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27話
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「――酷いもんだな。大地震の後ってのは」
ディグランスの王都に到着した私を待ち受けていたのは、想像以上の凄惨な光景だった。
建物のほとんどが倒壊し、辛うじて形を保てたものも傾いていたり一階部分が潰されていたりしている。
火災も発生したのか、黒焦げになった家も多数あった。
地面はところどころ隆起して歪な形になっており、片付け切れていない瓦礫が道を塞いでいるところも多い。
そして何より特徴的なのが、王都を二分割するかのようにできた巨大な地割れだ。
こんなものを見せられると、これほどまでの現象を引き起こす大地の邪神の強大な力に少なからず恐怖を覚えるのも仕方がないだろう。
道中、救出作業や片づけを行う人々が目に入ったが、私たちの目的は復興支援ではないのでスルーしてアストラが待つという王城へと向かう。
ちなみに現在、私は顔を隠して移動している。
これはヴィリス殿下に言われて付けたものだ。
私は一応当代の要の巫女としてそれなりに名前と顔が知られているので、このような大地震が起こってしまった以上、私に対して怒りをぶつけてくる者も少なからず存在するだろうという理由だ。
確かにこの惨状を引き起こしたのは私ではあるが、恐らく彼らがぶつけてくるであろう
「なんでこんな大地震を防ぐことが出来なかったんだ!」
と言った見当違いの怒りをぶつけられるのはごめんだ。
私は地震を防がなかったんじゃない。
今までずっと防ぎ続けてきたのをやめただけだ。
何百年もの間、歴代の巫女たちがその命を削りながらディグランス王国の滅びの時を先送りし続けた。
しかし現代の王族が当代の要の巫女――即ち私を拒絶したことで、先送りの手段は失われ、いずれ訪れるはずだった滅びがこうして成ってしまったという訳だ。
仮にこの事実を公表したらどうなるだろうか?
私たち要の巫女の一族の評価は回復し、再び国の守護者として受け入れられるだろうか。
いいや、そんな訳ないだろう。
言い訳をするな。罪を償え。お前たちのせいだ。
そんな一方的な暴言を浴びせられ、断罪されるだけだ。
だから私はこの国に戻りたくなかったんだ。
それでも、どうやら私はまだこの国でやるべきことが残っているらしい。
前世の私が転生してでも叶えたかった強い願い。
それを叶えてやれるのは世界でこの私しか存在しない。
「……リシア。大丈夫か?」
「はい、ご心配ありがとうございます。ですが私は大丈夫です。先を急ぎましょう」
ヴィリス殿下は私に対してかなり気を使ってくれているのがよく分かる。
私が自らディグランス王国に行くと宣言した時は考えを改めるように説得してきたし、いざ向かうとなった時も何かあったら必ずオレが護ると誓ってくれた。
私にはその言葉がとても心強かった。
私の婚約者がヴィリス殿下のような方だったら、国の決定だったとしても私のことを護ってくれたのかな、とふと思った。
アストラはヴィリス殿下のような武闘派ではなく、文官タイプの人間だった。
だからこそ冷静かつ冷酷に判断を下し、私に婚約破棄と共に爵位剥奪を淡々と告げてきたのだ。
もしアストラだけでも私の味方でいてくれたら。
巫女は絶対に必要な存在だから一緒に戦ってそれを知らしめようと言ってくれたら。
私はこの国を捨てる決断を下さなかったかもしれない。
でも現実は違った。
だからこの惨状が引き起こされた。
私はもう、この国を愛すことは出来ない。
自らの命を削ってまで護りたいとは思えない。
「リシア。そろそろ王城に着く。お前は待っているか?」
「……いえ、お供いたします。アストラの顔も、見ておきたかったので」
「そうか。無理はするなよ本当に」
「ありがとうございます」
