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「おのれ、あのバカ娘がぁ……おい! すぐにブランヴェル家に向かい、シェリルを明日呼び出すように伝えて置け! わしはこれからあのバカ娘と大事な話がある。やつをすぐに呼び出せ!」
「は、はいいいっ!!」
怒髪衝天の陛下の怒号に震え上がった報告者はすぐに振り返って会場へと戻っていった。
「クライム! これは一体どういうことだ。ユーリスとシェリルの仲は上手く行っていたのではなかったのか!!」
「も、申し訳ございません陛下。我が愚息がこのような愚行に出るとは私自身予測できず……」
「まあ良い。貴公を責めても時は戻らぬ。だがしかとユーリスよりその事情を聴いておくが良い。理由によっては――言うまでもなかろう」
「はっ、必ずや……」
クライムは起きてしまった現実に理解が追い付かないながらも、陛下の怒りを前に無理矢理冷静さを取り戻し、退室した陛下を追うようにすぐに息子の下へと足を運んだ。
会場はナディア王女の突然の暴挙によって大混乱。
既に彼女は身柄を確保され、陛下の下へと連行されている。
そして壇上には呆然としている自身の息子、ユーリスの姿があった。
「ユーリス」
「ち、父上。これは――」
「言い訳は後で聞こう。ひとまず来い」
「は、はい……」
あくまで冷静に、されど逃がさぬという圧をかけ、連れていく。
ユーリス=ヴァールハイト。
公爵家の生まれとして恥ずかしくない容姿と実力を秘めた優秀な息子だと思っていたが、今回の件でその評価を一度改めなければならないと、クライムは心の底で大きなため息を吐いた。
「ユーリス。聞いたぞ。お前はシェリル嬢との婚約を破棄し、ナディア王女と婚約を結ぶ気だそうではないか。何故そんな真似をした。理由を聞かせろ」
「……はい。公爵子息として己の立場を考えた結果、ナディア王女を婚約を結ぶべきだと判断したからです」
「それはどういう意味だ。シェリル嬢と結婚するのが嫌になったのではないのか?」
「……シェリルはとても魅力的な女性だった。それは間違いありません。ですが――私は知ってしまったのです。ナディア王女の苦悩と不遇な扱いを」
「――?」
「私は彼女から聞きました。シェリルの才能を見出し、優遇し、研究の後押しをしているのは自分である。私自身は突出した才能を持たないが、優秀な才能を持つものを見抜く力がある。にも拘わらず、それが認められないまま他国に無理矢理嫁がされそうになっていると」
「――待て。その話、まさかお前、本当に信じているのか?」
「はい。ナディア王女は王立魔導研究所の顧問も務めておられますし、何より彼女の眼がそれが偽りではないと告げていたのです。ですので私は公爵子息として、彼女の流出を阻止するべきだと判断しました。公爵家としても、王家とより深い繋がりを持てるのは決して悪くないと思い――」
自信満々にそう語るユーリスを前に、クライムは肺の空気が全てなくなるほどの大きなため息を吐いた。
そして思い出す。ナディア王女をこのまま何の役職もないまま遊ばせておくわけにはいかないと、名前だけは王立魔導研究所の顧問と言う役名を与えられていたことを。
王立魔導研究所と言えば、シェリルが現在所属している機関。
確かに一定の説得力はあるが、まさかそんな王女の妄言に息子が騙されようとは。
「――もういい。この件について、陛下は酷くお怒りだ。後日王城に召喚されることにもなるだろう。またそれについてどう対応するべきか考える。下がれ」
「えっ……は、はい。分かりました」
何故自分が言っていることを受け入れてもらえないのか、まったくと言っていいほど理解していない息子の顔を見て、またも大きなため息を吐くクライム。
もう取り返しがつかないかもしれないと思うと、頭が痛くなるのであった。
「は、はいいいっ!!」
怒髪衝天の陛下の怒号に震え上がった報告者はすぐに振り返って会場へと戻っていった。
「クライム! これは一体どういうことだ。ユーリスとシェリルの仲は上手く行っていたのではなかったのか!!」
「も、申し訳ございません陛下。我が愚息がこのような愚行に出るとは私自身予測できず……」
「まあ良い。貴公を責めても時は戻らぬ。だがしかとユーリスよりその事情を聴いておくが良い。理由によっては――言うまでもなかろう」
「はっ、必ずや……」
クライムは起きてしまった現実に理解が追い付かないながらも、陛下の怒りを前に無理矢理冷静さを取り戻し、退室した陛下を追うようにすぐに息子の下へと足を運んだ。
会場はナディア王女の突然の暴挙によって大混乱。
既に彼女は身柄を確保され、陛下の下へと連行されている。
そして壇上には呆然としている自身の息子、ユーリスの姿があった。
「ユーリス」
「ち、父上。これは――」
「言い訳は後で聞こう。ひとまず来い」
「は、はい……」
あくまで冷静に、されど逃がさぬという圧をかけ、連れていく。
ユーリス=ヴァールハイト。
公爵家の生まれとして恥ずかしくない容姿と実力を秘めた優秀な息子だと思っていたが、今回の件でその評価を一度改めなければならないと、クライムは心の底で大きなため息を吐いた。
「ユーリス。聞いたぞ。お前はシェリル嬢との婚約を破棄し、ナディア王女と婚約を結ぶ気だそうではないか。何故そんな真似をした。理由を聞かせろ」
「……はい。公爵子息として己の立場を考えた結果、ナディア王女を婚約を結ぶべきだと判断したからです」
「それはどういう意味だ。シェリル嬢と結婚するのが嫌になったのではないのか?」
「……シェリルはとても魅力的な女性だった。それは間違いありません。ですが――私は知ってしまったのです。ナディア王女の苦悩と不遇な扱いを」
「――?」
「私は彼女から聞きました。シェリルの才能を見出し、優遇し、研究の後押しをしているのは自分である。私自身は突出した才能を持たないが、優秀な才能を持つものを見抜く力がある。にも拘わらず、それが認められないまま他国に無理矢理嫁がされそうになっていると」
「――待て。その話、まさかお前、本当に信じているのか?」
「はい。ナディア王女は王立魔導研究所の顧問も務めておられますし、何より彼女の眼がそれが偽りではないと告げていたのです。ですので私は公爵子息として、彼女の流出を阻止するべきだと判断しました。公爵家としても、王家とより深い繋がりを持てるのは決して悪くないと思い――」
自信満々にそう語るユーリスを前に、クライムは肺の空気が全てなくなるほどの大きなため息を吐いた。
そして思い出す。ナディア王女をこのまま何の役職もないまま遊ばせておくわけにはいかないと、名前だけは王立魔導研究所の顧問と言う役名を与えられていたことを。
王立魔導研究所と言えば、シェリルが現在所属している機関。
確かに一定の説得力はあるが、まさかそんな王女の妄言に息子が騙されようとは。
「――もういい。この件について、陛下は酷くお怒りだ。後日王城に召喚されることにもなるだろう。またそれについてどう対応するべきか考える。下がれ」
「えっ……は、はい。分かりました」
何故自分が言っていることを受け入れてもらえないのか、まったくと言っていいほど理解していない息子の顔を見て、またも大きなため息を吐くクライム。
もう取り返しがつかないかもしれないと思うと、頭が痛くなるのであった。
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