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「国を出る、だと……? 本気で言っているのか、リシア」
お父様は私の言葉を理解すると、厳しい目をこちらへ向けて問うた。
娘の口からそのような言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。
だけど私は本気だ。
「もちろんです、お父様。爵位を剥奪され、居場所を失った私達がこの国に留まる理由はないでしょう」
「だ、だからと言って国を出ると言うのはあまりに無謀ではないか? 我々はこの国で生まれ、育ったのだ。今更他の国に生きていくなど……」
お父様の主張もよく分かる。
もし私が逆の立場だったとしても、いきなりそんなことを言われたら戸惑うだろう。
しかし私はこれから先に王国が辿る末路を知っている。
だからこそ私は己の主張を曲げる気はない。
「……お父様。よく聞いてください。当代の要の巫女として忠告します」
「な、なんだ……?」
「この国は間も無く滅びを迎えます。数百年前、初代の時代に襲い掛かった大地震の手によって」
それを聞いたお父様の顔色が変わる。
その表情には僅かな疑問や不信感が浮かぶが、それ以上に驚きを示していた。
「もう一度、言ってくれないかリシア。私の耳がおかしくなっていなければ、この国がこれから大地震で滅ぶと聞こえたのだが」
「はい。その通りです」
「……何故そんなことを知っているんだ? そして、何故今までその事を隠していたんだ?」
「分かりません。ただ、私にはこの国が滅びを迎える未来が見えました。一度だけではなく、幾度も。これは決してただの妄想ではないと確信できるほどに」
ちょっとだけ嘘を吐いた。
私はもうこの国が避けようのない滅びの運命を抱えていることを最初から知っている。
それを私の力で強引に押さえつけ、先延ばしし続けてたのだから。
「もし私がこの事実を公表したところで要の巫女、そしてランドロールの名が衰えている今では誰にも信じて貰えないでしょう。むしろ民の不安を煽ったと言う罪に問われていたかもしれません。ですから今まで黙っていました。申し訳ありません」
全く気持ちの篭っていない、型式だけの謝罪をする。
事実として、我がランドロール一族の発言に対する信用はほとんどない。
そして分かっているならそれを防ぐのが義務だろうと言われるのが落ちた。
私が頭を上げると、お父様はとても困った様子で頭を抱えていた。
「……それを防ぐ術はあるのか?」
「……ありません。少なくとも、私の力では不可能でしょう」
これも嘘だ。
本当はこの国を護り続ける力を、私は有している。
しかしそれを言って仕舞えばきっとお父様は、この国のことを護るように言ってくるだろう。
でも、私はそれが嫌だった。嫌になってしまった。
「……そう、か。もしお前にそれを防ぐ力があれば、我がランドロール家の復権もあり得ない話でもなかったが……いや、すまない。お前が悪いわけではなかったな」
このまま私が国を見捨てて旅立てば、きっと多くの人が命を落とすだろう。
死んだ後は地獄に落ちるかもしれない。
でも、これから見捨てる人たち以上の数の人間を、前世の私は救ってきた。
だから今度は、自分とその周りだけを救っても許されるのではないだろうか。
「ひとまずお前の言いたい事はよく分かった。それを踏まえた上でこれからどうするか考えようと思う」
「分かりました」
……もしこのままお父様が、ランドロールの名にかけて国を護って名誉回復を試みようなどと言ってきたら、その時は私一人でもこの国を出よう。
もうこの国のために尽くしたいとは思わないし、こんなところで死にたくもない。
それに私たちがどれだけ活躍したところで、彼らが私達のことを認めることは無いだろう。
そもそもこの国の王族貴族は腐っている。
一度口にした発言を取り下げて謝罪が出来るような人はほとんどいないだろう。
でも、出来ることなら家族くらいは救える道を選べるといいな。
お父様は私の言葉を理解すると、厳しい目をこちらへ向けて問うた。
娘の口からそのような言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。
だけど私は本気だ。
「もちろんです、お父様。爵位を剥奪され、居場所を失った私達がこの国に留まる理由はないでしょう」
「だ、だからと言って国を出ると言うのはあまりに無謀ではないか? 我々はこの国で生まれ、育ったのだ。今更他の国に生きていくなど……」
お父様の主張もよく分かる。
もし私が逆の立場だったとしても、いきなりそんなことを言われたら戸惑うだろう。
しかし私はこれから先に王国が辿る末路を知っている。
だからこそ私は己の主張を曲げる気はない。
「……お父様。よく聞いてください。当代の要の巫女として忠告します」
「な、なんだ……?」
「この国は間も無く滅びを迎えます。数百年前、初代の時代に襲い掛かった大地震の手によって」
それを聞いたお父様の顔色が変わる。
その表情には僅かな疑問や不信感が浮かぶが、それ以上に驚きを示していた。
「もう一度、言ってくれないかリシア。私の耳がおかしくなっていなければ、この国がこれから大地震で滅ぶと聞こえたのだが」
「はい。その通りです」
「……何故そんなことを知っているんだ? そして、何故今までその事を隠していたんだ?」
「分かりません。ただ、私にはこの国が滅びを迎える未来が見えました。一度だけではなく、幾度も。これは決してただの妄想ではないと確信できるほどに」
ちょっとだけ嘘を吐いた。
私はもうこの国が避けようのない滅びの運命を抱えていることを最初から知っている。
それを私の力で強引に押さえつけ、先延ばしし続けてたのだから。
「もし私がこの事実を公表したところで要の巫女、そしてランドロールの名が衰えている今では誰にも信じて貰えないでしょう。むしろ民の不安を煽ったと言う罪に問われていたかもしれません。ですから今まで黙っていました。申し訳ありません」
全く気持ちの篭っていない、型式だけの謝罪をする。
事実として、我がランドロール一族の発言に対する信用はほとんどない。
そして分かっているならそれを防ぐのが義務だろうと言われるのが落ちた。
私が頭を上げると、お父様はとても困った様子で頭を抱えていた。
「……それを防ぐ術はあるのか?」
「……ありません。少なくとも、私の力では不可能でしょう」
これも嘘だ。
本当はこの国を護り続ける力を、私は有している。
しかしそれを言って仕舞えばきっとお父様は、この国のことを護るように言ってくるだろう。
でも、私はそれが嫌だった。嫌になってしまった。
「……そう、か。もしお前にそれを防ぐ力があれば、我がランドロール家の復権もあり得ない話でもなかったが……いや、すまない。お前が悪いわけではなかったな」
このまま私が国を見捨てて旅立てば、きっと多くの人が命を落とすだろう。
死んだ後は地獄に落ちるかもしれない。
でも、これから見捨てる人たち以上の数の人間を、前世の私は救ってきた。
だから今度は、自分とその周りだけを救っても許されるのではないだろうか。
「ひとまずお前の言いたい事はよく分かった。それを踏まえた上でこれからどうするか考えようと思う」
「分かりました」
……もしこのままお父様が、ランドロールの名にかけて国を護って名誉回復を試みようなどと言ってきたら、その時は私一人でもこの国を出よう。
もうこの国のために尽くしたいとは思わないし、こんなところで死にたくもない。
それに私たちがどれだけ活躍したところで、彼らが私達のことを認めることは無いだろう。
そもそもこの国の王族貴族は腐っている。
一度口にした発言を取り下げて謝罪が出来るような人はほとんどいないだろう。
でも、出来ることなら家族くらいは救える道を選べるといいな。
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