そんなやり取りをしながら、私たちは崩壊した王城へと足を踏み入れた。
一部はまだその形を辛うじて保てているが、その大部分が使い物にならない城。
明かりがなくなってしまったので全体的に薄暗く、人々も疲れ果てている様子で全体的に重苦しい雰囲気となっていた。
ヴィリス殿下が自分たちをアガレス王国からの使いであると名乗ると、私たちはそのまま中へ通された。
アストラはこの先でディグランス王国国王代理として待っている。
「――行くぞ、リシア」
「はい。私は大丈夫です。ヴィリス殿下」
「よし」
殿下がドアを開け、部屋の中へ入っていく。
私もそれに続いて入室すると、そこにはげっそりとした様子のアストラが待っていた。
あんな男ではあるが元々アストラの容姿はかなり良く、町を歩けば女の子たちの視線を一気に獲得するような人だった。
しかし今となっては見る影もない。
過労と睡眠不足の影響だろうか。表情は暗く、目も死んでいる。
しかもよく見ると片腕がないじゃないか。
あの地震で失ったのだろうか。
「お初にお目にかかる。ディグランス王国王太子――いや、国王代理とお呼びするべきか」
「……どちらでも構いません。とりあえずよくぞ来てくださいました、アガレス王国第三王子――星剣士ヴィリス殿。もてなしの一つも出来ずに申し訳ないが、歓迎いたします」
「アストラ殿。今回の件、アガレスを代表して深くお見舞い申し上げる。我が国は友好国としてディグランスへの可能な限りの支援を約束する」
「ありがとうございます。祖先の代より続く長き友好関係に感謝を」
アストラは私にとって憎き相手だが、無能という訳ではない。
むしろ有能と言うべき存在だ。
誰よりも勉学に励み、次期国王として民の幸せを最優先に考え、行動する男。
これでも昔の私はアストラのことを尊敬していたつもりだ。
「時にヴィリス殿、そちらの女性は?」
「あぁ、彼女は――」
やはり気になるよね。
来てほしかったのはヴィリス殿下だけなのに、その横に謎の顔を隠した女がいるんだもの。
だから私は変装を解き、素顔を晒す。
「――お久しぶりですね、アストラ……殿下」
「なっ――リシア!?」
アストラの表情は一瞬にして驚愕に染まった。
ディグランスの王都に到着した私を待ち受けていたのは、想像以上の凄惨な光景だった。
建物のほとんどが倒壊し、辛うじて形を保てたものも傾いていたり一階部分が潰されていたりしている。
火災も発生したのか、黒焦げになった家も多数あった。
地面はところどころ隆起して歪な形になっており、片付け切れていない瓦礫が道を塞いでいるところも多い。
そして何より特徴的なのが、王都を二分割するかのようにできた巨大な地割れだ。
こんなものを見せられると、これほどまでの現象を引き起こす大地の邪神の強大な力に少なからず恐怖を覚えるのも仕方がないだろう。
道中、救出作業や片づけを行う人々が目に入ったが、私たちの目的は復興支援ではないのでスルーしてアストラが待つという王城へと向かう。
ちなみに現在、私は顔を隠して移動している。
これはヴィリス殿下に言われて付けたものだ。
私は一応当代の要の巫女としてそれなりに名前と顔が知られているので、このような大地震が起こってしまった以上、私に対して怒りをぶつけてくる者も少なからず存在するだろうという理由だ。
確かにこの惨状を引き起こしたのは私ではあるが、恐らく彼らがぶつけてくるであろう
「なんでこんな大地震を防ぐことが出来なかったんだ!」
と言った見当違いの怒りをぶつけられるのはごめんだ。
私は地震を防がなかったんじゃない。
今までずっと防ぎ続けてきたのをやめただけだ。
何百年もの間、歴代の巫女たちがその命を削りながらディグランス王国の滅びの時を先送りし続けた。
しかし現代の王族が当代の要の巫女――即ち私を拒絶したことで、先送りの手段は失われ、いずれ訪れるはずだった滅びがこうして成ってしまったという訳だ。
仮にこの事実を公表したらどうなるだろうか?
