在と強い関係を結ぶこと。
それが貴族社会における婚約の最大の目的なのだから。
「しかしシェリル様の魔導の才を以ってすれば当然の事かと。陛下はシェリル様を近しい存在として置いておきたいのでしょう」
「……まあ、そうだよね」
陛下が私のことを本気で気遣ってくださっているのは分かっている。
本来ならば無理にでも見合いをさせ、やや強引にでも結婚まで結びつけることだってあのお方ならできたはずだ。
でも、そうはせず、あくまで私の意思を尊重すると言ってくださった。
まあ、正直なところ陛下が私を他の国へ逃がしたくないと考えておられることも分かっている。
何故ならユーリスとの婚約が公になった時、陛下自ら、
「これでわしも一安心だ。これからも我が国で存分に活躍するがいい。支援は惜しまぬ」
と、仰っていたからだ。
公爵家は王族と最も近しい存在だ。
中でもヴァールハイト公爵様は陛下が特に信を置いているお方。
だからこそ、あのような言葉をかけてくださったのだろう。
まあ、結果としてこのような最悪の形となってしまったからこそ、陛下は改めて私と王家に強い繋がりを持たせるべくお見合いを申し込んできたのだろう。
でも正直なところ、それが分かったところで私にとってはさほど重要なことではない。
私はもともとこの国から出ていくつもりは微塵もないし、尊敬する陛下から直々のお見合いを申し込まれたら断る理由なんてない。
それに私とて女の子の端くれ。
王子様と言う輝かしい存在にあこがれを抱いたことだって当然ある。
決して悪いことばかりではないとは思った。
まあ、一つ引っかかることがあるとすれば――
「……王女殿下、か」
あの日の夜、下卑た笑みを浮かべながらこちらを見下すナディア王女の顔がチラついた。
口には出さないけれど、もし王子様がアレと同じような存在なのだとしたら、それは流石に全力でお断りしたい。
流石に肩書だけで一生を共にするパートナーは選べない。
それならずっと一人で引きこもって研究している方がマシと断言できる。
そして家に到着し、早速お父様にこのことを相談してみると、
「なんと……陛下がそのように仰ってくださるのはとても喜ばしいことではあるが、シェリル。お前はどうだ? このお見合い、受ける気はあるのか?」
「……はい。せっかくのご縁ですので、まずはお話だけでもと」
「そうか。無理はしていないな?」
「はい。大丈夫です。私の意思でこの件、お受けしようかなと」
「そうか。何度も繰り返すようだが家のことは気にするな。まずはお前が幸せになれる相手を見つけることに集中しろ」
「はい。ありがとうございます」
お父様はいつも私のことを最優先で考えてくれる。
本来ならば絶対にいけ。粗相はするなよ。必ず婚約を勝ち取れ。
くらい言いたい立場のはずなのに、そんなのは表情にすら出さない。
だからこそ、ああ、私は恵まれているな。
なんて、そんな想いすら抱けるのだ。
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