私たち要の巫女の一族の評価は回復し、再び国の守護者として受け入れられるだろうか。
いいや、そんな訳ないだろう。
言い訳をするな。罪を償え。お前たちのせいだ。
そんな一方的な暴言を浴びせられ、断罪されるだけだ。
だから私はこの国に戻りたくなかったんだ。
それでも、どうやら私はまだこの国でやるべきことが残っているらしい。
前世の私が転生してでも叶えたかった強い願い。
それを叶えてやれるのは世界でこの私しか存在しない。
「……リシア。大丈夫か?」
「はい、ご心配ありがとうございます。ですが私は大丈夫です。先を急ぎましょう」
ヴィリス殿下は私に対してかなり気を使ってくれているのがよく分かる。
私が自らディグランス王国に行くと宣言した時は考えを改めるように説得してきたし、いざ向かうとなった時も何かあったら必ずオレが護ると誓ってくれた。
私にはその言葉がとても心強かった。
私の婚約者がヴィリス殿下のような方だったら、国の決定だったとしても私のことを護ってくれたのかな、とふと思った。
アストラはヴィリス殿下のような武闘派ではなく、文官タイプの人間だった。
だからこそ冷静かつ冷酷に判断を下し、私に婚約破棄と共に爵位剥奪を淡々と告げてきたのだ。
もしアストラだけでも私の味方でいてくれたら。
巫女は絶対に必要な存在だから一緒に戦ってそれを知らしめようと言ってくれたら。
私はこの国を捨てる決断を下さなかったかもしれない。
でも現実は違った。
だからこの惨状が引き起こされた。
私はもう、この国を愛すことは出来ない。
自らの命を削ってまで護りたいとは思えない。
「リシア。そろそろ王城に着く。お前は待っているか?」
「……いえ、お供いたします。アストラの顔も、見ておきたかったので」
「そうか。無理はするなよ本当に」
「ありがとうございます」
そんなやり取りをしながら、私たちは崩壊した王城へと足を踏み入れた。
一部はまだその形を辛うじて保てているが、その大部分が使い物にならない城。
明かりがなくなってしまったので全体的に薄暗く、人々も疲れ果てている様子で全体的に重苦しい雰囲気となっていた。
ヴィリス殿下が自分たちをアガレス王国からの使いであると名乗ると、私たちはそのまま中へ通された。
アストラはこの先でディグランス王国国王代理として待っている。
「――行くぞ、リシア」
「はい。私は大丈夫です。ヴィリス殿下」
「よし」
殿下がドアを開け、部屋の中へ入っていく。
私もそれに続いて入室すると、そこにはげっそりとした様子のアストラが待っていた。
あんな男ではあるが元々アストラの容姿はかなり良く、町を歩けば女の子たちの視線を一気に獲得するような人だった。
しかし今となっては見る影もない。
過労と睡眠不足の影響だろうか。表情は暗く、目も死んでいる。
しかもよく見ると片腕がないじゃないか。
あの地震で失ったのだろうか。
「お初にお目にかかる。ディグランス王国王太子――いや、国王代理とお呼びするべきか」
「……どちらでも構いません。とりあえずよくぞ来てくださいました、アガレス王国第三王子――星剣士ヴィリス殿。もてなしの一つも出来ずに申し訳ないが、歓迎いたします」
「アストラ殿。今回の件、アガレスを代表して深くお見舞い申し上げる。我が国は友好国としてディグランスへの可能な限りの支援を約束する」
「ありがとうございます。祖先の代より続く長き友好関係に感謝を」
アストラは私にとって憎き相手だが、無能という訳ではない。
むしろ有能と言うべき存在だ。
誰よりも勉学に励み、次期国王として民の幸せを最優先に考え、行動する男。
これでも昔の私はアストラのことを尊敬していたつもりだ。
「時にヴィリス殿、そちらの女性は?」
「あぁ、彼女は――」
やはり気になるよね。
来てほしかったのはヴィリス殿下だけなのに、その横に謎の顔を隠した女がいるんだもの。
だから私は変装を解き、素顔を晒す。
「――お久しぶりですね、アストラ……殿下」
「なっ――リシア!?」
アストラの表情は一瞬にして驚愕に染まった。
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